The Horticulture Journal
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84 巻, 4 号
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総説
  • 門田 有希, 田原 誠
    原稿種別: 総 説
    2015 年 84 巻 4 号 p. 283-294
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    [早期公開] 公開日: 2015/05/01
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    トランスポゾンは真核生物のゲノム中に存在する可動性因子である.その構造および転移機構により二種類(class I;レトロトランスポゾン,class II;DNA 型トランスポゾン)に分けられる.トランスポゾンは真核生物ゲノムの主要な構成要素であり,特にレトロトランスポゾンは植物ゲノムの大部分を占める.多数のレトロトランスポゾン挿入配列はゲノム全体に散在しており,また安定して遺伝する.そのため,農作物品種間における挿入多型は DNA マーカーとして利用されている.最近,私たちは次世代シーケンス(NGS)技術を利用することにより,品種間で高い挿入多型を示す LTR 型レトロトランスポゾンファミリーを効率的に同定する手法を確立した.この手法は,5'LTR 配列に近接し,異なる LTR 型レトロトランスポゾンファミリー間でも保存性の高い PBS(Primer Binding Site)配列に注目している.この PBS 配列を利用した NGS ライブラリーの構築により,ゲノム中に存在する多数の LTR 配列およびそれら挿入配列を同定した.これら配列を用いたデータ解析により,近縁品種間でも高い挿入多型を示す LTR 配列を抽出した.また,NGS を利用することで,これらレトロトランスポゾンファミリーのゲノムワイドな挿入箇所を多数の品種に関して同定した.これら挿入箇所の情報は,品種間の類縁関係の解明および品種判定用 DNA マーカーの開発に有用であった.私たちの研究結果は,これらレトロトランスポゾン挿入部位のターゲットシーケンスにより,全ゲノム配列情報が無い生物種においても,効率的に遺伝子型解析およびマーカー開発が可能であることを示した.本記事では,トランスポゾンのゲノム構造および進化的側面に関して解説,またレトロトランスポゾンの挿入多型に基づいたマーカー開発に関しても紹介する.
原著論文
  • 佐藤 守, 阿部 和博, 菊永 英寿, 高田 大輔, 田野井 慶太朗, 大槻 勤, 村松 康行
    原稿種別: 原著論文
    2015 年 84 巻 4 号 p. 295-304
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    [早期公開] 公開日: 2015/06/09
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    モモ[Prunus persica(L.)Batsch]とカキ(Diospyros kaki Thunb.)を供試し,福島第一原子力発電所事故の放射性降下物により休眠期汚染された落葉果樹に対する高圧洗浄機を用いた樹皮洗浄による放射性セシウムの除染効果を検証した.夏季洗浄処理として 18 年生モモ‘あかつき’を供試し,2011 年 7 月 5 日と 27 日の 2 回にわたり,樹皮洗浄処理を実施した.休眠期洗浄処理として 2011 年 12 月 21 日に 30 年生カキ‘蜂屋’,2012 年 1 月 24 日に 7 年生モモ‘川中島白桃’を供試し,樹皮洗浄処理を加えた.高圧洗浄処理によりカキではほぼ全ての粗皮がはく離したが,モモの表皮はほとんどはく離しなかった.2011 年夏季に洗浄処理されたモモ‘あかつき’の果実中 137Cs 濃度は洗浄による有意差は認められなかった.2011 年から 2012 年の冬季に洗浄処理されたモモ‘川中島白桃’の葉および果実中 137Cs 濃度は洗浄により有意に減少した.同様にカキ‘蜂屋’でも洗浄処理翌年の葉および果実中 137Cs 濃度は洗浄により有意に減少した.これらの対照的な結果と矛盾しない現象として,汚染された樹皮洗浄液による二次汚染および樹皮からの追加的汚染の可能性について考察を加えた.
  • 渋谷 知暉, 渡部 敏裕, 池田 裕樹, 金山 喜則
    原稿種別: 原著論文
    2015 年 84 巻 4 号 p. 305-313
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    [早期公開] 公開日: 2015/06/10
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    可食部の元素濃度を調べるとともに,可食部と栄養器官,あるいは種間で元素濃度を比較するため,3 つの異なるタイプの園芸作物においてイオノーム解析を行った.ヒトの必須元素,および毒性や原子力発電に由来する放射性同位元素を有する元素を含む 19 元素を,リンゴ(Malus domestica)とニホンナシ(Pyrus pyrifolia),ナス(Solanum melongena),エダマメ(Glycine max)において分析した.元素の体内分布を生物学的栄養強化のために必要な基礎的知見として調べた結果,移動性が低いと考えられていたいくつかの元素が種によって高い移動性を示すことが見出された.また,主成分分析において,がくを除くと,葉および葉身と可食部を含む他の器官とにイオノームパターンが分かれたことから,種を超えて元素の体内分布に類似性があることが示された.本研究の結果は,果樹や果菜のイオノーム研究の進展に寄与し得ると考えられた.
  • 阪本 大輔, 井上 博道, 草塲 新之助, 杉浦 俊彦, 森口 卓哉
    原稿種別: 原著論文
    2015 年 84 巻 4 号 p. 314-322
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    [早期公開] 公開日: 2015/06/24
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    地球温暖化に伴い,クリにおいて新植樹の凍害による枯死事例が各地で頻発している.今回,凍害発生の要因を明らかにするために,家畜ふん堆肥を通じた窒素施用が新梢内の炭水化物含量,水分含量および窒素含量に及ぼす影響を調査するとともに,自発休眠と耐凍性の関係についても調査を行った.過剰な家畜ふん堆肥を施用することにより,耐凍性は明らかに低下し,一年生枝の糖含量は家畜ふん堆肥を施用しない区では高い傾向が認められたが,有意な差は認められなかった.一方,一年生枝の水分含量および窒素含量は家畜ふん堆肥を施用することにより,高い状態が維持された.また,家畜ふん堆肥を施用することにより,萌芽率が 70%に達した日は 1 か月以上遅れたが,萌芽の開始は早まる傾向にあったことから,正常な自発休眠のステージ進行を阻害している可能性が考えられた.以上の結果より,過剰な家畜ふん堆肥の施用により,秋冬期における樹体内水分含量および窒素含量が高くなることにより,正常な自発休眠のステージ進行を阻害し,その結果として厳冬期においても十分に耐凍性が高まらない可能性が示唆された.
  • 小枝 壮太, 佐藤 恒亮, 滝澤 理仁, 北島 宣
    原稿種別: 原著論文
    2015 年 84 巻 4 号 p. 323-326
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    [早期公開] 公開日: 2015/04/24
    ジャーナル オープンアクセス HTML
    カプサイシノイド合成機構に関する理解を深めることはトウガラシの辛味品種および非辛味品種の育種を進めるにあたり重要である.これまで,非辛味品種の育種には acyltransferasePun1)あるいは putative aminotransferasep-AMT)の劣性変異が利用されてきた.しかし,トウガラシが非常に長い栽培の歴史を持つ作物である点を考えると,これら 2 つの遺伝子以外の変異が利用されていても不思議ではない.本研究ではボリビア原産の‘No.3341’(C. chinense)が有する非辛味性について調査した.‘No.3341’および辛味を呈する‘Habanero’を供試して,Pun1 および p-AMT の果実胎座部における発現および遺伝子配列を調査したところ,‘Habanero’と比較して‘No.3341’に発現や配列に異常は認められなかった.また,‘No.3341’と‘Habanero’の交雑後代 F1 および F2 における非辛味性の遺伝様式を調査したところ,‘No.3341’の非辛味性は単一の劣性変異により支配されていることが明らかになった.さらに,‘No.3341’と Pun1 に機能喪失型変異を有する‘NMCA30036’,p-AMT に機能喪失型変異を有する‘No.2’あるいは‘No.80’との交雑後代 F1 における辛味を調査したところ,すべてが辛味を呈した.以上より,‘No.3341’の非辛味性には Pun1 あるいは p-AMT の変異は関与せず,これまでに報告のない新規遺伝子の変異が関与していることが明らかになった.
  • 小枝 壮太, 滝澤 理仁, 鍋島 朋之, 田中 友理, 北島 宣
    原稿種別: 原著論文
    2015 年 84 巻 4 号 p. 327-333
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    [早期公開] 公開日: 2015/04/28
    ジャーナル オープンアクセス HTML
    Tomato yellow leaf curl virus(TYLCV)の感染により起こる黄化葉巻病はトマトの収量を減少させ,ウイルスが生育の初期に感染した場合には果実がほとんど収穫できない.単為結果性トマト‘MPK-1’の挿し木苗は京都市内の農家に配布され,新京野菜‘京てまり’として販売されている.2013 年に京都大学で栽培管理している‘京てまり’を含む単為結果性トマト 10 品種の親株において黄化葉巻症状が確認された.Microtissue direct PCR を行ったところ,黄化葉巻症状を示す株からはベゴモウイルス特異的な増幅産物が検出された.ウイルス配列を解読し,分子系統解析を行ったところ,TYLCV-Mild の感染が確認された.In situ ハイブリダイゼーションにより TYLCV の局在性を調査したところ,TYLCV が感染した‘MPK-1’において葉原基の師部組織では TYLCV が検出されたが,茎頂分裂組織では検出されなかった.そこで,葉原基を含まない茎頂分裂組織のみを切り出し培養する,超微小茎頂分裂組織培養法と in vitro 接ぎ木を組み合わせてウイルスの除去を試みたところ,約 3 ヶ月で TYLCV フリー苗が作出できた.本研究で確立された手法は栄養繁殖性の単為結果性トマトにおける効率的な TYLCV フリー化を可能にする.
  • 山崎 博子, 白岩 裕隆, 板井 章浩, 本多 一郎
    原稿種別: 原著論文
    2015 年 84 巻 4 号 p. 334-341
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    [早期公開] 公開日: 2015/05/19
    ジャーナル オープンアクセス HTML
    分げつ性の極めて高いネギ‘杭州’を用いて,ジベレリン A3(GA3)処理および GA 生合成阻害剤であるウニコナゾール P(UCP)処理が分げつの発生に及ぼす影響を調査した.分げつ数は GA3 処理により増加し,UCP 処理により減少した.UCP 処理の分げつ抑制効果は GA3 処理によって打ち消された.UCP 処理は最初の分げつ芽の発生葉位を高めること,また,GA3 処理後に分げつ促進効果が可視化されるまでの期間(約 8 週間)は,茎頂付近に分化した腋芽が成長し,展開するまでの期間にほぼ一致することから,GA は腋芽の成長ではなく,腋芽の分化を促進する作用をもつと考えられた.ネギ品種の分げつ性の多様性と GA との関係を明らかにするため,分げつ性の異なる複数の品種の内生 GA レベルおよび GA3 処理に対する反応性を調査した.各品種の分げつ性とネギの主要な活性型 GA である GA4 レベルとの間には負の相関が認められた.一方,分げつ性の極めて高い‘杭州’への GA3 処理は分げつの発生を顕著に促進したが,分げつ性の極めて低い‘雷帝下仁田’,‘羽緑一本太’への処理は分げつの発生にほとんど影響しなかった.すなわち,各品種の分げつ性と GA3 処理に対する反応性との間には正の相関が認められた.これらの結果から,ネギの分げつ性の多様性には GA に対する感受性が関係すると考えられた.
  • 彦坂 晶子, 杉山 信男
    原稿種別: 原著論文
    2015 年 84 巻 4 号 p. 342-349
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    [早期公開] 公開日: 2015/06/24
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    これまでの研究で,単為結果性キュウリは連続着果させると(着果負担が多いと)後から開花した上位節の花(子房)は成長せずに停滞相に入り,着果負担が解除されると成長を再開し,解除されないとそのまま落果することが報告されている.複数の果実が着生している場合,果実の成長や停滞には果実の(あるいは果実間同士での)内生ホルモンが関与しているという説がある.よって,内生ホルモン濃度を制御することでキュウリの流れ果による収量低下を軽減できる可能性がある.そこで実験 1 では,外生植物成長調節剤(PGRs)が連続着果させた全雌花性キュウリの収量と個々の果実成長に及ぼす影響を調査した.過去に非単為結果性キュウリの果実成長を促進した報告のある PGRs(IAA, TIBA, BA, and GA3)をラノリンペーストと共に 6–25 節の開花時に各果柄に塗布した.TIBA と BA 処理では無処理より有意に収量が高く,IAA と GA3 処理では中位節と上位節の流れ果(落果)が増加し,収量が低下した.また,PGRs によって多数の果実の成長や停滞のパターンや成長開始の間隔が変化することが明らかとなった.実験 2 では,外生 PGRs が実際に内生のホルモン濃度に変化を与えているのか確認するため,また,実験 1 で落果が多かった IAA をさらに高濃度に与えた場合,着果負担が小さい植物体でも落果が生じるのかを確認するため,1 果のみ着果させた植物体に PGRs を与えた.その結果,IAA と BA 処理の果実成長が抑制されたが,過剰に IAA を与えた区も含め,全ての処理区で流れ果は発生しなかった.さらに IAA と TIBA 処理区では果実内の IAA とサイトカイニン類(Z,ZR,iP,iPR)が増加した.これらの結果から,着果負担の小さい状態では PGRs によって流れ果は発生せず,果実内の内生ホルモン濃度だけでは必ずしも流れ果の発生にはつながらないことが示唆された.
  • 李 尚龍, 牧 雅之
    原稿種別: 原著論文
    2015 年 84 巻 4 号 p. 350-354
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    [早期公開] 公開日: 2015/04/15
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    ギボウシ属植物は,古くから園芸植物として国内外で広く栽培されてきている.ギボウシ属の分化の中心は日本であり,現在流通している園芸品種の多くは,国内の野生集団から選抜されてきた可能性が高い.我々は,葉緑体 DNA の遺伝子間領域における塩基配列を,ギボウシ属の 31 園芸品種について決定し,それらが起源した集団について明らかにすることを試みた.すでにコバギボウシとオオバギボウシについては,国内の分布範囲全域にわたってハプロタイプの地理的分布が明らかとなっているので,今回はこれら 2 種に由来すると考えられる園芸品種を対象として,解析を行った.その結果,園芸品種の葉緑体 DNA ハプロタイプの多くは,野生集団が持つハプロタイプと同一であることから,これらの園芸品種は国内の複数の野生集団に起源を持ち,選抜・改良されてきた可能性が示唆された.一方で,いくつかの園芸品種では,野生集団に見られたハプロタイプとは異なるものも見られた.このようなハプロタイプでも,野生集団のハプロタイプとほとんど違いはなかったので,これらのハプロタイプを持つ品種は先行研究で対象とされなかった集団から由来するか,あるいは,栽培化されてから突然変異によって生じた可能性がある.
  • 岡本 章秀, 嬉野 健次
    原稿種別: 原著論文
    2015 年 84 巻 4 号 p. 355-364
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/22
    [早期公開] 公開日: 2015/06/09
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    芳香性の常緑性ツツジを作出することを目的とした,常緑性ツツジとトキワバイカツツジとの種間交雑における受精前および受精後障害を明らかにするため,常緑性ツツジ野生種 9 種とトキワバイカツツジとの正逆交雑を行った.本交雑では,一側性不和合性がみられ,常緑性ツツジ野生種を種子親に用いた場合,多くの花粉管が花柱内で伸長を停止し,種子を得ることができなかった.一方,トキワバイカツツジを種子親に用いた逆交雑では交雑組合せによって,花粉管の胚珠への貫入阻害,子葉の葉緑素形成阻害および雑種実生の幼植物の夭折が認められた.これらの受精前および受精後障害は,雑種形成を低下させたが,完全な交雑隔離をもたらすことはなく,その結果,雑種と考えられる実生を多く得ることができた.トキワバイカツツジ #1 × 常緑性ツツジ野生種 5 種の交雑から生育の優れた各 2 個体,計 10 個体の雑種と考えられる実生を選び,RAPD 分析した結果,いずれの個体も両親それぞれに由来する種特異バンドを有していた.これら雑種実生の色素体 DNA は,トキワバイカツツジ #1 × チョウセンヤマツツジの 2 個体を除き,母性遺伝していた.トキワバイカツツジ #1 × チョウセンヤマツツジの雑種実生の色素体 DNA は,父性遺伝していた.
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