保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
22 巻, 1 号
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特集:保全科学が挑む情報のギャップ
  • 天野 達也, 大澤 剛士, 赤坂 宗光
    2017 年 22 巻 1 号 p. 1-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    This special feature, “Challenging information gaps in conservation science,” is based on a symposium at the 63rd annual meeting of the Ecological Society of Japan. Its focus is on gaps in the process of information use in conservation science, which represents an important barrier between science and practical conservation. Four papers have been contributed. First, Amano (2017) reviews two types of gap in conservation science; namely, gaps in the availability of information, and the research-implementation gap. Amano proposes three practical approaches for resolving these problems. Osawa (2017b) explores in further detail gaps in information availability, focusing in particular on problems in Japan. Ishihama (2017), on the other hand, reviews practical modelling techniques that use presence-only data, as an example of using statistical approaches to make the best of imperfect data. Finally, Ohsawa (2017a) provides a thorough opinion piece on gaps and barriers between conservation science and policy-making in Japan.
  • 天野 達也
    2017 年 22 巻 1 号 p. 5-20
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    現在も進む生物多様性の喪失に対して科学が如何にして貢献できるのかは、保全科学にとって重要な問いである。科学が生物多様性の保全に貢献するためには、データを集積し、そこから科学的知見を得て、その知見を現場で活用するという情報利用の過程を経る。しかしこの過程にはいくつもの「ギャップ」が存在し、保全に対して科学が貢献する際の大きな障壁となっている。本稿では保全科学が直面する情報のギャップの特性と解決策について議論する。例えば、研究に利用できる一次データの量は、場所や年代、分類群、データの種類によって大きく異なる。これはデータ収集の対象が、保全上の需要のみならず、データの取得し易さ、基礎科学的な動機、地理的・社会的な制約などその他の要因によっても決定されることに起因する。一方、研究の成果が保全の現場で活用されないという研究-実務間ギャップの存在もよく知られている。これは研究が提供する知見と現場が必要とする知見が異なること、保全活動や政策の関係者にとって科学的情報がアクセスしにくいことなどが原因であると考えられる。本稿ではさらにこれらのギャップを克服するための三つのアプローチを紹介する。まず一つ目は、利用できる一次データの底上げを図る試みである。次に、限られた情報からモデリングによって有用な知見を得ようとする試みを紹介する。最後に、保全活動や政策の現場がどのような知見を必要とし、科学者がどうやって成果を提供できるのかを理解することも重要である。これら三つのアプローチについて具体的な事例も取り上げながら、今後保全科学における情報のギャップを解消していくために必要な取組みについて議論を行う。
  • 石濱 史子
    2017 年 22 巻 1 号 p. 21-40
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    博物館の標本情報や市民調査による観察情報などに代表される、不在情報がない分布データは、在のみデータと総称される。GBIF(Global Biodiversity Information Facility)などの公開データベースの整備により、在のみデータは分布推定に広く用いられるようになり、その成果が保全生物学分野でも幅広く応用されている。しかし、在のみデータに基づく分布推定に際しては、不在情報がないことに起因する特有の注意点が生じる。特に注意が必要なのが、サンプリングバイアスの存在と、バイアスに対応した偽不在(pseudo-absence)の選び方、推定値が分布確率そのものではない場合が多いこと、推定精度の評価指標の値が偽不在の選び方に依存して変わることである。在のみデータに基づく分布推定を、保全対策に適切に活用するためには、これらの注意点とその対処法を十分に理解することが欠かせない。これらの注意点と対処法に関して、蓄積されつつある海外での報告事例を紹介する。
  • 大澤 剛士
    2017 年 22 巻 1 号 p. 41-53
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    保全科学では社会的なニーズによって研究目的や対象種・対象地が決まる場合が多いため、常に必要十分な質・量のデータが利用できるとは限らない。必要なデータと利用できるデータの乖離、すなわちデータギャップは、しばしば研究遂行や成果普及の制限要因となっている。本稿はまず、保全科学においてしばしば言及されるデータギャップ:空間的、分類群的、時間的に存在するギャップそれぞれについて整理し、日本における現状を概観する。続いて国内における既存データベースであるS-Netに格納されたデータを分析し、データギャップの実際を定量化する。最後に、それらギャップを解消するためのアイディアや具体的な取り組みを紹介し、課題解決に向けた今後の展望について議論する。
  • 大澤 隆文
    2017 年 22 巻 1 号 p. 55-61
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    保全生物学の分野では長年に渡り、科学と実務の間のギャップの解消が課題になっていた。本稿では、国際および国内の両レベルにおけるギャップの現状を紹介する。国際的には、生物多様性条約の愛知目標の裏付け(根拠)やその進捗を計測するために科学的証拠・知見の必要性が課題とされている。国内においては、不足している科学的知見が明らかにされている場合もあるし、政策立案過程において様々な科学的疑問・課題が急な形で出てくる場合もある。本稿では、こうしたギャップに対応した研究の進展に寄与するため、行政が活用しやすい科学的情報の内容や提示の仕方や、研究者がそうした行政ニーズを知る方法についても意見を述べる。
原著
  • 大熊 勳, 吉松 大基, 高田 まゆら, 赤坂 卓美, 柳川 久
    2017 年 22 巻 1 号 p. 63-
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    北海道十勝地域の森林は農地開発に伴って大きく減少しており、残存する河畔林が森林棲の動物の限られた生息地として機能している。本地域の河畔林は農業被害を引き起こすニホンジカCervus nippon(以下、シカ)やエキノコックス症を媒介するアカギツネVulpes vulpes(以下、キツネ)にも利用されており、これらの種がどのような河畔林を頻繁に利用するかわかっていない。本研究では北海道十勝地域においてシカおよびキツネによる河畔林利用頻度を測定し、頻度が高くなる地点の条件と影響要因が最も強く作用する空間スケールを特定した。2011年5月?2012年12月に十勝川水系の河川に5km間隔で計37台の自動撮影カメラを設置し、シカおよびキツネによる河畔林利用頻度を測定した。各季節(春:3?5月、夏:6?8月、秋:9?11月、冬:12?2月)の両種の撮影頻度を目的変数とした一般化線形混合モデルを構築し、これに影響する要因を調べた。考慮した影響要因は、カメラ設置地点の胸高断面積合計と下層植生被度および河畔林の幅、餌資源となりうる小型鳥類および小型哺乳類の100カメラ日あたりの撮影頻度(キツネのモデルのみ)、カメラ設置地点を中心とした半径100?800 mバッファ内の森林、農地、市街地の面積率および河川総延長、カメラ設置地点から山間部までの距離(シカのモデルのみ)である。解析の結果、シカの夏の河畔林利用頻度は河畔林地点の周辺400 mに農地、森林および河川が多く分布するほど高くなり、秋ではこれらの要因に加えて下層植生被度が高いほど高くなった。キツネの河畔林利用頻度は春では周辺200 mに森林が多いほど低くなり、夏では小型鳥類の撮影頻度が高いほど高くなり、冬では周辺200 mに市街地が多いほど高くなった。秋の利用頻度に影響した要因は不明だった。本研究により、十勝の農地景観におけるシカおよびキツネの河畔林利用頻度に影響する環境要因とそれらが強く作用する空間スケールが明らかになった。本研究で用いたアプローチによりシカやキツネの利用頻度が高い河畔林地点を特定しそれらの地点やその周辺を適切に管理することで、軋轢をもたらしうる種による河畔林利用を制限し、軋轢の発生地への両種の進出を抑えられる可能性がある。
  • 丹野 夕輝, 山下 雅幸, 澤田 均
    2017 年 22 巻 1 号 p. 75-89
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    静岡県中西部の茶草場(茶園の敷草を刈るための半自然草地)と棚田畦畔には、希少種を含む多くの草本種が生育している。しかし近年、管理放棄や他の土地利用への転換により面積の縮小と分断化が進行している。そのため早急に草本群集の現状を把握し、適切な保全対策を講じる必要がある。本研究では、静岡県中西部の茶草場15か所と棚田畦畔2か所を対象として、生育地タイプ間の管理方法の差異や生育地内の環境条件の不均質性が、地域全体での植物種の多様性の保全上どのような役割を果たしているかを多様性分割(Additive diversity partitioning)を用いて明らかにすることとした。結果、生育地タイプ(茶草場/棚田畦畔)間β-多様性および(生育地タイプ内)調査地間β-多様性の貢献度(それぞれ31%および46%)が大きいことが明らかになった。NMDS(Non-metric multidimensional scaling)の結果、茶草場と棚田畦畔の種組成は明確に異なることが示され、年間1回草刈りされる茶草場は大型の多年生植物に、年間5回草刈りされる棚田畦畔は一年生植物や小型の多年生植物に特徴付けられた。更に、生育地タイプ内の種組成の変異は、茶草場では土壌含水率、硝酸態窒素含量およびカルシウム含量といった土壌条件の差異によって説明できることが明らかになった。棚田畦畔では2つの微生育地タイプ(斜面とそれに隣接した平坦面)が認められ、草刈り以外の撹乱を受けない斜面では多年生植物の出現頻度がやや高く、畦塗り(畦畔の補修作業)に伴う土壌撹乱や踏圧も受ける平坦面では夏生の一年生植物が優占した。これらの結果から、この地域では、土壌条件および草刈り方法などの撹乱レジームの違いに応じて異なる種が生育することで、高い種多様性が維持されていると考えられた。この地域の草本の種多様性を保全するには、茶草場と棚田畦畔においてそれぞれ適切な伝統的管理方法を継続していくこと、特に茶草場では土壌条件の不均一性を確保するためにもある程度の面積を維持していくことが重要だと考えられる。
  • 桑原 明大, 松葉 成生, 井上 幹生, 畑 啓生
    2017 年 22 巻 1 号 p. 91-103
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    愛媛県松山平野には、イシガイ、マツカサガイ、ヌマガイ及びタガイの4種のイシガイ科貝類が生息しており、愛媛県のレッドリストでイシガイとマツカサガイはそれぞれ絶滅危惧I類とII類に、ヌマガイとタガイは準絶滅危惧に指定され、減少が危惧されている。これらの二枚貝は絶滅危惧IA類であるヤリタナゴの産卵床でもあり、その保全が重要である。本研究では、松山平野の小河川と湧水池において、イシガイ類の分布と生息環境の調査を行い、過去の分布との比較を行った。また、マツカサガイの殻長のサイズ分布、雌成貝によるグロキディウム幼生の保育、幼生の宿主魚への寄生の有無を調べた。マツカサガイは小河川の流程およそ3.3 km内の15地点で確認され、その生息密度は最大で2.7個体/m2であった。イシガイは小河川の2地点のみで、最大生息密度0.05個体/m2でみられ、ヌマガイとタガイを合わせたドブガイ類も1地点のみ、生息密度0.02個体/m2で確認された。いずれのイシガイ類も、1988-1991年の調査時には国近川水系に広く分布し、最大生息密度は、マツカサガイで58個体/m2、イシガイで92個体/m2、ドブガイ類で5個体/m2であり、この25年間に生息域と個体群サイズを縮小させていた。また、マツカサガイの在不在に関与する要因を予測した分類木分析の結果、マツカサガイの分布は河口に最も近い堰堤の下流側に制限され、砂泥に占める砂割合が38.8%より大きい場所で多く見られるという結果が得られた。このことから、堰堤が宿主魚の遡上を制限することによりマツカサガイの上流への分散が阻害されていること、マツカサガイは砂を多く含む砂泥を選好していることが示唆された。また、殻長51.5 mm未満の若齢個体にあたるマツカサガイは全く見つからなかった。一方、雌成貝は4-8月にかけ最大87.5%の個体が幼生保育しており、5-9月にかけ、グロキディウム幼生が主にシマヨシノボリに多く寄生していることが確認された。したがって、このマツカサガイ個体群では再生産がおよそ10年間にわたって阻害されており、その阻害要因は稚貝の定着、または生存にあることが示唆された。以上のことから、松山平野では、イシガイ個体群は絶滅寸前であり、マツカサガイ個体群もこのまま新規加入が生じなければ急速に絶滅に向かう恐れがあることがわかり、これらの保全が急務であることが示された。
  • 吉井 千晶, 山浦 悠一, 小林 慶子, 竹中 健, 赤坂 卓美, 中村 太士
    2017 年 22 巻 1 号 p. 105-120
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    北海道に生息する希少種シマフクロウKetupa blakistoni blakistoniの個体数は、近年、保護活動の成果により回復過程にある。今後は道東地域に集中、過密化する個体群を分散させる必要がある。本研究では、まず、シマフクロウの分布が安定した地域を対象にシマフクロウの静的な広域分布モデルを構築した。この静的分布モデルを元に、シマフクロウの分散を考慮した動的分布モデルを構築し、複数の環境変化・保全シナリオ下でのシマフクロウの将来の分布の変化を予測した。静的分布モデルの解析の結果、河川沿いの天然林面積が大きく河川長が大きな地域はシマフクロウにとって好適だと推定された。動的分布モデルの予測の結果、本種の分布拡大のためには繁殖成功率の上昇が重要であることが示された。また、根釧個体群の分布拡大は困難であること、現在生息地ではない夕張山地への個体群の拡大が予測された。しかし、静的分布モデルの説明力は高くなく、将来分布の予測にばらつきが大きかったことから、実際のシマフクロウの分布拡大過程に応じた柔軟な保全計画を立てることが重要であろう。
  • 竹川 有哉, 河口 洋一, 三橋 弘宗, 谷口 義則
    2017 年 22 巻 1 号 p. 121-134
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録
    地球温暖化によって多くの生物の分布が高緯度や高標高地域にシフトしている。日本に生息する狭冷水性のサケ科魚類であるイワナSalvelinus leucomaenisは、気候変動の影響を受けやすいことが知られており、保全対策が必要である。本研究では、自然公園等の保護区の設定を想定したイワナの保全対策を検討するため、MaxEnt法を用いて、亜種を考慮したイワナの分布モデルの構築及び温暖化が進行した場合の生息適地を予測し、現在と将来の生息適地がどの程度保護区内に存在するのかを評価した。結果、回遊型イワナであるアメマスの生息適地モデルには、集水面積、海までの距離及び推定地下水温が、河川型イワナである本州イワナ(ニッコウイワナ、ヤマトイワナ、ゴギ)の生息適地モデルには推定地下水温と傾斜度がそれぞれ大きく寄与することが分かった。本州及び北海道のイワナ生息適地は、年平均気温が3℃上昇すると28.4%減少すると予測された。特に、中国地方や近畿地方などの低緯度地域における生息適地は減少し、2℃上昇するとほぼすべての流域で消失すると予測された。高緯度地域では、生息適地の減少率は小さかったが、保護区と重複する割合も小さいことが明らかになった。温暖化の影響を受けにくい生息適地はレフュージアになると考えられるが、その多くが保護区の外に存在していることから、保全対策の実行が急務である。
総説
  • 中野 光議
    2017 年 22 巻 1 号 p. 135-149
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    農業水路には多種の魚類が出現することが知られ、水路は魚類の生息場所の一つとして認識されている。全国的な淡水魚類の減少、および農村地域の自然環境の保全に対する関心の高まりを背景に、魚類が存続可能な水路環境を保全することが課題となっている。本稿は、国内の水路における魚類の生態に関する既存研究を保全生態学的観点から整理し、魚類の保全に向けて今後取り組むべき研究課題を抽出することを目的とした。魚類の生息・分布と水路の物理的環境との関係については、成長や産卵、越冬等の様々な観点から研究が行われ、各種の魚類が生活史段階ごとに必要な環境条件が明らかにされつつある。また、化学的環境や水温等の環境要因が魚類の生息・分布に与える影響についても、知見が積み重ねられつつある。水路ネットワークを通した魚類の移動についても多くの研究例が見られ、水路ネットワークの機能や課題が解明されつつある。一方、生物間相互作用に着目した研究例は非常に少ない。水路における相互作用の事例を蓄積しつつ、どのような環境条件下で各相互作用タイプが強く発現するのかを特定する必要がある。また、空間的要因を考慮した分布予測モデルの作成や野外操作実験の導入を行い、既存の知見を再検討することが必要と考えられた。さらに、保全活動に順応的管理を導入することが望まれる。
調査報告
  • 廣田 峻, 井尻 航太朗, 藤本 博文
    2017 年 22 巻 1 号 p. 151-158
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    香川県丸亀市において、2001?2003年、2011年にミナミメダカの分布調査を行い、ミナミメダカの分布と土地利用の関係を検証した。2回の調査の間に、田から建物用地への転用が進んだものの、ミナミメダカの分布が確認された地点は増加した。土地利用と水系、ため池との距離、標高・傾斜を環境要因として、ミナミメダカの分布確率を推定する多変量解析を行った。その結果、調査地点から半径100 m土地利用がミナミメダカの分布確率を推定する上で最も当てはまりが良かった。土地利用のうち、河川・ため池面積が生息確率に負の、田と建物用地面積が正の影響を持つことが示された。この結果は、ため池とその周辺がミナミメダカの生息に不適当になっている一方で、田と住宅地の境界域が有用な生息地として機能している可能性を示唆するものである。
  • 岸本 圭子, 岸本 年郎, 酒井 香, 寺山 守, 太田 祐司, 高桑 正敏
    2017 年 22 巻 1 号 p. 159-170
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    東京都大田区の埋立地に成立する東京港野鳥公園では、国内外来種であるリュウキュウツヤハナムグリの生息が確認されている。園内には他にも外来の個体群である可能性が高いハナムグリ亜科2種が目撃されている。園内で発生しているこうした国内由来の外来種が分布を拡大し東京都の内陸部へ侵入すれば、深刻な生態系改変や遺伝子攪乱の脅威も予想されることから、早急に現状を把握する必要がある。本研究は、東京港野鳥公園で出現が確認されているハナムグリ亜科5種(コアオハナムグリ、ナミハナムグリ、シロテンハナムグリ、シラホシハナムグリ、リュウキュウツヤハナムグリ)を対象に、2014年から2016年に野外調査を実施し、発生状況および利用資源を調べた。その結果、リュウキュウツヤハナムグリは、成虫は自然分布地と同程度に発生量が多いこと、園内に植栽された複数の植物の花や樹液に集まること、土壌中に幼虫が高密度で生息していることが明らかにされた。さらに、これらの幼虫の密度が高い地点の土壌表層部が大量の糞で埋め尽くされている状態であることがわかり、土壌生態系や落葉の分解に大きな影響を与えている可能性が考えられた。また、リュウキュウツヤハナムグリだけでなく、コアオハナムグリ、ナミハナムグリ、シラホシハナムグリも、成虫が東京都区部や近郊に比べて数多く発生していることがわかった。これらのハナムグリ亜科成虫では、花や樹液以外にも特異な資源利用が目撃されており、園内のハナムグリ成虫の利用資源が不足していると推察された。このことから、採餌範囲を広げる個体がますます増えることが予想され、外来のハナムグリ種の内陸部への分布拡大が懸念される。今後もこれら外来ハナムグリ種の発生状況を継続的にモニタリングしていくことが重要だと考えられた。また、DNAレベルの詳細な研究を行い、外来ハナムグリ個体群の起源や侵入経路を解明する必要があるだろう。
  • 尾山 洋一, 松下 文経, 福島 武彦
    2017 年 22 巻 1 号 p. 171-185
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    近年ヒシ属Trapa L.の過繁茂が確認されている国内6湖沼(シラルトロ湖、達古武沼、北印旛沼、西印旛沼、諏訪湖および三方湖)を対象に、Landsat/TMおよびETM+画像を用いて過去約25年間におけるヒシ属の分布面積変化の観測を行った。従来、衛星画像を用いた水生植物の分布推定には正規化植生指数(Normalized Difference Vegetation Index: NDVI)が広く使用されているが、この指標は湖面に集積したアオコも水生植物に誤分類してしまうことから、本研究では中間赤外域の反射率を含んだ指標である正規化水指数(Normalized Difference Water Index: NDWI)を用いた。衛星画像から推定したヒシ属の分布面積と現場実測値とを比較した結果、両者の間には良い一致が見られたが(R2=0.82, N=8)、やや過小推定の傾向を示した。これは、衛星画像から抽出できるヒシ属が、被度50%以上に限られていることに起因していると考えられた。また、シラルトロ湖、北印旛沼および三方湖について、ヒシ属の分布面積の季節変化を観測した結果、冬季から春季にかけてはほとんど変化せず、夏季に拡大し、秋季の終わりに縮小する傾向を示した。ヒシ属の生育が盛んな夏季の分布面積(複数のデータがある場合はその平均値)をその年の代表値とし、各湖沼における過去約25年間のヒシ属の分布面積の長期変化を観測した結果、多くの湖においてヒシ属の分布面積が2000年代に拡大(あるいは再繁茂)している傾向が見られた。
  • 江川 知花, 西村 愛子, 小山 明日香, 露崎 史朗
    2017 年 22 巻 1 号 p. 187-197
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    北海道サロベツ湿原において、ミズゴケ泥炭採掘後の外来植物の侵入状況を明らかにするため、採掘工場跡地駐車場、採掘用作業道および採掘区域21箇所でフロラ調査を行った。得られた結果を採掘以前および未採掘の高層湿原におけるフロラ調査結果と比較し、採掘によって外来植物の侵入が促進された可能性について考察した。調査区域全体で、外来種22種、環境省および北海道レッドリスト掲載種5種を含む計123種の生育が確認された。確認された外来種のうち9種は採掘以前には定着記録がなく、未採掘湿原においても確認されていない種であり、泥炭採掘を契機に新たに侵入したと考えられた。外来種の多くは駐車場や作業道に分布していたが、採掘区域内でも、作業道に隣接し、比較的地下水位の低い2箇所にヒメスイバ、エゾノギシギシ、ブタナの3種が侵入していた。ヒメスイバとエゾノギシギシは、平成27年3月に環境省より公表された「わが国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」において「総合対策外来種」に指定されている強害草であり、繁茂すれば希少種の生育や採掘後の湿原植生の回復に悪影響を与えることが危惧される。本調査において確認された外来種が今後侵入域を拡大し、湿原景観や生態系へ影響を及ぼすことのないよう、継続的なモニタリングが必要である。
  • 川瀬 成吾, 石橋 亮, 内藤 馨, 山本 義彦, 鶴田 哲也, 田中 和大, 木村 亮太, 小西 雅樹, 上原 一彦
    2017 年 22 巻 1 号 p. 199-212
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    淀川流域における外来魚類の生息現況を明らかにするために、採集および文献調査を行った。231地点の採集調査の結果、12種の国外外来種(採集地点が多い順に、オオクチバス、ブルーギル、カダヤシ、カムルチー、タウナギ、コクチバス、ナイルティラピア、アリゲーターガー、ニジマス、カラドジョウ、チャネルキャットフィッシュ、コウタイ)と2種の国内外来種(ヌマチチブ、ワカサギ)が採集された。アリゲーターガー、カラドジョウは当流域(本調査範囲内)、チャネルキャットフィッシュは淀川における初記録となった。河川本流と河道内氾濫原(ワンド・タマリ・二次流路)では、オオクチバス、ブルーギル、ヌマチチブ、カムルチーの、農業水路や支流などの周辺水域ではカダヤシ、オオクチバス、ブルーギル、タウナギの出現率が高かった。オオクチバス、ブルーギルは流域全体に広がっており、カダヤシ、ヌマチチブ、カムルチーも比較的広範囲に出現した。文献調査では、さらに4種(ソウギョ、ハクレン、コクレン、タイワンドジョウ)の外来魚類の記録が見つかった。
  • 丹羽 英之
    2017 年 22 巻 1 号 p. 213-217
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    シカの個体数増加による、湿原の植生攪乱が問題となっており、深泥池(京都市北区)においてもシカが侵入して湿原の植物を採食している。空中写真の判読によりシカの生息痕となる獣道(シカ道)を抽出することで湿原植生への影響を評価できることがわかっており、安価に高解像度の空中写真を繰り返し撮影できるUAVを応用できれば、踏査困難な場所が多い湿原植生へのシカの影響を明らかにする新しい手法として利用できる。深泥池においてUAVで撮影した2時期の空中写真の比較から、シカ道の時空間変化を明らかにすることを目的とし、2015年3月6日と約1年後の2016年2月26日にUAVで空撮した画像を分析した。オブジェクトベース画像解析を用い、オルソ画像のRGB値とSfMで得られるDSMを用いてオブジェクトを作成し、次に、教師付分類でシカ道、その他に区分した。カーネル密度推定によりシカ道の密度を算出し、2016年のシカ道の密度と2015年のシカ道の密度の差を算出した。シカ道の合計面積はほとんど変化が見られなかった。シカ道の密度が変化し、特に西部と中央部の浮島で増加していることがわかった。本研究の簡便な手法は、踏査困難な場所が多い湿原植生へのシカの影響を早期に検知するために有効な手法だといえる。また、UAVにより生態系の空撮を行いライブラリとして保管しておくことは、生態系マネジメントにおいて有用であることが示された。
  • 豊岡 由希子, 松田 勉, 山崎 裕治
    2017 年 22 巻 1 号 p. 219-228
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    国指定特別天然記念物であるライチョウLagopus muta japonicaの遺伝的多様性を保全するために、非侵襲的なDNA試料採取方法の確立と、その方法を用いた遺伝的多様性の評価を行った。富山県の立山周辺において、ライチョウの糞を採取し、ミトコンドリアDNA調節領域についてハプロタイプの決定を試みた。その結果、排泄直後の腸糞を用いた場合、約66%の確率でハプロタイプの決定に成功した。しかし、盲腸糞や古い腸糞においては、成功率が低下した。そして採取した102検体のうち50検体から、3種類のハプロタイプを決定した。このうち1つは、新規に発見されたハプロタイプであった。ライチョウ立山集団の遺伝的多様性は、他の山岳集団のそれと同等か、高い傾向にあることが示唆された。このことは、立山集団における生息個体数の多さを反映していると考えられる。ミスマッチ分析の結果、ライチョウ立山集団は、近い過去に集団の急速な拡大を経験していることが示唆された。この結果から、約9000-6000年前の気候温暖化によるボトルネックを受けた後に、集団が回復したことが推察される。
実践報告
  • 小林 峻大, 伊藤 咲音, 林田 光祐
    2016 年 22 巻 1 号 p. 229-240
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    山形県鳥海山麓のスギ人工林において、イヌワシの採餌環境の改善を目的とした列状間伐が4つの異なる伐採幅(5 m、7 m、10 mおよび15 m)で行われた。本研究では、伐採幅の違いがノウサギの利用頻度に与える影響を明らかにし、さらに、間伐後3年目の秋に行った再刈り払いがノウサギの利用頻度に与える影響を検証した。ノウサギの利用頻度は、自動撮影装置で得られた各伐採列のRAI(30日あたりのノウサギ撮影総数)と木本類の食痕断面積合計(調査面積あたりの食痕量)によって評価した。RAIと食痕量は間伐後1年目には広い伐採幅(15 m幅)で、間伐後2年目以降は狭い伐採幅(5 m幅と7 m幅)で多かった。再刈り払い後は非刈り払い区より再刈り払い区で、特に狭い伐採幅でRAIと食痕量が多かった。このことから、再刈り払いによってノウサギを誘引でき、その効果は狭い伐採幅で顕著に現れることが明らかとなった。また、狭い幅で列状間伐を行うことは、長期的な森林の利用や管理の視点を考慮した間伐方法としても効果的であると推察された。
意見
  • 角谷 拓, 赤坂 宗光, 藤田 卓, 伊藤 俊哉, 勝又 聖乃, 三輪 隆, 竹内 やよい, 山野 博哉
    2016 年 22 巻 1 号 p. 241-249
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    保護地域の設置と管理は生物多様性保全のための最も重要な対策の一つである。生物多様性条約第10回締約国会議において採択された愛知目標には、陸域と湖沼・河川などの陸水域で17%、沿岸域および海域で10%を保護地域とするという数値目標が掲げられた。自然公園は、日本国内において保護地域としての役割をはたす中心的な存在である。しかし、維管束植物を対象とした評価からは、自然公園の絶滅危惧種の個体数の減少抑止の効果は完全ではないこと、また自然公園も含めた国・地方自治体によって設置・管理されている保護地域と絶滅危惧種の分布との間にはギャップが存在することが明らかにされている。本稿では、自然公園のような大規模な既存保護地域の機能を補完しうる、小規模できめ細かな保護区の設置・管理に関する市民・企業による取り組みを紹介する。また、海外の事例としてボルネオの集落保護林の研究を紹介する。これら民間による保護地域の設置・管理についての現状を俯瞰した上で、民間保護地域制度を利用した現状評価や、認証制度としての活用、また保全活動と支援主体を結ぶ仕組みづくりに注目した課題の整理と提言をおこなう。
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