園芸学研究
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17 巻, 4 号
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原著論文
繁殖・育苗
  • 福島 啓吾, 梶原 真二, 石倉 聡, 福田 直子, 後藤 丹十郎
    2018 年 17 巻 4 号 p. 395-403
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,定植後に速やかに生育するトルコギキョウ苗を人工光利用の閉鎖型育苗環境で育てることを意図し,育苗開始から5週間の温度条件を明らかにしようとした.いずれの実験においても,明期を18時間,PPFDを125 μmol・m–2・s–1とした.暗期が18°C条件において,明期が30°Cおよび27.5°Cと比較して,25°Cおよび22.5°Cにおいて発芽の開始が遅れ,35°Cでは育苗開始14日後の発芽率が有意に低下した.また,32.5°Cでは,27.5°Cと同等の大きさの苗であったが,定植後の生育が遅延した.明期が27.5°Cにおいて,暗期を26°Cに高めることで,明/暗期が30/18°Cと比較して,発芽勢は同等に改善された.また,定植苗の本葉3節の葉身長が大きく,定植から抽苔,発蕾および開花までの日数は少なくなった.日平均気温が27.5°Cとなる明/暗期温度が異なる32/14°C,30/20°C,28/26°Cおよび27.5/27.5°Cにおいて,明期と暗期の温度差は発芽に影響を及ぼさなかった.しかしながら,32/14°Cは他3区と比較して定植苗の本葉3節の葉身長が小さく,30/20°Cは28/26°Cおよび27.5/27.5°Cと比較して定植後の抽苔,発蕾および開花までの日数が多くなった.これらの結果から,育苗開始から5週間の温度を27.5°C一定で管理することにより,定植後に速やかに生育する苗を生産できることが明らかになった.

土壌管理・施肥・灌水
  • 臼木 一英, 室 崇人
    2018 年 17 巻 4 号 p. 405-413
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/31
    ジャーナル フリー

    リン酸直下施肥と組み合わせた窒素・カリウム施肥条件が,直播タマネギのりん茎重に及ぼす影響を調査した.加えて,タマネギは生育に伴い葉を展開しながら乾物重が増加することから,生育期間に展開する葉数に及ぼす施肥の影響および葉数と収量との関連性を解明するために,生育初期の草丈などの生育関連形質ならびに肥大初期の養分吸収が倒伏期の葉数に及ぼす影響を検討した.その結果,これまでリン酸直下施肥条件において,播種前に施肥した肥料成分が収量に寄与する機作は不明であったが,第2葉期までに施用された窒素とカリウムは,リン酸吸収を高めるとともに,肥大初期の窒素吸収を促進して倒伏期の葉数と葉1枚当たりのりん茎重を増加させることが明らかになった.また,供した‘オホーツク222’の増収にリン酸直下施肥のみでは不十分と判断されたが,リン酸直下施肥と第2葉期までの窒素・カリウムの施用の組み合わせは,肥大初期の窒素やリン酸吸収を促進し,りん茎重の増大に寄与すると考えられた.

栽培管理・作型
  • 龍 勝利, 井手 治, 徳永 恵美, 森山 友幸
    2018 年 17 巻 4 号 p. 415-422
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,冬季の日中において熱交換器を用いた除湿換気を行い,促成トマトの収量・品質に及ぼす影響について検討した.ハウス内の相対湿度を指標にして熱交換換気を行うと,対照よりハウス内の気温がわずかに低下するものの,湿度が低下し,果実の結露時間が短縮した.曇天日にはハウス内の二酸化炭素濃度が対照より高く推移した.熱交換換気下で栽培すると,1~2月の商品果収量は対照より少ないが,1~5月の合計収量は対照と有意差はなかった.また,熱交換換気下の果実は,3月および4月の空洞果数が少なく,1~3月の果実糖度が高まった.このことから,熱交換換気は1~5月の収量が対照と有意差がない一方で,対照に比べて果実品質が向上することが明らかになった.加えて,熱交換換気は耕種的防除を目的とした除湿技術として有効であると考えられた.

  • 佐々木 英和, 髙橋 徳
    2018 年 17 巻 4 号 p. 423-429
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/31
    ジャーナル フリー

    畑地用地下灌漑システム(OPSIS:OPtimum Subsurface Irrigation System)の活用によるホウレンソウの安定生産技術の開発のため,地下からの灌水がホウレンソウの生育に及ぼす影響について検討した.複数の給水管からの灌水により,150 cm間隔に配置された給水管に挟まれた作条の位置にかかわらず,ホウレンソウを均一に栽培できることが確認された.地下からの灌水と地上散水により同様の土壌pFにして比較すると,OPSISによって地下から灌水した方が,ホウレンソウの生育が優れた.淡色黒ボク土壌で行った本試験の範囲では,OPSISからの灌水開始の目安を土壌pF 2.2として,1回当たりの灌水量を降水量相当15 mmとして灌水した場合に,最もホウレンソウの生育がよいことが明らかとなった.

  • 大木 浩, 鈴木 秀章
    2018 年 17 巻 4 号 p. 431-437
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/31
    ジャーナル フリー

    キュウリ年2作型栽培において,土耕・培地耕交互栽培は,低コストであるなど,土耕や培地耕をそれぞれ単独で行う場合より経営的な利点があると考えられる.そこで,この栽培法を確立するため,夏期のヤシ殻培地耕を試みた.その結果,排液の発生を監視する排液回収枡を設置し給液量を適正化させたことで,安定した生育と土耕と同等以上の収量が得られた.また,重度のネコブセンチュウ汚染圃場でマルチングした畝の上に袋培地を置くだけであっても培地内でネコブセンチュウは発生せず,栽培中に培地下土壌中のネコブセンチュウ幼虫数が1/17に低下した.さらに,盛夏期に給液の一部を培養液から原水に切り替え施肥量を削減したところ,土壌に排出される硝酸態窒素量は,後作に影響が少ない1作合計8.5 g・m–2まで低下させることができた.以上のことから,本栽培法は実用性が高いと考えられた.

  • 石井 天常, 飯迫 稜大, 河野 航平, 阿久津 雅子
    2018 年 17 巻 4 号 p. 439-447
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/31
    ジャーナル フリー

    リーフレタス12品種において,異なるLED光質が生育および形質に及ぼす影響について調査した.レッド系リーフレタスは,グリーン系リーフレタスに比べて光質による生育差異がはっきりとしており,赤青色LED混合照射区で新鮮重および乾物重に関して増加傾向が見受けられた.さらに主茎長の伸長に関して焦点を当てると,今回供試したレッド系およびグリーン系リーフレタス12品種では,全体的に見ると,青色波長が含まれているLED照射区で主茎伸長が抑えられた品種がほとんどであったが,照射したLED波長に関係なく1.0 cm以上の主茎長伸長が見られない品種,青色および赤青色混合LED照射区では主茎伸長が1.0 cm未満か,赤色および緑色LED照射区に比べて主茎伸長が抑えられている品種に分けられた.これらのことから,リーフレタスでは品種ごとにLED光質による反応特性に差異がみられることがわかった.

収穫後の貯蔵流通
  • 安藤 利夫, 家壽多 正樹, 日坂 弘行
    2018 年 17 巻 4 号 p. 449-457
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/31
    ジャーナル フリー

    焼きいもの食味特性が異なる青果用サツマイモ6品種を供試し,貯蔵期間が焼きいもの食味に関わる成分変化に及ぼす影響を調査し,併せて成分値による食味の数値化を試みた.貯蔵に伴う焼きいもの甘味の増大には,6品種すべてで貯蔵に伴う3糖,すなわちスクロース,グルコースおよびフルクトースの増加が大きく寄与しており,特に‘クイックスイート’および‘べにはるか’の2品種では,貯蔵に伴う3糖の増加に加え,焼き調理によって生成されるマルトースが大きく寄与した.焼きいもの肉質は焼き調理後に残存するデンプン含量との関係が深く,貯蔵期間による肉質の差は,‘高系14号’のように貯蔵中のデンプンの分解が主要因で生じると考えられる品種と‘クイックスイート’および‘べにはるか’のように貯蔵中のデンプンの分解に加え,焼き調理に伴うデンプン分解の影響を強く受ける品種があることが明らかとなった.焼きいもの成分値を用いて食味の数値化を検討したところ,甘味では各糖含量に甘味比を乗じた値の総和である甘味度が,肉質では乾物からデンプン以外の乾物の影響を除いた乾物中のデンプン含有率が,官能値との相関係数が最も高かった(甘味:r = 0.964**,肉質:r = 0.958**).甘味度および乾物中のデンプン含有率に対する官能値への回帰から,甘味および肉質の成分値による数値化が可能と考えられた.

  • 久永 絢美, 吉岡 照高, 杉浦 実
    2018 年 17 巻 4 号 p. 459-464
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/31
    ジャーナル フリー

    近年,消費者庁で新たな食品表示法が施行され,生鮮農産物も機能性表示食品の対象になった.ウンシュウミカンは日本国内で最も良く食される国産果実の一つであり,β-クリプトキサンチンを多く含む.そのため,機能性表示食品としての期待が高い.本研究において,国内主要産地のウンシュウミカンに含まれるβ-クリプトキサンチン含有量を各品種群で調査し,果実品質 (糖度) との関連について検証を行った.その結果,ウンシュウミカン果実中のβ-クリプトキサンチン含有量は極早生品種群で最も低かった (1.51 ± 0.37 mg・100 gFW–1).一方, 早生 (1.97 ± 0.35 mg・100 gFW–1)や中・晩生(1.98 ± 0.34 mg・100 gFW–1)品種群では極早生品種群に比べて有意に高く,これらの品種群では同程度のβ-クリプトキサンチンが含有されていた.また果実中のβ-クリプトキサンチン含有量はいずれの産地・品種群のミカンであっても糖度と有意に正相関することが明らかとなった.今後,各産地での機能性表示食品としての表示が期待される.

  • 水野 貴行, 福田 直子, 湯本 弘子
    2018 年 17 巻 4 号 p. 465-474
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/31
    ジャーナル フリー

    蕾で収穫した大輪八重咲きトルコギキョウ切り花を品質が低下することなく開花させる技術の開発を目指し,MeJAを含む開花溶液の処理期間と光条件について検討した.その結果,MeJAを含む開花溶液の連続処理および前処理ともに,花弁の緑色部が残る着色ムラ個体の発生率が低下した.MeJAを含む開花溶液の処理を短期間とすることにより,連続処理に比べて花弁の矮小化を回避し葉の障害発生個体率を軽減できた.また,MeJA前処理後に開花まで明条件に置くことで発色が向上した.蕾で収穫した花色の異なる6品種の大輪八重咲きトルコギキョウ切り花において,白色花2品種ではMeJAの前処理によって着色ムラの改善効果がみられた.さらに,MeJA前処理は花色,花径および開花後10日間の観賞期間に影響を及ぼさないことが示された.これらの結果から,MeJAの前処理は,蕾で収穫した八重咲きトルコギキョウ切り花の開花に有効であると考えられた.

新品種
  • 山口 正己, 馬場 正, 末貞 佑子, 安達 栄介, 山根 崇嘉, 澤村 豊, 八重垣 英明
    2018 年 17 巻 4 号 p. 475-482
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/31
    ジャーナル フリー

    ほうきももタイプの花モモG-11-19と‘菊桃’の交雑F2実生集団から,ほうき性樹形を有し菊咲きの花モモ新品種,‘白楽天’と‘舞飛天’の2品種を育成した.F1として得られた6個体の実生はいずれも普通性樹形で,花は八重咲き,桃色で普通咲き性を示した.また,これらのF1実生を自殖して得られたF2実生群では,いずれの組み合わせからもほうき性樹形の個体が出現したが,菊咲き性個体は2組み合わせに限定され,ほうき性と菊咲き性を併せ持つ個体の出現率はF2全体の1.8%と極めて低率であった.‘白楽天’はほうき性樹形で花弁色は白色,花弁が細い菊咲きで,開花期は‘菊桃’より1~2日早い.‘舞飛天’もほうき性樹形と菊咲き性を併せ持ち,花弁色は桃色で,開花期は‘菊桃’より数日早い.両品種とも,果実は果頂部が鋭く尖る‘菊桃’に似た特徴を持ち,小果で果肉の苦みが強く食用には適さない観賞用の品種である.いずれも2017年3月15日に新品種として登録された.

  • 西本 登志, 矢澤 進, 浅尾 浩史, 佐野 太郎, 安川 人央, 皆巳 大輔, 東井 君枝, 矢奥 泰章, 杉山 立志, 平野 博人
    2018 年 17 巻 4 号 p. 483-489
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/31
    ジャーナル フリー

    カプシノイドを含有し,食味がよいトウガラシの新品種‘HC3-6-10-11’を育成した.カプシノイドを含有する良食味品種の‘ひも’を種子親,カプシノイドを高含有しカプサイシノイド含有量が少ない‘CH-19甘’を花粉親とする交雑後代から選抜し,F8世代で固定を確認した.特性調査と現地適応性検定試験を経て2015年に品種登録出願を行い,2017年に品種登録された.‘HC3-6-10-11’は,果実重量が6 g前後であり,雨除け栽培では,‘甘とう美人’や‘サラダ甘長’と同等以上の果実収穫量が得られた.2014年の果実のカプシノイド含有量は1956 μg・g–1DWであった.果実生産は奈良県内に限られ,未熟果のみ販売が可能であり,販売先を飲食店と加工業者に限定している.

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