保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
15 巻, 2 号
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  • 原稿種別: 表紙
    2010 年 15 巻 2 号 p. Cover1-
    発行日: 2010/11/30
    公開日: 2018/02/01
    ジャーナル フリー
  • 原稿種別: 目次
    2010 年 15 巻 2 号 p. Toc1-
    発行日: 2010/11/30
    公開日: 2018/02/01
    ジャーナル オープンアクセス
  • 和田 年史, 板谷 晋嗣, 秀野 真理
    原稿種別: 本文
    2010 年 15 巻 2 号 p. 163-171
    発行日: 2010/11/30
    公開日: 2018/02/01
    ジャーナル オープンアクセス
    福岡県津屋崎沿岸域において絶滅危惧種カブトガニの産卵場所と来浜ペア数の年変動を調べた。2004年から2008年までの野外調査によって、津屋崎沿岸の12カ所でカブトガニの産卵を確認した。産卵地点の底質は泥分含有量が0%〜6.1%で、中央粒径値と淘汰度がそれぞれ-2.32φ〜2.32φと0.37φ〜1.98φの範囲であった。各産卵地点の繁殖ペア数と中央粒径値との間には有意な正の相関関係がみられ、特に津屋崎橋周辺の4地点(細砂および中砂の地点)に約7割の繁殖ペアが集中することが明らかとなった。さらに、継続的なモニタリング調査によって、津屋崎沿岸域に来浜する繁殖ペア数が毎年減少していることが示された。津屋崎沿岸のカブトガニの減少要因としては、近年の沿岸開発の影響が考えられる。今後も地域住民とともに本種のモニタリング調査を継続し、地域社会の理解を得ながら多様な生きものが共存する沿岸生態系の保全に取り組むことが望まれる。
  • 佐々木 茂樹, 松田 裕之
    原稿種別: 本文
    2010 年 15 巻 2 号 p. 173-181
    発行日: 2010/11/30
    公開日: 2018/02/01
    ジャーナル オープンアクセス
    罠により侵略的外来哺乳類の防除を行う場合、捕獲努力量(罠数と設置日数の積)の空間的配分は根絶達成時期や防除の効果に影響する。対象生物が分布拡大の途上である場合、効果的な捕獲地域の設定や捕獲努力の配分には、対象生物の分布に基づいた防除計画の立案が有効である。しかし、生態系管理者が対象種の分布について十分な情報を持っていることは少ない。また、広い範囲で防除を行う場合、捕獲努力量の配分を柔軟に変えることは難しい。そこで、本研究では個体数密度と捕獲努力量の空間分布を記述する格子モデルを用いて、前年の捕獲結果から捕獲努力量の配分を適切に決定する手法を、奄美大島おけるジャワマングースHerpestes javanicusを例に検討した。その結果、捕獲効率の密度依存性が低い場合、前年に捕獲実績のあった場所となかった場所の捕獲努力量を2:1程度とすると早期の根絶が達成された。捕獲効率の密度依存性が高い場合には、捕り残し個体数と分布拡大速度にはトレードオフが生じた。前年に捕獲されなかったが、近隣で捕獲実績のあった地域の捕獲努力を増やすと分布拡大を遅らせることができた。一方、捕り残し個体数を減らすためには、捕獲実績があった地域と、近隣で捕獲実績があった地域に同程度の捕獲努力を配分することが有効となった。
  • 片野 修, 坂野 博之
    原稿種別: 本文
    2010 年 15 巻 2 号 p. 183-191
    発行日: 2010/11/30
    公開日: 2018/02/01
    ジャーナル オープンアクセス
    オオクチバスを駆除する方法の一つとして、生き魚を用いた釣りの方法を開発した。障害物がない場所では8〜9mの振出し竿を用い、小型の浮きと45cmのハリスの付いた小型の釣針をラインに装着した。餌魚として標準体長が5〜9cmのウグイを用い、釣針が餌魚の背の前部に掛かり、しかもその針先が背から突き出るようにした。餌魚がバスに攻撃され飲みこまれてから、30〜40秒待ちその後強く合わせた。ある溜池での調査から、この釣法はルアーフィッシングより効果的にバスを釣ることができること、大型のバスを効果的に減少させられることが示された。長野県の9ヶ所の溜池や湖でウグイ、生きエビ、ミミズの3種の餌による釣れ方を比べると、大型のバスはもっぱらウグイによって釣られること、小型のバスはミミズやウグイより生きエビによって多く釣られることが明らかになった。
  • 寺田 千里, 立澤 史郎, 川村 貴志, 藤岡 正博
    原稿種別: 本文
    2010 年 15 巻 2 号 p. 193-201
    発行日: 2010/11/30
    公開日: 2018/02/01
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    林道の敷設が屋久島に生息するヤクシカの食物資源の増加に寄与している可能性について検討するために、屋久島の林道脇と森林内部における食物現存量と食痕数を調べた。調査地は鹿児島県屋久島北東部の小瀬田林道周辺(標高150〜180m)のスギ人工林(34年生)と広葉樹二次林(36年生および47年生)に設けた。2006年7月〜2007年5月の期間、2ヵ月おきに各調査地の林道脇と森林内部の林床植物を刈り取り、乾燥重量を計測し食物現存量とした。また、各調査地の林道脇と森林内部で食痕数を数えた。食物現存量は人工林、二次林ともに森林内部より林道脇で多く、二次林の森林内部が特に少なかった。食痕数も同様に人工林、二次林ともに林道脇で多く、二次林の森林内部が少なかった。これらの結果から、屋久島では林道脇の植物及び人工林の森林内部の林床植物が、餌資源としてヤクシカに多く利用されていることが示唆された。林道の敷設と人工林化は、個体数増加の一要因になっているのではないかと考察した。
  • 高田 まゆら, 鈴木 牧, 落合 啓二, 浅田 正彦, 宮下 直
    原稿種別: 本文
    2010 年 15 巻 2 号 p. 203-210
    発行日: 2010/11/30
    公開日: 2018/02/01
    ジャーナル オープンアクセス
    シカによる水稲被害が深刻化している千葉県房総半島南部において、約350軒の稲作農家を対象とした聞き取りアンケート調査から、シカによる水稲被害のレベルを定量化し、それをシカの局所密度と水田周辺の景観構造により説明する統計モデルを構築した。その結果、被害レベルはシカ密度に加え、対象水田から半径400m以内の景観構造により影響を受けていることが明らかになった。具体的には、水田周囲の森林率の増加に伴い被害は大きくなること、またシカの高密度地域では周辺景観の林縁長が長いと被害が軽減される傾向があることがわかった。この空間スケールは、既往研究から示された房総のシカの行動圏や食物の質、妊娠率が決まる空間スケールとほぼ一致していた。次に統計モデルを用いて被害が軽度に維持されるシカ密度をシカ分布域とその周辺を含めた地域で推定し、水稲被害のリスクマップを作成したところ、被害が軽度に維持されるシカ密度は地域の景観構造により大きく異なることがわかった。異質な景観構造をもつ地域では、こうしたリスクマップと現在のシカ生息密度とを比較し、短期的な捕獲目標個体数を局所レベルで定めることで、被害防除努力をより効率的に配分することができるだろう。
  • 水野 敏明, 大塚 泰介, 小川 雅広, 舟尾 俊範, 金尾 滋史, 前畑 政善
    原稿種別: 本文
    2010 年 15 巻 2 号 p. 211-217
    発行日: 2010/11/30
    公開日: 2018/02/01
    ジャーナル オープンアクセス
    ニゴロブナは、琵琶湖の環境に適応して進化してきた固有亜種であり、生息数が激減していている絶滅危惧種(環境省I B)である。そのため、その保全が急務の課題となっている。琵琶湖では梅雨の時期に水位調整が人為的に行なわれており、特にニゴロブナを含むコイ科の産卵期であるがゆえに、魚類へ及ぼす影響が危惧されている。しかしながら、水位調整がニゴロブナの産卵遡上行動へ及ぼす影響については、基礎的な生態の知見が不足している。そこで本研究では、ニゴロブナの産卵生態でも特に産卵遡上行動に着目し、琵琶湖から水田地帯への遡上誘発要因を明らかにすることを目的として研究を行った。フィールド調査期間は、2008年の5月14日から7月9日であり、調査を毎日行った。調査場所は、滋賀県草津市下笠地区の琵琶湖湖畔から集落までつづく独立した農業水路の集水域であった。モンドリによる遡上魚類の捕獲調査を実施することにより、ニゴロブナの集水域への産卵遡上行動についての日別のデータを収集した。さらに、遡上に関係すると想定された、水位、雨量、水温、pH、溶存酸素濃度、電気伝導度、濁度、化学的酸素要求量の統計データを利用した。多変量の判別分析の結果、琵琶湖の「前日との水位差」と「COD」が遡上行動の誘発要因である可能性が高いことが示された。本研究の結果より、より保全に効果的な人工的水位調整を行う際には、自然状態と同じような水位変化リズムを形成することが重要になっている可能性が示唆された。
  • 石田 弘明, 黒田 有寿茂, 橋本 佳延, 澤田 佳宏, 江間 薫, 服部 保
    原稿種別: 本文
    2010 年 15 巻 2 号 p. 219-229
    発行日: 2010/11/30
    公開日: 2018/02/01
    ジャーナル オープンアクセス
    近年、ニホンジカ(以下、シカ)による暖温帯夏緑二次林の食害が多くの地域で認められるようになってきた。本研究では、シカの採食による暖温帯夏緑二次林の種多様性・種組成の変化の特徴について検討するため、兵庫県南東部と大阪府北西部の暖温帯に分布する(1)シカの採食を全くあるいはほとんど受けていない夏緑二次林(以下、無被害林)と(2)シカの採食を強く受けている夏緑二次林(以下、被害林)に100m^2の調査区を合計50個設置して植生調査を行った。シカの採食可能な範囲にある低木層(高さ約2m)と草本層の植被率は被害林の方が無被害林よりも有意に低かった。両階層の落葉植物種数(/100m^2)もこれと同様の傾向を示した。低木層と草本層の落葉植物種数を生活形(高木、低木、草本、藤本)ごとに比較した結果、落葉植物の種多様性は生活形の違いに関わらずシカの採食による負の影響を受けること、また、低木層の種多様性は草本層のそれよりもその影響を受けやすいことが示唆された。低木層と草本層の種組成は森林タイプ間で大きく異なっており、多くの種が無被害林の識別種として区分された。しかし、被害林の識別種は両階層ともにシキミだけであった。以上のことから、シカの採食は暖温帯夏緑二次林の種組成を著しく単純化させると結論した。
  • 川西 基博, 崎尾 均, 村上 愛果, 米林 仲
    原稿種別: 本文
    2010 年 15 巻 2 号 p. 231-240
    発行日: 2010/11/30
    公開日: 2018/02/01
    ジャーナル オープンアクセス
    ハリエンジュRobinia pseudoacacia L.の硬実種子は種皮への傷つけや高温刺激によって休眠が解除される。本研究では河川敷におけるハリエンジュの種子による分布拡大に注目し、洪水と河畔草地への火入れによる種子の休眠解除効果を検証した。洪水を想定した土砂との振とう処理と、火入れによる高温処理を行った種子を用いて発芽試験を行った。礫と水を混合し5時間振とうした種子の最終発芽率(80.0±11.2%、平均±標準偏差)は、砂と水を混合した振とう処理(19.2±8.3%)より有意に高く、土砂との振とう時間が長いほど最終発芽率が高かったことから、種子が礫と混合し流下堆積する洪水時では、休眠が解除される可能性が高いと考えられた。草地の火入れ時において、地表下3cmでは温度の変化がほとんどなく、種子の最終発芽率は無処理と差がなかった。地表0cmでは顕著な温度変化が認められ、トダシバ群落では110℃以上、シバ群落では、30〜40℃の最高温度を示した。トダシバ群落では種子の死亡率が著しく高く(84.7±15.4%)、最終発芽率(6.2±9.1%)は低かったことから、本群落への火入れは地表を過度に熱し、地表に存在するハリエンジュ種子の発芽能力を失わせる効果が強いと考えられた。シバ群落への火入れでは、本火入れ実験での全条件中最大の最終発芽率が得られたが、それほど高い値は示さなかった(25.8±20.5%)。草地への火入れは、群落によってハリエンジュ種子の発芽を抑制する効果が期待される場合と促進する危険性がある場合とが考えられた。
  • 前角 達彦, 須田 真一, 角谷 拓, 鷲谷 いづみ
    原稿種別: 本文
    2010 年 15 巻 2 号 p. 241-254
    発行日: 2010/11/30
    公開日: 2018/02/01
    ジャーナル オープンアクセス
    東京都世田谷区・杉並区・練馬区における高度成長期前後のチョウ相の変化とその要因を分析するために、市民科学者(愛好家)によるチョウの採集・目撃の記録を収集してデータベース化した。1923〜1960年(1950年代以前)および1982年〜2008年(1980年代以降)の2つの時期を比較したところ、1950年代以前には合計65種、1980年代以降には55種が記録されており、両方の年代に共通して記録された種は49種であった。1950年代以前に確認された種について、1980年代以降の生息状況(消失、残存)に及ぼす生態的特性の効果を単項ロジスティック回帰による一般化線形モデルを用いて分析したところ、化性(P<0.01)、利用できる食餌植物の種数(P<0.05)、食餌植物の栽培利用の有無(P<0.01)が有意な効果を示した。また、科をランダム効果とした一般化線形混合モデルのモデル選択により、化性と食餌植物の栽培利用の有無が種の生息状況に有意な効果をもたらしていることが示された。すなわち、年1化性の種および食餌植物の栽培利用のないチョウは、1980年代以降に多くが消失し、両方の生態的特性を持つ種で現在でも記録されているのはミドリヒョウモンのみであった。一方、1980年代以降に新たに記録された種は6種であった。このうち5種は近年の分布域の北上・拡大が観察されている種であった。その原因としては、ヒートアイランド化や食餌植物の植栽などによる人為的影響が推測される。これらの種の生態的特性はすべて年2化以上、4種で食餌植物の栽培利用があった。本研究により、市民科学者の記録をデータベース化して活用することは、チョウ相の変遷およびその要因の分析に有効であることが示された。
  • 田村 淳
    原稿種別: 本文
    2010 年 15 巻 2 号 p. 255-264
    発行日: 2010/11/30
    公開日: 2018/02/01
    ジャーナル オープンアクセス
    ニホンジカの採食圧を受けてきた時間の長さによる植生保護柵(以下、柵)設置後の多年生草本の回復しやすさを検討するために、同一斜面上の設置年の異なる柵で、12種の出現頻度と個体数、成熟個体数を比較した。柵はニホンジカの強い採食圧を10年程度受けた後に設置された柵3基(1997年柵)と16年程度受けた後に設置された柵4基(2003年柵)である。両方の柵で出現頻度が同程度であった種が6種、1997年柵で高い傾向のある種が6種であった。出現頻度が1997年柵で高い傾向のある6種のうちの3種は、シカの採食圧の低かった時代において調査地にまんべんなく分布していた可能性があった。そのため12種のうち9種は両方の柵で潜在的な分布は同じだったと考えられた。これら9種において個体数を比較したところ、4種は1997年柵で個体数が有意に多かった。これらの種は、シカの採食圧を長く受けた後に柵を設置しても回復しにくいことを示している。一方で、9種のうちの5種は、両方の柵で個体数に有意差はなかった。このことは、これら5種が林床植生退行後の柵の設置までに要した10年ないし16年程度のシカの採食圧では出現に影響しないことを示唆している。ただし、このうちの1種は成熟個体数の比率が2003年柵で低かった。以上のことから、柵の設置が遅れると回復しにくい種があることが明らかになった。したがって、それらの生育地では退行後、遅くとも10年以内に柵を設置することが望ましいと結論した。
  • 石田 惣, 久加 朋子, 金山 敦, 木邑 聡美, 内野 透, 東 真喜子, 波戸岡 清峰
    原稿種別: 本文
    2010 年 15 巻 2 号 p. 265-280
    発行日: 2010/11/30
    公開日: 2018/02/01
    ジャーナル オープンアクセス
    幼生期に魚類に寄生して変態するイシガイ類にとって、寄主として適合する魚種の存否は彼らの個体群維持において重要である。近年ブルーギルLepomis macrochirusとオオクチバスMicropterus salmoidesをはじめとする外来魚の密度が増大している淀川の城北ワンド域(大阪府)において、イシガイ類の繁殖への影響を推測するため、魚類相とイシガイ類のグロキディウム幼生の寄生傾向を調べた。調査地ではイシガイ、ドブガイ属Anodonta spp.、トンガリササノハガイLanceolaria grayanaの3種群のイシガイ類と、8科19種群の魚種が生息していた。ブルーギルとオオクチバスの合計個体数比率は場所により10〜64%であった。採集した魚を解剖して幼生の寄生数を調べたところ、ブルーギルとオオクチバスに寄生していたイシガイの幼生は時期により幼生全体の39〜67%、ドブガイ属では18〜96%を占めていた。ただし、ブルーギルとオオクチバスに寄生していたイシガイの幼生の約99%は魚体上でシスト(魚の上皮細胞による被覆)が形成されていなかった。一方ドブガイではほとんどの魚体上でのシスト形成率が高く、ブルーギルとオオクチバスでも約97%以上がシスト形成または変態完了していた。イシガイのブルーギルとオオクチバスに対する寄主不適合は室内実験でも裏付けられ、人為的に寄生させて得られた変態成功率はブルーギル・オオクチバスとも約0.5%で、寄生した幼生の約80%以上は魚体上で死亡すると推定された。この不適合は魚の側の獲得免疫ではなく、生得的な対寄生防御機構によるものと推測された。これらから、ブルーギル・オオクチバスの優占はイシガイの繁殖に負の影響を及ぼしていることが明らかであり、淀川のイシガイ個体群の状況を今後注視していく必要がある。本研究で示されたイシガイ類に対する外来魚の影響は、国内の他の陸水環境でも注意が必要である。
  • 野副 健司, 西廣 淳, ホーテス シュテファン, 鷲谷 いづみ
    原稿種別: 本文
    2010 年 15 巻 2 号 p. 281-290
    発行日: 2010/11/30
    公開日: 2018/02/01
    ジャーナル オープンアクセス
    植物種の多様性が高く19種の絶滅危惧植物の生育地でもある「妙岐の鼻湿原」(茨城県霞ヶ浦湖岸)では、1990年代後半からカモノハシが優占する植生域の縮小がめだつ。株立ちに伴い他の植物の生育適地となりうる微高地を形成する性質を持つカモノハシは、植物種多様性の指標として有効であるという仮説のもと、植生と環境条件の調査を行った。約52haの湿原内を相観によりカサスゲ優占域、地表面に蘚類を伴うカモノハシ優占域(以下、カモノハシ優占域[蘚類あり])、地表面に蘚類を欠くカモノハシ優占域(以下、カモノハシ優占域[蘚類なし])に分け、それぞれに1m^2のコドラートを32〜39個設置して植生を比較した。在来植物種密度は、カモノハシ優占域[蘚類あり]、カモノハシ優占域[蘚類なし]、カサスゲ優占域の順に有意に高かった。また絶滅危惧種密度も、カモノハシ優占域[蘚類あり]において他の植生域よりも有意に高かった。踏査により絶滅危惧植物の分布を調べたところ、4種の絶滅危惧植物の分布がカモノハシ優占域[蘚類あり]に有意に偏っていることが判明した。カモノハシ優占域[蘚類あり]内において、ミクロサイトスケール(0.2×0.2m^2)でのカモノハシ株元に発達する微高地の有無と植物種の分布の関係を解析したところ、微高地を含むミクロサイトではそうでないミクロサイトに比べて有意に種密度が高いことが示された。カモノハシ優占域は、他の植生域と比べ、植生上層の優占種であるヨシの被度と草丈は有意に低く、植生下層部および地表面付近の光利用性が高く、過去11年間における草刈りあるいは火入れによる人為攪乱の頻度が高いという特徴を有していた。以上のことから、妙岐の鼻湿原における植物の種多様性の指標としてのカモノハシの有効性が示唆された。カモノハシ優占域の縮小化は、妙岐の鼻湿原における植物種多様性の低下や一部の絶滅危惧種の消失につながることが危惧される。
  • 宮崎 佑介, 松崎 慎一郎, 角谷 拓, 関崎 悠一郎, 鷲谷 いづみ
    原稿種別: 本文
    2010 年 15 巻 2 号 p. 291-295
    発行日: 2010/11/30
    公開日: 2018/02/01
    ジャーナル オープンアクセス
    岩手県一関市にある74の農業用ため池において、2007年9月〜2009年9月にかけて、コイの在・不在が浮葉植物・沈水植物・抽水植物の被度に与えている影響を明らかにするための調査を行った。その結果、絶滅危惧種を含む浮葉植物と沈水植物の被度が、コイの存在により負の影響を受けている可能性が示された。一方、抽水植物の被度への有意な効果は認められなかった。コイの導入は、農業用ため池の生態系を大きく改変する可能性を示唆している。
  • 浜口 哲一, 青木 雄司, 石崎 晶子, 小口 岳史, 梶井 公美子, 小池 文人, 鈴木 仁, 樋口 公平, 丸山 一子, 三輪 徳子, ...
    原稿種別: 本文
    2010 年 15 巻 2 号 p. 297-307
    発行日: 2010/11/30
    公開日: 2018/02/01
    ジャーナル オープンアクセス
    神奈川県茅ヶ崎市において、指標種を用いた環境評価調査を行った。この調査は、望ましい自然環境を想定しそれを指標する動植物種の分布調査に基づいて評価を行ったこと、調査区域の区分や指標種の選定などの計画立案から現地調査にいたるまで市民の参画があったことに特徴がある。まず市民による議論をもとに里山(森林、草地、水辺)や海岸など、住民の心情や生物多様性保全の観点から望ましい自然環境を決め、それらに対応する合計163種の指標種(高等植物、昆虫、脊椎動物)を決めた。集水域に対応し、また人間が徒歩で歩き回る範囲程度の空間スケールである76の小区域(平均0.47km^2)において、一定の努力量の上限のもとで最も発見できそうな地点を優先して探索する方法で指標種のマッピングを行った。小区域ごとの出現種数をもとに小区域単位の評価マップを作成したほか、詳細な地点情報を用いて保全上最も重要なコア地域を明らかにすることを試みた。
  • 原稿種別: 付録等
    2010 年 15 巻 2 号 p. App6-
    発行日: 2010/11/30
    公開日: 2018/02/01
    ジャーナル オープンアクセス
  • 原稿種別: 表紙
    2010 年 15 巻 2 号 p. Cover3-
    発行日: 2010/11/30
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル オープンアクセス
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