保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
24 巻, 2 号
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原著
  • 板谷 晋嗣, 清野 聡子, 和田 年史, 秀野 真理
    2019 年 24 巻 2 号 論文ID: 1817
    発行日: 2019/11/08
    公開日: 2020/01/13
    [早期公開] 公開日: 2019/11/08
    ジャーナル オープンアクセス

    福岡県津屋崎入江において、カブトガニを対象に航空写真の判読によって、戦後から現在に至るまでの生息地の変遷をたどり、住民からの聞き取り調査結果と繁殖ペアのモニタリング調査結果と照合しながら、カブトガニの減少要因の解明を行った。聞き取り調査では、津屋崎沿岸域には戦後から 1980年代にかけて多くのカブトガニが生息していたが、その数は徐々に減少し 2000年代初めには、ほとんど見られなくなった状況が把握できた。繁殖ペア数は 2005年以降、毎年減少した。この繁殖ペア数の減少は、入江湾口部の累積的改変に伴う産卵基盤の砂州の劣化が一因を担っている可能性が示唆された。本研究の歴史生態学的なアプローチは、カブトガニなどの沿岸域を生息場所とする希少種の保全において、個体数減少と沿岸開発との因果関係をひも解く際の初期解析方法として有効であると考えられる。

  • 一條 信明, 笛木 篤志, 小西 雄大, 阿部 嘉寿也, 兼平 丈之, 浦田 誠也, 松木 護
    2019 年 24 巻 2 号 論文ID: 1802
    発行日: 2019/11/08
    公開日: 2020/01/13
    [早期公開] 公開日: 2019/11/08
    ジャーナル オープンアクセス

    釧路市にある面積約 820 m2の小規模な池で、 2008年から 2012年にかけてカニカゴにより外来種ウチダザリガニを継続的に駆除したが、その根絶はできなかった。その理由を明らかにするため、 2008年のデータを体サイズでクラス分けし、クラスごとに除去法( DeLury法)を適用して個体数の減少を検討した。その結果、頭胸甲長 4 cm以上の大型成体には個体数の減少が見られたが、 4 cm未満の小型成体ではそれは見られず、カニカゴによる捕獲は頭胸甲長 4 cm以上の大型成体では効果的であるが 4 cm未満の小型の成体では不十分であることが明らかになった。

調査報告
  • 水谷 晃, 井上 太之, 玉本 満, 北原 侑治, 藤吉 正明, 村上 智一, 中瀬 浩太, 河野 裕美
    2019 年 24 巻 2 号 論文ID: 1803
    発行日: 2019/11/08
    公開日: 2020/01/13
    [早期公開] 公開日: 2019/11/08
    ジャーナル オープンアクセス

    熱帯性海草ウミショウブ Enhalus acoroidesの北限分布域における有性繁殖の季節性を明らかにすることを目的とした。八重山諸島の西表島において 2013年から 2017年まで開花時期を観察した。 2014年と 2015年には、 4×4 m調査区を 3ヵ所ずつ設置して、開花から種子放出までの経過を記録した。開花は、 1年で比較的水温が高く、日照時間が長く、日中の干潮位が低い 5月から 11月までにみられた。開花は日中の干潮位がより低い大潮周期に同調したが、 10月以降ではその潮位は高く、受粉成功に至らなかった。シュートの年開花数は 1回であった。開花から果実裂開までの期間は、平均 84±6.5日であった。雌の開花シュートのうち、開花 3日後に花が残存した割合は 51.2%であり、その後 60日まで生残した割合は 9.8%、最終的に果実の裂開に至った割合は 9.3%であった。ほぼ周年にわたり開花・結実する熱帯域と比較して、開花期は短く、果実成熟にいたる有効な開花は開花期の前半に限られた。この結果、本海域における有性繁殖による生産性はより低いことが示唆された。

  • 辻田 有紀, 村田 美空, 山下 由美, 遊川 知久
    2019 年 24 巻 2 号 論文ID: 1906
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/13
    [早期公開] 公開日: 2019/10/15
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    近年、果実に寄生するハエ類の被害が全国の野生ランで報告され、問題となっている。ハエ類の幼虫は子房や果実の内部を摂食し、種子が正常に生産されない。しかし、被害を及ぼすハエ類の種や寄生を受ける時期や部位が、ランの種によって異なることが指摘されており、適切に防除するためには、ランの種ごとに被害パターンを明らかにする必要がある。そこで、国内に自生する 4種のランについてハエ類の被害状況を調査した。その結果、 4種すべてにおいて、ランミモグリバエの寄生を確認した。また、本調査で被害を確認した地域は、福島県、茨城県、千葉県、高知県と広域に及んでいた。調査した 4種のうち、コクランとガンゼキランでは、果実内部が食害を受けていたが、ナツエビネとミヤマウズラでは、主に花序が幼虫による摂食を受け、開花・結実に至る前に花茎上部が枯死しており、ランの種によって食害を受ける部位が異なった。ミヤマウズラでは福島県産の株に寄生を確認したが、北海道産の株にはハエ類の寄生が見られず、地域により被害状況が異なる可能性が明らかになった。本調査より、絶滅に瀕した多くのラン科植物がハエ類の脅威にさらされている現状が改めて浮き彫りとなり、ランミモグリバエの防除はラン科植物を保全する上で喫緊の課題である。

  • 阿部 建太, 髙橋 大輔, 早川 慶寿
    2019 年 24 巻 2 号 論文ID: 1821
    発行日: 2019/11/08
    公開日: 2020/01/13
    [早期公開] 公開日: 2019/11/08
    ジャーナル オープンアクセス

    マダラヤンマはため池を主な生息場所とするヤンマ科のトンボであり、長野県上田市において天然記念物に指定されている。本種は、環境省ならびに長野県において準絶滅危惧種に指定されており、個体数の減少が危惧されている。本種の保全策を検討するために、上田市塩田平において本種の生息とため池および周辺の環境要因との関係性を調べた。その結果、マダラヤンマが生息するため池は生息が確認されなかったため池よりも池畔において抽水植物群落が存在する比率(池畔抽水植物率)が高かった。また、一般化線形モデルの解析結果から、本種の在 /不在に対して池畔抽水植物率に加え、ため池周辺の森林面積ならびにリンゴ果樹園面積が有意な正の効果を持つことが明らかとなった。これらの結果は、抽水植物を産卵基質として利用するという本種の繁殖生態と矛盾しないと思われた。また森林面積が関係していた理由は、本種が成熟のために一時的に森林に移動するためであると思われた。また、ため池に隣接する果樹園でのルートセンサスにおいて本種の生息が確認されたことから、果樹園は森林の代替地として利用されるのかもしれない。今回の調査結果から、マダラヤンマの保全を検討する上で、ため池内だけでなく周辺の環境要素にも配慮することが重要であると共に、本来の生息環境の保全や復元が困難な場合、農業生産という経済的な利益を伴った代替可能と思われる環境を創出することでも、一定の保全効果が得られる可能性があると考えられた。

  • 高槻 成紀, 梶谷 敏夫
    2019 年 24 巻 2 号 論文ID: 1903
    発行日: 2019/11/10
    公開日: 2020/01/13
    [早期公開] 公開日: 2019/11/10
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    丹沢山地は 1970年代からシカが増加し、その後シカの強い採食圧によって植生が強い影響を受けて貧弱化し、表土流失も見られる。このような状況にあるシカの食性を 2018年の 2月から 12月まで、東丹沢(塔が岳とその南)と西丹沢(檜洞丸とその南の中川)、西部の切通峠においてそれぞれ高地と中腹(ただし西では高地のみ)において糞を採集し、ポイント枠法で分析し、次のような結果を得た。 1)全体に双子葉植物の葉が少なく、繊維、稈が多かった。 2)季節的には繊維が冬を中心に多いが、場所によっては夏にも多かった。 3)標高比較では高地でイネ科が多かった。 4)場所比較では東丹沢ではササが多い傾向があった。 5)シカが落葉を食べている状況証拠はあるが、糞中には微量しか検出されず、その理由は不明である。これらの結果はほかのシカ生息地と比較して、シカの食物中に葉が少なく、繊維が多く、当地のシカが劣悪な食糧事情にあることを示唆する。このことから、丹沢山地の森林生態系のより良い管理のためには、シカ集団の栄養状態、妊娠率、また植生、とくにササの推移などをモニタリングすることが重要であることを指摘した。

  • 吉田 康子, 中澤 宏介, 大澤 良
    2019 年 24 巻 2 号 論文ID: 1921
    発行日: 2019/11/10
    公開日: 2020/01/13
    [早期公開] 公開日: 2019/11/10
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    サクラソウは岐阜県のレッドリストの絶滅危惧 I類に指定されており、高山市清見町にもかつてサクラソウの自生地(清見集団)が存在した。現在、清見町内の民家で栽培されているサクラソウの一部が清見集団由来であると言われている。本研究では、町内の民家で栽培されているサクラソウの所有者からの聞き取り調査や SSRマーカーの遺伝子型に基づくジェネット識別、 STRUCTURE解析およびアサインメントテストを行い、自生地が消失した清見集団由来の個体の探索を試みた。 2012年と 2013年に清見町内の民家 14ヶ所および野外 2ヶ所から採取した 62サンプルから、 SSRマーカー 8座の遺伝子型によって 16のジェネットが見出された。聞き取り調査によって、 4ジェネット(g2、g3、g4、g6)が清見集団由来である可能性が高く、遺伝的に近縁関係であることも明らかになった。全国 32集団と清見町内の 16ジェネットを 1集団として STRUCTURE解析を行った結果、清見集団由来と考えられる 4ジェネットは、それぞれ異なる遺伝組成のパターンを示した。さらに 16ジェネットの由来推定を行うため、 32集団に対してアサインメントテストを行った。本来であれば割り振り先の集団に清見集団を加え、そこに割り振られたジェネットを清見集団由来とすべきであるが、清見集団の遺伝情報が不明であるため、本研究では高山市内に現存する野生集団(高山集団)と清見集団が遺伝的に近縁であると想定し、アサインメントテストで高山集団に割り振られたジェネットを清見集団由来の可能性があると考えた。その結果、高山集団を含む 32集団いずれかの集団で生じる確率が 0%より有意に高くなったのは 4ジェネット( g3、g4、g12、g16)で、そのうち高山集団に割り振られたのは g3だけであった。しかしその確率が非常に低く、清見集団由来のジェネットであると判断できなかった。本研究では、町内で見出された 16ジェネットのうち聞き取り調査によって 4ジェネットが清見集団由来の可能性があることが判明したが、遺伝子型情報に基づく解析ではこれらが清見集団由来であるとの確実な裏づけは得られなかった。そして、サクラソウの自生地が消失、またその周辺の野生集団が著しく減少した状況下では、個体の由来推定の精度が大きく低下することも示された。

実践報告
  • 中村 誠宏, 寺田 千里, 湯浅 浩喜, 古田 雄一, 高橋 裕樹, 藤原 拓也, 佐藤 厚子, 孫田 敏, 伊藤 徳彦
    2019 年 24 巻 2 号 論文ID: 1816
    発行日: 2019/11/08
    公開日: 2020/01/13
    [早期公開] 公開日: 2019/11/08
    ジャーナル オープンアクセス

    北海道中川郡音威子府村から中川町を結ぶ全長 19.0 kmの一般国道 40号音威子府バイパスの建設が 2007年から始まっている。北海道大学中川研究林を通過する区間では、周辺地域のトドマツ及びミズナラ、シナノキ、オヒョウなどが生育する北方針広混交林生態系に対してより影響の少ない管理手法の開発が検討されている。 2010年より検討を開始し、翌年より施工手法や装置の開発、施工対象予定地での事前調査を行った。 2013年に試験施工を行い 2014年よりモニタリングを開始した。本研究では表土ブロック移植に注目して、 1)これまでより安価な表土ブロック移植の簡易工法の開発、 2)すき取り表土と比較して簡易表土ブロック工法が施工初期の草本層植生や土壌動物群集に与える影響、 3)それらの回復について 2014年と 2015年の 8月下旬に調査を行った。本工法では装置開発を最小限にして、一般的に用いられる建設機械を利用したことから、施工費が大幅に削減された。表土ブロック区では在来種の被度がより高かったが、すき取り土区では外来種の被度がより高かったため、植物全体の被度は処理間でそれ程大きな違いはなかった。ヒメジョオンのような 2年生草本の種数はすき取り土区でより多かったが、多年生草本と木本の種数は表土ブロック区でより多かったため、植物全体の種数は表土ブロック区でより多かった。さらに、移植元の植物相との類似度も表土ブロック区でより高くなった。一方、リター層も土壌層も土壌動物の個体数は表土ブロック区でより多く、種数も表土ブロック区でより高かった。リター層を除く土壌層のみ表土ブロック区において移植元の土壌動物相との類似度がより高くなった。本研究の結果から、開発した表土ブロック移植の簡易工法は植物と土壌動物に対して早期の回復効果を持つことが示された。

保全情報
  • 東 広之
    2019 年 24 巻 2 号 論文ID: 1819
    発行日: 2019/11/08
    公開日: 2020/01/13
    [早期公開] 公開日: 2019/11/08
    ジャーナル オープンアクセス

    生物多様性の保全において、保護地域は極めて重要な役割を果たしている。しかしながら、保護地域の定義や種類についてはあまり浸透しておらず、また、保護地域の目的や管理のニーズに保護地域の管理の実態が伴わないことがある。そのため、本稿では、 IUCNによる保護地域の定義を紹介するとともに、 IUCN保護地域管理カテゴリーの特徴を図表で示した。加えて、カテゴリー間の比較についても整理することにより、各カテゴリーの特徴を際立たせた。昨今、保護地域の「量」の確保が進められているため、今後は、保護目的や管理ニーズにあった効果的な管理の実施、つまり管理の「質」がますます重要になると考えられる。

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