保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
23 巻, 1 号
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巻頭言
特集 不確実性下における効果的な哺乳類管理
  • 横溝 裕行, 鈴木 牧
    2018 年 23 巻 1 号 p. 5-7
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    この特集号は、哺乳類管理における不確実性に対処するために有用となる多彩な論文を収録している。限られた情報をいかに活用して管理施策を選択・実施するかという、野生動物保護管理につきものの問題意識を、研究者を含む多くの関係者が共有することを目的としている。野生動物管理で扱う不確実性の特定や、不確実性に効果的に対処するための調査手法や統計モデルの開発は、多様な研究者間の、また研究者と他の関係者の連携によって取り組まれる課題である。本特集号が、不確実性に対処するための新たな研究のきっかけになれば幸いである。
  • 栗山 武夫, 小井土 美香, 長田 穣, 浅田 正彦, 横溝 裕行, 宮下 直
    2018 年 23 巻 1 号 p. 9-17
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    外来種による生態系への影響として、類似した生態的地位を占める在来種との競争が挙げられる。従来、哺乳類における競争関係の評価は、同所的に生息する外来種と在来種の間で、食性や行動圏内の土地利用を比較することで行われることが多かった。しかし、種間関係は本来、広域スケールでの個体群密度の関係性を、共通する資源量を共変量として評価する必要がある。本研究では、千葉県南東部において在来種タヌキNyctereutes procyonoides に外来種アライグマProcyon lotor とハクビシンPaguma larvata が負の影響を与えているかどうか検証することを目的として、3種の分布解析を行った。各種の局所個体群の密度指標は、行政担当者と猟友会会員に対して行ったワナ位置の聞き取りと、行政の捕獲数データを用いて算出した。また共通の資源としては、土地利用要素(果樹園・水田・畑・放棄田・市街地・森林面積・林縁長・水涯線長)を変数とした。階層ベイズモデルを用いた回帰分析の結果、タヌキ は外来種アライグマから負の効果、外来種ハクビシンからは正の効果を受けていることが推察された。タヌキは農作物被害を引き起こす有害鳥獣として日本全国で年間2 万頭駆除されている。今後、外来種アライグマの分布拡大に伴い、タヌキの個体数が減少する恐れがあるため、タヌキの生息密度モニタリングや、種別に農作物被害に見合った駆除数を設定する必要がある。
  • 飯島 勇人
    2018 年 23 巻 1 号 p. 19-28
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    都道府県におけるニホンジカ管理の方針を記した特定鳥獣管理計画(ニホンジカ)を整理し、現在のニホンジカ管理の問題点を検討した。多くの計画でニホンジカの個体数に関する定量的な目標が設定されており、個体数推定の方法として階層モデルが最も多く採用されていた。しかし、事前分布やモデル構造、事後分布について説明している計画はなく、参照可能な文献も示されていなかったことから、推定の妥当性を評価することができなかった。農林業被害や生態系への影響については定性的な目標が多かった。特に、生態系への影響に関する定量的な目標を設定していたのはわずか2計画であった。モニタリング項目としては天然林の下層植生を挙げていた計画が多かったが、定量的な影響把握はほとんど行われていなかった。また、他の影響についてモニタリングしていた計画は少なかった。計画を審議する会合は多くの計画で明記されていたが、行政などから独立した科学者による評価機関が存在したのは7計画のみであった。このため、現在のニホンジカ管理に関する計画は、個体数については目標の根拠となる推定の妥当性検証に関する記述が十分でないこと、農林業被害や植生への影響については管理による効果を検証する体制となっていないことが明らかとなった。計画の改定時には、記述内容について文献を引用するなどして信頼性を高める ことが重要である。
解説
  • 長田 穣, 栗山 武夫, 浅田 正彦, 横溝 裕行, 宮下 直
    2018 年 23 巻 1 号 p. 29-38
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    野生動物の個体数の増減要因を明らかにすることは、効果的な野生動物管理を行うために生態学研究において古くから主要な興味のひとつであった。近年、増減要因を調べる手法として状態空間モデルの適用が増加している。しかしながら、明らかに十分といえる時系列データを得ることは現実的に難しい場合も多い。特に、人的資源や予算が限られる野生動物管理においてそのような状況は一般的である。本稿では、限られたデータを利用する際に生じる「モデルの不確実性」の問題を考慮するため、状態空間モデルの枠組みにベイジアンモデル平均を組み込んだOsada et al.(2015)の研究内容を解説する。解説では、千葉県房総半島のニホンイノシシの実例を通じて、ベイジアンモデル平均の2 つの利点を明らかにする。第一に、ベイジアンモデル平均は個体群動態に影響する要因の重要性の評価を容易にする。第二に、ベイジアンモデル平均はデータが限られた状況下においてもモデルの予測性を改善する。現在、状態空間モデルにおいてベイジアンモデル平均はほとんど用いられていないが、限られたデータのもとで効果的な野生動物管理を行うためには有用な手法と考えられる。
  • 山村 光司
    2018 年 23 巻 1 号 p. 39-56
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    野生生物の個体数を推定する際に、計算の簡便さから近年ではBayes(1763)流のベイズ推定法が用いられることが多い。Bayes(1763)流のベイズ推定法は、事前分布が未知の場合に一様分布あるいは非常にフラットな分布を事前分布として用いることを特徴としている。マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC 法)に基づくソフトウエアを用いることにより、ベイズ推定法では複雑な推定問題も簡単に解決できそうに見える。Fisher(1922)はBayes(1763)流のベイズ推定法の致命的な欠陥を指摘し、Bayes(1763)流のベイズ推定法に代わるものとして最尤推定法を提案した。分析の前に行う変数変換法を変えれば、Bayes(1763)流のベイズ推定法ではいくらでも異なる推定値を作成することができる。これがFisher の指摘したBayes(1763)流のベイズ推定法の問題点であった。しかし、Bayes(1763)流のベイズ推定法において、事後分布が左右対称に近くなるような適切な変数変換法(経験ジェフリーズ事前分布)を用いれば、事後分布のメディアンを最尤推定値として利用することができ、事後分布の2.5%分位点と97.5%分位点をFisher 流の95%信頼区間として用いることができる。また、この区間を近似的に95%推測区間(fiducial interval)として扱って、「真の値は95%の確率で『この』区間の中にある」という強い確率的言明を行うこともできる。そのような変数変換法は、事後分布の歪度がゼロに近くなるようなBox-Cox 変換などを探すことによって見つけることができる。本稿では、北海道のエゾシカの個体数推定を例として、このような推定手順について示したい。
  • 横山 真弓, 高木 俊
    2018 年 23 巻 1 号 p. 57-65
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    絶滅が危惧されていたツキノワグマUrsus thibetanus 個体群の管理について、兵庫県では、農林業及び人的被害の防止・軽減対策ともに、絶滅を回避するための政策を盛り込んだ特定鳥獣保護管理計画が策定された。本論文は、これまでの保護管理の経緯、生息状況モニタリング、解剖記録およびそれらを活用した個体数推定の成果について報告する。兵庫県の管理計画では絶滅回避の対策として、有害鳥獣駆除の対象であっても初めて捕獲された個体と錯誤捕獲された個体は、すべて一旦マイクイロチップを挿入して放獣し、捕獲・再捕獲の履歴を記録した。捕獲・再捕獲記録とHarvest-based 法を組み合わせた状態空間モデルにより個体数推定を行った結果、兵庫県内の推定個体数は800 頭(中央値)以上となり、個体数が増加傾向にあることが示された。殺処分となった個体はほぼすべてが解剖され、年齢や繁殖状況が記録され、成獣メスの95%以上が隔年で繁殖していると推定された。この値は他の地域と比べても高く、個体数の増加傾向を支持した。こうした個体群モニタリングによって、個体数が回復し絶滅の危険性が低くなり、捕殺を最小限に抑える個体管理施策の成果が得られたと判断されたため、2016年には20年ぶりに狩猟が解禁された。今後、個体群データの充実にあわせ、個体数推定モデルの精度向上にむけた取り組みを行う予定である。
原著
  • 照井 滋晴, 太田 宏, 石川 博規, 郷田 智章
    2018 年 23 巻 1 号 p. 67-73
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    冬期にまとまった積雪のある北海道・東北地方において、道路への融雪剤の散布は交通の安全性の確保の面からは不可欠であるが、一方で、動植物に悪影響を及ぼすことが懸念されている。そこで本研究では、融雪剤として利用されるCaCl2 が、どの程度の濃度でサンショウウオの卵や幼生の生存に影響を与えるのかを把握することを目的とし、エゾサンショウウオとトウホクサンショウウオの卵嚢と幼生を用いてCaCl2 曝露実験を行った。卵嚢を用いた実験の結果、エゾサンショウウオの半数致死濃度(以下、LC50 と表記)の推定値(CaCl2 換算)は316.6 mg/L、トウホクサンショウウオでは234.4 mg/L であった。幼生を用いた実験では、エゾサンショウウオのLC50 の推定値(CaCl2換算)は271.1 mg/L、トウホクサンショウウオでは519.0 mg/L であった。加えて、エゾサンショウウオの卵嚢を用いた実験では、400 mg/L 以上の濃度の水溶液中で孵化した幼生の17.9%は外鰓が委縮しており、たとえ孵化することができたとしてもCaCl2 の影響により形態的な異常が生じる可能性が示唆された。これらの結果は、残留するCaCl2 の濃度次第では自然条件下の繁殖水域においても、融雪剤の散布がエゾサンショウウオ及びトウホクサンショウウオの卵や幼生に対して孵化率や生存率の低下をもたらしうることを示唆している。
  • 芦澤 淳, 久保田 龍二, 高橋 清孝
    2018 年 23 巻 1 号 p. 75-86
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    アメリカザリガニによる生態系等への被害防止には、罠を用いた駆除が実施されてきたが、捕獲効率の向上を目的とした罠の選択や設置方法に関する十分な検討は行われていない。本研究は、捕獲個体の大きさと数、及び捕獲効率を指標に、籠網、アナゴカゴ、カニカゴ、網モンドリの効果的な使用方法を検討した。アメリカザリガニの捕獲個体数は、4 種類の罠すべてにおいて、罠設置後の時間経過と共に増加し、一旦ピークに達した後、減少した。試験期間全体では、籠網とアナゴカゴによる捕獲個体数が多かったが、罠を設置してから5 時間以内であれば、網モンドリによる捕獲個体数も籠網及びアナゴカゴと同程度に多かった。長時間の設置で餌の誘引効果が減少すると、罠からの脱出が生じたが、その程度は入口が開いている罠で高く、閉じている罠で低かった。そのため、アメリカザリガニの捕獲効率は罠の種類と設置時間によって異なり、0.2 日後には網モンドリで、1 日後と3 日後にはアナゴカゴで、7 日後には網モンドリ以外の罠で高かった。そこで、餌による誘因効果の経時的変化と罠からの脱出し易さを考慮して検討した結果、アメリカザリガニが高密度に生息している場合には、網モンドリを用いて数時間おきに1日2回以上の捕獲を行うこと、生息密度が低下し捕獲効率が低下した段階でアナゴカゴに切り替え長期間設置することで、効率的な捕獲が実現できると考えられた。
  • 井上 遠, 井上 奈津美, 吉田 丈人, 鷲谷 いづみ
    2018 年 23 巻 1 号 p. 87-98
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    奄美大島の亜熱帯照葉樹林における森林性鳥類の種組成、および保全上重要な種の生息密度分布のモニタリングに録音法を用いる可能性を検討した。繁殖期(2015 年4 月22 日~ 5 月6 日)に5 か所の森林域において、早朝および夜間に音声録音(録音法)とポイントカウント法を同時に実施した。オオトラツグミやルリカケスなど奄美大島の森林域に生息する保全上重要な鳥類種を含めて、録音法でもポイントカウント法とほぼ同様の鳥類相を記録できた。録音法で記録されたリュウキュウコノハズクとアカヒゲのさえずり頻度は、ポイントカウント法で計数した個体数に対して有意な正の効果を示し、録音法はこれらの種の生息密度のモニタリングにも有効であることが示唆された。
  • 吉見 翔太郎, 井上 幹生, 畑 啓生
    2018 年 23 巻 1 号 p. 99-114
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    愛媛県松山平野では、1990 年からの約25 年間に、淡水二枚貝のイシガイとマツカサガイが減少し、2017 年現在イシガイはほぼ地域絶滅し、マツカサガイも絶滅の危機にある。また、松山平野では、これらの二枚貝を産卵床とするヤリタナゴが生息するが、その分布域も急減し、かつ国内外来種のアブラボテと産卵床を巡って競合し、二種の間の交雑が生じている。そのため、ヤリタナゴ-マツカサガイ共生系の保全が急務である。本研究では、人為的な管理が容易な自然再生地の保全区としての有用性を検討するため、二つの自然再生地(広瀬霞と松原泉)の、それぞれ1 地点と、上、中、下流の3 地点に加え、農業灌漑用湧水地である柳原泉の1 地点の、計5 放流区にマツカサガイを放流し、マツカサガイの生残率を追跡した。同時に、餌となる珪藻量や溶存酸素量などの環境条件の計測を行った。  その結果、広瀬霞で一年間の生残率が37%、松原泉下流で半年間の生残率が75%であった。他の3 放流区では一年の間に全ての放流個体が斃死した。これらの放流区が不適な要因として、珪藻類の密度の低さが挙げられた。生残が確認された広瀬霞や松原泉下流における珪藻類の密度は他の放流区と比べると高いが、国近川や神寄川のマツカサガイが自然分布する地点に比べると低い時期があった。また、広瀬霞と松原泉上流で、2015 年10 ~ 11 月に低酸素状態(3 ~ 5 mg/l)が発生した。追跡調査中、放流したマツカサガイ個体が底質から脱出することが確認された。この行動は、その後二週間以内に死亡する個体で頻繁に見られ、不適な環境からの逃避と考えられた。柳原泉では、アブラボテの侵入と放流したマツカサガイへの産卵が確認された。これらの結果から、マツカサガイとヤリタナゴの共生保全区を策定するには、珪藻類の密度が高く、一年を通して貧酸素条件が発生しない、アブラボテの侵入を管理できる場所とすべきであることが示唆された。放流後のモニタリングにおいては、冬季にマツカサガイの底質からの脱出がないこと、アブラボテの侵入がないことに留意する必要がある。本研究で用いた自然再生地では、珪酸の添加や、水を滞留させる構造を付加するなど、珪藻類を増加させる対策と、外来性の浮葉性植物を駆除し貧酸素状態を生じさせない対策をとり、保全地として再評価することが必要である。
調査報告
  • 今村 彰生
    2018 年 23 巻 1 号 p. 115-125
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    琵琶湖淀川水系および三方五湖の固有種であり絶滅危惧種であるハスについて、2011年3月~ 2016年11月にかけて生息調査を行った。2014 年に発表した175 地点に、190 地点を新たに調査した。本研究では北西岸の調査地を重点的に増やし、これによって、ハスの生息が確認できた地点を前報の58 から135 地点に増やすことができた。また、北西部(北湖)にはハスの生息地点が多数存在することが判明した。前報と同様に、説明変数を底質、水路形状、水路の護岸の有無、水路の樹木の有無、ヨシ帯の有無、季節(春、夏、秋)とした一般化線形混合モデル解析を実施した。その結果、ハスの在/ 不在に正の影響を与える要因として、砂質の湖底の重要性が示され、礫質についても重要であることが新たに示された。これら365 地点のうち、332 地点についてハスの成魚と未成魚を区別して記録した。成魚と未成魚がいずれも在の地点が17、成魚のみの地点が41、未成魚のみの地点が65、いずれも不在の地点が209であった。成魚と未成魚の在/ 不在を応答変数行列として、上記の水路形状、水路の護岸の有無、水路の樹木の有無、ヨシ帯の有無を説明変数にPERMANOVA 解析を実施したところ、底質と護岸が有意な影響を与えていることが示された。琵琶湖西岸でのハスの在/ 不在を示した地図に、一般化線形混合モデル解析から得られたハスの生息確率予測値を、色分けして図示したところ、北湖と南湖における生息地の現状の差が明瞭に示され、本研究で新たに調査した北西部にハスの生息地が多数あり、未検出の調査地点にも生息確率が高い地点が複数あった。一方南湖では生息確率の高い地点が極めて少なく、本研究での検出地点以外でのハスの生息の見込みは少ないことが示された。本研究で得られた砂底、礫底の重要性を踏まえ、北湖に砂浜が相対的に多く残存していることも合わせて考えると、今後の砂浜の維持や河川からの砂の供給の重要性についても注目する必要がある。
  • 津田 優一, 中濵 直之, 加藤 英寿, 井鷺 裕司
    2018 年 23 巻 1 号 p. 127-136
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    小笠原諸島の父島では現在、グリーンアノールやセイヨウミツバチをはじめとする外来種の侵入により、在来 の訪花昆虫が減少し外来の訪花昆虫が優占する、送粉系撹乱が生じている。この撹乱により父島に生育する植物の結 果率が変化していることが報告されているものの、植物の遺伝的多様性及び構造に与える影響については明らかにな っていない。本研究では、父島と送粉系撹乱のない聟島において、小笠原固有種のシマザクラを対象に、各島の訪花 昆虫相及び繁殖成功、また遺伝的多様性を解明し、それをもとに送粉系撹乱が繁殖成功及び遺伝的多様性に与える影 響について考察した。両島でシマザクラの花について2 分間隔のインターバル撮影を24 時間あるいは48 時間実施し た(合計撮影時間,聟島:216 時間,父島:120 時間)。また、聟島で23 花序、父島で25 花序の結果率の測定を行っ た。マイクロサテライトマーカー14 座を用いて聟島及び父島の成木の遺伝的多様性の算出を行うと共に、両島の成 木を用いて島間の遺伝的分化について推定した。さらに、親子解析で親を有意に同定できた種子について遺伝的多様 性の算出と種子親の自殖率の推定を行った。訪花昆虫観察の結果、撹乱が生じている父島では、聟島に比べて総訪花 頻度と在来昆虫の訪花頻度が少なく、外来種のセイヨウミツバチが総訪花の65%を占めており、結果率が有意に低 かったこと(p < 0.05)から、シマザクラの送粉系が父島で撹乱されている事が明らかになった。しかし、成木と種 子の遺伝的多様性、自殖率に島間で有意差はなく、各島内の成木には有意な距離による隔離が見られなかった。本研 究から、小笠原諸島における送粉系撹乱はシマザクラの繁殖成功に負の影響をもたらしているものの、遺伝的多様性 には影響をもたらしていないことが明らかとなった。
  • 奥田 圭, 藤間 理央, 根岸 優希, ヒントン トーマス G., スマイサー ティモシー J., 玉手 英利, 兼子 伸吾
    2018 年 23 巻 1 号 p. 137-144
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    2011 年の東北地方太平洋沖地震は、福島県の一部地域における人間活動を大きく変えた。福島第一原子力発電所の津波被害やその後に生じた放射能汚染は、結果的に放棄耕作地や住民の避難に伴う空き家を増加させ、避難区域内における家畜の逸出を招き、野生の哺乳動物の個体群も拡大させた。本研究では、福島県におけるニホンイノシシと逸出したブタとの交雑の可能性を検証した。2014 年から2016 年の間に福島県内の個体群から集められた75 頭のニホンイノシシのミトコンドリアDNA 配列を分析した結果、71 個体からはニホンイノシシ固有の既知の配列が得られたが、それらから著しく分化したブタに該当する配列が4 個体から得られた。この結果は、野生化したブタからニホンイノシシ個体群への遺伝子汚染を示唆している。また、今回の知見は、当該地域における核DNA マーカーを用いた詳細な遺伝解析とモニタリングに基づく個体群管理の必要性を示唆している。
  • 揚妻 直樹, 揚妻-柳原 芳美
    2018 年 23 巻 1 号 p. 145-153
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    屋久島西部の照葉樹林にはニホンジカが非常に高い密度で生息している(100~350頭/km2)。1996年7月にこの地域の急峻な谷で大規模な土石流が発生し、幅数10m、長さ約1kmに渡る植生が、土壌ごと海まで流されて消失した。我々はその後の植生回復状況を把握するため、2007年にこの谷の二ヶ所に半径3mの円形調査区を設置し、つる植物を除く木本植物を対象に高さ5~30cm、30~150cm、150cm以上の個体数、および150cm以上の個体の胸高断面積を計測した。植生構造の変化を把握するため、同様の調査を2011年と2017年にも実施した。土石流発生以降、二つの調査区ともに高さ5~30cmの個体数、150cm以上の個体数、および胸高断面積合計が増加傾向にあることが解った。ただし、調査区内には枯死したカンコノキが数本あった。さらに2017年には、その谷を横断するように幅2mのベルトトランゼクトを3本(長さ16、28、40m)設置して植生を調査した。ベルト内の植物のうち、シカの採食圧に曝される高さ150cm未満の種の被度とシカ採食痕の有無、高さ150cm以上の種の個体数と樹高を記録した。ベルト内の植被度は平均8割で、大きな岩上や流路を除き植物に覆われていた。ベルト内にはシダ植物11種以上、草本植物8種、木本植物39種(つる植物含む)が定着しており、そのうち51種がシカの採食植物で、そこには嗜好種が16種含まれていた。また、高さ150cm以上に生長した木本植物は21種確認され、20種がシカの採食植物であり、そのうち9種は嗜好種(カラスザンショウ、ムラサキシキブ、ヤクシマオナガカエデなど)だった。これらの個体の一部は高さ5m以上に達していた。シカの採食痕はベルトのほとんどの場所で見つかり、シカはこの谷を広く採食場所にしていたことが示された。本調査地では植生が土壌ごと完全に失われた後にシカの嗜好種を含む植物種が定着し、生長していたことから、自然植生が回復しつつあると考えられた。ただし、この植生が今後どのように遷移していくかについては長期的な調査によって検証する必要がある。
  • 高槻 成紀, 岩田 翠, 平泉 秀樹, 平吹 喜彦
    2018 年 23 巻 1 号 p. 155-165
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル オープンアクセス
    これまで知られていなかった東北地方海岸のタヌキの食性を宮城県仙台市宮城区岡田南蒲生と岩沼市蒲崎寺島のタヌキを例に初めて明らかにした。このタヌキは2011 年3 月の東北地方太平洋沖地震・津波後に回復した個体群である。南蒲生では防潮堤建造、盛土などの復興工事がおこなわれ、生息環境が二重に改変されたが、寺島では工事は小規模であった。両集団とも海岸にすむタヌキであるが、魚類、貝類、カニ、海藻などの海の生物には依存的ではなかった。ただしテリハノイバラ、ドクウツギなど海岸に多く、津波後も生き延びた低木類の果実や、被災後3 年ほどの期間に侵入したヨウシュヤマゴボウなどの果実をよく利用した。復興工事によって大きく環境改変を受けた南蒲生において人工物の利用度が高く、自然の動植物の利用が少なかったことは、環境劣化の可能性を示唆する。また夏には昆虫、秋には果実・種子、冬には哺乳類が増加するなどの点は、これまでほかの場所で調べられたタヌキの食性と共通であることもわかった。本研究は津波後の保全、復旧事業において、動物を軸に健全な食物網や海岸エコトーンを再生させる配慮が必要であることを示唆した。
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