保全生態学研究
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20 巻 , 2 号
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原著
  • 田和 康太, 中西 康介, 村上 大介, 金井 亮介, 沢田 裕一
    原稿種別: 原著
    2015 年 20 巻 2 号 p. 119-130
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    アカハライモリはその生活史において、幼生期と成体期には水田や池沼などの止水域で過ごし、幼体期には林床などの陸上で生活する日本固有の有尾両生類である。アカハライモリは圃場整備事業による水田環境の改変等の影響を受け、その生息数を全国的に減少させている。しかし、現状として、その保全対策に不可欠な生活史や生息環境の条件などに関する情報は非常に限られている。本研究では、アカハライモリの生息環境と季節的な移動を明らかにするために、滋賀県の中山間部水田地帯に設定した調査地において、未整備の湿田とそれに隣接する素掘りの土側溝に生息するアカハライモリの幼生および成体の個体数を水田の農事暦に則して調査した。その結果、アカハライモリの繁殖期である5月から6月には、土側溝でアカハライモリ成体が雌雄ともに多く出現し、水田ではほとんどみられなかったが、7月以降には、成体の個体数が雌雄ともに土側溝で減少し、水田で増加した。幼生は7月中旬から土側溝に出現し、9月までその生息が確認された。このことから、アカハライモリ成体は産卵場所として土側溝を利用し、幼生はそのまま土側溝に留まって成長し変体上陸するが、繁殖期後の成体は水田に分散している可能性が高く、アカハライモリはその生活史や発育段階に応じて隣接した水田と土側溝を季節的に使い分けているものと考えられた。以上より、水田脇に土側溝がみられるような湿田環境を維持していくことがアカハライモリ個体群の保全に極めて重要であると推察された。
  • 藤原 愛弓, 和田 翔子, 鷲谷 いづみ
    原稿種別: 原著
    2015 年 20 巻 2 号 p. 131-145
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    ニホンミツバチの分布の南限域である奄美大島の宇検村で採集された個体が、本州や九州とは明確に異なるハプロタイプを持つとの報告があり、奄美大島の個体群が、遺伝的に隔離された地域個体群である可能性が示唆されている。本研究は、奄美大島のニホンミツバチの保全上の重要性を評価し、保全のための指針を作るために必要な基礎的な生態的知見を得ることを目的として実施した。まず、1)ニホンミツバチの営巣環境を把握するとともに、2)奄美大島のニホンミツバチのワーカーと、東北地方や九州地方のワーカーとの体サイズの比較を行った。3)自然林の大木の樹洞に営巣するコロニーと、里地の石墓の内部空間に営巣するコロニーを対象として、ワーカーの採餌活動パターンおよび繁殖カーストの行動を把握するとともに、天候がそれらに及ぼす影響を把握した。4)自然林内の樹洞のコロニーにおいて、分封が認められたので、その過程を観察した。これら一連の調査に際して、5)天敵となり得る生物、巣に同居する生物と病気による異常行動の兆候の有無に関する記録を行った。本研究では、奄美大島のニホンミツバチは、鹿児島、岩手県のワーカー個体と比較して、体サイズが有意に小さいことが明らかとなった。また、ワーカーの捕食者は観察されたものの、コロニーの生存に大きな影響を与える捕食者や病気は観察されなかった。コロニーの採餌活動は天候の影響を強く受けていた。営巣は自然林だけでなく人工物でも観察されたが、亜熱帯照葉樹林内の樹洞のコロニーのみにおいて分封が観察された。一方、里地での墓、民家、学校の植栽木の樹洞に営巣した複数のコロニーが、殺虫剤などにより駆除されていた。これらのことは、自然度の高い森林内の樹洞が、ニホンミツバチの個体群維持に重要であることを示唆している。
  • 松本 斉, 大谷 雅人, 鷲谷 いづみ
    原稿種別: 原著
    2015 年 20 巻 2 号 p. 147-157
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    奄美大島の亜熱帯照葉樹林において、大径木を指標として生物多様性保全上の重要性が高い森林域を見出す可能性を探った。奄美大島中部の金作原国有林において、1965年、1978年および1984年の空中写真で皆伐が認められる森林域(「皆伐域」)および少なくとも1965年以降は皆伐が認められない森林域(「非皆伐域」)を判別して調査区を設けた。各調査区において林冠木胸高直径および樹洞などのマイクロハビタット、フロラを記録した。林冠木の胸高直径は樹木あたりの樹洞数および着生植物種数に有意な正の効果を示した。非皆伐域では100m^2あたりの林冠層平均胸高直径および倒木数、着生植物種数がいずれも皆伐域に比べて有意に高かった。非皆伐域における100m^2あたりの林冠層平均胸高直径は樹洞数、倒木本数、および着生植物種数に対して一般化線形混合モデルにより有意な正の効果が認められた。林冠層平均胸高直径が40cmを超える森林域に特徴的な種や皆伐後の森林域で欠落する種は、シダ植物や耐陰性が高い種、湿潤環境を選好する種であった。本研究の結果により、大径木は長期間にわたり大規模な攪乱を免れマイクロハビタットに富む森林域や、自然性の高い森林フロラをもつ森林域を見いだす指標として有効なことが示唆された。
  • 辻野 亮, 鄭 呂尚, 松井 淳
    原稿種別: 原著
    2015 年 20 巻 2 号 p. 159-166
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    市街地に隣接した深泥池湿原(京都市)にニホンジカCervus nipponが出没して問題になっていることから、深泥池湿原と周辺林のニホンジカの関係を明らかにすることを目的として、深泥池湿原とその周辺林に自動撮影カメラを2014年6月16日から12月17日まで34台設置し(深泥池湿原に4台、深泥池湿原の東に位置する宝ヶ池公園東部に17台、宝ヶ池公園西部に5台、西に位置する本山国有林に3台、京都大学上賀茂試験地に5台)、動物の行動を調査した。のべ2700.2日の調査によって、哺乳類が1485枚11種(55.0頭/100カメラ日)撮影されたことから、都市域に残存しているこれらの森林は、哺乳類の生息地として重要な役割を果たしていると推測された。その一方で、撮影回数の93.2%がニホンジカで占められており、単調な哺乳類相となっていることが示唆された。深泥池湿原での撮影頻度は、日中は0に近く、夜間に高い値を示した。一方、宝ヶ池公園西部と東部では逆の傾向を示した。本山国有林と上賀茂試験地では、昼夜間で撮影頻度はそれほど変わらなかった。以上から、宝ヶ池公園に生息するニホンジカが日没頃の時間帯に深泥池湿原に侵入し、夜間は湿原に滞在して、日の出頃の時間帯に再び宝ヶ池公園の森林に帰ってゆくことが推測された。
  • 大澤 剛士, 井下原 元, 伊藤 千陽, 道又 静香, 杉山 大樹
    原稿種別: 原著
    2015 年 20 巻 2 号 p. 167-179
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    近年急速に個体数を増加させ、分布域を拡大しているニホンジカCervus nippon Temminckの食害による植生破壊は、全国各地の自然公園等において報告されている。この状況に対し、既に強い食害を受けた地域における研究は多数行われているものの、未侵入や、被害が顕著でない地域における研究はほとんど行われていない。シカによる食害の予防や早期対応を実現するためには、影響の早期検出が欠かせない。本研究は、シカの侵入からさほど時間が経過しておらず、現時点では目立った被害が発生していないと考えられている神奈川県足柄下郡箱根町の5か所に植生保護柵を設置し、その内外における5年間の植生モニタリングデータを利用することで、シカによる植生変化の検出を試みた。植生構造の類似性を指標に植生構造の変化を検討した結果、シカによる影響が出ていると考えられる調査地、影響が出ていないと考えられる調査地それぞれを検出することができた。実施した調査や解析手法自体は箱根に特異的なものではないため、他の地域においても十分適用可能である。本研究で提案した手法によって、現時点では目立った被害が出ていないが、徐々に被害が出つつある地域を明らかにすることがある程度可能となる。シカによる将来的な植生への被害を最小限にするために、侵入前の地域や、箱根のように侵入初期の地域において早期の対応を実施し、被害範囲の拡大を防ぐことは有効な対策の一つである。本研究の成果は、そのようなシカに対する早期対応を実現する一助となるだろう。
調査報告
  • 片桐 浩司, 大寄 真弓, 萱場 祐一
    原稿種別: 調査報告
    2015 年 20 巻 2 号 p. 181-196
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    流域や集水域などをふくめた広域的な分布情報の把握は、種の分布箇所の保全を考えるうえで重要である。水生植物を扱ったこれまでの湖沼研究では、湖内のみを対象にした例がほとんどで、周辺域の分布・生育状況は調べられた例は少ない。本研究では、霞ケ浦とその流域に残存する水生植物を保全するための基礎情報を得ることを目的として、水生植物が残存していると想定される堤脚水路において、水生植物の分布の変遷と、分布を規定する環境条件に関する調査をおこなった。堤脚水路には、エビモをはじめとする在来の沈水植物が残存していた。すでに在来の沈水植物は湖本体から消失しているため、堤脚水路はこれらの数少ない生育地のひとつとして機能していた。一方で堤脚水路は、オオフサモ、ミズヒマワリなど侵略的な外来種の生育環境になっており、これらの供給源となりうることも示された。環境条件との対応から、在来沈水植物であるエビモは、水田周辺で灌漑期の水深が深く流速が速く、低窒素で特徴づけられた。最近4年間でエビモの生育区間数は大幅に減少しており、生育地が富栄養、還元的な環境へと変化した可能性がある。トチカガミ、Azolla spp.、ウキクサ類といった浮遊植物は、ハス田周辺で、高T-P・PO_4-Pによって特徴づけられた。アマゾントチカガミ、コカナダモなどの外来種とヒシは、高いNO_3-N、少ない泥厚と、民家、公園などが周辺にある土地利用条件によって特徴づけられた。これらの結果から、生育地周辺の水田、ハス田、民家などの土地利用が水生植物の分布に影響を及ぼしていることが示唆された。本研究から、堤脚水路における水生植物の保全にあたっては、環境条件だけでなく周辺の土地利用に着目することの重要性が示唆された。今後の湖沼の水生植物研究においては、広域的な視点から種や群落の保全方針を検討していくことが必要である。
  • 牧村 郁弥, 鶴田 燃海, 山崎 和久, 向井 譲
    原稿種別: 調査報告
    2015 年 20 巻 2 号 p. 197-202
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    栽培ナシと近縁なナシ属の野生種マメナシは、愛知県と三重県にのみ分布する東海丘陵要素の植物の一つである。絶滅危惧IB類に指定され、様々な保全活動が進められる一方で、マメナシの更新に必要不可欠な個体間での送粉をどのような送粉者が担っているのかについては、これまで全く調べられていない。そこでマメナシの送粉者を明らかにすることを目的に、三重県桑名市多度町のマメナシの自生地において訪花昆虫相の同定を行った。マメナシの開花初期・満開期・散り始めの3日間の捕獲調査で、合計で573個体、10目25科にわたる昆虫を採取した。これらの中には、他の植物においても重要な送粉者であるとされるミツバチ科やヒメハナバチ科などのハチ目(26.0%)に加え、ハナアブ科やツリアブ科などのハエ目(57.4%)の訪花が多く確認された。またこれらの昆虫は、マメナシの満開の時期に最も多く訪花していた。頻度に加えマメナシのフェノロジーと関連した訪花により、ハナバチ類(ミツバチ上科)やハナアブ科の昆虫がマメナシの主要な送粉者であると推察された。
  • 山崎 裕治, 安達 文成, 萩原 麻美, 山田 貴大
    原稿種別: 調査報告
    2015 年 20 巻 2 号 p. 203-211
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    2007年から2013年にかけて、富山県とその周辺地域において捕獲されたニホンイノシシのミトコンドリアDNAハプロタイプを追跡調査した。1040個体について調査した結果、既報の5種類のハプロタイプが検出された。同日・同場所で捕獲された複数個体は、ほとんどの事例において、同じハプロタイプを共有しており、同じ親に由来する個体が群れを形成していたことが推察された。ハプロタイプ組成の経年変化に基づき、富山県と周辺地域におけるニホンイノシシの移動経路を推定した結果、富山県北東部、南部、西部、北西部のそれぞれの地域において、隣接県との間で個体の交流が生じている可能性が示された。以上の結果から、近年富山県で増加しているニホンイノシシ個体は、周辺県から複数の経路で進入した個体に由来する可能性が考えられる。
実践報告
  • 宮崎 萌未, 佐々木 晶子, 金行 悦子, 小倉 亜紗美, 木下 晃彦, 中坪 孝之
    原稿種別: 実践報告
    2015 年 20 巻 2 号 p. 213-220
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2017/10/01
    ジャーナル オープンアクセス
    ホンゴウソウSciaphila nana Blume(Sciaphila japonica Makino, Andruris japonica (Makino) Giesen)は、葉緑素をもたない菌従属栄養植物で、環境省のレッドリストでは絶滅危惧II類(VU)に指定されている。しかし、生態については未解明な部分が多く、また保全に関する研究もこれまでない。2009年に広島県呉市の一般廃棄物処分場建設予定地でホンゴウソウの群生が確認され、早急に保全対策を講じる必要が生じた。そこで本研究では、ホンゴウソウの生育環境を調査し、その結果をもとに移植を試みた。自生地はコナラ、ソヨゴ、リョウブ等が優占する二次林であった。ホンゴウソウの群生を横切るトランセクトに沿ってコドラート(1×1m, n=20)を設置し、環境条件とホンゴウソウ地上茎発生数との関係を調べた。重回帰分析の結果、光環境(平均空隙率)と有機物層の厚さが、自生地におけるホンゴウソウの地上茎発生数に影響を及ぼす説明変数として選択された。そこでこの結果をもとに、ホンゴウソウ個体群を有機物層ごと移植することを試みた。2012年6月および9月に、群生地点の有機物層を林床植物ごと40×40cmのブロック状に切り出し、処分場建設予定地外で植生などの類似した場所に移植した(n=15)。その結果、約一年後の2013年9月には、8ブロックで合計26本の地上茎の発生が確認され、二年後の2014年9月には8ブロックで合計66本の地上茎が確認された。以上のことから、自生地の有機物層ごと移動させる方法により、ホンゴウソウを移植できる可能性が示された。
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