園芸学研究
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19 巻, 4 号
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原著論文
育種・遺伝資源
  • 浜部 直哉, 馬場 明子, 前田 未野里, 勝岡 弘幸, 種石 始弘, 久松 奨, 野田 勝二
    2020 年 19 巻 4 号 p. 331-337
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    ‘ヒュウガナツ’ の枝変わり品種で単為結果性を有する ‘古山ニューサマー’ について,開花期にネットを被覆して訪花昆虫の侵入を防止した条件下における無核果の着果量,着果特性,果実品質を ‘ヒュウガナツ’ と比較した.樹冠占有面積当たりの無核果の収穫果実数は ‘古山ニューサマー’ で多く,単為結果による無核果のみで ‘ヒュウガナツ’ で目安とされる適正着果量程度の着果が得られることが示唆された.着果特性を検証した結果,‘古山ニューサマー’ は,‘ヒュウガナツ’ に比べて無葉果の着果が多くみられ,これが着果量が多かった要因であると考えられた.また,無核の ‘古山ニューサマー’ の果肉歩合は ‘ヒュウガナツ’ に比べて大きく,手で剥皮した場合の可食部が大きいことが明らかになった.得られた ‘古山ニューサマー’ の無核果について,果実品質を決定づける着果特性を決定木分析を用いて検証したところ,地上高142.5 cm以上,結果母枝長12.25 cm以上,結果枝葉数0.5枚以上を満たすことが,大玉かつ高糖低酸の高品質な果実となる条件であった.このことから,樹体の日当たりを良好に保ち,かつ樹勢を強く維持することが ‘古山ニューサマー’ の高品質な無核果生産において重要であることが推察される.

  • 加古 哲也, 持田 耕平, 中務 明, 小林 伸雄
    2020 年 19 巻 4 号 p. 339-347
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    日本固有の多年草であるトウテイラン(オオバコ科クワガタソウ属,絶滅危惧II類)について,隠岐諸島における自生状況の調査を行い,さらに自生個体に由来する実生を栽培し,園芸的観点から評価を行った.隠岐諸島内の幅広い環境に分布する本種には,草姿,花器形質,開花期に多様性が確認された.その草姿および花器形質の多様性を活用し,切花,鉢花,苗物など幅広い用途に利用可能であることが示唆された.花色についても従来の青紫色に加え,白色,紫色の個体が見いだされ,育種素材として活用することで花色の幅の拡大が期待される.また,開花期間の異なる個体を利用することで長期間にわたり生産,観賞できることが示唆された.地域特産遺伝資源であるトウテイランの特性を活かした今後の新品種の育成,生産方法の確立を通じ,日本原産の新規花き品目としての活用が期待される.

繁殖・育苗
  • 中村 嘉孝, 田中 哲司, 糟谷 真宏, 瀧 勝俊, 井上 栄一
    2020 年 19 巻 4 号 p. 349-354
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    温度条件がジネンジョ ‘稲武2号’ のむかごおよび種芋の萌芽,幼芽および幼根の伸長に及ぼす影響を検討した.むかごの萌芽について,30°C区の萌芽開始日は置床後3日と最も早く,萌芽勢(置床後7日の累積萌芽率)は76%と最も高くなり,最終萌芽率も80%以上と高かった.種芋の萌芽開始日は20°C区から35°C区の温度域で同じであったが,萌芽勢および最終萌芽率は25°C区および30°C区の両温度区で高かった.これらのことから,本試験の範囲内におけるむかごおよび種芋の萌芽適温域は,それぞれ約30°Cおよび25~30°Cの温度域と推察した.むかごの最大芽長および最大根長は30°C区で最も長く,むかごが大きいほど長くなる傾向が認められた.種芋の最大芽長は30°C区が最も長かった.種芋の最大根長は25°C区および30°C区の両温度区で長かった.むかごの大きさの違いが芽数に及ぼす影響は認められなかった.

    以上の結果より,むかごおよび種芋における催芽処理時の適温は,それぞれ約30°Cおよび25~30°Cの温度域であることが示唆された.

土壌管理・施肥・灌水
  • 中野 有加, 栗山 淳, 高橋 徳, 柳井 洋介, 佐々木 英和, 岡田 邦彦
    2020 年 19 巻 4 号 p. 355-364
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    地下水位制御システム(FOEAS: Farm-Oriented Enhancing Aquatic System)による排水および灌漑を実施し,夏播き冬どりブロッコリーの収量に及ぼす影響を3作にわたり検討した.灌漑処理は,灌漑なし,定植時のみ1回実施,あるいは定植時および生育中期に2回実施とした.排水効果については,降雨時に土壌の酸素濃度低下が軽減された.乾燥年に ‘グランドーム’ では,無施工区よりもFOEAS施工区で花茎空洞発生率が少なかった.一方,乾燥年に ‘ベルスター’ の花蕾重・花蕾径がFOEAS施工区で無施工区に比べて小さかった.灌漑効果については,乾燥年に, ‘グランドーム’ の花茎空洞発生率は無灌漑区に対し2回灌漑区で低かった.‘ベルスター’ では,2回灌漑区と無灌漑区の花蕾を比べると,乾燥年には直径が7%大きく,初期に多雨で中期に乾燥した年には重量が10%大きかった.従って,FOEASの排水機能に加えて灌漑機能を生かすことによって,ブロッコリーの安定生産に資することが実証された.

栽培管理・作型
  • 村上 覚, 山根 俊, 橋本 望, 荒木 勇二
    2020 年 19 巻 4 号 p. 365-372
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    静電受粉では花粉の付着量が向上し,花粉使用量の削減が期待できる.そこで,静電風圧式受粉機を用い,ニホンナシ,キウイフルーツを対象に受粉試験を行った.ニホンナシ,キウイフルーツともに静電受粉による花粉発芽率の低下は確認されなかった.静電風圧式受粉機による散布の結果,ニホンナシ,キウイフルーツともに花への花粉の付着程度は向上した.静電風圧式受粉機による花粉の散布量は,これまでの風圧式受粉機と比べてほぼ半減した.ニホンナシ,キウイフルーツともに静電受粉した果実は果実重,糖度,酸含量の低下は認められず,静電受粉による果実品質への影響はみられなかった.静電風圧式受粉機を使用した場合の花粉の希釈倍率について検討した結果,ニホンナシでは20倍,キウイフルーツでは40倍まで希釈できることが明らかとなった.また,ニホンナシにおいては静電風圧式受粉機を用いた20倍散布での花粉付着量は,10倍での梵天にはやや劣るものの,10倍での花粉交配機,500倍での溶液受粉と同等であった.以上の結果,静電風圧式受粉機は,ニホンナシ,キウイフルーツにおいて花粉散布量が少なくなり,かつ花粉の希釈倍率をあげることができることから,花粉の使用量を削減できることが明らかとなった.

  • 戸谷 智明, 鈴木 健, 藤井 義晴
    2020 年 19 巻 4 号 p. 373-379
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    ニホンナシでは前作樹の残根がいや地現象の発生要因であるかが明らかになっていない.そこで,本研究ではニホンナシ根を混和した土壌のいや地リスクの経時変化に加え,根を混和した土壌に定植したニホンナシ1年生苗木の樹体生育への影響を調査した.まず,ニホンナシ未植栽土壌にニホンナシの生根もしくは乾燥根を混和した区を設け,土壌をニホンナシのいや地リスクを評価できる根圏土壌アッセイ法を用いて経時的に測定した.その結果,ニホンナシでは根の乾燥条件にかかわらず,土壌の阻害率は根を混和しない区と差がなく,根の分解過程では生育阻害物質が放出されない可能性が高いことが示唆された.次に,ニホンナシ未植栽土壌にニホンナシ乾燥根を混和し,ニホンナシ1年生苗木を定植した区を設け,根を混和していないニホンナシ未植栽土壌やいや地現象が発現する連作土に定植した区と樹体生育を比較した.その結果,連作土区では樹体生育が抑制されたが,根を混和した区の生育は混和していない区と同様に抑制されなかった.以上の結果から,ニホンナシでは,土壌への根の混和は,いや地現象の発生要因ではない可能性が高いことが明らかになった.一方で,ニホンナシ1年生苗木をニホンナシ未植栽土壌に定植後,土壌を根圏土壌アッセイ法で経時的に測定した結果,樹の生育が進むに従い土壌の阻害率が上昇した.これらのことから,ニホンナシでは樹が生育する過程で根から生育阻害物質が分泌され,土壌に蓄積されることでいや地現象が発現する可能性があることが示唆された.

  • 谷本 聡美, 肌野 宝星, 松永 邦則, 元木 悟
    2020 年 19 巻 4 号 p. 381-389
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    ミニニンジン(以下,ミニ)は五寸ニンジンに比べて栽培期間が短く,単位面積当たりの出荷数量も見込めるため,大都市近郊農業で導入する有望品目として期待されている.ミニの収量性や収益性などをさらに高めるには,最適な栽植密度について検討する必要がある.本研究では,試験1として,国内各地においてニンジンの形態調査を行った.市場で流通しているミニの形態を調査した結果,ミニを栽培し収穫する際の形態の上限の目安となる値を得た.続いて試験2として,異なる栽培期間および栽植密度におけるミニの特性を明らかにするため,ミニ品種の ‘アムス’ を用い,栽培期間および栽植密度を慣行の70日および3条(125,000株・10 a–1)に対し,栽培期間を90日,110日と延長するとともに,栽植密度を6条(250,000・10 a–1),9条(375,000株・10 a–1)と高め,収量,形態,β-カロテン含量および糖度を比較検討した.その結果,慣行の70日では,収量,形態および品質のほとんどの項目において栽植密度による影響が認められなかった.栽培期間を90および110日に延長すると,3条では最大根径が長くなりミニの形態としては低評価となったが,6および9条ではミニの形態を維持しつつ,収量,糖度およびβ-カロテン含量が増加した.そのため,密植栽培は,栽培期間を延長した際に有効である可能性が示唆された.

  • 髙橋 啓太, 前田 智雄, 池浦 博美, 倉内 佑, Wambraw Daniel Zadrak, 小山内 祥代, 本多 和茂
    2020 年 19 巻 4 号 p. 391-398
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    日本で利用されているニンジンは西洋系品種と東洋系品種に大別される.最近,新たにそれらを交配し中間型品種がつくられた.本研究では,これら3品種の寒冷地適性を評価するために青森県での生育状況を調査し,食味に関わる糖,機能性成分としてカロテノイド,そして香気成分を分析し,比較を行った.西洋系品種は ‘オランジェ’,東洋系品種は ‘真紅金時’,中間型品種は ‘京くれない’ を用いた.その結果,地上部の生育は3品種間で差はなかった.一方,根の調査結果から ‘京くれない’ の根が西洋系品種と東洋系品種の中間の形状であることが確認された.糖含量は3品種間で差はなかった.組成に関しては,‘真紅金時’がスクロースが多く,フルクトースが少ない傾向であった.カロテノイド含量は ‘京くれない’ が他2品種より少なかった.組成に関しては,‘オランジェ’ はカロテンが,‘真紅金時’ はリコピンが8割以上を占めるのに対し,‘京くれない’ はほぼ同量ずつ含んでいた.各品種に含まれる香気成分の種類に大きな違いはみられなかったが,含量は異なっていた.ニンジン特有の香りと強く関係しているとされる成分は ‘真紅金時’ に多く,‘京くれない’ に少なかった.‘オランジェ’ には “新緑” と表現され,香りが強いとされるsabineneとp-cymeneが多く含まれていた.以上,ニンジン3品種の寒冷地における生育について確認することができ,その糖およびカロテノイド,含まれる香気成分について知見を深めることができた.

  • 水島 智史
    2020 年 19 巻 4 号 p. 399-405
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    植物工場における光源として赤色LEDおよび白色LEDを利用し,クレソンの生育に及ぼす光質の影響を調査した.赤色LED単独の条件では,新鮮重が著しく減少し,節間が伸長して徒長した.白色LED単独の条件では,クレソンの主茎の伸長は抑制された.光合成有効光量子束密度(PPFD)を基準に赤色LEDと白色LEDの比率を50 : 50に設定すると,新鮮重が増加し,主茎長10 cm以上の出荷基準を満たす生育に近づくと考えられた.この50 : 50のLED混合照射は,同じ光量の蛍光灯処理区と比較してほとんどの測定項目において有意に高い値を示した.従って,生育の観点から本研究で使用したLEDを利用してクレソンを栽培する場合,赤色LEDと白色LEDを混合することが望ましいと考えられた.

  • 柘植 一希, 柳澤 一馬, 元木 悟
    2020 年 19 巻 4 号 p. 407-415
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    ギョウジャニンニクはユリ科ネギ属の多年生植物であり,日本国内では北海道および本州の奈良県以北に分布している.葉や鱗茎などを食用とし,独特な臭気が特徴で,薬理効果がある.しかし,北海道内のギョウジャニンニクについては研究例があるものの,北海道以外の地域に自生または栽培されている系統の調査は進んでおらず,日本国内の広域にわたる形態形質の差異については不明である.本研究では,本州の東日本地域を中心に広域にわたって採取したギョウジャニンニク22系統について,長野県野菜花き試験場佐久支場(長野県小諸市)で継代された鱗茎を用いて,長野県小諸市内の露地圃場で栽培した.調査は,鱗茎の定植から3年間(2015~2017年),各系統の形態形質の計14項目を対象に行い,経年変化および系統間差を解析した.その結果,調査年および系統の違いが,ギョウジャニンニクの形態形質に影響を及ぼしているものと考えられ,分散分析のF値は,多くの調査項目において,調査年が系統に比べて大きかった.すべての系統の平均値を調査年間で比較した結果,栄養器官に相当する葉部の形質は,定植から3年間増加した.前述の計14項目に基づいて主成分分析を行った結果,長野県の系統群は,2つの系統群に分かれるとともに,散布図の原点から離れた位置にプロットされた系統をいくつか含み,形態形質が多様であった.

新品種
  • 新谷 勝広, 秋山 友了, 雨宮 秀仁, 竹腰 優, 佐藤 明子, 太田 佳宏, 三宅 正則
    2020 年 19 巻 4 号 p. 417-422
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    山梨県における早生の主要品種である ‘日川白鳳’ に替わる品種の育成を目的に交雑を実施し, ‘甲斐トウ果17’ を育成した.‘甲斐トウ果17’ の収穫始め期は ‘日川白鳳’ とほぼ同時期である.果実重は298 gとなり, ‘日川白鳳’ と同程度の大きさとなる.果汁は対照品種と同様に多であった.核割れの発生はかなり少なく, ‘日川白鳳’ より栽培しやすいと考えられる.果皮の着色の型は,一様に着色しやすいべた状である.成熟に伴う果肉硬度の推移は収穫始め日が2.4 kgであり,日数の経過とともに低下し,2016年は16日後に2.0 kg,2017年は18日後に1.9 kgとなった.収穫後オーキシン処理した果実の果肉硬度は処理9日後には0.4 kgとなり,エチレン生成量は処理1日後より急激に増加した.DNAマーカーにより肉質の確認を行ったところ,硬肉モモであることが明らかとなった.これまで知られている硬肉モモは,成熟が進んでも果肉が硬く,普通モモとはまったく異なる食感を有している.遺伝的に硬肉モモでありながら果肉が柔らかくなる品種についての報告は ‘甲斐トウ果17’ 以外にない.‘甲斐トウ果17’ は ‘日川白鳳’ およびその後に成熟する品種の代替え品種としての普及が期待される.

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