人と自然
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26 巻
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  • 2015 年 26 巻 p. 1-7
    発行日: 2015年
    公開日: 2019/01/25
    ジャーナル フリー
    ケリの営巣場所選択,ふ化後のヒナの移動,繁殖成功を明らかにするために,2007 年から2011 年の5 繁殖期に,京都府南部の巨椋池干拓地において毎月2 回以上,調査地全体を網羅するルートセンサスをおこない,個体識別した親鳥31 個体の繁殖を継続調査した.ケリの巣はいずれも田面上に設けられていたが,それらの分布は田面中央に集中し,ふ化成功率も田面中央で高い傾向にあった.また,ふ化後のヒナは必ず親鳥とともに巣のあった田面から隣接田面へ移動し,日齢が増加するにつれて巣から離れる傾向があった.ただし,ふ化後30 日以内のヒナは営巣場所から半径約40m の範囲内に滞在していた.本研究で追跡した46 巣のうち約半数の21 巣はふ化に成功したが,その後にヒナが独立した可能性があるのは,わずか1 巣だった.このことから,本種の繁殖成功のカギは,ふ化後のヒナがいかにうまく成長できるかにかかっていると言える. 引
  • 2015 年 26 巻 p. 9-20
    発行日: 2015年
    公開日: 2019/01/21
    ジャーナル フリー
    これまでの研究で,里山林を造成したフラワ―タウン(兵庫県三田市)で竹筒トラップを用いて,管住性ハチ類オオフタオビの出現パターンを調べたところ,タウン内部の設置地点では周辺部と比べて本種の営巣が少ないことが示されている.しかし,その要因は分かっていない.本論文では,タウン内で本種が営巣できないような環境の悪化が起きているのか,あるいは造成による生息地の分断化が本種の出現パターンに負の影響を与えているのかを明らかにするため,本種の移植実験とネットワーク分析を行った.移植実験では,本種の前蛹を含む竹筒を余分に付け加えたトラップを設置し,出現率の違いを調べた.その結果,タウン内部の前年度に本種の出現が見られなかった地点でも移植によって出現率が有意に高くなったことから,営巣可能な環境が維持されていることが判明した.さらに,ネットワーク分析では,トラップ設置地点へのリンク構造を数値化した連結度を算出し,連結度,設置地点の周辺部からの距離,設置地点周囲の樹林地面積を要因として,タウン内部で見られたオオフタオビ出現の有無との関係を解析した.その結果,本種の出現が分断された生息場所の配置に強く影響されることが示された.これらのことから,里山林のニュータウン造成によって,オオフタオビが効率的に営巣活動をおこなえる生息環境に断片化が生じたことが,タウン内部での本種の出現パターンに大きく負の影響を与えていると考察した.
  • 2015 年 26 巻 p. 21-26
    発行日: 2015年
    公開日: 2019/01/21
    ジャーナル フリー
    兵庫県の日本海側の砂浜海岸23 地点においてスナガニ類の分布が調べられ,浜坂漁港を除く22 地点でそれ らの巣穴が確認された.巣穴数から推定されたスナガニ類の生息密度は各砂浜海岸で異なり,東西の端に位置する気比川東と居組県民サンビーチで高い値を示した.本研究で採集されたほとんどの個体がスナガニであり(甲幅が6 mm 以下の未同定個体を除く),ナンヨウスナガニも1 個体のみ見つかった.先行研究においてスナガニ類の生息密度が高かった浜坂漁港の砂浜は,近隣の岩壁の整備やそれに伴う港湾工事によって消失し,本研究ではスナガニ類の巣穴を確認することができなかった.このことから,砂だまり程度の小規模な砂浜は周辺海域の人的利用によって容易に失われてしまうことが示された.さらに,近年の温暖化に伴って,日本海側の砂浜海 岸においても南方系種が侵入・定着し,在来のスナガニ個体群に影響を与える可能性が考えられた.
  • 2015 年 26 巻 p. 27-35
    発行日: 2015年
    公開日: 2019/01/21
    ジャーナル フリー
    高次脳機能障がい者にわかりやすい音声を探るために,高次脳機能障がい者33 名,非障がい者46 名の参 加を得て聴覚実験を行った.実験に使ったのは女性の肉声,フォルマント合成音声,波形接続型合成音声であった.非障がい者は人の肉声や波形接続型合成音声に対して「わかる」とする回答が多かったが,聴覚情報だけのフォルマント合成音声では「わからない」とする回答が増えた.しかし,聴覚情報に視覚情報を加味すると「わかる」被験者が増えた.障がいの軽い人では,肉声,フォルマント合成音声,波形接続型合成音声のいずれでも「わかる」とする回答が多かったが,障がいが中・重度の人では「わからない」とする回答が多かった.中でも中・重度の人ではフォルマント合成音声がわからない被験者がめだった.この実験の結果から,本来,障がい者を含む多様な人が利用する生涯学習施設では,人の肉声を直接,あるいは録音したもので放送することが一番わかりやすいが,合成音声を使う場合には波形接続型合成であることが望ましい.生涯学習施設の職員にとってフォルマント合成は波形接続型合成よりも簡便だが,使用は慎重であるべきだ.
  • 2015 年 26 巻 p. 37-40
    発行日: 2015年
    公開日: 2019/01/21
    ジャーナル フリー
    ホンドテン(Martes melampus melampus)のアクティビティと活動リズムを明らかにするために、動物園の飼育個体(オス3 頭、メス1 頭)を対象に、個別ケージ内の行動の連続ビデオ撮影を実施した。テンは 一日の半分以上の時間(サンプリングポイントの60%以上)を巣箱の中で過ごし、動き回っている時間は短 かった(平均で17%)。活動リズムは個体により差があった:2 頭のオスは給餌時間の前後(7:00-9:00 と 12:00-17:00)に活動性が高かったが、もう一頭のオスは日中ほとんど巣箱に入ったままだった、メス個体は夜 間に高い活動性を示した。
  • 2015 年 26 巻 p. 41-46
    発行日: 2015年
    公開日: 2019/01/21
    ジャーナル フリー
    六甲山地の北側に位置する水無谷(兵庫県神戸市北区有馬町)にコゴメヤナギが生育するとされてきたが,ヨシノヤナギとヨシノヤナギに関係した樹木群であることが判明した.シダレヤナギ節の樹木は種ごとの相違点が少なく,誤同定なども起きやすい.このような分類困難な種群では,各個体から1 年を通して何度か調査して標本をつくることが望ましいが,実際には一枚の標本のみが標本庫に納められていることも多い.本調査では冬芽,花時,果時,葉時と,季節ごとに標本を作成して検討をおこなった.検討結果を時系列に沿って詳述するとともに,水無谷のヨシノヤナギ群の現状を報告する.
  • 2015 年 26 巻 p. 47-59
    発行日: 2015年
    公開日: 2019/01/21
    ジャーナル フリー
    西宮市仁川の標高120–155m に分布する大阪層群の露頭を調査し,露頭から採取した堆積物の珪藻分析をもとに堆積環境を推定した.仁川緑地内の標高120–130m の地点(St.1) では,珪藻化石群集はAulacoseira 属,Actinocyclus normanii,Stephanodiscus 属などの淡水プランクトン性の珪藻が優占し,堆積環境は湖沼と推定された.一方,標高150m 前後に位置する露頭(St.2) では,海水生珪藻が優占した.St.2 の地層下部では,海水藻場指標種のCocconeis scutellum が優占し,海水生のTryblionellalanceola や汽水生のhopalodia gibberula が出現した.St.2 の地層上部では,海水泥質干潟指標種のGiffenia cocconeiformis とTryblionella granulata のほか,内湾指標種のCyclotella striata とC.stylorum が増加した.このような種構成から,本地点の堆積環境は内湾で,下部と上部で藻場の有無などの環境変化があったと推定された.
  • 2015 年 26 巻 p. 61-69
    発行日: 2015年
    公開日: 2019/01/21
    ジャーナル フリー
    猪名川の上流域では,希少樹種エドヒガンの保全に向けた取り組みとして地域性苗の育成とその苗の自生地への植栽が複数の市民団体によって進められている.本研究では,兵庫県川西市の黒川地区で得られたエドヒガン植栽個体の追跡調査データ(植栽後5 年間)をもとに,植栽個体の生存率,樹高,地際直径,開花率の経年変化を解析した.また,これらの経年変化に対する光条件の影響について検討を行った.追跡調査は植栽の実施年である2010 年から2015 年までの期間に行った.その結果,上層の植被率が100% の場所に植栽された個体の生存率は経過年数に従って著しく低下する傾向が認められ,植栽後5 年目の生存率は14.3% と非常に低かった.2010 年時点の樹高と地際直径の最大値はそれぞれ1.93 m,2.6 cm であったが,植栽後5 年目の最大値はそれぞれ7.20 m,12.7 cm であった.上層の植被率が60% 以上の場所ではエドヒガンの肥大成長は抑制される傾向が認められた.
  • 2015 年 26 巻 p. 71-74
    発行日: 2015年
    公開日: 2019/01/21
    ジャーナル フリー
    本州において,シソ科アキギリ属のハルノタムラソウSalvia ranzaniana,ナツノタムラソウS. lutescens var. intermedia, ミヤマタムラソウS. lutescens var. crenata, ダンドタムラソウS. lutescens var. stolonifera の訪花昆虫を調査した.その結果,ツリアブ科1 種(ビロウドツリアブBombylius major)とハナアブ科7 種(ホソヒラタアブEpisyrphus balteatus,ミナミヒメヒラタアブSphaerophoria indiana,ツマグロコシボソハナアブAllobaccha apicalis,マダラコシボソハナアブBaccha maculata,キアシマメヒラタアブParagus haemorrhous,ハナダカハナアブRhingia laevigata,マドヒラタアブ属の1 種Eumerus sp.)を確認した.
  • 2015 年 26 巻 p. 75-83
    発行日: 2015年
    公開日: 2019/01/21
    ジャーナル フリー
    日本のヤナギ属を学ぶうえで,シダレヤナギ節の種の認識の難しさがときに問題となる.その一つは広義のシダレヤナギ(イトヤナギ)に関わることで,枝が長く枝垂れる樹形から枝垂れない樹形までが連続的に生育するため,枝垂れないタイプは同じシダレヤナギ節のコゴメヤナギとよく似る場合がある.このような両種の識別は熟練を要することから,両種ならびに類似種であるシダレコゴメヤナギ,シロシダレヤナギ,コブヤナギなどを対象とし,主要な文献の記述を整理して考察をこころみた.結果は以下のようである.コゴメヤナギとシダレヤナギを識別するための実用的な考え方をまとめた.分類上の検討要件を満たさない種がある.シロシダレヤナギなど交雑が疑われる種についてはより慎重な同定が求められる.広義のシダレヤナギ(イトヤナギ)は典型品ごとに分けられてきたが,この細分は分類上の混乱の要因となる.枝垂れない個体に対するシダレヤナギの呼称は樹形に相応しないことから,広義の Salix babylonica L. に対し「イトヤナギ」を和名として使用することを提言する.
  • 2015 年 26 巻 p. 85-97
    発行日: 2015年
    公開日: 2019/01/21
    ジャーナル フリー
    横山 章氏から寄贈された葉脈標本コレクションのリストと図版を掲載する.葉脈標本は,葉脈の配列や細脈の特徴を調べるために脱色・染色等の薬品処理を行った葉のプレパラート標本で,神戸層群産植物化石を同定するための基礎資料として作成されたものである.横山コレクションは現生植物の葉脈標本プレパラート309 枚からなり,日本産種子植物57 科226 種と外国産植物11 種を含む.(図版1~309については兵庫県立人と自然の博物館サイトに掲載)
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