園芸学研究
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16 巻, 1 号
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原著論文
繁殖・育苗
  • 髙畑 健, 三浦 周行
    2017 年 16 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    オクラ種子の非高温下における出芽を生産者が容易に促進できるように,培養土を水分調節資材に用いたプライミングを開発しようとした.‘東京五角’ 種子と35~55%水分含量の培養土を瓶に入れて15~30°C下で1~4日間プライミングした後,コンテナに播種して20°C下に置いた.30°C/1日/45%区の出芽促進が著しく,播種後8日の出芽率が,無処理区の53%に対して,94%と優れた.30°C/1日/45%区の種子を5月に圃場播種したところ,無処理区より出芽が早く開始し,地上部新鮮重が均一であった.30°C/1日/45%区の種子を数日間室温下で保管後5月に圃場播種した結果,処理終了後直ちに播種した区と出芽特性に差がなかった.本実験のプライミングは出芽を促進させ,その効果は播種期の延期を想定した処理種子保管後も維持された.

土壌管理・施肥・灌水
  • 中野 有加, 岡田 邦彦, 佐々木 英和
    2017 年 16 巻 1 号 p. 7-18
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    水田転換畑における地下水位制御システム(FOEAS:Farm-Oriented Enhancing Aquatic System)の灌漑機能の活用を想定し,ブロッコリーの異なる生育時期および降水量下における地下灌漑の有効性を明らかにした.雨よけハウス下で2種類の土壌(黒ボク土と灰色低地土)を詰めた大型ポットを用いて試験した.地下灌漑処理は,付設タンクの水位を地表下–30 cmに設定して自動で給水した.夏播き秋どりブロッコリーの本圃生育期間の前期,中期,後期および全期間に少雨条件下(平年並み降水量の25%相当の地表灌水量)でそれぞれ地下灌漑処理を行った.地下灌漑なし・地表灌水量25%区と比較すると,地下灌漑処理によって土壌水分吸引圧が低く維持され,ブロッコリーの成長が旺盛となった.両土壌とも中期および全期間に地下灌漑を行った場合,平年並み降水量相当の地表灌水を行った場合と同程度の花蕾重が得られた.一方,地表灌水量によって地下灌漑の効果が異なり,平年並み降水量相当の地表灌水下では両土壌とも地下灌漑により花蕾重の減少,日持ち日数の短縮がみられた.従って,夏播き秋どりブロッコリー栽培において,生育時期や降雨条件に応じて地下灌漑を実施することによって干害を回避し,収量と品質を向上できると考えられた.

  • 塚越 覚, 日下 ゆり, 魯 娜, 丸尾 達, 北条 雅章, 淨閑 正史, 篠原 温
    2017 年 16 巻 1 号 p. 19-25
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    手賀沼の富栄養化水を利用したヨウサイの養液栽培で水路に沈殿するSSを造粒し,園芸培地として有効利用できるかを検討した.SS培地のNO3-N含有量は市販培地に比べて極めて少なかったが,交換性Mnは非常に高い値を示した.培地を好気発酵処理すると,SS培地のNO3-N含有量は発酵処理温度30°Cで処理前に比べて顕著に増加し,さらに処理中の培地の水分量が少ない程高い値を示した.交換性および水溶性Mn含有量は,SS培地の30°C処理では処理前よりも高くなった.一方,SS培地とバーク堆肥を混合することで交換性および水溶性Mn含有量が低下し,30°C処理でも処理後の水溶性Mn含有量の増加は認められなかった.45°C条件では培地の水分量にかかわらず,いずれの培地でもMn含有量が30 mg・kg–1以下となった.30°C処理のSS培地では,コマツナの初期生育が抑制されたが,それ以外の処理区では,コマツナの生育の差は比較的小さかった.以上,SS培地で栽培したコマツナの生育は市販の園芸培土での生育に及ばなかったが,SS培地とバーク堆肥の混合物を好気発酵処理することによって化学性が改善するため,園芸培土として利用できる可能性があり,未利用資源の活用や富栄養化湖沼水の浄化の一助となると考えられた.

栽培管理・作型
  • 森 義雄, 鈴木 安和, 山形 敦子, 村﨑 聡, 高田 真美, 矢吹 隆夫, 横井 直人, 間藤 正美, 田附 博, 永井 永久, 矢野 ...
    2017 年 16 巻 1 号 p. 27-39
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,夏秋小ギクの電照栽培技術の開発・普及を目指し,暗期中断を用いた電照栽培で開花調節できる品種を選抜する手法の開発を試みた.3月から5月にかけて採穂および定植の時期を変えて夏秋小ギク品種の暗期中断条件下での発蕾を経時的に調査したところ, ‘すばる’ および‘精ちぐさ’ では長期間にわたって暗期中断条件下での花芽分化は見られなかった.一方, ‘精しまなみ’ では季節変動がみられ,5月に採穂した株では早期に発蕾した.この知見より,夏秋小ギクの需要期を想定した場合,8月の旧盆より9月の秋彼岸に向けた栽培において暗期中断下での早期発蕾の危険性が高いと考えられたので,9月の秋彼岸に向けた作型まで暗期中断で花芽分化を質的に抑制できる品種を選抜することを目指して実験を行った.岡山県の9月開花作型に準じた栽培管理下において暗期中断条件下での発蕾が電照栽培用輪ギク品種‘精雲’ より遅い品種を暗期中断を用いた電照栽培に適した品種として選抜した.さらに岡山県において選抜された品種のうちいくつかを供試して,福島県,秋田県および茨城県で電照栽培試験を行った.各地で自然開花期は大きく異なったものの,暗期中断によって開花調節が可能であった.従って,本研究での電照栽培に適した品種の選抜手法は有効であると示された.

  • 仲 照史, 前田 茂一, 後藤 丹十郎
    2017 年 16 巻 1 号 p. 41-50
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    収穫機による一斉収穫を目指して,栽植様式が開花斉一性に及ぼす影響を,夏秋ギク型小ギク ‘翁丸’ を用いて検討した.6条7列の群落として栽培した小ギク切り花について,栽植位置および摘心後分枝の発生節位ごとの到花日数を調査した.到花日数は群落中央部の4条間では差がなく,通路に面した南北の周縁部で短くなった.群落中央部のPPFDは周縁部に比べて,草冠部に相当する上層とそこから約15 cm下位の中層との差が小さく,より下位葉まで日射が到達していた.また,株当たり3本整枝とした摘心後分枝の発生節位では,上位節および中位節と比較して下位節で到花日数が長くなり,そのばらつきも大きかった.こうした群落内での栽植位置による到花日数の差を小さくするため,中央条間の変更,群落周縁部の遮光および摘心の影響を検討した.南北畝の4条植え群落における中央条間を15~90 cmまで変化させ,内側2条と外側2条の到花日数を比較すると,到花日数の内外差は中央条間が広いほど小さくなり,75 cm以上ではみられなくなった.また,10条植え群落において遮光率31%の遮光資材を通路に面した群落側面に下垂させて到花日数を調査した.遮光処理によって群落周縁部の到花日数はやや長くなったものの,群落全体の開花斉一性は高まらなかった.さらに4条植え群落において,無摘心と摘心後1本もしくは2本仕立てとした3区の到花日数を比較したところ,摘心栽培の2区で開花斉一性が向上した.これらから,小ギク切り花の開花斉一性には群落内での栽植位置と摘心後分枝位置が影響しており,中央条間の拡大と摘心後分枝数の制限によって改善できることが示された.

  • 今給黎 征郎, 白山 竜次, 渡辺 剛史, 上野 敬一郎, 永吉 実孝, 久松 完
    2017 年 16 巻 1 号 p. 51-59
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    近年,量販店向けの花束加工用にニーズが高まっている切り花長70 cm程度のスプレーギクを“エコマム”と称し,“エコマム”を通年安定的に供給するための生産技術を検討した.現場に普及している直挿し栽培を用いて10 a当たり年4作で24万本出荷することを目標とし,1.効率生産に適した品種の条件,2.栽植様式,3.わい化剤処理による切り花重の改善効果について検討を行った.適品種の条件は,秋スプレーギクと一部作型に夏秋スプレーギクを供試して年4作型を行い,1作80日で栽培できる品種を探索した.その結果,伸長性,早生性(到花日数),揃い(生育・開花)が優れている品種が求められ,秋スプレーギクの‘セレブレイト’,‘ピサン’が該当した.ただし高温となる9月開花作型では,それらの特性に加え高温開花性が優れる夏秋スプレーギク品種を用いる必要があることがわかった.栽植様式については,慣行より通路を狭くすることで植付面積を広くとり,10 a当たり4万本から6万本まで栽植本数を増やして,切り花重や花数への影響を検討した.その結果,栽植本数を増やすことで切り花重や花数が減少するものの,通路側のマスを2本植え,内側のマスを1本植えにするなど,植付け方法を工夫することにより切り花重の揃いが向上した.わい化剤散布による切り花重の増加効果については,10 a当たり7万本程度の栽植本数で,過去に輪ギクで効果が認められている方法を応用し,電照打ち切り後にわい化剤を2回散布することで,切り花重が有意に増加し,20 g以上の切り花を6万本以上採花できた.これらの技術を利用することで,直挿し栽培による年4作で,慣行の2倍となる年間24万本のスプレーギクを出荷できることが実証された.

  • 八木 明香, 細田 絢子, 柘植 一希, 松永 邦則, 元木 悟
    2017 年 16 巻 1 号 p. 61-69
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    近年,少人数の家庭でも「無駄なく使える」ミニ野菜の需要が増えていることから,本研究ではミニニンジン(以下,ミニ)に着目した.ミニは需要の拡大が期待できるものの,五寸ニンジン(以下,五寸)を適期よりも早い生育段階で収穫する「間引きニンジン(以下,五寸(間引き))」や加工ニンジンなどと混同されやすい.そこで本研究では,ミニと五寸のそれぞれの収穫適期において,形態および品質を比較することにより,ミニと五寸(間引き)を区別するためのミニの品種特性を検討した.さらに,最適な栽植密度を検討するため,形態および収量を調査した.その結果,五寸(間引き)の地下部は,栽植密度が低いと大きくなったが,ミニの地下部は,栽植密度の影響を受けなかった.根の形状は,五寸(間引き)が円錐形であり,ミニは円筒形で根の太さが均一であった.根の硬さは,ミニが五寸(間引き)に比べて軟らかかった.根の硬さと根径には高い正の相関関係が認められたことから,ミニは硬さにばらつきが少なく,生食に向くと考えられた.栽植密度を密植(条間10 cm)と条間20 cmで比較したところ,ミニ(適期),ミニ(過熟)ともに,総収量,良品収量および良品率に有意差は認められなかった.しかし,地下部重は,密植(条間10 cm)が条間20 cmに比べて小さく, ミニの出荷規格(20~30 g)のものが多かったことから, ミニは密植栽培が有効であると考えられた.

発育制御
  • 白山 竜次, 郡山 啓作, 木戸 君枝
    2017 年 16 巻 1 号 p. 71-78
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    キクの暗期中断における間欠照明の花芽分化抑制に対する有効性を赤色光(以下R光と略す)および赤色光 + 遠赤色光(以下R + FR光と略す)を用いて検証した.同一照射時間帯(22:00~2:00) で連続照明と間欠照明を比較したところ,R光およびR + FR光ともにDuty比が低下するにつれて花芽分化抑制効果が低下した.またR光の連続照明とDuty比0.5で積算の放射照度を連続照明に対して1.0および0.5に設定した間欠照明の効果を比較したところ,1.0区は連続照明と同等であったが,0.5区は連続照明に比較して効果が劣った.このことから,本実験ではキクの同一時間帯での連続照明に対する間欠照明の優位性は確認できなかった.次に,同一積算照射時間において短時間の連続光(18分) と間欠により3時間に照射時間帯を拡張した間欠照明を比較した場合では,R光は間欠照明の効果が認められなかったが,R + FR光では連続照明に比較して間欠照明の花芽分化抑制効果が高くなった.これは短時間照明(18分) の場合,R + FR光の連続照明は,R + FR光によるフィトクロムの低Pfrレベルにより,暗期中断の効果が低下することによると考えられた.また,連続照明の時間帯を変えることで暗期中断の効果が変化したことから,同一積算照射時間の場合は,キクの暗期中断に対する感度が時間帯で変化することに注意する必要があると考えられた.実際のキク電照栽培では,暗期中断の時間がR + FR光での低Pfrによる花芽分化抑制効果の低下が発現する時間よりも比較的長時間であるために,間欠電照の優位性はほとんどないと考えられた.

  • 羽山 裕子, 三谷 宣仁, 山根 崇嘉, 井上 博道, 草塲 新之助
    2017 年 16 巻 1 号 p. 79-87
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    ニホンナシ ‘あきづき’ および ‘王秋’ の果実に生じるコルク状果肉障害の発生状況について,果実を5 mm厚に薄くスライスして詳細に調査を行い,成熟期や果実品質との関係を解析するとともに,GA処理の影響について調査した.両品種ともにコルクの発生が認められ,‘あきづき’は成熟の遅い果実に発生が多かった.本試験では,‘王秋’は‘あきづき’ほど成熟時期による違いは明確ではなかった.一方,両品種ともに果実重の大きい果実で発生が多く,特に‘あきづき’では大きい果実ほどコルクの個数が増加し,大きいコルクの発生も多くなった.コルクの発生位置は,果実全体に分布していたが,赤道面よりややこうあ部側に最も多く観察された.GA処理は,両品種ともにコルクの発生個数を有意に増加させ,障害程度を重症化させた.ただし,コルクの発生果率には影響を及ぼさなかった.

収穫後の貯蔵流通
  • 村上 覚, 神谷 健太, 佐々木 俊之
    2017 年 16 巻 1 号 p. 89-93
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    キウイフルーツ ‘レインボーレッド’ は,果実の熟度が変化しやすいため,非破壊で熟度を簡易に測定する技術開発が強く要望されている.そこで,音響振動法を利用した非破壊計測について検討し,弾性指標による熟度指標の作成を試みた.第2,3および4いずれの共鳴周波数から得られた弾性指標においても熟度が進むにつれて低下した.また,果肉硬度,糖度およびクエン酸含量との相関が高かったことから,弾性指標による熟度の推定は可能であると考えられた.収穫時期は第3または4共鳴周波数から得られた弾性指標により判別が可能と考えられた.7段階のステージの果実は弾性指標によって分類でき,それぞれ指標化することが期待できた.特に同一果実においても追熟過程をモニタリングすることができた.さらに,現場で汎用的に使用されている果実硬度計などと弾性指標との関係について明らかにした.これらのことから,弾性指標は収穫適期~可食時までを通じて,汎用性の高い熟度指標として活用でき, ‘レインボーレッド’ においてもこれまでの測定方法に代わって熟度の推定が行えることが期待できる.

  • 遠藤(飛川) みのり, 曽根 一純
    2017 年 16 巻 1 号 p. 95-104
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/31
    ジャーナル フリー

    品質保持効果の高いイチゴ果実の輸送方法を確立することを目的に,新型容器およびMA包装を併用してイチゴ2品種を東南アジア2か国へ航空便および船便にて輸送し,品種別に包装資材を検討した.その結果,航空便においては‘福岡S6号’は伸縮性フィルム容器,‘おいCベリー’は宙吊り型容器を用いることで損傷程度の低減効果や果実硬度低下の抑制効果が期待できることが明らかになった.容器による品質保持効果が品種によって異なったことから,イチゴ果実の輸送において,容器および品種選定の必要性が示唆された.また,船便においては,損傷程度は新型容器により概ね低減されるものの,MA包装を併用することにより維管束のにじみなどが防止できることが明らかになり,新型容器に加えてMA包装の使用が推奨された.なお,MA包装の有無や品種,輸送条件を問わず損傷程度は損傷した果実の割合と高い相関を示し,イチゴにおいては損傷した果実の割合を元に損傷程度を評価できると考えられた.また,損傷する果実の割合を低下させるよう容器を改良することで,果実の損傷程度をより低減できる可能性が示唆された.

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