園芸学研究
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15 巻, 3 号
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原著論文
育種・遺伝資源
  • 西本 登志, 後藤 公美, 山口 智子, 吉田 裕一
    2016 年 15 巻 3 号 p. 221-231
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    業務用高級食材として流通する奈良県在来系統の丸ナス‘矢田系’の調理適性に関する基礎的知見を得るとともに,ナスの調理適性に関する品種・系統間差を明らかにするため,‘矢田系’を含む7品種・系統について,塩漬け,調味漬け,揚げ出し,煮浸し,蒸しおよび焼きの6種の調理を施し,官能評価を行った.また,塩漬け前後の水分含有率の変化と,渋味に影響を及ぼすとされるクロロゲン酸含量と総ポリフェノール含量を測定し,官能評価結果との関係を調査した.美味しさについては揚げ出しを除くすべての調理法において,渋味は塩漬け,蒸しおよび焼きにおいて,果肉の歯ごたえと水気については調査したすべての調理法において,果皮の歯ごたえについては塩漬け,調味漬け,煮浸しおよび蒸しにおいて,それぞれ有意な品種・系統間差が認められた.揚げ出しの油っこさ,煮浸しの味の浸透,焼きの甘味についても,それぞれ品種・系統間差が認められた.美味しさとの間で有意な相関が認められた官能評価項目は渋味,果肉の歯ごたえ,水気および甘味であった.塩漬け,調味漬けおよび揚げ出しでは,果肉のクロロゲン酸含量ならびに総ポリフェノール含量と,調理後の渋味の間で有意な正の相関が認められた.‘矢田系’は,揚げ出しと焼きにおいて果肉の歯ごたえと甘みに優れ,最も高い適性を示した.
  • 石本 慶一郎, 福田 伸二, 山本 俊哉, 寺上 伸吾, 稗圃 直史, 谷本 恵美子
    2016 年 15 巻 3 号 p. 233-240
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    ビワがんしゅ病はビワ栽培における重要病害のひとつであり,培地上での褐色色素と葉肉に対する退緑病斑形成の有無によりA,BおよびCの3グループ菌に分類されている.本研究では,ビワ交雑実生集団においてAグループ菌抵抗性個体のMAS法による選抜手法を確立することを目的に,新たにSSRマーカーを設計し,タイワンビワ(E. deflexa)に由来するAグループ菌抵抗性遺伝子座(Pse-a)近傍連鎖地図の高密度化を図った.解析の結果,Pse-a遺伝子座を含む9.0 cMの領域に9つのSSRマーカーが座乗する高密度連鎖地図が作成された.次に,抵抗性個体の選抜に利用可能なマーカーを選定するために,国内外ビワ57品種(日本:43品種,海外:13品種,不明:1品種)のAグループ菌抵抗性に対する表現型とPse-a遺伝子座近傍に座乗する9つのSSRマーカーにおける対立遺伝子型の対応関係について検討を行った.その結果,それぞれのマーカーについて,抵抗性遺伝子に特異的に連鎖するバンドが確認され,適合率および判別のしやすさから,SSR0254およびSSR0858の2つのSSRマーカーを抵抗性個体を選抜する際に特に有用なマーカーとして選定した.これら2つのマーカーについて,それぞれ2組合せの交雑実生集団を用いて組換え価を算出した結果,SSR0254マーカーでは2.3%および12.6%,SSR0858マーカーでは4.6%および10.3%であった.また,これら2つのマーカーによって抵抗性と判定された個体は,いずれのマーカーおよび組合せにおいても概ね90%以上の確率で接種検定による表現型判定の結果と一致していた.以上のことから,SSR0254マーカーおよびSSR0858マーカーはMAS法によるビワ育種において,Aグループ菌抵抗性個体を高い確率で選抜することができると考えられた.
土壌管理・施肥・灌水
  • 臼木 一英, 室 崇人, 辻 博之, 竹中 眞
    2016 年 15 巻 3 号 p. 241-246
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    黒ボク土圃場において播種したコート種子の直下2~4 cmに過リン酸石灰を施用する局所施肥が直播タマネギの生育に及ぼす影響について検討した.有効態リン酸が10 mg・100 g-1乾土以下の黒ボク土の圃場において,肥料を全層施肥した場合に比べて,施用リン酸の1/3を種子直下に局所施肥し,リン酸吸収を改善することで,第2葉から3葉の抽出が速まり,生育が促進されることが明らかになった.その結果,生育期間を通じて葉数展開が速まり,草丈や乾物重が増加するため,球肥大が助長され,加工用に適した直径8 cm以上(L大および2L)の個体割合が高まると考えられた.
  • 淺野 裕司, 番 喜宏
    2016 年 15 巻 3 号 p. 247-255
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    ヘアリーベッチのリビングマルチを利用したカボチャ露地栽培(3年間3作)において,ヘアリーベッチのすき込みと家畜ふん堆肥の施用による化学肥料の低減を検討した.ヘアリーベッチは10月に播種し,翌春,カボチャ栽培うね部分は,緑肥としてすき込み,うね間は,リビングマルチとした.ヘアリーベッチのすき込まれた地上部の全窒素量は,0.93~1.04 kg・a-1で,カボチャ作付前土壌の無機態窒素含量が高かった.ヘアリーベッチをすき込み,化学肥料の窒素成分を0.6 kg・a-1低減した栽培では,草勢や収量の低下が見られなかったことから,ヘアリーベッチのすき込みにより,窒素成分で0.6 kg・a-1程度の化学肥料の代替が考えられた.家畜ふん堆肥の施用による窒素の代替効果は低かったが,窒素以外の肥料成分については,家畜ふん堆肥の施用による代替が示唆され,窒素は,ヘアリーベッチのすき込みにより,その他の肥料成分は,家畜ふん堆肥の施用による化学肥料の低減が考えられた.
栽培管理・作型
  • 尾形 凡生, 大森 健太郎, 加島 麻衣子, 草島 裕也, 濱田 和俊, 長谷川 耕二郎, 山根 信三, 廣瀬 拓也, 杉山 慶太
    2016 年 15 巻 3 号 p. 257-266
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    軟X線照射花粉の受粉により,供試した‘富有’,‘松本早生富有’,‘伊豆’,‘太秋’,‘前川次郎’,‘西条’および‘禅寺丸’のカキ7品種すべてにおいて,収穫果実の完全種子がほぼ消失して空洞のしいな状種子となった.軟X線照射花粉を受粉したカキの受精胚珠は,受粉2週間後までは無照射花粉を受粉した胚珠と同様に発達したが,受粉4週間後に著しい胚乳組織の異常と胚の発達停滞が観察された.‘西条’,‘禅寺丸’,‘松本早生富有’では,軟X線照射花粉受粉果と無照射花粉受粉果との間に着果率の差はなかったが,‘太秋’は1000 Gy照射区で着果率が低下し,‘富有’,‘前川次郎’,‘伊豆’では500 Gy照射区,1000 Gy照射区とも無照射花粉受粉区に比べて着果率が低くなった.収穫果の品質では,‘西条’において軟X線照射花粉受粉果は無照射花粉受粉果に比べて果実重,果実径が小さくなり,‘富有’では果実縦径が低下したが,他の品種では果実の大きさに対する軟X線照射の影響は認められず,また,果実糖度,果肉硬度,果皮色に関しては,いずれの品種でも軟X線照射と無照射との間に有意な差はなかった.軟X線照射花粉を受粉した‘前川次郎’では,おそらくは完全種子消失の影響により,果頂裂果の発生が有意に抑制された.以上,本研究の結果より,軟X線照射花粉の人工受粉が,カキ無核・少核化技術として利用できる可能性が示された.
  • 阿部 弘, 川勝 恭子, 大友 英嗣, 西島 隆明
    2016 年 15 巻 3 号 p. 267-273
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    エゾリンドウの4年生株における切り花収量の減少要因を明らかにするため,2年生株から4年生株において,塊茎の発達過程と花茎の発生について調査した.2年生株から3年生株にかけて主塊茎の生育は旺盛になり,副塊茎の多くがこの時期に形成された.3年生株から4年生株にかけては,主塊茎の木化が進んで生育が緩慢になる一方で,副塊茎の発達が旺盛になった.株齢による花茎の発生は主塊茎と副塊茎で異なる傾向を示した.3年生株では,主塊茎からの花茎の発生が旺盛であった.これに対して,4年生株では,旺盛に発達する副塊茎からの花茎の発生が盛んになったものの,主塊茎からの花茎の発生が減少することにより,株全体の花茎発生が減少した.主塊茎の頂芽は栄養芽として存続し,側生器官である花茎と副塊茎を分化し続けた.従って,4年生株における主塊茎の発達の停滞は,無限成長性を維持したまま起こると考えられた.
  • 廣瀬 拓也, 田中 満稔, 松本 正明, 濱田 和俊, 尾形 凡生
    2016 年 15 巻 3 号 p. 275-282
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    軟X線を照射した花粉を受粉してヒュウガナツの無核果形成を誘導する技術の有用性を,慣行法である四倍体の‘カンキツ口之津41号’や‘西内小夏’花粉の受粉と比較して評価した.ヒュウガナツの慣用受粉樹である‘土佐文旦’と,‘カンキツ口之津41号’および‘西内小夏’の花粉に,500,1,000,2,000 Gyの軟X線照射して実験に用いた.
    軟X線を照射した花粉の発芽率およびその花粉をネットで花粉遮断した‘宿毛小夏’に人工受粉した時の収穫時の着果率は花粉品種にかかわらず照射線量が高くなるにつれ低下する傾向がみられた.完全種子は無照射の‘土佐文旦’,‘カンキツ口之津41号’および‘西内小夏’花粉の受粉果では,それぞれ23.8個,0.4個および1.5個形成されたが,軟X線照射花粉を受粉すると,ほぼ消失した.種子長10 mmを超える大きな不完全種子も,無照射の‘土佐文旦’,‘カンキツ口之津41号’および‘西内小夏’花粉の受粉果では1.5個,3.9個および2.3個形成されたが,500 Gyの軟X線照射花粉の受粉果では0.3個,0.2個および0.1個と減少し,1,000 Gy以上の軟X線照射花粉の受粉果では消失した.顕微鏡観察において,無照射の‘カンキツ口之津41号’および‘西内小夏’花粉を受粉した‘ヒュウガナツ’果実では,一部の胚は受粉8週間後にも生存しているのに対して,軟X線照射‘土佐文旦’花粉を受粉した‘ヒュウガナツ’果実では健全な胚はまったく認められなかったことから,軟X線照射は種子の発達をより強く阻害するものと考えられた.軟X線照射花粉の受粉によりヒュウガナツ収穫果の果実重は小さくなった.ただし,この小果化は,高知県のヒュウガナツ市場で消費者が少核の小さな果実をより好むことから考えれば,果実の価値を大きく損なうものではない.以上の結果より,軟X線照射した花粉を受粉する方法は大きな不完全種子を残さない点において有用なヒュウガナツ無核化生産技術であり,照射線量は500~1,000 Gyが適当である.
  • 守谷(田中) 友紀, 岩波 宏, 花田 俊男, 本多 親子, 和田 雅人
    2016 年 15 巻 3 号 p. 283-289
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    リンゴの主要4品種において,摘果期間早期の落果量を増加させる摘花剤がもたらす摘果期間全体での省力効果および果実肥大促進効果を検証し,各品種における効率的な薬剤摘花・摘果の方法を検討した.頂芽果落果率や腋芽の結実花そう率の違いから,薬剤摘花・摘果の効果は品種により異なった.‘つがる’および‘ジョナゴールド’では,摘花剤単用は腋芽の結実花そう率が高いために腋芽果の摘果に時間を要し,省力につながらなかった.果実肥大を考慮すると,両品種においては摘花剤と摘果剤の併用が最も効果的であった.‘シナノスイート’では,薬剤摘花・摘果による摘果作業の省力効果はなかったが,果実肥大が促進されることから摘花剤散布が有効であった.‘ふじ’では,人工受粉によって果実重と種子数が増加するため,人工受粉をしたうえで摘花剤と摘果剤を併用することにより,摘果作業を大幅に省力しつつ果実肥大を期待できる.摘花剤単用は摘果剤単用より省力効果があった.
  • 富田 晃, 萩原 栄揮, 山下(土橋) 路子, 新谷 勝広
    2016 年 15 巻 3 号 p. 291-295
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    温暖化に伴って,甘果オウトウは開花期に高温遭遇することが多くなり,結実が不安定になっている.しかし,結実に影響する温度域や高温の遭遇時間などについては,まだ詳細に検討されていない.本研究では,開花期の温度が胚珠退化に及ぼす影響を品種ごとに調査した.甘果オウトウ4品種の開花直前の樹を22~31°Cの温度で5時間処理したところ,すべての品種に共通して,温度が高いほど胚珠の正常花率は低下した.胚珠は高温遭遇した当日に大きなダメージを受けた.また,胚珠にダメージを与える温度域は品種により異なった.処理直後の胚珠の正常花率は,‘佐藤錦’では温度の上昇に伴って低下する傾向がみられた.‘高砂’は28°C以上,‘紅秀峰’と‘甲斐オウ果1’は31°C以上の高温で胚珠の正常花率の低下が顕著であった.その後は,‘佐藤錦’ですべての温度域において正常花率が急激に低下する傾向がみられた.これに対して‘紅秀峰’は日数の経過に伴う正常花率の低下が緩やかに進行した.一方,同じ品種を同時期に28°Cの温度で1~5時間処理したところ,胚珠退化に対する高温遭遇時間の影響は少なく,1時間の高温遭遇で胚珠退化への影響が発現した.供試した4品種は,いずれも開花期の高温によって胚珠退化が進んだが,胚珠退化の進捗状況は品種によって異なった.
  • 龍 勝利, 井手 治, 森山 友幸
    2016 年 15 巻 3 号 p. 297-303
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    促成トマト栽培では,低温による生育速度の低下や生理障害を回避するため加温が行われているが,福岡県におけるハウス内の昼温は生育適温を下回ることが多い.本実験では,日中の加温が商品果収量に及ぼす影響について検討した.1~2月の日中にハウス内の気温を20°Cに加温し,昼温を高めることで,開花間隔ならびに果実の成熟期間が短縮され,奇形果が減少して商品果数が増加した.さらに,日中加温処理期間中に開花した果房において果実肥大が促進された.光合成速度が速まり物質生産が増加するとともに,果実への転流が増加して果重が増加したと推察された.これらの要因により,4~5月の商品果収量が増加することが明らかとなった.
発育制御
  • 松田 健太郎, 石井 ちか子
    2016 年 15 巻 3 号 p. 305-313
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    南伊豆地域における‘カワヅザクラ’立木の開花促進による観賞期間延長のため,シアナミド剤の散布時期,散布濃度および立木への全面散布が開花および展葉に及ぼす影響について検討した.実験1ではシアナミド剤散布時期について検討し,11月17日散布で2~3週間の開花促進効果が認められた.実験2では散布濃度について検討し,シアナミド剤散布濃度1.00%以下の範囲では,濃度が高いほど開花が早まる傾向がみられた.しかし,2.00%では展葉の開始が早まる傾向がみられたことに加え,芽の枯死率が著しく増加したため,散布濃度としては0.75または1.00%が適していると考えられた.実験3では立木全面散布が開花および展葉に及ぼす影響について検討し,枝別散布と同等の促進効果が認められた.以上の結果から,‘カワヅザクラ’では,11月中旬に立木へのシアナミド剤濃度0.75または1.00%での散布により自然開花期と比較して2~3週間の開花促進効果が得られることが明らかとなった.また,シアナミド剤散布により開花促進された樹と自然開花した樹を併せると,南伊豆地域における‘カワヅザクラ’の観賞期間を従来の18日程度から,32~39日程度まで延長できると考えられた.
  • 水谷 祐一郎, 玉木 克知, 山中 正仁
    2016 年 15 巻 3 号 p. 315-321
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    ハボタンの紅色品種‘ウインターチェリー’および白色品種‘晴姿’を用い,着色に昼温,夜温および昼夜温差が及ぼす影響を,白色蛍光灯照射下で調査した.夜温の影響について調査した実験では,着色は,処理開始20日後までに,両品種とも,20/5°C(昼温/夜温)区および20/10°C区で認められ,20/15°C区では認められなかった.昼温の影響を調査した実験では,着色は,処理開始20日後までに,両品種とも,15/5°C区および20/5°C区で認められ,25/5°C区では認められなかった.昼夜温差を同一条件とした実験では,着色は,処理開始20日後までに,両品種とも,15/0°C区および20/5°C区で認められ,25/10°C区で認められなかった.すべての実験において,処理開始20日後における着色面積率は,20/5°C区が最も高かった.以上のことから,ハボタン‘ウインターチェリー’および‘晴姿’の着色を促す温度条件は,昼温20°C以下,夜温10°C以下であり,さらに,昼温20°C,夜温5°Cが最適であると考えられた.また,着色は,昼温が25°Cの高温であれば,夜温が10°C以下と低くても認められず,着色を促すには,昼温が夜温および昼夜温差よりも強く影響することが明らかとなった.
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