保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
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17 巻, 2 号
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原著
  • 西廣 淳
    原稿種別: 本文
    2012 年 17 巻 2 号 p. 141-146
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    霞ヶ浦(茨城県)では1996年以降、霞ヶ浦開発事業の計画にもとづく水位管理が実施され、従来よりも高い水位が年間を通して維持されるようになった。水位上昇に伴って進行すると予測される湖岸の抽水植物帯の衰退の程度と特徴を明らかにするため、行政や関連機関によって取得されたデータを活用して解析した。湖岸の34定点で測定された抽水植物帯の幅(人工護岸から汀線までの距離)の変化を分析した結果、1997年から2010年までの13年間に、9.54±7.71m(平均±標準偏差)の減少が認められた。また植生帯の幅の減少量と、各地点における波高の指標値との間には、有意な正の相関が認められた。優占種にもとづいて識別された抽水植物群落の面積変化を分析した結果、1992年から2002年までの間に顕著に減少していたのは、比高が低く静穏な場所に成立するマコモ群落とヒメガマ群落であった。現在の霞ヶ浦では、「水利用と湖の水辺環境との共存を模索する」ことを目的とした「水位運用試験」として、水位をさらに上昇させる管理が行われているが、これまでの植生帯衰退を考えれば、水位をむしろ低下させ、保全効果を検証する試験こそが必要といえる。
  • 亀山 慶晃, 清田 陽助, 中村 朱里, 濱野 周泰, 鈴木 貢次郎
    原稿種別: 本文
    2012 年 17 巻 2 号 p. 147-154
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    中国原産のトウネズミモチLigustrum lucidum Ait.は、植栽地からの逸出によって急速に分布を拡大しており、近縁の在来種に対する遺伝的攪乱の可能性も指摘されている。本研究では、トウネズミモチとネズミモチLigustrum japonicum Thunb. の交配親和性と野外における雑種形成の可能性に着目して、(1)開花フェノロジーの観察、(2)人為的な交配実験、(3)野外集団のAFLP遺伝分析、を実施した。開花フェノロジーの観察と交配実験は、東京農業大学世田谷キャンパスでおこなった。AFLP遺伝分析は世田谷キャンパスのネズミモチ8個体、トウネズミモチ8個体に加えて、複数の調査地から無作為に採取した349個体、計365個体を対象におこなった。ネズミモチとトウネズミモチの開花ピークはおよそ1ヶ月ずれていたが、ネズミモチの開花終了からトウネズミモチの開花開始までは2日であった。また、交配の組み合わせや花粉採取時期によって変動はあるものの、交配実験による平均結果率は0.02〜0.21であり、少なくとも果実(種子)形成に至るまでの遺伝的な隔離機構は完全ではないことが示された。一方、AFLP遺伝分析の結果、野外集団の全ての個体が純粋なネズミモチもしくはトウネズミモチに区分され、雑種は存在しなかった。これらのことから、両種の雑種形成は、環境条件の違いを反映した開花時期の差異(交配前隔離機構)と、遺伝的要因による種子の発芽、生育阻害(交配後隔離機構)によって抑制されているものと考えられ、現時点では、トウネズミモチによるネズミモチへの遺伝的攪乱が普遍的かつ広範囲で生じている可能性は極めて低いことが示唆された。
  • 宇留間 悠香, 小林 頼太, 西嶋 翔太, 宮下 直
    原稿種別: 本文
    2012 年 17 巻 2 号 p. 155-164
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    近年、草地性や湿地性の生物の代替生息地である農地の生物多様性が著しく減少しており、農地生態系の再生を目的とした環境保全型農業が普及し始めている。本研究では、新潟県佐渡市で行われているトキの個体群の復元を目的とした環境保全型農業のうち、冬期湛水および「江」の設置が、繁殖のため水田を利用することのある両生類3種(ヤマアカガエル、クロサンショウウオ、ツチガエルの一種)の個体数や出現確率に与える影響を探った。佐渡市東部の20箇所の水田群(計159枚の水田)において各種両生類の個体数を調べ、一般化線形モデル(または一般化線形混合モデル)と赤池情報量基準(AIC)を用いて、水田と水田群の2階層における個体数を説明する統計モデルを探索した。その結果、ヤマアカガエルとツチガエルの一種において、冬期湛水もしくは江の設置が強い正の影響を与えることが明らかになった。ヤマアカガエルでは、水田と水田群レベルで異なる農法が正の効果を示した。これは、個体群レベルの応答を評価するためには適切な空間スケールを定める必要があることを示唆している。景観要因としては、ヤマアカガエルとクロサンショウウオで水田周辺に適度な森林率が必要であるが、その空間スケールは大きく異なること、またツチガエルの一種では景観の影響を受けないことが明らかになった。この結果は、日本の里山のように景観の異質性が高い環境では、環境保全型農業の影響評価の際に、一律の指標種を用いるのではなく、局所的な生息地ポテンシャルにもとづいて評価対象種を選定する必要があることを示唆している。
  • 久保 優, 照井 慧, 西廣 淳, 鷲谷 いづみ
    原稿種別: 本文
    2012 年 17 巻 2 号 p. 165-173
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    福井県三方湖では、近年、在来沈水植物の衰退が問題視されており、その周辺域における沈水植物の生育状況の評価が求められている。本研究では、三方湖流域の水路および小河川における、在来沈水植物の分布と、それに対する外来生物の影響を解析した。2010年と2011年に、水路・小河川内の59地点(各地点、長さ20m×水路幅)で野外調査を行った結果、在来沈水植物4種、外来沈水植物2種が記録された。沈水植物が出現した地点の81%以上でオオカナダモ、クロモのいずれかが優占種となっていた。オオカナダモが優占する地点およびアメリカザリガニが出現した調査区では、それ以外の調査区と比較して、在来沈水植物の種の豊かさと存在量が有意に低かった。一般化線形混合モデルによる解析の結果、クロモを含む在来沈水植物の出現と、出現頻度が最も高かった在来種であるクロモの出現に対しては、アメリカザリガニの存在による有意な負の効果が認められた。逆に、オオカナダモの出現に対しては、アメリカザリガニによる正の効果が認められ、両種が互いに正の影響を及ぼしあって共存している可能性が示唆された。在来沈水植物の保全のためには、これらの外来種の排除が重要と考えられる。
  • 山本 康仁, 千賀 裕太郎
    原稿種別: 本文
    2012 年 17 巻 2 号 p. 175-184
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    開発が進む都市近郊の平地水田において、トウキョウダルマガエルの分布実態、および局所的・景観的なスケールの環境要因が分布に与える影響を明らかにすることを目的とした。東京都府中市および国立市に存在する146の水田団地(水田および水田に接する末端水路)を対象に、鳴き声による分布調査および環境要因の計測を2009年および2010年に行なった。また、GISにより水田団地面積、および水田団地の周縁から発生させたバッファ内に含まれる他の水田団地の面積率(周辺水田率)を計算した。53地点で本種の生息が確認された。一般化線形モデルを用いた多重ロジスティック回帰分析の結果、水田団地面積、畦の植被率、非灌漑期の通水、土水路およびバッファサイズ300mの周辺水田率が本種の出現に対して正の関係を示した。このことから、本種の分布状況は、局所的要因と景観的要因の両方から影響を受けていることが示唆された。水田団地面積が小さく、分断化されやすい都市近郊地域においては、水田団地すなわち生息場の大きさが本種の生息に特に重要だと考えられた。また、畦の植生の増加、非灌漑期の水路の通水、土水路の維持等の生息場の質の向上を図ること、および水田団地の孤立化を防ぐこと(周辺水田率の維持)も本種の保全に寄与すると考えられた。
  • 稲富 佳洋, 宇野 裕之, 高嶋 八千代, 鬼丸 和幸, 宮木 雅美, 梶 光一
    原稿種別: 本文
    2012 年 17 巻 2 号 p. 185-197
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    北海道東部地域の阿寒国立公園においてメスジカ狩猟と個体数調整がエゾシカの生息密度に与えた影響を評価するために、1993年〜2009年に航空機調査を実施した。また、エゾシカの生息密度の変動に伴う林床植生の変化を明らかにするために、1995年〜2010年に囲い柵を用いたシカ排除区と対照区の林床に生育する植物の被度及び植物高を調査した。航空機調査の結果、生息密度は1993年の27.1±10.7頭/km^2から2009年の9.5±2.5頭/km^2へと減少した。1994年度のメスジカ狩猟の解禁後に生息密度が減少し始め、1998年度のメスジカ狩猟の規制緩和に伴って生息密度が急減し、1999年9月の個体数調整開始以降は、生息密度が低く維持されていることから、阿寒国立公園における生息密度の低下は、メスジカ狩猟の解禁と規制緩和並びに個体数調整による効果が大きいと考えた。林床植生調査の結果から、15種の嗜好性植物及び2種の不嗜好性植物について被度や植物高の変化を解析した。対照区では、嗜好性植物であるクマイザサやカラマツソウ属、エンレイソウ属の被度若しくは植物高が増加傾向を示し、不嗜好性植物であるハンゴンソウが消失した。阿寒湖周辺では、エゾシカの生息密度の低下によって、採食圧が低下したために林床植生が変化したことが示唆された。以上のことから、エゾシカを捕獲し、生息密度を低下させることは、高密度化によって衰退した林床植生を回復させるための有効な一手段であると考えた。
  • 山道 真人, 長谷川 眞理子
    原稿種別: 本文
    2012 年 17 巻 2 号 p. 199-210
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    保全生態学は生物多様性の保全および健全な生態系の維持の実現への寄与をめざす生態学の応用分野であり、保全活動に大きな貢献をすることが期待されている。この目標を実現するためには、保全生態学研究が保全活動の要請に見合って適切に行われている必要がある。そこで日本における保全生態学の研究動向を把握する一つの試みとして、1996年から発行されている代表的な保全研究・情報誌である『保全生態学研究』(発行元:日本生態学会)に掲載された論文のメタ解析を行った。その結果、近年になって論文数は増加し著者も多様化している一方で、研究者は自分の所在地から近い場所で研究を行う傾向があり、研究対象地は関東地方と近畿地方に集中していること、研究対象種は植物・哺乳類・魚類が多く、昆虫や他の無脊椎動物が少ないといった偏りがあることが明らかになった。この結果をもとに、応用科学としての保全生態学のあり方と今後の課題について考察した。
  • 吉田 康子, 小玉 昌孝, 本城 正憲, 大澤 良
    原稿種別: 本文
    2012 年 17 巻 2 号 p. 211-219
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    埼玉県の荒川水系江川下流域に自生するサクラソウ集団(上尾集団)における遺伝的多様性の維持・回復を目的として、人工授粉による個体増殖、土壌シードバンクによる個体増殖および自生地外個体の導入の3つの手法の有効性を検討した。異型花柱性の他殖性植物であり、クローン成長を行うサクラソウの長期的な存続には、集団内のジェネット数や花型比が重要な要因となる。2003年の先行調査では、上尾集団には2000以上のラメットの生育が認められたが、DNA分析の結果から、わずか10ジェネットで構成されていたこと、さらにそのうち長花柱花は1ジェネットのみであったことが報告されている。今回、先行研究より多くのラメットを対象に、SSRマーカー8座を用いて遺伝子型を決定したところ、11ジェネットが見出された。そのうちの10ジェネットは先行研究と同一であり、新たに加わった1ジェネットは2005年に初めて発見された白色花弁のジェネットであった。SSRマーカー31座に基づく親子鑑定の結果、白花ジェネットの両親は集団内に現存する長花柱花と短花柱花であることが示唆された。自然条件下では小花あたりの平均種子数が5.5と低い値を示したが、人工授粉処理ならびに酢酸カーミン溶液を用いた花粉稔性調査より雌性および雄性の稔性が確認され、人工授粉を行うことで平均種子数が3倍以上増加した。また、現存ラメットから10cm離れた計70箇所から深さ0〜5cmの土壌を採取し、冷温処理後、変温条件下で発芽個体を調査したが、サクラソウの実生は確認できなかった。さらに、上尾集団由来であるとされ、現在は自生地外で保存されている長花柱花2ラメットについて、SSRマーカー8座の遺伝子型に基づくアサイメントテストを実施したところ、当該ラメットの示す遺伝子型が生じる確率は全国の32の野生集団のうち上尾集団で最も高く、次いで同じ荒川流域の田島ヶ原集団であった。加えて、他の30集団における確率が0であったことから、2ラメットの長花柱花は荒川流域の集団由来であると推定され、上尾集団への導入候補個体になりうると考えられた。これらの結果から、上尾集団の遺伝的多様性を維持・回復する手段として、まず集団内に現存するジェネット間での人工授粉による新規ジェネットおよび花型の作出を試み、状況に応じて、自生地外で保存されている長花柱花の導入を行うことが有効であると考えられた。
  • 小幡 智子, 石井 潤, 角谷 拓, 鷲谷 いづみ
    原稿種別: 本文
    2012 年 17 巻 2 号 p. 221-233
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    湿地再生のための掘削は、水条件の回復や外来植物の除去等の効果をもたらす一方で、既存の植生が表層土壌とともに失われるため、その計画にあたっては、絶滅危惧種等の植生構成種への影響に関する保全生態学的な評価が必要である。本研究では、ヨシとオギの高茎草本群落が優占する渡良瀬遊水地において、湿地再生のための掘削が絶滅危惧種に及ぼす影響評価を行い、計画に資する地図を作成した。11,514コドラート(10m×10m)の植物分布調査データを集計した結果、評価対象種26種のうち、8種は出現頻度が20%以上の高頻度分布種であり、18種は10%未満の低頻度分布種であった。高頻度分布種を対象として、土木工事用土砂採取のために過去48年間に行われた掘削とその場所における絶滅危惧種の現在の出現状況との関係を分析した。一般化線形モデルを用いて、絶滅危惧種の存在量を説明する要因のモデル選択を行ったところ、いずれの種も、上位モデルにおいて、概ね、過去の掘削の有無、標高(1, 2次項)およびヨシ・オギのシュート密度の説明変数が選択され、ベストモデルにおいて、これらの変数の正または負の有意な効果が認められた。過去の掘削は、6種で正に、2種で負に有意な効果を示した。しかし、負の効果をもった2種の現在の出現頻度は、いずれも50%以上であった。統計モデルによる要因分析ができなかった低頻度分布種については、既存の生態学的知見等を活用し、湿地再生候補地選定のための参考地図(掘削回避域・可能域・推奨域の3区分)を作成した。低頻度分布種の分布域は、原則として掘削回避域とした。なお、低頻度分布種のうち、撹乱依存性のある種および移植による影響緩和策の有効性について確実な知見のある種は、掘削可能域に含めることを可とした。低頻度分布種の分布しない区域のうち、現在広範な侵入が確認されている侵略的外来種セイタカアワダチソウが分布している場所は、原則として掘削推奨域とした。
  • 宮崎 佑介, 吉岡 明良, 鷲谷 いづみ
    原稿種別: 本文
    2012 年 17 巻 2 号 p. 235-244
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    朱太川水系の過去の魚類相を再構築することを目的として、博物館標本と聞き取り調査を行った。美幌博物館、北海道大学総合博物館水産科学館、市立函館博物館、国立科学博物館において、朱太川水系から採集された魚類標本の調査を行い、13種の魚類標本の所在を確認することができた。しかし、市立函館博物館の1923年以前の標本台帳に記されているイトウ標本の所在は不明であった。また、朱太川漁業協同組合の関係者18名に過去の朱太川水系の魚類相に関する聞き取り調査を行い、42種の魚類の採集・観察歴について情報を得た。同定の信頼性が高いと考えられるのはそのうちの34種であり、地域の漁業協同組合の保護・増殖の対象種であるかどうかと、聞き取り対象者が生息量の増減を認識していたかどうかは、有意に相関していた。カワヤツメなどの氾濫原湿地を利用する魚類の生息量の減少を指摘する回答者が12名いた。現在は見られないイトウが過去に確かに生息していたこと、カワヤツメの生息量が急減したことが聞き取りからほぼ確かであることが判明し、黒松内町の生物多様性地域戦略における自然再生の目標設定、すなわち「氾濫原湿地の回復」の妥当性が確認された。多くの人々が関心をもって観察・採集してきた生物種については、聞き取り調査によって量の変化に関する情報を得ることができる可能性が示唆された。
総説
  • 小柳 知代, 富松 裕
    原稿種別: 本文
    2012 年 17 巻 2 号 p. 245-255
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    人間活動が引き起こす景観の変化と生物多様性の応答との間には、長いタイムラグが存在する場合がある。これは、種の絶滅や移入が、景観の変化に対して遅れて生じるためであり、このような多様性の応答のタイムラグは"extinction debt"や"colonization (immigration) credit"と呼ばれる。近年、欧米を中心とした研究事例から、絶滅や移入の遅れにともなう生物多様性の応答のタイムラグが、数十年から数百年にも及ぶことが明らかになってきた。タイムラグの長さは、種の生活史形質(移動分散能力や世代時間)によって、また、対象地の景観の履歴(変化速度や変化量)によって異なると考えられる。過去から現在にかけての生物多様性の動態を正しく理解し、将来の生物多様性変化を的確に予測していくためには、現在だけでなく過去の人間活動による影響を考慮する必要がある。景観変化と種の応答の間にある長いタイムラグの存在を認識することは、地域の生物多様性と生態系機能を長期的に維持していくために欠かせない視点であり、日本国内においても、多様な分類群を対象とした研究の蓄積が急務である。
調査報告
  • 山本 和司, 佐々木 晶子, 中坪 孝之
    原稿種別: 本文
    2012 年 17 巻 2 号 p. 257-262
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    ランタナ(シチヘンゲ)Lantana camara L.は南アメリカ原産のクマツヅラ科の低木で、観賞用に栽培されているが、逸出・野生化した個体による悪影響が世界各地で顕在化しており、IUCN(国際自然保護連合)の「世界の侵略的外来種ワースト100」に選定されている。日本では、要注意外来生物に選定され、沖縄や小笠原をはじめとする島嶼部、本州の一部地域での野生化が報告されているが、地域レベルでの分布の広がりに関する詳細な報告はない。本研究では、瀬戸内海沿岸域におけるランタナの野生化の実態を明らかにするとともに、分布の制限要因の一つと考えられる冬期の気温との関係を検討した。広島県の沿岸域と島嶼部を調査地域とし、GISで1km四方ごとに4000のメッシュに区切った。このうち、森林などランタナが植栽されていないと考えられるメッシュを除外して、約500のメッシュを抽出した。これらのメッシュごとに2010年5月から同年12月にかけて目視による調査を行った結果、100メッシュ、186ヶ所でランタナの生育を確認できた。このうちの47ヶ所は周囲の状況から逸出・野生化したものと判断された。従来の研究では、気温が頻繁に5℃を下回るところではランタナの生育は困難であるとされていたが、2011年1月は調査地域が大寒波に襲われ、ランタナが生育していたすべての地点で平均気温が5℃を大きく下回まわった。しかし、同年の7月から11月にかけて再調査したところ、ほとんどの個体の生存が確認され、ランタナの潜在的な生育可能温度域が従来の報告より広いことが示唆された。
  • 工藤 岳, 井本 哲雄
    原稿種別: 本文
    2012 年 17 巻 2 号 p. 263-269
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    環境省生物多様性センターのモニタリングサイト1000では、2011年より高山帯におけるマルハナバチ相のモニタリング調査を開始した。最初の登録地である北海道大雪山国立公園における初年度の調査概要を報告する。赤岳登録地の森林限界から高山帯において、6月上旬から8月下旬にかけて、計12回のライントランセクトによるマルハナバチ相、ならびに訪花植物の調査を行った。調査シーズンを通して、総計473個体が確認された。その内訳は、エゾオオマルハナバチが60%、アカマルハナバチが18%、エゾヒメマルハナバチが14%、エゾナガマルハナバチが7%、エゾトラマルハナバチが1%であり、移入種のセイヨウオオマルハナバチは確認されなかった。出現頻度は、6月中旬と7月下旬以降に高くなる二山分布を示し、前者は越冬明けの女王バチ、後者は働きバチが多数を占めていた。季節を通して約40種の植物への訪花が観察され、マルハナバチ類は高山帯において重要な花粉媒介者であることが確認された。マルハナバチ活動最盛期に黒岳登録地とヒサゴ沼調査地で同様の調査を行なったところ、マルハナバチ相は顕著な地域差が見られた。黒岳登録地ではエゾヒメマルハナバチの頻度が50%と最も高かった。ヒサゴ沼調査地ではエゾオオマルハナバチの頻度が90%以上を占めていた。また、ヒサゴ沼調査地ではセイヨウオオマルハナバチの侵入が初めて観察された。気候変動や移入種の侵入による今後のマルハナバチ相の動向について、継続調査の重要性が示された。
実践報告
  • 大澤 剛士, 赤坂 宗光
    原稿種別: 本文
    2012 年 17 巻 2 号 p. 271-277
    発行日: 2012/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    外来生物の駆除は、地域のボランティアが実施する場合が多い。一方、近年では行政が主導する事業として地域の民間業者等に駆除作業を委託する場合も増えてきている。ボランティアによる駆除活動は、集まる人数に安定性を欠くと考えられる。これに対して、行政が主導し事業化した駆除活動は、対象範囲等、規模の拡大に伴い予算が膨大になるという問題がある。それぞれの主体を駆除活動に活かしていくためには、その特性を事前に把握しておく必要がある。本報告は、ボランティアが駆除作業を実施する場合、および行政が事業化し、業者が駆除作業を実施する場合の両ケースが行われている3つの国立公園において、特定外来生物オオハンゴンソウの駆除活動を例に、それぞれの駆除活動における作業参加者数と作業効率を定量し、比較した。その結果、ボランティア活動はまれに大人数を動員し、1回の活動で極めて多数の株を駆除できたケースがあったが、その成果には振れがあり、非常に少数しか駆除できないケースもあった。一方、事業活動は、活動回ごとの駆除株数は多くないものの、活動の間では非常に安定していた。実際の駆除現場においては、生育規模や範囲といった条件を勘案した駆除計画を立てた上で、効率的に労力を配分していくことが望まれる。
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