農業を中心とした人間活動により比較的限られた空間範囲の中に多様な土地利用形態が存在する里地里山は、マルチハビタットユーザー種を含む多様な生物に好適な生息場所を与えてきた。本研究は、日本の代表的な里地里山地域を有する福井県を事例とし、対象地域内の里地里山に典型的な水辺の生物の分布とよく対応する土地利用のモザイク性指標(Localized Satoyama Index)の算出に適したユニット空間サイズ(以下、ユニットサイズ)と土地被覆解像度(指標の算出に用いる土地被覆図の解像度:以下、解像度)を検討した。モザイク性指標(ユニット空間の内部に含まれる土地利用のシンプソン多様度指数と非農地率の積)を3段階(50m、500m、1000m)の解像度および4段階(2km四方、5km四方、6km四方、10km四方)のユニットサイズを用い計12通りの組み合わせで算出し、同県による市民参加型調査で把握された魚類6種、カエル類8種、カメ類2種、昆虫類5種の計21種の出現率との関係を階層ベイズ法を用いて解析した。最適なユニットサイズと解像度の組み合わせを出現率推定結果のDICで検討したところ、解像度50mおよびユニットサイズ6kmを用いて算出されたモザイク性指標(以下、L-SI)が種の分布を最もよく説明することが明らかになった。すなわち、対象とした21種のうち、カエル類、昆虫類など、マルチハビタットユーザー種を中心とした13種がL-SIに対し有意な正の応答を示した。また、同県の指定する福井県重要里地里山地域では、それ以外の地域に比べ、L-SI値が有意に高い(Mann-Whitney,p<0.001)ことが確認された。里地里山の水辺の多くの生物の正の応答や、重要里地里山地域内外の比較結果は、L-SI値の高い地域は里地里山に生育・生息する多くの種にとって潜在的な生息適地であることを示唆している。L-SI算出に適した解像度50mおよびユニットサイズ6kmの組み合わせは、同じような地形、自然環境および農業形態を有する日本国内の多くの地域において有効であると考えられる。
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