北海道外科雑誌
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巻頭言
【特集】救急現場における外科
  • 村上 壮一, 七戸 俊明, 平野 聡
    2024 年 69 巻 1 号 p. 2-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー
    災害は「自然現象や人為的行為などにより,人間の生命や社会生活に影響(被害)を与える事象」と定義される。この事象により医療の「需要」が「供給能力」を著しく越え,平時の医療が提供出来ない状況で実施する医療を「災害医療」と表現するが,地域病院で救急医療に従事する外科医は日常的にこのような場面に遭遇し,対応している。この経験,および知識や技術は実際の災害医療において生かされることも多く,自院が被災した場合にも適切な判断と技術により適切に対応する事が可能である。また,この特性は超急性期の災害医療において有用であり,DMATや医療班として災害派遣され活躍する外科医も少なくない。被災地病院での対応から災害派遣,そして広域医療搬送による被災地外病院での傷病者受け入れまで,災害医療全般において外科医は大いに活躍することが期待されている。
  • 内田 大貴, 菊地 信介, 田丸 祐也, 髙橋 一輝, 大平 成真, 竜川 貴光, 栗山 直也, 吉田 有里, 東 信良
    2024 年 69 巻 1 号 p. 10-14
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー
    急速に進む高齢化により、高い致死率を示す大動脈緊急症は増加の一途であり、中でも破裂性腹部大動脈瘤の死亡率は群を抜いて高いことで知られる。2019年に循環器病対策基本法の中で国策として大動脈緊急症への医療体制への整備が推し進められている中で、ICTの果たす役割が注目されている。当教室では広域遠隔地域の破裂性腹部大動脈瘤症例において、ICTを活用した遠隔画像情報連携により、救命率向上を目指してきたが、近隣地域例においては、救急現場のプレホスピタルマネジメントにおける救急隊(EMS)との連携において地域救命率向上の糸口となる可能性がある。今後、地域を問わずICT を用いた効率的な医療の推進と地域連携体制の普及が望まれる。
  • 宮島 正博, 千葉 慶宜, 槙 龍之輔, 渡辺 敦
    2024 年 69 巻 1 号 p. 15-18
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー
    多くの胸部損傷では,受傷直後から数時間の間に死に至るとされ,受傷後数時間での死亡は防ぎうる外傷死とも呼ばれ,適切な初期治療により救命可能なケースがある。高エネルギー胸部外傷における受傷機序は,a)直接外力,b)内圧伝播,c)加速度による剪断外力の3つに大別できる。初期診療におけるA(気道),B(呼吸),C(循環),D(中枢神経障害),E(全身露出,保温)アプローチは「primary survey」の基本として定型化されているが,胸部外傷ではこのうち,ABCに重きを置き身体診察,胸部レントゲン検査,FASTを行い,救急処置を要する致死的胸部外傷を同定する。致死的疾患として,1)気道閉塞・出血,2)肺挫傷を伴うフレイルチェスト,3)開放性気胸,4)緊張性気胸,5)大量血胸,6)心タンポナーデが挙げられる。受傷機転を理解し迅速な初期評価および治療,適切な外科的介入を行うことが肝要である。
症例報告
  • 内藤 昌明, 石黒 敏史
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 69 巻 1 号 p. 25-29
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー
    症例は70歳の男性。上行結腸癌の診断に対し開腹手術で結腸右半切除およびD2郭清を施行した。当初は術後化学療法を行わない予定であったが,腫瘍マーカー(CEA,CA19-9)の上昇があり癌の再燃が疑われたため,術後6か月目よりTS-1(単独),TS-1+イリノテカン(IRIS療法:変法),TS-1+オキサリプラチン(SOX療法)による化学療法を順次行った。造影CT,消化管内視鏡による検査では再発所見を認めず,本人の希望もあり術後2年10か月以後は経過観察のみとした。その後も腫瘍マーカーは異常高値を続けるが明らかな再発所見を指摘できないまま,術後11年目に誤嚥を疑う肺炎で死去された。腫瘍マーカーの測定は,術前において進行度の推測,術後において再発予知および治療効果の指標として有用な検査であるが,良性疾患でも高値を示すことがある。本症例でも糖尿病が腫瘍マーカーの上昇に関与したと考えられ,若干の文献的考察を踏まえて報告する。
  • 井上 陽斗, 宮谷 和樹, 伊佐 秀貴, 鈴木 文隆, 瀬戸川 友紀, 大久保 諒, 広藤 愛菜, 國岡 信吾, 筒井 真博, 石川 成津矢 ...
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 69 巻 1 号 p. 30-34
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー
    気管切開術後の患者に対し,小切開低侵襲心臓手術(MICS ;Minimally invasive cardiac surgery)は創部感染予防の点から有効な治療法の一つである。症例は70代男性。僧帽弁閉鎖不全症に伴った急性心不全の診断にて,他院で加療中であった。心不全の増悪を認め,気管切開ののち当院循環器内科に紹介となった。当初はMitra Clipによる治療を行う予定であったが,入院後に39-40度の発熱が持続。感染性心内膜炎の可能性を否定できないため外科的治療の方針となった。MICSを用いた右小開胸下僧帽弁形成術が行われ、術後経過は良好であった。MICSを用いることで気管切開後の患者に対して低侵襲に外科的治療を行うことができ,創部感染の危険性を低減できる可能性が示唆された。
  • 牧野 開, 三野 和宏, 鈴木 麗美, 和久井 洋佑, 小丹枝 裕二, 川村 秀樹
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 69 巻 1 号 p. 35-40
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー
    症例は61歳女性。難治性の関節リウマチに対し, 抗リウマチ薬を複数使用中であった。保存的治療後の急性胆嚢炎に対し腹腔鏡下胆嚢摘出術施行後, 経過良好で術後6日目に退院となったが, 術後12日目に多量の腹水およびショック状態で当科救急搬送となった。胆汁瘻の診断で腹腔鏡下ドレナージおよび内視鏡的胆道内減圧を行った。しかし, 胆汁瘻の改善が得られず6日後に再手術を行い, 解剖学的変異である胆嚢肝管に漏出部位を認め, 縫合閉鎖することで治癒を得た。本症例では薬剤の影響により, 胆嚢摘出術時の手術難易度の推測を誤った上に, 胆汁瘻の診断が遅延した可能性がある。抗リウマチ薬を複数使用中の患者では, 手術のタイミングおよび全身状態の把握に注意を要すると考えられた。
  • 松井 双葉, 齊藤 慈円, 加藤 伸康, 阿部 慎司, 加藤 裕貴, 大岡 智学, 新宮 康栄, 若狭 哲
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 69 巻 1 号 p. 41-45
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー
     症例は50代,男性。コバルト,スズ,金,ニッケル,クロム,鉄と多種の金属に対する重篤なアレルギーのため,複数回の人工股関節置換の既往を有していたが,経過中に感染性心内膜炎を発症し,感染治療後に残存する重症僧帽弁閉鎖不全症に対する外科手術が必要となった。車椅子生活のため荷重の点から胸骨正中切開の回避が望ましく,また胸骨ワイヤーが不要となることから,手術は右開胸で行った。金属アレルギーのために使用できる人工弁,人工弁輪が限られていたが,アレルゲンとなる金属を含有していないシリコン製の人工弁輪を用いて僧帽弁形成術を行った。心臓弁膜症手術で用いられるデバイスは金属を含有するものが多いため,該当する金属アレルギーを有する場合は重篤な有害事象を生じる可能性がある。今回我々は,術前に十分なアレルゲンの検索を行い手術計画を立てることで,過敏反応を起こすことなく手術を行うことができた。デバイスや術式選択に関する若干の文献的考察を加えて報告する。
  • 小金澤 千夏, 押野 智博, 荒町 優香里, 守谷 結美, 羽田 光輝, 細田 充主, 髙橋 將人
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 69 巻 1 号 p. 46-50
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー
    G-CSF製剤はがん化学療法による発熱性好中球減少症の発症抑制に用いられる。今回,乳癌術後化学療法中の持続性G-CSF製剤ペグフィルグラスチム投与により大動脈炎を発症した1例を経験したため報告する。症例は69歳女性。左乳癌に対して左乳房全切除術およびセンチネルリンパ節生検施行後,術後化学療法としてペグフィルグラスチム併用下でEC療法(epirubicin,cyclophosphamide)を4コース施行し,次にHPD療法(trastuzumab,pertuzumab,docetaxel)を開始した。HPD療法初回のペグフィルグラスチム投与後7日目に38℃台の発熱を認めた。精査の結果,炎症反応高値と造影CTで胸部大動脈に炎症像を認め,大動脈炎疑いの診断となった。ステロイド導入により解熱し,検査所見も改善を認めた。ステロイドが十分に減量された段階で,HP療法(trastuzumab,pertuzumab)のみを再開し,投稿時8コース目まで施行した。ペグフィルグラスチムの副作用として2018年に大型血管炎が添付文書に追記されており,ペグフィルグラスチム投与後の発熱には注意が必要である。
  • 荒町 優香里, 細田 充主, 小金澤 千夏, 守谷 結美, 羽田 光輝, 押野 智博, 竹中 淳規, 加藤 扶美, 高橋 將人
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 69 巻 1 号 p. 51-54
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー
    乳癌は晩期再発症例が多いとされているものの, 9割以上が術後10年以内での再発である。今回, 右乳癌術後23年目に偶発的に肺小結節を指摘され, 経過観察2年で1mmの増大を認め, 性状の変化から手術を行い乳癌肺転移と診断された1例を経験した。患者は80歳女性, 55歳時に右乳癌に対して右乳房全切除術と腋窩郭清が施行された。術後は23年間, 転移・再発は指摘されなかった。未破裂脳動脈瘤に対してカテーテル治療を行う方針となり, 治療前のスクリーニングCTで左肺S3の小結節を指摘された。CTで半年毎にフォローし, 2年後に小結節のわずかな増大を認めた。肺癌を疑い胸腔鏡下左肺部分切除を行った。肺腫瘍の病理結果は乳癌の転移を疑わせる所見であり当科紹介となった。総合的に既往乳癌の肺転移と判断し, 現在, レトロゾール単剤で7か月間治療継続中である。
  • 河原 仁守, 本多 昌平, 長津 明久, 柿坂 達彦, 高橋 遼, 河北 一誠, 奥村 一慶, 荒 桃子, 武冨 紹信
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 69 巻 1 号 p. 55-60
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/18
    ジャーナル フリー
    小児の原発性肝悪性腫瘍の大部分は肝芽腫であるが,年長児以降に発症し肝芽腫と肝細胞癌の両方の成分を併せ持つ,新たな疾患分類としてHCN NOS(Hepatocellular neoplasm not otherwise specified)がある.外科治療後に異なる経過をたどった2例を経験したため報告する. 症例1)10歳男児.肝腫瘍破裂による腹痛,出血性ショックで発症した.IVRによる塞栓後に,肝腫瘍を一期的切除した.術後2か月後よりAFPの上昇,肺転移を認め化学療法(CITA)を追加した.一時はAFPも正常化したが,化学療法終了後に腹膜転移,多発肝転移を認め,発症から1年6か月後に腫瘍死した. 症例2)15歳女児.右側腹部痛の精査で肝腫瘤を指摘された.診断時遠隔転移を認めず,肝細胞癌を念頭に一期的切除を行い,術後化学療法(PLADO)を追加した.現在,術後2年経過するが無再発生存している.
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