園芸学研究
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14 巻, 3 号
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原著論文
育種・遺伝資源
  • 中村 薫, 布施 泰史, 八反田 憲生, 福元 孝一, 郡司 定雄, 明石 良
    2015 年 14 巻 3 号 p. 211-220
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/30
    ジャーナル フリー
    省力化を目指して育成した無巻きひげ形質を持つ切り花品種‘ムジカローズ’と‘ムジカパープル’を用いて,その特性を明らかにした.さらにそれらを用いて誘引作業に要する時間や作業特性を調査し,無巻きひげ形質の省力効果について検討した.無巻きひげ形質は巻きひげ形質に対して劣性であるため,いずれの品種とも無巻きひげ形質の品種に巻きひげ形質の品種を交配して育成した.F2世代で無巻きひげ形質の個体を選抜することで,F3世代に無巻きひげ形質を固定できることが確認できた.‘ムジカローズ’は花色が鮮紫ピンク(JHSチャート9204)で花径は大きい春咲き性の品種である.‘ムジカパープル’は花色が鮮赤味紫(JHSチャート8906)で花径が中の冬咲き性の品種であるが,春咲き性品種と同じく促成栽培では4週間の種子冷蔵期間で管理することができる.これら無巻きひげの2品種の摘除作業時間は巻きひげ形質の品種の半分以下であった.摘除作業の運動解析によって,無巻きひげ形質の品種は巻きひげ形質の品種に対し肘および手首の作業範囲が狭く,また,肘の相対移動距離が短く,作業者への負担が小さいことが示された.
  • 立澤 文見, 山本 啓未, 津田 旭, 庄野 浩資, 加藤 一幾
    2015 年 14 巻 3 号 p. 221-230
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/30
    ジャーナル フリー
    ニチニチソウ16品種の花弁における花色とフラボノイド組成について調査した.11種類のアントシアニン(2種類の植物界での新規アントシアニン:ヒルスチジン3-ガラクトシドとロシニジン3-ガラクトシド,および,ニチニチソウでの新規アントシアニン:7-メチルシアニジン3-ガラクトシドを含む)とともに2種類のカフェオイルキナ酸および10種類の既知フラボノールが同定された.ニチニチソウの有色花弁(目の部分を除く)の赤色から紫色への花色変異(色相値の減少)はフラボノール配糖体の増加,アントシアニン量の減少,および,アントシアニジンのB環のヒドロキシル化およびメトキシル化パターンが大きく影響することが考えられた.
栽培管理・作型
  • 馬場 隆士, 長谷川 莉代, 半 智史, 船田 良, 伴 琢也
    2015 年 14 巻 3 号 p. 231-239
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/30
    ジャーナル フリー
    ブルーベリーにおける裂果発生機構の解明および予防策の開発に必要な知見を得ることを目的として,ラビットアイブルーベリー‘Tifblue’の果実重,採取時期,成熟段階が裂果に及ぼす影響と果実の吸水経路を室内試験によって調査した.適熟果において,果実重,裂果率,吸水24時間後の吸水量および吸水速度の間にそれぞれ有意な正の相関が認められた.また,裂果率と吸水率の間にも有意な正の相関が認められたが,果実重と吸水率の間には相関関係が認められなかった.果実重が大きいことは吸水速度および最終的な果実への水の浸透量を増加させ,裂果感受性を高めたかもしれない.未熟な果実において裂果はほとんど発生しないのに対し,適熟果では裂果が発生し,その程度は採取時期・果実の部位により異なった.果実の吸水について,小果梗付着部と比較すると果皮からの吸水量はわずかであることから,裂果に関与する果実への吸水経路は小果梗付着部と考えられた.
  • 河原林 和一郎
    2015 年 14 巻 3 号 p. 241-254
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/30
    ジャーナル フリー
    マドンナリリーを我が国の生産園芸品目の一つとすることを目的に研究を行った.本報では,球根の大きさ(球周),低温処理の温度と期間および栽培温度が開花に及ぼす影響を検討するとともに,二度切り栽培の可能性を調査し,以下の結果を得た.マドンナリリーでは,球周約5 cm以上で開花可能な球根の大きさとなり,開花率が高く,草丈80 cm程度,花数5輪以上を確保できる実用的な開花球根の大きさは,季咲き栽培では少なくとも球周10 cm以上,4°C・65日間処理球根の9月定植促成栽培では球周20 cm以上となった.さらに,促成栽培では,低温処理法を工夫することで実用的な開花球根の大きさを小さくできる可能性が認められた.球根の低温処理は出茎と茎の伸長を促進し,25°C栽培条件下での開花には,球根の十分な低温遭遇の必要性が示唆された.開花のための2,6,10°Cでの低温処理期間は5週間では不十分であり,10週間は必要であった.開花率は,10°C・10週間処理で2°C・10週間処理より高くなったが,10°C・5週間後に2°C・5週間を組み合わせることによって,さらに向上した.25°C一定あるいは35°C(昼)/25°C(夜)などの高温下での栽培では,花芽の分化・発達が異常となりアボーションや奇形花が発生した.一方,促成栽培により年内に開花させた株の切り下球では自然低温遭遇によって,また1月に開花させた株の切り下球でも,10°Cで5週間後2°Cで5週間の低温処理を行うことによって開花が見られ,これらの開花時期の促成栽培作型からの二度切り栽培は可能であることが確認できた.
  • 石村 修司, 平野 江美子, 日高 拓未, 本勝 千歳, 鉄村 琢哉
    2015 年 14 巻 3 号 p. 255-260
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/30
    ジャーナル フリー
    ‘平核無’(Diospyros kaki Thunb.)を接ぎ木した定植後11年目の‘MKR1’,強勢台木であるヤマガキ実生(共台),台木aおよび‘平核無’自根樹における個葉の光合成速度を,2013年の5月2日,5月6日,7月11日,8月6日,8月15日および9月26日に,朝から夕方にかけて測定した.各測定日における個葉の光合成速度の平均値は,台木間に有意な差はなく,総光合成産物量は,他の台木樹と同等であると考えられることから,カキにおいて‘MKR1’台木樹がわい性を示す原因は,葉の光合成速度が低いことによるものではないことが明らかとなった.なお,光合成有効照射密度(PAR)が2000 μmol・m−2・s−1を超えた時は,いずれの樹も光合成速度の低下する傾向が認められ,光阻害が生じていると考えられた.‘MKR1’台木樹の光合成速度は,5月6日の14時に著しく低下し,他の台木樹より有意に低くなった.これについては,‘MKR1’台木樹は他の樹と比べて,わい化して葉量が少なく,葉に強光が当たりやすいため,光阻害が生じやすい可能性が考えられた.
発育制御
  • 山口 訓史, 後藤 丹十郎, 大谷 翔子, 安場 健一郎, 田中 義行, 吉田 裕一
    2015 年 14 巻 3 号 p. 261-266
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/30
    ジャーナル フリー
    生育段階の異なるシュートに対する温度条件がシュッコンカスミソウ‘アルタイル’の形態異常花序発生に及ぼす影響を検討した.シュート長20 cmから2週間15°Cに加温することで,8週間15°Cに加温した場合と同様に,形態異常花序発生が軽減された.2週間加温した個体の切り花長と切り花重は,8週間加温した個体よりも大きくなった.形態異常花序が発生するシュート長と頂芽における花芽分化段階との関係を調べたところ,頂芽のステージが栄養成長からがく片形成期に当たるシュート長が約1~20 cmから15日間の15°C加温で最も形態異常花序が抑制できた.形態異常花序に及ぼす低温の影響を明確にするため,異なる生育段階に対する低温遭遇(7°C)が形態異常花序発生に及ぼす影響を調査した.異なる生育段階に高温(15°C)に遭遇させた実験と同様に,頂芽のステージが栄養成長からがく片形成期までの低温遭遇が形態異常花序発生に大きく関与していた.以上のことから,摘心直後からがく片形成期の期間,株を低温に遭遇させないように温度管理することで,形態異常花序の発生を抑制でき,切り花形質も改善できると考えられた.
  • 村松 嘉幸, 河野 寿紀, 窪田 聡, 腰岡 政二
    2015 年 14 巻 3 号 p. 267-272
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/30
    ジャーナル フリー
    夏季の高温により生育と開花が抑制されるミニシクラメンを用いて,根域冷却が生育・開花に及ぼす影響について検討した.根域温度を20°C,23°C,26°Cに調節した区と冷却を行わない無冷却区を設けた.各区の根域温度は設定温度の±1~2°Cの範囲に制御され,無冷却区の平均最低温度と最高温度はそれぞれ約25°Cと28°Cであった.栄養生長は無冷却区と比較して23°Cで促進された.20°Cの開花は10月中旬から始まり,花数は20日後には約7輪/株となった.開花は根域温度の上昇とともに遅れ,20°C,23°C,26°Cおよび無冷却区の開花株率は,それぞれ82,60,44および20%となった.しかし,花蕾数は23°Cで約65個/株と最も多くなり,20°Cおよび無冷却区に比べて,それぞれ25個および10個増加した.これらのことから,根域を23°Cまで冷却すると栄養成長および花芽形成が促進され,20°Cまで冷却すると開花が促進された.
収穫後の貯蔵・流通
  • 山崎 博子, 庭田 英子, 矢野 孝喜, 長菅 香織, 稲本 勝彦, 山崎 篤
    2015 年 14 巻 3 号 p. 273-281
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/30
    ジャーナル フリー
    ニンニクりん茎は周年出荷のため約−2°Cで長期貯蔵される.貯蔵終了後の常温条件では根や芽が伸長し,商品価値が低下するため,これを抑制する目的で貯蔵終了時に高温処理が行われている.本研究では,最適な高温処理条件を選定するための基礎知見を得るため,高温処理温度に対するニンニクりん茎の反応特性を明らかにした.7月に収穫・乾燥後,−2°Cで異なる期間貯蔵したりん茎に37~50°Cで12,18時間の高温処理を行い,15°Cで4週間保管後の根,芽の伸長を調査した.9~11月に−2°C貯蔵から出庫したりん茎への高温処理では,根の伸長抑制効果は概ね43°Cでピークに達し,これより高温では一旦低下し,さらに高温では処理温度が高くなるほど高まった.2,5月に出庫したりん茎への高温処理でも類似の温度反応が認められた.但し,伸長抑制のピーク温度は2月処理では41~43°C,5月処理では40~41°Cと処理時期が遅くなるに従って低下した.根の伸長を強く抑制する処理温度の範囲は,処理時期が遅くなるに従って拡大した.高温処理が芽の伸長に及ぼす影響は概ね根の伸長に及ぼす影響と類似した.高温処理による障害は処理時期が遅くなるほど低い温度で発生した.これらの結果および処理コストを考慮し,りん茎の出庫時期別に高温処理に適する温度条件について考察した.
  • 市ノ木山 浩道, 奥田 均, 後藤 正和
    2015 年 14 巻 3 号 p. 283-289
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/30
    ジャーナル フリー
    ‘カラマンダリン’成熟果,‘新姫’未熟果および成熟果の果実全体を供し,圧搾搾汁機で種々の加圧圧力(6, 8, 10, 12, 14 Mpa)で搾汁した.搾汁率はいずれの品種,熟度でも搾汁圧が低いほど小さい傾向が見られた.全果汁に含まれるフラボノイド(エリオシトリン,ナリルチン,ヘスペリジン,ネオポンシリン,シネンセチン,ノビレチン,タンゲレチン)類を高速液体クロマトグラフで分離・定量したところ,‘新姫’の全果汁中のシネンセチン,ノビレチン,タンゲレチンは搾汁圧が高まるほど増えた.全果汁の味覚を味認識装置で評価したところ,果肉のみの果汁とは異なり,渋みや苦味が強くなる傾向にあった.さらに,におい識別装置によりにおいの評価を行ったところ,全果汁では果肉のみの果汁にくらべアミン系のにおいが高まった.
  • 知野 秀次, 松本 辰也, 児島 清秀
    2015 年 14 巻 3 号 p. 291-296
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/30
    ジャーナル フリー
    本研究は異なる酸素透過率のポリプロピレンフィルムが‘越さやか’果実の追熟に及ぼす影響を調査した.収穫適期に収穫した果実を酸素透過率の異なるフィルム(2,500~100,000 mL・m−2・24 hr−1・atm−1)に個々に包装し,それらの果実を20°Cのインキュベーター内で追熟させた場合,果実の正常な追熟が抑制された.一方,収穫適期に収穫した果実を0~1°Cで14日間の低温処理し,酸素透過率の異なるフィルム(20,000~200,000 mL・m−2・24 hr−1・atm−1)に個々に包装した場合,それらの果実は20°Cの追熟中に軟化した.その時,高酸素透過率(200,000 mL・m−2・24 hr−1・atm−1)のフィルム内のガス組成は大気とほぼ同レベルであった.追熟中の果実の水分消失がフィルム包装によって抑制され,外観品質が向上した.
  • 水野 寛士, 田中 仁奈, 橋本 早紀, 山本 達也, 中野 龍平, 牛島 幸一郎, 久保 康隆
    2015 年 14 巻 3 号 p. 297-304
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/30
    ジャーナル フリー
    エダマメは主に夏季に栽培,収穫され気温が高いことから,収穫後に品質低下しやすい.本研究では‘ふくら’と‘湯あがり娘’を用い,種々の貯蔵温度,形態(“枝葉付き”,“枝付き”,“もぎ莢”)が収穫後のエダマメの品質に及ぼす影響を経時的に調査した.いずれの品種でも,15°C以上の貯蔵では糖含量は3時間後に収穫時の約80%以下に,遊離アミノ酸含量は6時間後に収穫時の約80%以下に減少した.常温近くで貯蔵すると3時間という非常に短い間に品質が低下することが明らかになった.しかし,10°C以下の貯蔵条件は,外観保持効果に優れ,糖含量は10時間後でも収穫時の約80%以上,遊離アミノ酸含量は24時間後でも収穫時の約80%以上保持した.低温貯蔵は品質低下抑制に非常に有効であった.枝葉付き貯蔵にも一定の品質保持効果が見られたが,貯蔵温度と時間の影響の方が明らかに大きかった.これらの結果から,エダマメを高品質に保つためには,収穫後3時間以内に10°C以下の温度に管理することが重要と考えられた.
新品種
  • 室 崇人, 嘉見 大助, 杉山 慶太
    2015 年 14 巻 3 号 p. 305-311
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/09/30
    ジャーナル フリー
    タマネギに含まれるフラボノイド類のケルセチンは,ヒト介入試験により血圧の抑制効果が報告されており,機能性成分として注目されている.そこで,既存の品種よりもケルセチンを高含有することで,消費者に対し付加価値を有する黄色のタマネギ品種を育成した.
    農研機構において育種素材のケルセチン含量を評価し,選抜素材系統より花粉親系統‘OPP-5’と種子親系統‘OSP-3’を開発した.‘クエルゴールド’は,両系統の交配より得られるタマネギF1品種で2013年に品種登録出願受理された.
    ‘クエルゴールド’は寒地・寒冷地に適した中生の黄タマネギ品種で,収量性は主要品種‘北もみじ2000’に劣る.しかし,‘クエルゴールド’の乾物1 g当たりのケルセチン含量は5.4 mg Q・g−1 DWで,‘北もみじ2000’の3.2 mg Q・g−1 DWおよび‘クエルリッチ’の3.4 mg Q・g−1 DWよりも多く,ケルセチンを高含有する特徴を有する.そのため,既存品種に代わり通常の食生活において利用することで継続的により多くのケルセチンの摂取が可能となる.ケルセチンを高含有する特性は商品に付加価値を与え,食生活を通じて生活水準の向上を目指す新たな農産物の販売手段として,その利用が期待される.
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