極性基の異なるエーテル結合型飽和リン脂質、ジヘキサデシルホスファチジルエタノールアミン(DHPE)、ジヘキサデシルホスファチジルジメチルエタノールアミン(DHMe
2PE)およびジヘキサデシルホスファチジルコリン(DHPC)の二分子膜相転移を示差走査熱量法(DSC)および高圧光透過法で観測した。これらの脂質二分子膜の主転移温度、すなわち、ラメラゲル(L
β)又はリップルゲル(P
β')相から液晶(L
α)相への転移温度は加圧によりほぼ直線的に上昇した。主転移温度の圧力依存性(d
T/d
P)は0.232~0.244 K MPa
-1の範囲の値となった。脂質の極性基サイズが増大するにつれて主転移温度は顕著な降下を示した。他方、相転移熱力学量には極性基サイズの効果はほとんど表れなかった。DHPEおよびDHMe
2PE二分子膜では唯一主転移のみが観測されたが、DHPC二分子膜では指組みゲル(L
βI)相からP
β’相への前転移と主転移(P
β'/L
α)の2つの転移が観測された。すなわち、DHPEとDHMe
2PEでは二分子膜の指組み構造は形成されなかった。ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)のようなエステル結合型脂質では高圧力によってL
βI相が誘起されることがよく知られている。本研究では、二分子膜が指組み構造を形成するための必要条件を明らかにすることができた。すなわち、脂質分子構造中にエーテル結合かエステル結合を有することより、かさ高いコリン基を有することが指組み構造形成に必須である。高圧力で誘起される指組み構造形成の機構を提案する。
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