保全生態学研究
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19 巻, 1 号
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原著
  • 中川 昌人, 金子 有子, 西野 麻知子
    原稿種別: 原著
    2014 年 19 巻 1 号 p. 3-14
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    琵琶湖南部の副湖盆として成立する南湖では沈水植物群落の面積・現存量が1930年代以降、人為的な影響を受け大きく変動している。群落の変動は群落構成種の遺伝構造に影響を及ぼしていると考えられるが、その影響はほとんど研究されていない。ネジレモ(トチカガミ科セキショウモ属)は琵琶湖・淀川水系に固有な沈水植物であるが、1970年代以降分布を減少させ続けている。本研究では南湖におけるネジレモ集団の遺伝構造の現状把握と分布減少の影響評価を主な目的として、南湖を中心とした集団を対象としてアロザイム酵素多型による遺伝解析を行った。全19集団447サンプルを10酵素14遺伝子座で解析したところ、南湖の集団は北湖集団と同程度の遺伝的変異量を保持していることが明らかになった。また、集団間の遺伝的分化の程度は低く、広く遺伝子流動が行われていることが示されたが、湖岸に沿った緩やかな遺伝的まとまりを形成していることも示唆された。本研究の結果からは南湖における沈水植物群落変遷とネジレモ集団の遺伝構造は明瞭に対応づけることはできなかったが、保全遺伝学的観点からは現状の遺伝的変異を保持するような管理が望まれる。本研究で得られた本種の遺伝的なまとまり、遺伝子流動の傾向に関する基礎的知見は、保全施策の立案に役立つことが期待される。
  • 今井 葉子, 角谷 拓, 上市 秀雄, 高村 典子
    原稿種別: 原著
    2014 年 19 巻 1 号 p. 15-26
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    2010年に開催された第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)で合意された、愛知ターゲットの戦略目標Aにおいて、多様な主体の保全活動への参加の促進が達成すべき目標として掲げられている。この目標を達成し広範で継続的な保全活動を実現するためには、重要な担い手となる、市民の保全活動への参加あるいは保全行動意図をどのように高めるかが重要な課題である。本研究では、社会心理学の分野で用いられる意思決定モデルを援用し「生態系サービスの認知」から「保全に関連強い行動意図」(以下、「行動意図」)へ至る市民の意思決定プロセスを定量的に明らかにすることを目的に、市民を対象とした全国規模のアンケート調査を実施した。既存の社会心理学の意思決定モデルにもとづきアンケートを設計し、4つの「生態系サービス(基盤・調整・供給・文化的サービス)」から恩恵を受けていると感じていること(生態系サービスの認知)と「行動意図」の関係を記述する仮説モデルの検証を行った。インターネットを通じたアンケート調査により、5,225人について得られたデータを元に共分散構造分析を用いて解析した結果、「行動意図」に至る意思決定プロセスは、4つの生態系サービスのうち「文化的サービス」のみのモデルが選択され、有意な関係性が認められた。社会認知に関わる要素では、周囲からの目線である「社会規範」や行動にかかる時間や労力などの「コスト感」がそれぞれ「行動意図」に影響しており、これらの影響度合いは「文化的サービス」からのものより大きかった。居住地に対する「愛着」は「社会規範」や「コスト感」との有意な関係が認められた。さらに、回答者の居住地の都市化の度合いから、回答者を3つにグループ分けして行った解析結果から、上記の関係性は居住環境によらず同様に成立することが示唆された。これらの結果は、個人の保全行動を促すためには、身近な人が行動していることを認知するなどの社会認知を広めることに加えて、生態系サービスのうち特に、「文化的サービス」からの恩恵に対する認知を高めることが重要となる可能性があることを示している。
  • 今井 優, 桑原 和之, 箕輪 義隆, 米林 仲
    原稿種別: 原著
    2014 年 19 巻 1 号 p. 27-37
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    保護区の選定に際しては、現実的で科学的な評価尺度に基づくことが望ましい。本研究では、保全が急がれる草地性鳥類を例に、ハビタット評価を行い、新たな指数により広い地域の保全優先度を評価した。千葉県付近を例に、57地点の鳥類調査記録と生息地の情報(7種類の草地性ハビタットの面積、および森林、開放水面、人工地との隣接効果)から29種の草地性鳥類の生息の有無を推定した。説明変数のうちハビタットの面積については、鳥類のより現実的な行動を反映させるため、連結性を考慮したパッチを解析単位とした。各調査地点における対象種の生息の有無を応答変数とし、各連結距離での草地性ハビタットの面積を積算する組合せと隣接効果の有無を説明変数とする、ロジスティック回帰モデルを構築した。次いで赤池の情報量基準によりそれぞれの種についてベストモデルを選択し、生息の有無を推定した。それらを観察結果と比較したところ、29種中22種で70%以上の正答率を得た。また、従来の各鳥類の生息環境に関する知見と比較しても、主要なハビタットを抽出することができた。さらに、新たな評価尺度として、生息地が限られた希少種にとっての重要性と、多数の種に利用されていることによる重要性の双方を評価できる保全優先度指数(Conservation Priority Index:CPI)を提唱した。また、この指数を用いて、連結性を考慮したそれぞれのハビタットについての客観的な保全優先度を地図上に示した。水田が保全優先度指数の上位を占めたことから草地性鳥類の生息地としての水田の重要性が明らかになった。これらの結果から、指数が最も高かった香取市や多古町付近の水田地帯が最も保全が優先されるべき地域と判断された。本研究によって、個別の種のハビタット評価の枠組みを提示し、応用的な発展が期待できる指数を提唱することができた。
  • 藤原 愛弓, 西廣 淳, 鷲谷 いづみ
    原稿種別: 原著
    2014 年 19 巻 1 号 p. 39-51
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    岩手県一関市内の里地里山(さとやま)で進められている「久保川イーハトーブ自然再生事業」では、落葉広葉樹林の間伐・下草刈りなどの植生管理と外来種の排除が行われている。さとやまの生態系サービスのうち、ニホンミツバチApis cerana japonicaが提供する野生植物の送粉を通じた基盤サービス、栽培植物の授粉を担う調節サービス、および供給サービスである蜂蜜生産の定量的評価に向けての基礎的情報を得るために、1)定期的なルートセンサスによる訪花調査により、花資源利用および送粉・授粉に寄与する植物種を把握するとともに、2)蜂蜜生産の評価に適当な季節を明らかにするための貯蜜・育児量調査を行った。なお、訪花調査の結果との比較のため、ニホンミツバチの利用する植物種数の多い春季には、3)巣に持ち帰る花粉の分析も行った。訪花調査と花粉分析の結果を総合して、野生在来植物45種の送粉と、作物3種、園芸植物2種の授粉への寄与が示唆された。春季には畦畔・休耕田の草本植物、夏季には落葉広葉樹林の木本植物、秋季には畑地のソバからの採餌が多く認められた。春季の持ち帰り花粉の調査からは、落葉広葉樹林の樹木が多く利用されていたことが確認された。貯蜜量の季節変化から、蜂蜜供給サービスの評価のための調査に適切な季節は、貯蜜量が増加する6月もしくは、9月であることが示唆された。
  • 渡邉 絵里子, 斎藤 昌幸, 林 直樹, 松田 裕之
    原稿種別: 原著
    2014 年 19 巻 1 号 p. 53-66
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    保全効果の高い区域を抽出することは、保全計画を策定するための生物多様性評価のひとつとして有効であると考えられる。本研究では、2000年のレッドデータブックに掲載された維管束植物の絶滅危惧種(以下、RDB種)の減少要因及び生育地タイプごとに区域の保全効果を算出し、それぞれのタイプにおけるホットスポットの比較を行った。しかしながら、区域の保全効果の大きさには調査バイアスが影響している可能性がある。そこで、区域の保全効果の大きさに対する調査努力の影響を統計モデルによって検証した。区域の保全効果は2000年のRDB種分布情報を用いて、RDB種の絶滅リスクの減分を2次メッシュ(約10km四方の区域)単位で算出した。その結果、複数の生育地タイプを持つ区域では保全効果が高い傾向にあり、保全効果が高い地域には多様な生育環境があることが示唆された。全種から算出した区域の保全効果を用いた累積ロジットモデルによれば、ホットスポットは自然林が多い地域、火山性の地形、及び低地に分布する傾向が見られた。ただし、種の減少要因や生育地のタイプ別に解析を行った結果、RDB種の減少要因や生育地タイプによってホットスポットの地理的分布にいくつかの違いがみられた。また、一部の生育地タイプの種では、地域によって調査努力量に差が生じている可能性がある。そのため、全種をまとめた解析や地域間をそのまま比較することには注意する必要があるが、広域的評価は全国スケールでみた当該地域の価値を把握する上で有用であると考えられる。今後、評価の空間スケール依存性や調査努力量の差を考慮できるような評価技術が発展することで、全国で得られた貴重なデータをより活かした広域評価ができるようになることが期待される。
  • 松本 斉, 石井 潤, 大谷 雅人, 鷲谷 いづみ
    原稿種別: 原著
    2014 年 19 巻 1 号 p. 67-77
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    伐採履歴などに応じて空間的な不均一性の高い森林において、大径木の集中する生物多様性保全上の重要性が高い森林域を抽出するためのリモートセンシング手法を開発した。空中写真のオブジェクトベース画像解析による「樹冠サイズ指数」の算出を基礎とする手法を、北海道黒松内町のブナが優占する落葉広葉樹林に適用して、その有効性を検討した。樹冠サイズ指数は高木層の平均胸高直径および平均樹高に有意な正の効果を示し、高い樹冠サイズ指数の値で特徴づけられる大径木の集中する森林域は、ブナの優占度が高く、また森林性の林床植生が発達していることが示された。本指標が森林の生物多様性を把握するために有効であることが示唆された。
調査報告
  • 堀田 遼, 吉岡 明良, 鷲谷 いづみ
    原稿種別: 調査報告
    2014 年 19 巻 1 号 p. 79-86
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    環境保全型稲作に先進的に取り組む宮城県大崎市田尻地域において、イネ害虫アカスジカスミカメStenotus rubrovittatus(以下アカスジ)の重要な越冬場所を検討した。アカスジ密度の最盛期に相当する夏期(8月初旬)と休眠卵の産卵が終了する直前の秋期(10月末)に、アカスジの主要な生息場所とされる牧草地と休耕地33地点において、農地管理の状況とアカスジの密度を調査した。10月末には32地点でアカスジが産卵しうるイネ科・カヤツリグサ科植物の穂を採集し、休眠解除処理を行ってカスミカメ類の休眠卵から孵化する幼虫数を計測した。その結果、夏期・秋期ともに草本植物の刈り取り管理が行われていた地点ではアカスジ成虫が少ないことが明らかにされた。また、イタリアンライグラス(ネズミムギ)、メヒシバ、イヌビエ類、チカラシバの穂からは比較的高い確率(穂の採集地点数に対する孵化地点数の割合がそれぞれ、85.7、42.1、21.7、25%)でアカスジ幼虫と考えられるカスミカメ類の幼虫が認められた。夏期にイタリアンライグラスが優占する牧草地では、秋期にはイタリアンライグラスに加えてメヒシバ、イヌビエ類も生育していた。また夏期のアカスジ密度と休眠卵の孵化数との間に有意な正の相関があることも示された。以上のことから、アカスジの越冬場所としては、冬期に耕起などの撹乱が行われず、夏期には刈り残されたイタリアンライグラスが優占する牧草地が特に重要であることが示唆された。今後、本研究をもとにアカスジの重要な生息・越冬場所を管理することで、農薬に依存しない効果的な害虫防除の立案が可能であると考えられる。
  • 高槻 成紀, 久保薗 昌彦, 南 正人
    原稿種別: 調査報告
    2014 年 19 巻 1 号 p. 87-93
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    北アメリカからの外来哺乳類であるアライグマは1960年代に日本で逸出し、1980年代以降各地に生息するようになった。アライグマは水生動物群集に影響を及ぼすといわれるが、食性情報は限定的である。原産地では、水生動物も採食するが、哺乳類、穀類、果実なども採食する広食性であることが知られている。横浜市で捕獲された113のアライグマの腸内容物を分析した結果、果実・種子が約半量から50〜75%を占めて最も重要であり、次いで哺乳類(体毛)が10〜15%、植物の葉が5〜20%、昆虫が2〜10%で、そのほかの成分は少なかった。水生動物と同定されるものはごく少なく、魚類が春に頻度3.0%、占有率0.2%、甲殻類が春に頻度3.0%、占有率0.1%、貝類(軟体動物)が夏に頻度3.4%、占有率<0.1%といずれもごく小さい値であった。腸内容物は消化をうけた食物の残滓であることを考慮しても、水生動物が主要な食物であるとは考えにくい。アライグマが水生動物をよく採食し、水生動物群集に強い影響を与えているかどうかは実証的に検討される必要がある。
  • 阿部 由里, 猪瀬 礼璃菜, 藤原 聖史, 兼子 伸吾, 平塚 明
    原稿種別: 調査報告
    2014 年 19 巻 1 号 p. 95-102
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
    野生状態での存続が危ぶまれる水準にまで個体数が減少してしまった絶滅危惧植物において、栽培によって個体や系統を維持することは、その種の絶滅を回避する上で一定の意義がある。その一方で、近縁の外来種の混入による遺伝子汚染や種内の遺伝構造の攪乱等を生じる危険性があり、絶滅危惧植物の栽培集団の創出や維持管理については十分な注意が必要である。本研究では、岩手県内の各地に栽培されているアツモリソウの遺伝的多様性を把握するために、葉緑体DNAのtrnL-F遺伝子間領域および核DNAのITS領域の塩基配列について解析を行った。今回の解析により、遠野市においてアツモリソウとして栽培されていた集団内の1個体においては、葉緑体DNAおよび核DNAの双方において他個体のアツモリソウとは明確に異なる塩基配列が検出された。この塩基配列は、中国固有のC. yunnanenseかC. franchetiiもしくはC. calcicolaと同一もしくは類似しており、中国原産の外来種が混入していると推定された。当該集団における他の個体についても、網羅的に今回の研究と同様の解析を行い、他地域からの混入が疑われる個体を明らかにしたうえで、管理方針を検討、実施する必要がある。
  • 原稿種別: 付録等
    2014 年 19 巻 1 号 p. 103-106
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
  • 原稿種別: 付録等
    2014 年 19 巻 1 号 p. App7-
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
  • 原稿種別: 目次
    2014 年 19 巻 1 号 p. Toc2-
    発行日: 2014/05/30
    公開日: 2017/08/01
    ジャーナル オープンアクセス
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