保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
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21 巻 , 1 号
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原著
  • 今井 葉子, 野波 寛, 高村 典子
    2016 年 21 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/03
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    里地里山のような二次的自然は、生物多様性の保全に重要な役割を果たすとともに、市民に身近な自然環境を提供している。近年の農家の後継者不足・高齢化などによる人手不足で適切な管理がされにくくなった里地里山では、そうした機能が失われつつある。本研究では、地域の環境資源(コモンズ)として、里山の構成要素であるため池を取り上げ、ため池を持続的に維持・管理するために必要だと考えられる、農家と非農家の環境配慮行動に着目した。ため池を所有・管理する農家と、散策等でため池の環境を利用する非農家のそれぞれの立場から、ため池の保全行動に関わる心理的要因として、個々人が感じるため池の価値を測定した。ため池が内包する価値としては、利水機能に関連する「農業価値」と環境保全や親水機能に関連する「環境価値」とを分離し、それぞれに対する価値の測定を試みた。具体的には、農家と非農家のため池の価値評価の差異がため池の保全行動にどのような影響を及ぼすか、社会心理学の分野で用いられる環境配慮行動の意思決定モデルにもとづき検討した。仮説の意思決定モデルを検証するため、明石市にあるため池を選定し、ため池を管理する農家と周辺に居住する非農家を対象に、配布式のアンケートを実施した。有効回答を分析した結果、これまでに一度でもため池保全の活動に参加したことがある非農家は、参加したことがない非農家よりも、ため池に対する価値の評価が有意に高かった。さらに、共分散構造分析により農家と非農家のため池保全の行動意図に至る意思決定モデルを比較した。その結果、農家と非農家はどちらも同一のため池に対し「農業価値」・「環境価値」という複数の価値を見いだしており、コモンズとしてのため池の価値の重層性が示された。しかし、保全行動意図には、農家では「農業価値」が、非農家は「環境価値」がそれぞれ影響することが示された。ここから、ため池の保全に関わる活動を活性化させるためには、ため池に対する価値評価の差異を各アクターが相互に把握した上で共通の価値評価を成立させるための意見交換の場等を設けることが重要であると言える。
  • 早川 友康, 遠藤 千尋, 関島 恒夫
    2016 年 21 巻 1 号 p. 15-32
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/03
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    トキの採餌エネルギー効率および水田の生物多様性と生物量に対する秋耕起の影響を明らかにするため、トキの行動観察と秋耕起処理実験を行った。行動観察では、耕起後の経過日数が20日、40日、および120日の3つの時点において、トキの採餌エネルギー効率を算出するとともに、行動観察を行った水田において、観察後に水田生物量および物理環境を測定した。その後、一般化線形混合モデルにより、トキの採餌エネルギー効率を説明する統計モデルを構築し、パス解析により、秋耕起がトキの採餌エネルギー効率に及ぼす影響の経路と、その時系列的な変化を解析した。耕起処理実験では、「無処理区」、耕起の程度の細かい「ロータリ耕区」、耕起の程度の粗い「サブソイラ耕区」の3つの処理区を設け、耕起処理前後における生物量、出現種数、およびトキの採餌エネルギー効率の変化を明らかにした。一般化線形混合モデルによる解析の結果、トキの採餌効率は、主に水田の物理環境特性により規定されており、生物量の効果は検出できなかった。また、パス解析の結果、耕起がトキの採餌効率を高める効果があるのは耕起後20日までであり、耕起後40日および120日では、耕起による効果が急激に低下したことが示された。耕起処理実験の結果、耕起処理前後において、生物の出現種数に有意な差異は見られなかった。一方、生物量に関しては、ロータリ耕区とサブソイラ耕区において、耕起処理後、生物量が水田内で減少したのに対し、畦際では増加した。本研究で得られた一般化線形混合モデルにより耕起処理前後の採餌エネルギー効率の変化を推定したところ、トキの採餌エネルギー効率は、耕起処理後に無処理区で約0.6倍に減少する一方、ロータリ耕区で約1.7倍、サブソイラ耕区で約3.9倍に増加することが予測された。以上の結果から、秋耕起は短期的にトキの採餌効率を高める効果はあるものの、その効果は40日以上にわたり持続しないこと、加えて、採餌環境の改善策として秋耕起を導入する場合、水田生物への負の影響が少なく、かつトキの採餌エネルギー効率を向上させる効果が高い耕起法として、サブソイラ耕の導入が有効であることが示唆された。
  • 大澤 剛士, 大前 雄介
    2016 年 21 巻 1 号 p. 33-40
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/03
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    外来生物の管理において、対象種の根絶が現実的に困難である状況はしばしば発生する。対象種を現在の分布域に封じ込め、その拡散を防ぐことは、現実的に設定できる管理目標の一つである。本研究は、国が防除を実施している外来陸生貝Helix aspersaを事例に、行政機関による防除データを利用して、対象種の封じ込め実現に向けた管理計画地図を作成する手順の確立を試みた。封じ込めを実現するためには、対象種の侵入・拡大経路を明らかにし、そこに障壁を設置することが基本的な対応となる。この際、在/不在データの精度をできる限り高めることが重要となる。なぜなら、実際に生息する場所を見過ごして不在と評価してしまうと、対策場所の漏れが生じ、新たな場所への侵入・拡大を許してしまうからである。そこで行政機関によって実施されたHelix aspersaの4年間の防除データを利用し、4年間で1度でも対象種が確認された場所を「在」、4年間で1度も対象種が確認されなかった場所を「不在」とみなし、これを説明する統計モデルを構築することで、対象種の侵入・拡大経路となる条件を可能な限り厳密に検討した。さらに得られた統計モデルを調査地の周辺に外挿することで、侵入・拡大の経路となる可能性が高い場所を地図として表現した。その結果、侵入・拡大する可能性が高い地域は現在の分布域の北方向に広がっていることが示された。この方位に障壁を設置する、防除労力を集中する等によって、対象種を現在の分布域に封じ込められる可能性が高いと判断できた。外来生物のモニタリングは各地で実施されており、本研究で示した方法は、様々な地域の様々な種を対象に適用できると考えられる。
  • 小山 明日香, 小柳 知代, 野田 顕, 西廣 淳, 岡部 貴美子
    2016 年 21 巻 1 号 p. 41-49
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/03
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    孤立化した半自然草地では、残存する草原性植物個体群の地域的絶滅が懸念されている。本研究は、都市近郊の孤立草地において地上植生および埋土種子の種数および種組成を評価することで、埋土種子による草原性植物個体群の維持、および埋土種子からの植生回復の可能性とその生物多様性保全上のリスクを検証することを目的とした。千葉県北総地域に位置するススキ・アズマネザサが優占する孤立草地において植生調査を行い、土壌を層別(上層0~5 cm、下層5~10 cm)に採取し発芽試験を行った。これらを全種、草原性/非草原性種および在来/外来種に分類し、地上植生、埋土種子上層および下層のそれぞれ間で種組成の類似度を算出した。結果、地上植生では草原性種が優占しており、外来種は種数、被度ともに小さかった。一方、埋土種子から出現した草原性種は地上植生より少なく、特に土壌下層からは数種(コナスビ、コシオガマ、ミツバツチグリなど)のみが確認された。対して外来種は埋土種子中で優占しており、特に土壌上層で種数および種子密度ともに高かった。種組成の類似度は、草原性種、外来種ともに地上植生―埋土種子間で低く、埋土種子上層―下層間で高かった。これらの結果から、孤立草地における草原性種においては、埋土種子からの新たな個体の更新により維持されている個体群は少ないことが予測された。また、長期的埋土種子の形成が確認された草原性種は数種であり、埋土種子からの個体群の回復可能性も限定的であると考えられた。さらに、埋土種子中には、地上植生では確認されていない種を含む多くの外来種が存在していた。これらの結果は、孤立草地における埋土種子を植生回復に活用する上での高いリスクを示しており、今後孤立化が進行することにより植生回復資源としての有効性がさらに低下すると考えられる。
調査報告
  • 中島 宏昭, 鈴木 貢次郎, 亀山 慶晃
    2016 年 21 巻 1 号 p. 51-60
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/03
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    関東地方の放棄二次林では、アズマネザサの繁茂によって林床植物の種多様性が著しく低下している。しかし、アズマネザサの刈り取り管理を再開し、林床の環境や種組成がどう変化するのかを検証した例は極めて少ない。本研究の調査地として選定した早野梅ケ谷特別緑地保全地区(神奈川県川崎市、海抜48.2?80.7 m、面積約11 ha)は、30?40年にわたって管理が放棄され、アズマネザサが繁茂している。本報では、毎年刈り取りを実施する「刈り取り区」(6,700 m2)と、一切の人為的管理を行わない「対照区」(2,000 m2)を、2010年に設置した。さらに、調査区内の地形(谷、南向き斜面、北向き斜面、尾根)に着目して計8カ所のプロットを設置し、2013年?2014年にかけて林床環境(光合成有効放射吸収率、土壌含水率、地表面温度)と林床植生(総種数、木本種数、草本種数、多様度指数、被覆面積)を調査した。解析の結果、刈り取り区の光合成有効放射吸収率は、対照区と比較し、年平均で約10%、最小値で約30%低かった。また、ササ密度と光合成有効放射吸収率は総種数、木本種数、多様度指数に対して、負の影響を与えていた。しかし、草本種数に対するササ密度の効果は小さく、光合成有効放射吸収率の効果は認められなかった。また、林床植物による被覆面積は地形(比高)に依存しており、谷部ほど大きくなった。本研究で確認された51種の植物のうち、種子が動物によって散布されるものは65%(33種)を占めており、その割合は木本で特に高かった(木本79%、草本21%)。孤立した二次林では動物散布型の植物が増加することが知られており、このことが木本種数と草本種数の差異に寄与している可能性もある。また、林床植物による被覆面積に光環境が影響していなかったのは、優占種であるジャノヒゲ(被覆面積の51.7%)とヤブラン(被覆面積の24.3%)の耐陰性の高さを反映しているものと推測された。以上のことから、林床植生の特徴(木本種数、草本種数、多様度指数、被覆面積)とその規定要因(地形条件、環境条件)は多様であり、刈り取り管理の再開が必ずしも一様な結果をもたらすわけではないことが示された。
  • 馬場 幸大, 西尾 正輝, 山崎 裕治
    2016 年 21 巻 1 号 p. 61-66
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/03
    ジャーナル 認証あり
    国指定天然記念物であるイタセンパラについて小規模水槽飼育を実施し、飼育条件の違いが成長や生残に与える影響を調査した。実験条件として、1日あたりの給餌の頻度(1回、3回)、個体の密度(5匹、20匹)そして日当たり(日なた、日陰)の3つの項目に注目した。これらの条件を組み合わせた8通りの実験群を3組ずつ用意し、1か月ごとに生残率を算出し、標準体長および体重を計測した。さらに、本種の繁殖期とされる9月および10月における計測については、性成熟の判定を行った。飼育実験の結果、豊富な餌量の供給および低密度における飼育によって、良好な成長が期待できることが示唆された。一方で、残餌や高水温に起因する水質悪化が、摂餌活性および生残率の低下をもたらす可能性が示された。また、すべての実験群において性成熟する個体が出現した。これらのことから、保護池のような広大な土地が確保できない場所においても、効果的な条件を整えた小規模水槽において本種の飼育は可能であり、有効な保全方策の1つとなることが明らかとなった。
  • 伊藤 健二
    2016 年 21 巻 1 号 p. 67-76
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/03
    ジャーナル 認証あり
    2005年以降、利根川水系の霞ヶ浦では特定外来生物カワヒバリガイの生息が確認されているが、霞ヶ浦から管水路を経由した導水が行われている那珂川水系では2013年までの調査でカワヒバリガイの生息は確認されていなかった。しかし2014年11月、那珂川水系内の貯水池である笠間池(36°20'17''N 140°10'52''E)においてカワヒバリガイの生息が確認された。笠間池は霞ヶ浦からの導水を受けており、この導水によってカワヒバリガイの浮遊幼生もしくは成貝が侵入したものと考えられる。本種の那珂川水系への侵入状況を明らかにするために、笠間池とその周辺の水路と河川、及び笠間池から取水している不動谷津池において調査を行った。笠間池では湖岸の約半分の地点からカワヒバリガイが採集され、採集地点は主に流入工・取水口に近い部分だった。もっとも密度が高かった場所は10分間の調査で124個体が採集された。採集個体のサイズと過去に報告された成長データから、本種は遅くとも2013年には笠間池に侵入していたと推察された。笠間池から周囲に水が流出する水路の1地点からカワヒバリガイが採集されたが、この水路が流入する河川と、笠間池から取水している不動谷津池からは採集されなかった。那珂川水系へのカワヒバリガイの分布拡大や被害発生を抑制するために、特に霞ヶ浦から取水する那珂川水系内の水利施設やその周辺河川では、カワヒバリガイの生息状況調査や根絶を目的とする対策を実施することが望ましいと考えられた。
  • 冨士田 裕子, 加川 敬祐, 東 隆行
    2016 年 21 巻 1 号 p. 77-92
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/03
    ジャーナル 認証あり
    環境省により準絶滅危惧(NT)に指定されているチョウジソウの保全のために、日本におけるチョウジソウの産地記録を標本調査と文献調査等によって整理し、現地調査を行い、現存個体群についてはシュート数と生育環境の調査を行った。チョウジソウは北海道から宮崎県に至る38都道府県の180産地で記録があり、そのうち61産地での生育が確認されたが、7都府県で絶滅、7府県で現状不明で生育が確認できなかった。残存生育地は、各県で1?数か所であることが多く、広い分布域をもちながら、産地は散在し不連続であった。生育が確認された立地は、林床、湖岸林縁、湖岸草地、草原と多様であった。多くの場所が湖岸や河川敷、谷斜面脚部など、元々氾濫や水位変動の影響を受ける場所であった。これらの立地のうち、現在は堤内地となっている場所では、攪乱が起こりにくいと考えられた。
  • 玉木 一郎, 水野 三正, 柳沢 直, 津田 格, 中川 祐弥, 板谷 明美
    2016 年 21 巻 1 号 p. 93-102
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/03
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    愛知県名古屋市の4緑地の天然生林に11箇所のプロットを設置して樹木群集構造と多様性を調べた。調査林分の高木層では落葉広葉樹やアカマツが優占していたが、亜高木層では常緑広葉樹が半数のプロットで優占しており、近い将来、常緑広葉樹を中心とする林分に遷移が進むことが示唆された。調査した4緑地のうち、明徳公園は在来種数、外来種数、多様度指数のすべてにおいて最も高かった。種数とシャノン指数において、全多様性を緑地間(β2)と緑地内のプロット間(β1)、プロット内の多様性に相加的に分割した。β2とβ1は両指数で帰無分布より有意に大きい値を示した。種数におけるβ2は全体の46%を占めており、緑地間の差異が全多様性に大きく貢献していると考えられた。β1の源には地形や過去の森林の利用履歴の違いが考えられた。これらの結果から、地域全体の多様性を維持するためには、開発による緑地そのものの消失だけでなく、緑地内の異質性を減少させるような開発も避けることが重要であると考えられる。
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