本稿の課題は石炭産業の変容と生活困窮者を取り上げて,「エネルギー革命期」の北海道夕張市を事例として検討する。夕張市は石狩炭田最大となる「炭都」であり,布施編[1982]という地域総合研究が存在する。ただし,布施編[1982]は「階級・階層」概念が明確ではなく,そのため生活困窮者の実態は必ずしも明確ではなかった。加えて,当事者の主体性が十分に検討されていないという実態が存在した。本稿では江口英一の「社会階層論」から「階層」を再編成する。さらに夕張市における生活困窮者の実態のほか,生活困窮に直面する当事者として全日本自由労働組合夕張支部(以下,夕張支部)を事例とし,どのような生存戦略がとられたのかを検討した。本稿では「社会階層論」の「不安定就業階層」に着目し,炭鉱下請=組夫を加えて再編成したが「社会階層論」は産炭地における生活困窮者救済の比較分析のための理論的枠組みになり得ることが示唆される。上述した枠組みから夕張市における生活困窮者について組夫,失対就労層及び被保護層を検討した結果,「不安定就業階層」が被保護層の主要な流入層であることが確認された。夕張支部は自治体や職安に対して団交交渉や「求職闘争」などの労働諸運動を行うほか,要保護者への各種「仲介」や地域住民のための環境整備やイベント開催など生活改善を行っていた。「救済」の客体とされた当事者は独自の生存戦略を展開しており,こうした生存戦戦は当事者による主体性を示すものと位置づけられる。
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