保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
13 巻, 2 号
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  • 原稿種別: 表紙
    2008 年 13 巻 2 号 p. Cover1-
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル フリー
  • 原稿種別: 目次
    2008 年 13 巻 2 号 p. Toc1-
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル オープンアクセス
  • 石田 弘明, 服部 保, 小舘 誓治, 黒田 有寿茂, 澤田 佳宏, 松村 俊和, 藤木 大介
    原稿種別: 本文
    2008 年 13 巻 2 号 p. 137-150
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル オープンアクセス
    シカが高密度に生息する地域の森林伐採跡地では、伐採後に再生した植生がシカの採食によって退行し、その結果伐採跡地が裸地化するという問題が発生している。一方、シカの不嗜好性植物の中には、イワヒメワラビのようにシカの強度採食下にある森林伐採跡地で大規模な群落を形成するものがある。このような不嗜好性植物群落は伐採跡地の土壌流亡や植物種多様性の減少を抑制している可能性がある。不嗜好性植物を伐採跡地の緑化に利用することができれば、シカの高密度生息地域における伐採跡地の土壌保全と種多様性保全を同時に進めることができるかもしれない。本研究では、イワヒメワラビによる緑化の有効性を評価するために、兵庫県淡路島の最南部に位置する諭鶴羽山系においてイワヒメワラビ群落の土壌保全効果と種多様性保全効果を調査した。イワヒメワラビ群落(伐採跡地および牧場跡地)、裸地群落(伐採跡地および牧場跡地)、二次林(ウバメガシ林、ヤブニッケイ林)のそれぞれに5m×5mの調査区を複数設置し(合計93区)、調査区ごとに植生調査と土壌調査を行った。その結果、イワヒメワラビ群落では二次林と同様の土壌が維持されていたが、裸地群落では明らかな土壌流亡が観察された。また、イワヒメワラビ群落では、イワヒメワラビの地下茎の作用によって表層土壌が柔らかくなる傾向がみられた。これらのことは、イワヒメワラビ群落の土壌保全効果が高いことを示している。伐採跡地のイワヒメワラビ群落では調査区あたりの森林生種数の割合が最も大きく、その種数は二次林の種数を上回っていた。また、種組成を群落間で比較したところ、伐採跡地のイワヒメワラビ群落には二次林の構成種の大半が出現していた。これらのことから、イワヒメワラビ群落の種多様性保全効果、特に森林生種の多様性を保全する効果は高いと考えられる。従って、イワヒメワラビを用いた伐採跡地の緑化は有効であるといえる。ただし、場合によっては柵工や枠工などの緑化補助工を併用する必要がある。また、伐採跡地の森林再生を図るためにはシカの個体数管理や防鹿柵の設置が必要である。
  • 橋本 佳延, 服部 保, 岩切 康二, 田村 和也, 黒田 有寿茂, 澤田 佳宏
    原稿種別: 本文
    2008 年 13 巻 2 号 p. 151-160
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル オープンアクセス
    タケ類天狗巣病は、麦角菌科の一種Aciculosporium take Miyakeの感染によって生じるタケ類を枯死に至らしめる病気で、日本国内では野外においてマダケおよびモウソウチクを含む6属19種8変種8品種2園芸品種のタケ類、ササ類で感染することが確認されており、近年では国内各地で本病による竹林の枯損被害が報告されている。本研究は、兵庫県以西の西日本一帯を中心とした地域において、マダケ群落およびモウソウチク群落のタケ類天狗巣病による枯損の現状を明らかにし、天狗巣病の影響による今後の竹林の動態を考察することを目的とした。西日本の17県および新潟県、宮城県、静岡県の3県において、本病によるマダケ群落およびモウソウチク群落の枯損状況を調査した結果、西日本におけるマダケ群落における本病発症率は全体では93.2%、各県では75%以上と高い水準であったほか、本病による重度枯損林分は10県で確認された。一方、モウソウチク群落における本病発症率は、西日本全体では3.9%、発症率10%未満の県が15県(うち6県が0%)と極めて低い水準で、重度枯損林分も島根県で1ヵ所確認されたのみと被害の程度は低かったが、参考調査地の静岡県においては発症率が50%と高かった。これらのことから、本病は、(1)西日本各地でマダケ群落を枯損に至らしめる可能性のある病気であり、ほとんどのマダケ群落で発症していること、(2)西日本ではモウソウチク群落を枯死させることはまれな病気であり発症率も低いが、局所的に発症率の高い地域もみられることが明らかとなった。また、今後はマダケ群落の発症林分における病徴が進行し国内の広い範囲でマダケ群落の枯損林分が増加すると予想されたが、モウソウチク群落については発症林分や枯死林分の事例が少ないことから今後の動向についての予測は難しくモニタリングにより明らかにする必要があると考えられた。
  • 寺川 眞理, 松井 淳, 濱田 知宏, 野間 直彦, 湯本 貴和
    原稿種別: 本文
    2008 年 13 巻 2 号 p. 161-167
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル オープンアクセス
    大型果実食動物が絶滅した「空洞化した森林」では種子散布者が喪失し、植物の種子散布機能の低下が生じていると危惧されている。本研究では、ニホンザルが絶滅した種子島に着目し、サルの主要餌資源のヤマモモを対象に、種子の散布量が減少しているかを調べた。種子島と近隣のニホンザルが生息する屋久島にて、ヤマモモの結実木を直接観察し、散布動物の種構成と訪問頻度、採食果実数を求めた。屋久島で73時間46分、種子島で63時間44分の観察を行い、調査地の周辺では果実食動物がどちらの島でも10種ずつ確認されたが、ヤマモモに訪れたのは、主にニホンザル(屋久島のみ)とヒヨドリ(屋久島と種子島)に限られていた。ニホンザルは、ヒヨドリに比べて滞在時間が長く、採食速度も速いため、1訪問あたりの採食果実数は20倍以上の差があった。この結果は、ニホンザル1個体が採食したヤマモモの果実量をヒヨドリが採食するには20羽以上の個体が必要であることを意味する。しかしながら、本研究では、屋久島と種子島のヒヨドリのヤマモモへの訪問個体数は同程度であった。ヤマモモ1個体あたりの1日の平均果実消失量は、屋久島ではニホンザルにより893.0個、ヒヨドリにより25.1個の合計918.1個、種子島ではヒヨドリのみで24.0個であり、サルが絶滅した種子島では、ヤマモモの果実が母樹から持ち去られる量が極めて少ないことが示された。本研究の結果は、ニホンザルが絶滅した場合にヒヨドリがその効果を補うことはできない可能性を示しており、温帯においても空洞化した森林での種子散布者喪失の影響を評価していくことは森林生態系保全を考える上で今後の重要な課題であると考えられる。
  • 寺林 暁良
    原稿種別: 本文
    2008 年 13 巻 2 号 p. 169-177
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル オープンアクセス
    人為的影響強く受けながら維持されている生態系保全のあり方は、保全生態学の重要なテーマであり、多くの保全事業で社会システムとの整合性を図ることが求められている。しかし、環境保全の現場で、社会科学的な要因のモニタリングについて、事例をもとに十分な議論がなされてきたとは言いがたい。本稿では、青森県岩木川下流のヨシ原を事例に、地域社会が資源利用のしくみを変容させることが景観形成の大きな要因であることを、環境史的アプローチによって指摘し、社会システムと生態系の相互連関的なモニタリングの可能性を示す。また、外部者としての生態学者が生態系保全に関与する際には、資源の管理を担ってきた「権利」者に生態系保全が認知・承認されること、環境保全による地域社会への影響に考慮することが必要であることを示す。これらの社会的な側面は、社会科学的モニタリングの対象となりえ、自然科学的なモニタリングの結果とともに順応的管理システムに組み込まれることが望まれる。
  • 大澤 剛士, 猪原 悟
    原稿種別: 本文
    2008 年 13 巻 2 号 p. 179-186
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル オープンアクセス
    レッドリスト(RL)、レッドデータブック(RDB)に記録された植物が多数生育する富士箱根伊豆国立公園箱根地域において、箱根パークボランティアによる植物の観察記録を用いた絶滅危惧植物の実態調査を行った。2002年から2006年までのデータを集計した結果、全部で830種の植物種が確認され、このうち30種が国のRL、34種が県のRDBに記録された植物だった。図鑑等の記載情報によると、これらの多くは、開発と採集が減少の主要因であると考えられていた。経年変化を検討したところ、このうち26種については、最近2年間以上確認されていなかった。消失傾向にある種の1/3を占めるラン科植物についてさらに検討を行ったところ、普通種を含めたラン科植物全般について消失傾向が顕著であった。以上の結果より、国立公園は開発の影響を受けやすい種の生育場として重要であること、採集圧は無視できない減少要因である可能性があることが示された。種の減少要因の検討を可能とするデータの入手、さらには示された課題を解決することも期待できるパークボランティアは、国立公園の自然環境を保全していく上で、極めて有用であると考えられた。箱根地域のフローラリストは次のURLよりダウンロード可能:http://osawa.nomaki.jp/index.html。
  • 村上 裕, 大澤 啓志
    原稿種別: 本文
    2008 年 13 巻 2 号 p. 187-198
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル オープンアクセス
    愛媛県中予地域において、水稲栽培型とトノサマガエル・ヌマガエルとの関係を調査した。現地調査は、2005年に130地点のカエル類分布調査を、2000〜2005年に水稲栽培型調査を実施した。過去の栽培型(1958年)については資料調査とし、地域別の栽培型ごとの面積と品種数を明らかにし、2000〜2005年は水稲栽培型で区分した地図を作成した。1958年と比較して2000〜2005年の平野部における水稲栽培型の多くが短期栽培に変化し、普通期栽培品種においても栽培期間の短期化が進行していた。これに対して山間部の水稲栽培型は品種の変遷はあるものの、栽培型や栽培期間に大きな変化は認められなかった。標高と栽培型との関係では、早期栽培は標高50m以上にほぼ均一に分布していたが、短期栽培は標高20m以下に集中傾向がみられた。トノサマガエルは22地点(生息確認率16.9%)、ヌマガエルは40地点(同30.8%)で生息確認が得られた。標高と両種の関係は、トノサマガエルが標高による明瞭な傾向を示さないのに対して、ヌマガエルは低地依存性があることが明らかになった。栽培型と両種の関係では、トノサマガエルは水稲栽培期間の短期化によって生息地域が減少することが明らかになった。一方、ヌマガエルの生息確率は水稲栽培期間の短期化には影響を受けていなかった。以上のことから、トノサマガエルは標高よりも栽培型に影響を受けるが、ヌマガエルは栽培型よりも標高に影響を受けることが明らかになった。短期栽培は、栽培期間が短いため、兼業農家においても取り組みやすい栽培型である一方、水田を二次的自然環境として利用しているカエル類、特にトノサマガエルの生息に負の影響を及ぼしていると考えられた。
  • 和田 年史, 米山 太平, 橋口 大佑, 野村 俊介, 板谷 晋嗣, 秀野 真理
    原稿種別: 本文
    2008 年 13 巻 2 号 p. 199-205
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル オープンアクセス
    福岡県津屋崎干潟においてカブトガニ幼生の成長の解明とモニタリング手法の開発に取り組んだ。2003年9月から2006年10月にかけての野外調査で得られたカブトガニ幼生の体幅組成では17.00〜62.00mmの間に4つの正規分布が認められ、それぞれの単峰領域が5から8脱皮齢の体幅サイズの範囲を示した。各脱皮齢の平均値から求められたカブトガニ幼生の成長率は5脱皮齢から順に1.35・1.33・1.31倍であった。津屋崎干潟での野外調査で得られた幼生の成長率は過去の飼育環境下で得られた成長率よりも高かった。本研究で示された各脱皮齢の体幅サイズの範囲を基準として幼生の齢組成を判別することによって、絶滅が危惧されている本種の個体数の増減を監視することができると考えられる。生活史を通して多様な沿岸環境を必要とするカブトガニは沿岸生態系保全の象徴となり得る存在であり、地域の自然環境や生物多様性を保全する意味でも市民参加型のモニタリング調査を実施し続ける必要がある。
  • 比嘉 基紀, 師井 茂倫, 酒井 暁子, 大野 啓一
    原稿種別: 本文
    2008 年 13 巻 2 号 p. 207-217
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル オープンアクセス
    木曽川感潮域の自然堤防帯からデルタ帯への移行帯において、絶滅危惧植物タコノアシPenthorum chinense Pursh(ユキノシタ科)の生育適地を解明することを目的に調査を行った。本調査地は、河床勾配が緩やかなことに加え、様々な人為的インパクトの影響で河床が全体的に安定傾向にある。これまで本種は、河川では自然攪乱にさらされやすい澪筋沿いの明るく開けた立地に出現すると報告されている。しかし草本植物全体の分布特性について検討した結果、タコノアシは比高が高く地表攪乱の痕跡のないアカメヤナギ群落の林縁や林床で多く確認された。このことから本調査地では、タコノアシは地表攪乱以外の要因によって個体群を維持していると考えられた。タコノアシの成長と開花に影響を及ぼす環境要因を、最尤推定法の変数選択で検討した結果、表層堆積物硬度がすべての統計モデルで選択され、標準化推定値も大きかった。個体の地上部乾燥重量と枝数、開花個体数、花梗数は、表層堆積物が軟らかく、上層の開けた明るい泥湿地的環境で増加する傾向を示した。本調査地でタコノアシの成長と開花が良好な環境は、堆積物硬度が0.16〜0.82kg/cm^2、7月のRPPFDが20〜60%、1日の冠水時間が3.97〜5.84h、表層の細粒堆積物厚が32〜40cm、表層堆積物の中央粒径が0.048〜0.053mm、淘汰度が1.24〜1.79であった。比高の低い立地にも表層堆積物が軟らかく上層の明るい環境は存在したが、そこではヨシやマコモ、ミズガヤツリの優占群落が成立しており、タコノアシの出現個体数は少なかった。冠水・塩水ストレスが本種の分布制限要因とは考えにくく、比高の低い立地でも生育は可能と推察されることから、タコノアシの分布特性を解明するためには、種間関係を含めたさらに詳細な検討が必要である。
  • 安部 哲人, 星 善男
    原稿種別: 本文
    2008 年 13 巻 2 号 p. 219-223
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル オープンアクセス
    ハザクラキブシは小笠原諸島母島にのみ分布する固有変種であり、現存個体も1個体のみという絶滅危惧種である。しかし、2007年10月に母島の現存個体とは別の場所で新たに個体群(雌3個体を含む14個体)が発見されたので、既存の個体とあわせて生育状況及び生育環境を報告した。発見された個体群は葉脈数の多さや果実の小ささという形態的特徴からハザクラキブシであると判断された。個体サイズは1〜6m以上で斜面下部では林冠にまで到達する高さの個体もあり、近縁のナガバキブシより大きかった。この個体群の発見は、最近まで現存個体が1個体しか知られていなかったハザクラキブシの分類学的・生態学的特性を検討する上で重要な発見である。自生地はシマホルトノキやオガサワラグワ、ムニンエノキの大木からなる原生林に隣接し、沢沿いの斜面に成立した疎林であった。しかしながら、依然として個体数は15個体と非常に少なく、保全対策が急がれる状況であることには変わりがない。この点でも、新たな個体群の発見は種子からの育苗が可能になったことが保全上大きな意義がある。また、自生地にはアカギが侵入しており、樹冠の被圧により絶滅リスクが高まる可能性があることから、アカギの駆除と合わせた個体群管理の方策を提案した。
  • 荒木田 葉月, 三橋 弘宗
    原稿種別: 本文
    2008 年 13 巻 2 号 p. 225-235
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル オープンアクセス
    東京都では、近年になって草原性の鳥類であるヒバリAlauda arvensisが減少しており、その保全エリアを選定するため、過去に実施された鳥類の繁殖分布調査の結果を用いて、1970年代のヒバリの繁殖適地および1970年代から1990年代にかけての繁殖地の存続可能性を推定した。解析にはロジスティック回帰分析を用いて、1970年代のヒバリの繁殖の有無、1970年代から1990年代にかけての繁殖の継続可否を目的変数とした。両モデルの説明変数には、隣接効果として隣接メッシュにおけるヒバリの繁殖の有無、土地被覆として1974年と1998年の東京都現存植生図から9つの植生区分を選定し、これらを10通りに再分類した組み合わせを用いて、それぞれ10個の統計モデルについて検討した。解析の結果、1970年代の繁殖適地の推定では、すべての草地タイプを1つに統合したモデルが選定され、隣接効果もモデルに採用された。1970年代から1990年代間の繁殖地の存続可能性の推定では、乾性草地および湿性草地を区別したモデルが選択され、各要因ともに正の影響を示した。両モデルともに比較的高い正解率およびAUCが得られたので、モデルの推定式から確率分布地図を作成したところ、1970年代には東京都において比較的広い範囲にヒバリが繁殖可能であったが、1990年代においてもヒバリが存続可能な場所は河川敷および湾岸の草地環境に偏ることがわかった。都市的な土地利用が卓越する東京都では、河川を中心とした水辺の草地環境の保全と再生がヒバリの保全にとって重要な位置を占めることが示唆された。
  • 冨士田 裕子, 中谷 曜子, 佐藤 雅俊
    原稿種別: 本文
    2008 年 13 巻 2 号 p. 237-248
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル オープンアクセス
    湿原環境の悪化や植生変化などが問題視される釧路湿原では、国土交通省北海道開発局釧路開発建設部が1999年から委員会を設置し、「釧路湿原の河川環境保全に関する提言」(釧路湿原の河川環境保全に関する検討委員会2001)を発表した。そして「河川環境の指標であるハンノキ林の急激な増加やヨシ-スゲ群落の減少に対し、湿原植生を制御する対策をすべきである」という提言に従い、新釧路川の右岸堤防上に位置する雪裡樋門を2000年9月から2003年5月まで閉め、堤防西側の安原川流域の地下水位を上昇させる実験をおこなった。実験の目的は、湿原植生の制御手法を技術的に確立することとされ、湿原で近年増加しているハンノキを地下水位の上昇で制御できるかどうかを検証することが中心だった。しかし湛水面積は200ha以上にのぼり、樋門を開けた後、低層湿原植生は一変し、実験前とはまったく異なる景観が広域に広がった。湛水実験に対して、開発局が公表したデータはハンノキに関するものが主体で、湛水跡地の植生に関してはデータが十分とはいえなかった。そこで実験跡地の植生および湛水区域の特長などを現地調査や衛星データ等から明らかにし、生態学的視点に欠けた広域実験の問題点を指摘することを本研究の目的とした。解析の結果、湛水区域は川筋の標高が低い部分に広がり、実験前の植生はヨシやスゲ主体の低層湿原群落で、実験の主要対象であったハンノキ林は、一部に分布するにすぎなかった。樋門開放翌年に成立した群落は、釧路湿原の既存の植生に関する報告にはない、タウコギ、エゾノタウコギ、アキノウナギツカミ、ミソソバなどが優占する流水辺一年生草本植物群落であった。景観を一変させ、新たな自然再生地を生み出すような大規模実験が、なぜ安易に容認され、事前調査が不十分なまま実施されたのかなど、今後慎重に検討する必要がある。
  • 田村 淳, 勝山 輝男
    原稿種別: 本文
    2008 年 13 巻 2 号 p. 249-256
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル オープンアクセス
    神奈川県丹沢山地に分布する環境省絶滅危惧IA類のシダ植物であるヤシャイノデの保全に向けて、生育地における個体数と葉のサイズ、生育環境を調べた。過去に分布記録のある4箇所のうち2箇所でヤシャイノデの生育を確認し、個体数は2004年で計21個体、2006年で計18個体、2007年で計15個体と年々減少した。これらのうち胞子をつけた成熟個体はいずれの年も2個体のみであった。2006年におけるニホンジカの採食可能な範囲(採食可能域)とそうでないところ(不可能域)の個体数は採食可能域で11個体、不可能域で7個体であり、採食可能域で多かった。個体あたりの平均葉数は両者で差異がなかったものの、葉サイズは採食可能域で小さかった。また、葉の先端が欠け、シカに採食されたと思われる個体も採食可能域で多かった。周辺の林床植被率も採食可能域では不可能域よりも低く、スズタケも少なかった。以上のことから、丹沢山地のヤシャイノデは、総個体数および成熟個体数も少なく、シカの採食により成熟サイズに達することが阻害され、生育環境も悪化している可能性が示唆され、絶滅の危険性が高いと考えられた。ヤシャイノデの保全に向けて、ヤシャイノデを含めて周辺の林床植生をシカの採食から防護するための植生保護柵を設置することと、緊急避難的に増殖技術を確立することが急務である。
  • 安河内 彦輝, 三原 正三, 黒崎 敏文, 米田 政明, 韓 尚勲, 小池 裕子
    原稿種別: 本文
    2008 年 13 巻 2 号 p. 257-264
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル オープンアクセス
    2004年秋〜冬にかけて、日本のツキノワグマUrsus thibetanusは人里近くに多く出没し、その原因として特に北陸や西日本での堅果類の不作が指摘された。本研究はこのツキノワグマ大量出没調査と関連しておこなわれたもので、95個体の体毛を用いてδ^<13>C・δ^<15>N値を測定した。このうちの18個体および韓国Jirisan国立公園保護個体2個体の計20個体に関しては体毛の毛根基部から先端まで3mmごとの季節的経時変化を調べた。Jilisan国立公園に放獣されたツキノワグマでは、δ^<13>C値がほぼ一定であるが、δ^<15>N値は毛先から中央部にかけて増加し毛根まで徐々に減少した。このようなパターンは初夏〜夏にかけて昆虫類を多く摂取しδ^<15>N値が若干高くなるが、秋になって堅果類を集中して摂取し、ふたたびδ^<15>N値が下がる傾向を示したものと考えられる。一方2004年の日本産ツキノワグマでは、δ^<15>N値が明瞭に下がるものは少なく、東中国・西中国ユニットの個体ではむしろ毛根部で急に高い値を示す個体もみられた。この要因として、動物食料の増加、あるいは秋の堅果類等の食物が充分ではなく自家消費を始めたなどがあげられるが、2004年の個体の場合には後者の可能性が高いと考えられる。95個体の体毛毛根を用いたδ^<13>C値・δ^<15>N値のなかでは、-20&permil;以上のδ^<13>C値をもつC_4植物系の食物(トウモロコシや家畜残飯)を摂取していたと思われる個体が北・中央アルプス・近畿北部・西中国ユニットから検出された。δ^<15>N値の高い個体が東中国・西中国ユニットに見られた。δ^<15>N値には地域差がみられるため体毛の連続測定が必要であり、δ^<15>N値の季節的経時変化のデータを蓄積することによって、今後有効な栄養診断の指標になると期待される。
  • 福田 秀志, 高山 元, 井口 雅史, 柴田 叡弌
    原稿種別: 本文
    2008 年 13 巻 2 号 p. 265-274
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル オープンアクセス
    カメラトラップ法を用いて、大台ヶ原各地域の哺乳類相の現状と、ニホンジカの生息場所の季節変化について調査した。東大台ヶ原(以下、東大台)に9地点、大台ヶ原南東部(以下、大台南東)に7地点、西大台ヶ原(以下、西大台)に3地点の合計19地点に、2002年の6月下旬から11月下旬と2003年の4月下旬から9月上旬まで自動撮影装置を設置した。その結果、ニホンザル、ムササビ、キツネ、タヌキ、テン、アナグマ、イノシシ、ニホンジカの4目8種と未同定のコウモリ類が撮影された。各調査地域のカメラ稼動延べ日数(総カメラ日)は、東大台で913日、大台南東で1,561日、西大台では729日だった。全体では、ニホンジカが圧倒的に多く2,837回(全哺乳類の出現回数の95.2%)を占め、次いでニホンザルの93回(3.1%)で、他の哺乳類は少なかった。とくに、東大台ではニホンジカが2,043回(99.0%)を占めた。一方、大台南東・西大台では、ニホンジカ以外の哺乳類がそれぞれ12.6%、16.3%と一定割合を占めた。ムササビは大台南東のみで、アナグマは西大台のみで撮影された。また、東大台やそこに近接する地点では、シカ以外の哺乳類が全く撮影されない地点も認められた。ニホンジカは、東大台では春季から夏季に増加し、秋季には減少する傾向が認められた。一方、大台南東、西大台では、東大台で撮影頻度が低下する秋季に増加する傾向が認められた。以上のことから、ミヤコザサ草原が広がる東大台では、ニホンジカが圧倒的に優占する単調な哺乳類相となっていると考えられた。また、大台南東や西大台では東大台に比べ哺乳類相は多様と考えられたが、その生息密度は高くないと考えられた。
  • 原稿種別: 付録等
    2008 年 13 巻 2 号 p. App7-
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル オープンアクセス
  • 原稿種別: 表紙
    2008 年 13 巻 2 号 p. Cover3-
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル オープンアクセス
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