高圧バイオサイエンスとバイオテクノロジー
Online ISSN : 1882-1723
ISSN-L : 1882-1723
最新号
Proceedings of the 15th Symposium for Japanese Research Group of High Pressure Bioscience and Biotechnology
選択された号の論文の28件中1~28を表示しています
タンパク質
  • 石森 浩一郎
    2008 年 2 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    電子伝達ヘム蛋白質シトクロムc(Cyt c)における立体構造形成速度の圧力依存性から,その立体構造形成に伴い,Cyt cの分子体積は減少することが示された.このことは,Cyt cの立体構造形成に伴い,疎水性部位周辺の水分子が溶媒中へ排出されることを意味しており,蛋白質の立体構造形成過程において,その体積変化の視点から初めて疎水性部位からの脱水和過程,すなわち疎水性コアの形成を示すことができた.このような脱水和は,系としてのエントロピーの増大につながると考えられ, Cyt cの立体構造形成における構造エントロピーの大きな減少を相殺することで,立体構造形成反応を熱力学的により有利にする方向に働くことが示唆された.
  • 北原 亮, 赤坂 一之
    2008 年 2 巻 1 号 p. 8-14
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    構造生物学の新しい展開として、基底状態を逸脱した準安定状態にある蛋白質の構造解析がある。圧力は、部分モル体積差を通して状態間の化学平衡に作用するため、一般に部分モル体積の小さな準安定構造を安定化できる。圧力を用いた核磁気共鳴解析は、常圧下では分布率が少なく捉えることが困難な準安定構造を高分解能で解析する優れた方法である。ユビキチン構造に含まれる2つの準安定構造と、ユビキチン及びユビキチン様蛋白質について共通に保存された準安定構造を紹介し、それらの機能的意義について論じる。
  • 橘 秀樹, 月向 邦彦, 中村 明博, 松尾 光一, Abdul Raziq Abdul Latif, 荒賀 麻里子, 河野 良平, 赤坂 ...
    2008 年 2 巻 1 号 p. 15-23
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    ジスルフィド結合を欠損させたニワトリリゾチーム変異体は自発的に集合してアミロイド様線維をつくる。この初期会合体はモノメリックユニット1モルあたり100 mLの体積減少をともなって加圧により可逆的に解離する。この変異蛋白質のモノマー状態およびプロトフィラメント状態での部分比容積は0.684ならびに 0.724 mL g-1、それぞれの状態での断熱圧縮率係数は -7.48ならびに 1.35 Mbar-1 であり、プロトフィラメント状態は大きな体積を持ち、かつ圧縮されやすい状態であることが示された。プロトフィラメントの解離速度は加圧によって大きく上昇し、活性化部分モル体積ならびに活性化部分モル圧縮率は、それぞれ、-50 mL mol-1ならびに-0.013 mL mol-1 bar-1 といずれも負の値をとる。これは解離の遷移状態では線維中に存在した空隙の部分的な水和が起こっていることを示唆する。
  • 森田 貴己
    2008 年 2 巻 1 号 p. 24-28
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    深海性ソコダラのα-アクチンタンパク質は、浅海性ソコダラと比較すると3カ所にアミノ酸置換を持つ。このうちV54AまたはL67Pの置換は、高水圧下においてアクチンの重合に大きく関与していることが明らかとなった。深海性ソコダラのミオシン重鎖タンパク質では、アクチン結合領域の1つであるループ-2領域にアミノ酸欠損が1つ認められた。しかしながら、この欠損の役割は現在のところ不明である。
  • 塚本 雅之, 鈴木 良尚, 櫻庭 春彦, 田村 勝弘
    2008 年 2 巻 1 号 p. 29-37
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    キャピラリー中にグルコースイソメラーゼ(GI)の過飽和溶液を満たし、0.1 MPaと100 MPa下で制御をしながら育成した結晶を用いて、共に0.1 MPa下でX線結晶構造解析を行った。結晶化の制御においては、0.1 MPa、100 MPa下で共に温度をコントロールすることで、キャピラリー中の結晶の数を抑え、X線結晶構造解析が可能な良質で大きな結晶を作製することができた。得られた結晶を両方とも0.1 MPa下に取り出してX線結晶構造解析を行ったところ、キャピラリー中に溶液が入ったままで高分解能の構造解析が可能なことが確認できた。また、溶液共存下での結晶サイズと分解能の相関についても明らかにできた。しかし、構造解析の結果、0.1 MPaと100 MPa下で作製した結晶の間で分子構造や水和構造に明確な変化はなかった。2つのタンパク質分子を重ね合わせて、対応する原子間距離を求めてみると、最大で約1.37 Å、平均で約0.078 Åの位置の違いしかなかった。また、水和構造においては、観測された水分子の位置について、得られた結果の中で最大約10 %の位置の違いがあったが、0.1 MPaと100MPa下で作製した結晶の間での有意差は認められなかった。
  • 大前 英司, 村上 千穂, 楯 真一, 月向 邦彦, 加藤 千明
    2008 年 2 巻 1 号 p. 38-44
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    圧力は蛋白質のダイナミクスや水和を研究する際に用いられるよく知られた手法である。本稿では、圧力を切り口として蛋白質の様々な性質や機能を研究する場合の熱力学的な基礎と結果の解釈における注意点を平易に解説する。また、圧力軸を通した研究が蛋白質の基本的な性質を明らかにするとともに、生命の本質的な理解につながる重要な研究につながることを紹介する。
  • 加藤 千明, 佐藤 孝子, 阿部 文快, 大前 英司, 為我井 秀行, 仲宗根 薫
    2008 年 2 巻 1 号 p. 45-53
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    深海高水圧下環境に生息する生物は、生きるために必要な機能が高圧下に適応していると考えられる。そこで、深海環境に広く生息している好圧性微生物の作る蛋白質を中心に、その加圧下での活性と構造との相関に関して検討を行った。その結果、好圧菌の作る蛋白質は耐圧性が高く、高圧下でも安定であることが示され、推定した立体構造の比較から、一部の蛋白質においてベータシート構造が蛋白質の耐圧性を付与している可能性が示唆された。
  • 西口 慶一, 阿部 文快, 加藤 千明, 三輪 哲也, 佐藤 孝子, 大島 範子, 岡田 光正
    2008 年 2 巻 1 号 p. 54-60
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    乳酸脱水素酵素(L-lactate:NAD oxidoreductase EC 1.1.1.27; LDH)は、解糖反応の最終段階で作られるピルビン酸を乳酸に変える反応を可逆的に触媒する重要な酵素である。大部分の脊椎動物において、LDHは遺伝子上にそれぞれにコードされたA-とB-サブユニットが結びついた4量体分子を形成する。A型とB型を比較すると、A型にはアルギニン、グリシン、トレオニンおよびフェニルアラニンが多く、B型はアスパラギン酸、アラニン、バリンおよびメチオニンが多い。LDHがこのような分子多様性をもつようになった過程はまったく明らかにされていない。そこで、本研究ではLDHが分子多様性を獲得したと推定される円口類において、LDHの生化学的実験を行った。ヌタウナギ(E. burgeri)、ムラサキヌタウナギ(E. okinoseanus)、 およびクロヌタウナギ (Paramyxine atami)のLDH-A cDNA配列を明らかにし、単一サブユニットからA,Bに分化する仕組みを推定した。またヌタウナギ類3種のLDH活性の耐圧性の違いを明らかにし、その耐圧性構造に関与するアミノ酸を推定した。
脂質
  • 松木 均, 多田 佳織, 後藤 優樹, 玉井 伸岳, 金品 昌志
    2008 年 2 巻 1 号 p. 61-67
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    飽和疎水鎖を有するホスファチジルコリン(C18:0-PC、O-C18:0-PC)および不飽和疎水鎖を有するホスファチジルエタノールアミン(C18:1(cis)-PE、C18:1(trans)-PE)が形成するリン脂質膜の二分子膜-非二分子膜相転移熱力学量を常圧下における示差走査熱量測定と高圧下における光透過率測定から決定した。これらリン脂質の非二分子膜形成の熱力学量は、それぞれのリン脂質のゲル-液晶あるいは結晶-液晶と言った二分子膜間の相転移のものよりも著しく小さかった。非二分子膜形成はラメラ構造から指組み構造あるいは逆へキサゴナル構造のような非ラメラ構造への動的変化に対応するが、その小さな熱力学量から両構造中における脂質分子の秩序性はあまり変化しないと言える。二分子膜-非二分子膜転移の注目すべき特徴は、その転移温度の圧力依存性が二分子膜-二分子膜転移のものと比較して大きいことで、この事実は二分子膜-非二分子膜間の構造変化は加圧により顕著に影響を受けることを示唆する。二分子膜-非二分子膜転移の熱および体積挙動を二分子膜-二分子膜転移のものと比較し、二分子膜-非二分子膜転移は分子充填の再構成に関する体積駆動の転移であると結論づけた。
  • 後藤 優樹, 戸田 雅隆, 玉井 伸岳, 松木 均, 金品 昌志
    2008 年 2 巻 1 号 p. 68-74
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    対称型飽和diacyl-phosphatidylcholine(PC)脂質の一つであるdiC19-PC(dinona- decanoylphosphatidylcholine)の高圧力下における二分子膜相挙動を示差走査熱量(DSC)測定および高圧光透過率測定により調べ、相転移に伴う熱力学量変化を定量化し、温度-圧力相図を作成した。作成された相図から、飽和diacyl-PCに特徴的なゲル相の多形現象(ラメラゲル相、リップルゲル相、指組ゲル相の存在)が確認された。またdiC19-PC二分子膜の前転移温度(57.5 °C)、主転移温度(60.6 °C)および臨界指組圧力(37.7 MPa)は、一連のアシル鎖長の異なるdiacyl-PC二分子膜についてこれまでに明らかにされている相転移熱力学量のアシル鎖長依存性から予測される値とほぼ一致した。一方、転移エンタルピーや転移体積は予測値よりも有意に大きな値が得られ、二分子膜ゲル相におけるdiC19-PCのより凝縮した分子充填状態が示唆された。
  • 金品 昌志, 後藤 優樹, 多田 佳織, 玉井 伸岳, 松木 均
    2008 年 2 巻 1 号 p. 75-81
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    極性基の異なるエーテル結合型飽和リン脂質、ジヘキサデシルホスファチジルエタノールアミン(DHPE)、ジヘキサデシルホスファチジルジメチルエタノールアミン(DHMe2PE)およびジヘキサデシルホスファチジルコリン(DHPC)の二分子膜相転移を示差走査熱量法(DSC)および高圧光透過法で観測した。これらの脂質二分子膜の主転移温度、すなわち、ラメラゲル(Lβ)又はリップルゲル(Pβ')相から液晶(Lα)相への転移温度は加圧によりほぼ直線的に上昇した。主転移温度の圧力依存性(dT/dP)は0.232~0.244 K MPa-1の範囲の値となった。脂質の極性基サイズが増大するにつれて主転移温度は顕著な降下を示した。他方、相転移熱力学量には極性基サイズの効果はほとんど表れなかった。DHPEおよびDHMe2PE二分子膜では唯一主転移のみが観測されたが、DHPC二分子膜では指組みゲル(LβI)相からPβ’相への前転移と主転移(Pβ'/Lα)の2つの転移が観測された。すなわち、DHPEとDHMe2PEでは二分子膜の指組み構造は形成されなかった。ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)のようなエステル結合型脂質では高圧力によってLβI相が誘起されることがよく知られている。本研究では、二分子膜が指組み構造を形成するための必要条件を明らかにすることができた。すなわち、脂質分子構造中にエーテル結合かエステル結合を有することより、かさ高いコリン基を有することが指組み構造形成に必須である。高圧力で誘起される指組み構造形成の機構を提案する。
微生物と動物
  • 能木 裕一, 佐藤 孝子
    2008 年 2 巻 1 号 p. 82-87
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    深海に棲息する微生物はその環境に適応するための特別な能力がある。好圧性細菌について海洋研究開発機構のグループが研究を行う以前はShewanella benthicaColwellia hadaliensis の2種類のみが正式に分離されているだけであった。我々は16S rRNAシーケンスデータからプロテオバクテリアγサブグループに属する種々の新規好圧性細菌を分離した。 数多くの分離した深海好圧性微生物により、その特徴と深海環境との関係がわかり始めた。その結果、好圧性細菌の増殖に対する温度や圧力の変化の影響は全て同じではなく、それぞれの種ごとに違っていた。
  • 河内 哲史, 原 好男, 荒尾 俊明, 鈴木 良尚, 田村 勝弘
    2008 年 2 巻 1 号 p. 88-95
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    一連の炭化水素ガス(C1~C4)加圧下で、代謝熱測定法により酵母の増殖挙動をモニタリング・解析し、その細胞毒性を定量的に評価した。各気体ごとに、50%増殖阻止圧力(IP50: Inhibitory pressure 50)と最小増殖阻止圧力(MIP: Minimum inhibitory pressure)を決定した。その結果、炭化水素ガスの種類、異性体によって毒性が異なり、n-ブタン>i-ブタン>プロパン>エタン>メタンの順に毒性が大きいことが明らかになった。炭化水素ガスの毒性は、その疎水性との間に強い相関関係があったことから、炭化水素ガスが酵母の細胞膜などの疎水性領域と作用し、生体膜に何らかの影響を与えているものと考えられる。また、炭化水素ガス加圧により、酵母から核酸関連物質の漏出が確認された。さらに、炭化水素ガス加圧による酵母の形態変化を走査電子顕微鏡により観察したところ、細胞が変形、陥没している様子が認められた。
  • 原田 暢善, 岩橋 均, 大淵 薫, 田村 勝弘
    2008 年 2 巻 1 号 p. 96-100
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    二酸化炭素ガスの微高圧雰囲気下におけるクコ果汁野生付着菌に対する殺菌効果について検討を行なった。中国、寧夏回族自治区中寧県にて収穫したクコ(学名:Lyceum barbarum)果実から、クコ果汁を作成し、加圧容器に封入後、二酸化炭素ガス加圧処理を行い、野生付着菌に対する影響について検討を行なった。二酸化炭素ガス50気圧条件で1日間処理した場合、クコ果汁野生付着菌の生菌数がシャーレ-のスポットの数で10個以下になるというきわめて明瞭な殺菌効果が、細菌用LB平面培地、酵母用YPD平面培地、カビ用PDF平面培地において確認された。さらに、二酸化炭素ガス3気圧条件という微高圧条件においても、14日間の長期処理条件において、50気圧で1日間処理条件に相当するきわめて明瞭な殺菌効果が確認された。現在、商業的流通食品の加圧基準上限が4気圧であることから、4気圧以下の条件においての二酸化炭素加圧ガスによる商業的流通食品への応用が期待された。
  • 村本 桂久, 田村 勝弘, 荒尾 俊明, 鈴木 良尚, 岩橋 均
    2008 年 2 巻 1 号 p. 101-108
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    我々の研究から,スダチ果汁を100気圧程度の酸素ガスで直接加圧すると,香りや色等の品質を保持したまま,果汁中の酵母を殺菌でき,さらに,窒素ガスで加圧処理を行うと,果汁中の溶存酸素を除去できることが分かった.これらの研究成果は500 ml以下のバッチ式加圧処理装置によるものであったが,今回,装置のスケールアップと果汁の連続処理を実現し,高品質の柑橘系「生」果汁を生産する,一連のハイブリッドシステム装置を設計・試作した.また,試作した“酸素・窒素ガスハイブリッド加圧食品殺菌装置”で,スダチ果汁を処理したところ,基礎研究と同じ,50°C,10 MPa,1分間の処理で,果汁中の酵母を殺菌することができた.
  • 阿部 文快
    2008 年 2 巻 1 号 p. 109-114
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeをモデル生物として用い、非致死的な圧力の効果を遺伝子の発現および機能面から網羅的に調べた。DNAマイクロアレイ解析の結果、DAN/TIRファミリー遺伝子の転写レベルが高圧下(25 MPa, 24 °C)で著しく増大することがわかった。同様な転写増強は、細胞を低温下(0.1 MPa, 15 °C)で培養したときにも見られた。DAN/TIR遺伝子は細胞壁タンパク質をコードしているが、通常の培養条件下(0.1 MPa, 24 °C)でほとんど発現していない。実際、高圧や低温処理した細胞は、細胞壁溶解酵素や低濃度のSDS、あるいは致死的レベルの高圧(125 MPa)への耐性を獲得した。このことは、細胞による高圧と低温の認識機構には共通点があること、および環境適応において細胞壁の強化が重要であることを示唆している。
  • 田中 喜秀, 東 哲司, Randeep Rakwal, 柴藤 淳子, 脇田 慎一, 岩橋 均
    2008 年 2 巻 1 号 p. 115-121
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    メタボロミクスとは、生体中の有機酸、アミノ酸などの低分子化合物や代謝物質を網羅的に解析することであり、ゲノミクス、プロテオミクスに続き注目を集めている新規研究分野である。キャピラリー電気泳動-質量分析法(CE-MS)は、イオン性代謝物質を網羅的にかつ定量的に測れる極めて有望な分析手法である。本研究では、モデル生物として酵母(Saccharomyces cerevisiae)を用い、高圧ストレス応答時の代謝ネットワークの変化を捉えるために、CE-MSを用いてアミノ酸を中心とした代謝産物の定量的変化を測定した。酵母の高圧ストレス応答では、多くのアミノ酸が増加し、代謝系の亢進を支持する結果が得られた。バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニンなどの疎水性アミノ酸類の増加は、DNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析結果だけではなく、代謝産物の観点からも組織の損傷やタンパク質の分解亢進を示唆する結果が得られた。
  • 岩橋 均, 原田 暢善, 三澤 雅樹, 高橋 淳子, 大淵 薫, 山本 和貴, 笹川 秋彦, 小林 篤, 山崎 彬
    2008 年 2 巻 1 号 p. 122-129
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    高圧食品加工技術は、基礎研究から実用化の段階まで広く研究されており、その技術は社会的にも受け入れられ始めている。今後は、その普及を加速する必要があり、高圧食品加工技術の標準化が求められている。そこで、標準化の一環として、高圧殺菌の標準となる、指標微生物の調整法の標準化を検討している。本論文では、標準情報原案という形で、その内容を提案し広く意見を求めることにした。
  • 香月 聡, 岩本 和香子, 山口 武夫
    2008 年 2 巻 1 号 p. 130-137
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    マウス赤白血病 (MEL : Murine Erythroleukemia)細胞に100 MPaの高圧処理を行うと、ミトコンドリアの膜電位低下、カスパーゼ3の活性化やDNAラダーなどのアポトーシスに特徴的な現象が見られることが報告されている。今回、アポトーシスに伴う細胞の形態変化、カスパーゼ3の活性化経路、細胞内の水の状態変化について検討した。カスパーゼ8とカスパーゼ9の阻害剤を用いた解析から、100 MPaの高圧処理をした細胞で見られるカスパーゼ3の活性化には、カスパーゼ8とミトコンドリアを介する2つの経路が関与していることがわかった。高圧処理した細胞の走査型電子顕微鏡による観察は、細胞膜表面の平滑化を示した。また、1H-NMRによる細胞内の水のスピン‐格子緩和時間 (T1)の測定から、高圧処理直後では細胞からの水の流出が、180分間培養した細胞ではアポトーシスの進行に伴い、細胞内への水の流入が考えられた。
  • 舩本 誠一, 橋本 良秀, 佐々木 秀次, 服部 晋也, 本田 貴子, 南 祐広, 望月 学, 藤里 俊哉, 木村 剛, 小林 尚俊, 岸田 ...
    2008 年 2 巻 1 号 p. 138-144
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    人工角膜として、これまでに多くの材料研究が行われているが、移植後の感染や脱落により、長期間有用である人工角膜開発には至っていない。一方、異種組織から細胞を除去し、残存する基材を移植組織として用いる方法として、組織の脱細胞化が検討されている。これまで我々は、脱細胞化法として、超高圧印加により組織内の細胞を破壊し、洗浄により細胞残渣を除去する超高圧脱細胞化法を考案した。本手法で、細胞の除去による免疫反応の抑制と生体の微小構造の保持による適合性の向上が期待できる。本研究では、超高圧脱細胞化法による人工角膜の作製とその物性解析を行ない、角膜移植片としての可能性を検討した。超高圧処理で得られた脱細胞角膜は、生体角膜に比べ白濁はしていたが組織内部から細胞は完全に除去されていた。また、移植結果により白濁していた角膜は透明となり移植後の拒絶も観察されなかった。このことから、超高圧印加法は、組織構造を維持しつつ、組織内からの細胞除去が行え、組織適合性が高い組織の作製ができるものと考えられ、かつ眼科領域における移植組織不足を解消できるものと考えられる。
食品
  • 木 泰華, 王 娟, 萩原 敏夫, 東 徳洋
    2008 年 2 巻 1 号 p. 145-152
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    牛乳ホエータンパク質(WPI)の加圧誘導ゲルのタンパク質消化性の評価をするため、未加圧および加圧(200-600MPa) WPIを用いて、in vitro模擬消化率の測定を行い、さらに、SDS-ポリアクリルアミド電気泳動により、構成タンパク質の消化性を調べた。ペプシンとトリプシンの二段階の消化を経た加圧誘導ゲルのタンパク質消化率は、未加圧WPIの溶液の61.02%から72.59%に上昇し、400MPa以上の加圧では、消化率に変化は認められなかった(ANOVA, p<0.05)。また、未加圧WPIに比べ、加圧ゲル中のβ-ラクトグロブリン(β -Lg) はペプシンにより消化されやすくなり、600MPaの加圧ゲルでは、β -Lgはほぼ完全に消化された。ペプシン消化によりβ -Lgからは分子量約3500-6500のペプチドが生成された。
  • 鈴木 敦士, 荒川 美穂, 山本 州平, 西海 理之
    2008 年 2 巻 1 号 p. 153-160
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    食肉の軟化・熟成をもたらすものの一つとしてコネクチンを構成成分とする弾性フィラメントの脆弱化がある。我々は先に、筋肉を超高圧に短時間曝すとα-コネクチンはβ-コネクチンへ変換する事、この変換はカルパインによって引き起こされる事を報告した。また 超高圧処理が筋節中のコネクチンエピトープの局在性に及ぼす影響についても免疫電子顕微鏡法により観察し、通常の熟成中に生じる変化と比較検討した。本研究では高圧処理がコネクチンの分子構造に及ぼす影響を主に光学的な手法によって明らかにした。CDスペクトルの測定から、コネクチンはβ構造が主要な部分を占めていることが明らかになった。400MPaまでの加圧では大きな変化は認められなかったが、処理圧力が600MPaまで増加するとβシート構造の有為な減少とターンの有為な増加が認められた。蛍光スペクトルの測定および質量中心の変化から、コネクチンの三次構造は100-200 MPaの比較的低い圧力では可逆的な変化を受けるが、処理圧力がさらに高くなると、その変化は不可逆的になると考えられる。
  • 岩崎 智仁, 山本 克博, 中村 邦男
    2008 年 2 巻 1 号 p. 161-170
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    低イオン強度下の骨格筋ミオシンは自己集合してフィラメントを形成し,このミオシンフィラメントを加圧するとゲルを形成することから,加圧処理による食肉加工の可能性が示唆されている.加熱あるいは加圧処理によって得られたゲルはいずれも線維(ストランド)タイプと呼ばれる網目状の構造から成るが,その物性は処理温度や圧力によって異なる.本研究では,その原因を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて解明することを目的とした.AFMにより化学固定処理なしに溶液中にて,ゲルを構成する線維(ストランド)の形態を観察したところ,処理温度や圧力に依存してミオシンフィラメントが側面会合していく様子が観察されたが,ゲル物性の差異を説明できるような変化は認められなかった.そのため,AFMを用いて,個々のストランドの弾性率を測定した.加熱処理では,55 °Cで最大の10.24±1.16MPaを示し,それ以上の加熱温度では弾性率は低下した.加圧処理では,処理圧力の増加に伴って弾性率が増加し,500 MPa で処理した場合,9.80±0.84 MPaを示した.これらストランドの弾性率変化は,ゲル自体の弾性率の変化と一致していた.ミオシンは2つの頭部と1本の尾部から構成されるタンパク質である.これらの部位のいずれの変性が,ストランドの物性に影響を及ぼしているかを同様の方法で検討した.頭部の変性体は処理温度や圧力の増加に伴って弾性率が高くなる傾向にあった.一方,尾部の変性体は,ストランドの場合と同様に,加熱処理では55 °Cで最大の弾性率を示し,加圧処理では500 MPaの処理で最大値を示した.これらのことから,ミオシンフィラメントの加熱ゲルの物性はミオシン尾部の変性に大きく影響され,加圧ゲルの物性はミオシン頭部と尾部のいずれの変性にも影響を受けることが明らかになった.
  • 神田 泰子, 原 崇, 城 斗志夫, 松野 正知, 鈴木 敦士, 小谷 スミ子
    2008 年 2 巻 1 号 p. 171-179
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    オボムコイド(OVM)は熱や酵素および化学処理に安定であるため抗原性やアレルゲン性を低減化するのが困難である。そこで高圧処理と酵素処理を併用しOVMのアレルゲン性を低減化できるか否かを検討した。OVM 1.4mg/ml溶液を100-600 MPaの高圧処理後または処理下で37°C、30分間ペプシンまたはキモトリプシン処理した。ペプチドプロフィールはtricine SDS-PAGEにより、残存抗原活性は抗OVMウサギ血清IgGおよび患者血清IgEを用いたELISA法により、残存アレルゲン活性はヒト好塩基球様KU812F細胞と卵アレルギー患者血清を用いたヒスタミン遊離試験により検討した。その結果、α-キモトリプシンによるOVMの消化が高圧下において著しく促進され、 抗原性およびアレルゲン性が著しく低減化される現象を見出した。最も低下した圧力は400 MPaで、抗原性は未処理OVMの約20%にアレルゲン性は約30%に減少した。OVMを高圧下でα-キモトリプシン処理することはその抗原性とアレルゲン性を低減化させるのに有用と考えられる。
  • 顧 暁曄, 小関 成樹, 山本 和貴
    2008 年 2 巻 1 号 p. 180-184
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    微生物不活性化の対象となる農産物の生物活性に及ぼす影響について調べるため、水分含量が異なる緑豆種子をモデルとし、高圧処理による発根力への影響を検討した。高圧処理した緑豆の発根・もやし化率は、緑豆の水分含量が高い程低下した。乾燥緑豆(水分含量7%)は、600 MPaまで高圧処理してもほぼ100%がもやし化した。
  • 山本 和貴, 川井 清司, 深見 健, 小関 成樹
    2008 年 2 巻 1 号 p. 185-189
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    馬鈴薯澱粉がトウモロコシ澱粉よりも高い圧力耐性を示すことは、澱粉含量、処理圧力が限られた条件下で知られていたが、系統的な研究はなかった。本研究では、両澱粉の圧力糊化挙動を、澱粉含量(10、30、50、70%w/w)、処理圧力(200 MPa~1,200 MPa)を両軸とする状態図として整理し、馬鈴薯澱粉は、トウモロコシ澱粉よりも圧力耐性が高く、圧力糊化に必要な処理圧力が各澱粉含量において200 MPa以上高いことを示した。また、本研究で得られた状態図により、これまで特定実験条件下でのみ観測されていた高圧処理直後からの澱粉老化が、澱粉含量、処理圧力の観点から広範囲で解明され、各種澱粉含量で高圧処理した馬鈴薯澱粉及びトウモロコシ澱粉を、完全糊化、部分糊化、完全糊化+老化、部分糊化+老化、(熱的)無変化の5つの状態に分類できるようになった。
  • 山本 和貴, 中山 真一郎, 村関 尚志, 中山 勝夫, 顧 暁曄, 小関 成樹
    2008 年 2 巻 1 号 p. 190-194
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    カキが高圧処理によって開殻し、脱殻が容易になることは既に知られ、日本、米国では加工用カキの開殻・脱殻操作として実用化されている。しかし、カキ以外の二枚貝の開殻・脱殻可能性については、十分に検討されていない。そこで本研究では、カキ以外の二枚貝を用いて、高圧開殻・脱殻の可能性を検討した。
  • 中山 真一郎, 中山 勝夫, 小関 成樹, 山本 和貴
    2008 年 2 巻 1 号 p. 195-199
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/30
    ジャーナル フリー
    新しい地域産業の育成を目指して、つくば市を中心とした中小企業が結集し、つくば高圧食品技術研究会が平成16年に発足した。この研究会の目的の一つは、従来、大手食品企業のみが生産に利用していた高圧技術を、中小の食品企業が使えるようにするため、安価な高圧加工装置を製作することである。この活動の中で、つくばに拠点を置く独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構食品総合研究所とともに、農林水産省の「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業に関する委託事業」を実施することとなり、この事業の中で高圧加工装置の試作機製作を実施することとなった。これらの取り組みを経て、最高使用圧力 200 MPa、容量: 20L (250mmΦ ×420mm)、使用可能温度が常温~60°Cの試作機を完成させた。
feedback
Top