園芸学研究
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19 巻, 3 号
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総説
  • 別府 賢治
    2020 年 19 巻 3 号 p. 219-228
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    地球温暖化の進行に伴い,近年モモやカンカオウトウなどのサクラ属果樹の栽培において,様々な障害が発生している.また今後の発生が予想されるものもある.主なものとして,休眠芽の低温遭遇量の不足による発芽不良,花芽分化期の高温による奇形果の発生,開花期の高温や夏秋季の貯蔵養分蓄積阻害による結実性の低下,果実発育期の高温や多雨による果実の生理障害,秋冬季の気温上昇に伴う耐凍性の低下による若木の凍害などがある.それぞれについて,発生機構の解明のための研究が各地で行われてきた.その知見をもとに,障害を軽減するための栽培技術による対処法が検討されてきた.また,育種による対応も進められてきた.今後も更なる気温上昇が予想されることから,これらの研究の一層の進展が望まれる.

原著論文
育種・遺伝資源
  • 浜部 直哉, 馬場 明子, 前田 未野里, 勝岡 弘幸, 種石 始弘, 久松 奨, 野田 勝二
    2020 年 19 巻 3 号 p. 229-235
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    ‘ヒュウガナツ’ の枝変わり品種である ‘古山ニューサマー’ について,無核果が ‘ヒュウガナツ’ に比べて多く生産される要因を検討した.‘古山ニューサマー’ および ‘ヒュウガナツ’ の自家受粉における柱頭内の花粉管伸長を調べたところ,両カンキツ種ともに花粉管の伸長は花柱上部で停止し,花柱中部および下部では認められなかったことから,‘古山ニューサマー’ は,‘ヒュウガナツ’ と同様に自家不和合性を有していることが明らかになった.また,除雄後に小袋を掛けることで花粉を遮断した条件下における ‘古山ニューサマー’ の着果率を ‘ヒュウガナツ’,‘ヒュウガナツ’ の枝変わり品種である ‘西内小夏’ および ‘室戸小夏’ と比較したところ,生理落果後における ‘古山ニューサマー’ の着果率は60.8%であり,‘西内小夏’ の2.5%,‘室戸小夏’ の12.5%および ‘ヒュウガナツ’ の8.3%に比べて高かった.このことから,‘古山ニューサマー’ は ‘ヒュウガナツ’ に比べて強い単為結果性を有していることが明らかになった.また,‘古山ニューサマー’ の単為結果は,花粉を遮断した条件下で,かつジベレリンなどの化学薬剤を用いずに誘起されたことから,自動的単為結果であると考えられた.これらのことから,‘古山ニューサマー’ は自家不和合性を有し,かつ自動的単為結果性を有することが明らかになり,‘ヒュウガナツ’ に比べて強い単為結果性を有していることが,無核果を多く生産できる要因であると考えられた.

  • 水野 貴行, 中根 理沙, 貝塚 隆史, 石川(高野) 祐子, 立澤 文見, 井上 栄一, 岩科 司
    2020 年 19 巻 3 号 p. 237-245
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    赤ネギ品種 ‘ひたち紅っこ’(Allium fistulosum ‘Hitachi-benikko’)は地下部の葉鞘が鮮やかな赤色を呈する長ネギで,茨城県北 部城里町(旧桂村)圷(あくつ)地区で栽培される地方野菜から育成された.本研究では,赤ネギ品種 ‘ひたち紅っこ’ において,地下部のアントシアニンとフラボノールを同定するとともに,総ポリフェノール量と抗酸化能を測定し,抗酸化食品としての有用性を調査した.その結果として,赤ネギ品種 ‘ひたち紅っこ’ のアントシアニンとフラボノールについては,1種類の新規化合物(Cyanidin 3-O-(3″-O-acetyl-6″-O-malonyl)-glucoside)を含む4種類のアントシアニンと5種類のフラボノールを単離し,化学および分光分析により同定した.新規のアントシアニンは ‘ひたち紅っこ’ の地下部における主要アントシアニンであった.フラボノールについては,単離した4種類がいずれもQuercetinを基本骨格としていた.また,総ポリフェノール量と抗酸化能を測定した結果,赤色の地下部は,‘ひたち紅っこ’ の地上部や,白ネギ品種の地上部および地下部と比べて,高い総ポリフェノール量と抗酸化能(H-ORAC)の値を示した.これらの結果は赤ネギ品種 ‘ひたち紅っこ’ において,食品の機能性の面から付加価値を与えると考えられる.

繁殖・育苗
  • 森 志郎, 安藤 大輔, 歸山 敏亮, 大宮 知
    2020 年 19 巻 3 号 p. 247-252
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    アジアティックハイブリッドユリ ‘きたきらり’ は分球性を有し,その切り花生産用球根は2または3年間露地圃場で養成される.分球性ユリは球根内の茎軸に複数の新球が生じ,それらが肥大することで分球する.本研究では,球根養成期間中の温度が ‘きたきらり’ の分球に及ぼす影響について調査した.試験には二年生球根に着生する木子を供試した.試験1として,球根仕上げ栽培における球根冷凍貯蔵前の温度条件が球根の品質に及ぼす影響を調査したところ,冷凍貯蔵前に8°Cに12週間遭遇すると,球根内に新球を5個以上もつ切り花生産に利用できない規格外球根が発生した.一方,速やかに–2°Cで冷凍貯蔵した球根では規格外球根はみられなかった.試験2として,冷凍球根解凍後の温度条件の影響を調査したところ,球根内の新球数に影響はみられなかったが,球重と球根幅には有意差が認められ,高温区(15°C加温栽培)の球重は低温区(露地栽培)と比較して重く,球根幅は大きかった.

栽培管理・作型
  • 松村 篤, 長澤 佑樹, 平瀬 加奈子, 増本 寛之
    2020 年 19 巻 3 号 p. 253-260
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    エダマメの単収向上を図るために摘心および断根の効果を検証した.摘心は分枝の発生促進による総節数の増加,断根は不定根の発生促進による根量の増加をそれぞれ期待して行った.まず,育苗時の摘心あるいは断根の効果を調査するためにエダマメ‘えぞみどり’の栽培を行った.その結果,地上部の生育は無処理(対照区)のものが最も旺盛であり,育苗時の摘心や断根処理に増収効果は認められなかった.次に,‘えぞみどり’の栽培期間中(第5複葉期)での摘心が収量に及ぼす影響を調査した.摘心によって分枝数や分枝節数の増加は認められず,総莢収量も対照区と同程度であった.最後に,移植時での断根効果について検証した.‘大雪みどり’を栽培した春作試験では,断根による増収効果は得られなかったが,‘えぞみどり’を栽培した夏作試験では1/2断根区において3粒莢数や可販莢収量が有意に高まった.本研究の結果から,大阪府における早生品種‘えぞみどり’の栽培において摘心による増収効果を得ることは難しいが,移植時の断根処理は単収向上に寄与する可能性が示された.

  • 柘植 一希, 元木 悟
    2020 年 19 巻 3 号 p. 261-268
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    神奈川県川崎市に在来する「のらぼう菜」(Brassica napus L.)は,株の主茎を始めに摘心し,その後次々と発生する側枝部位の花茎を収穫する.しかし,アブラナ属の葉茎菜では,主茎の摘心処理についての既報が少なく,川崎市在来「のらぼう菜」系統でも詳細が明らかになっていない.本研究では,川崎市に在来する「のらぼう菜」の主茎の摘心処理について,収穫期における試験を4年間にわたって行い,主茎の摘心時期および摘心強度の違いが収量と花茎の品質に及ぼす影響を解析した.主茎の摘心時期を未熟期,抽苔開始期および出蕾期の3処理区で検討した結果,抽苔開始期は,収穫本数,総花茎重,積算地上部重および可販収量がほかの摘心時期に比べて値が高く,抽苔開始期が適切な主茎の摘心時期であると考えられた.また,主茎の摘心強度を弱と強(それぞれ株の4分の1および2分の1程度の本葉数を除去)の2処理区で,適切な摘心時期と考えられた抽苔開始期に検討した結果,強い強度の摘心は,積算地上部重が,2017年に弱い強度の摘心に比べて値が低かったものの,半分以上の試験年で有意差が認められなかった.さらに,強い強度の摘心は,収穫の前期における平均1本重が,弱い強度の摘心に比べて重かった.

  • 塚本 崇志, 石井 里美, 七夕 小百合, 鈴井 伸郎, 河地 有木, 藤巻 秀, 草川 知行
    2020 年 19 巻 3 号 p. 269-275
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    側枝葉を残したトマト栽培における果実糖度向上の要因を明らかにするために,PETIS法を用いて11CO2のトレーサー実験を行い,側枝葉から果房への光合成産物の転流と寄与率を調査した.側枝第4葉に11CO2を投与した場合は約40分後から,果房直下主茎葉では約1時間後から果実への11Cの蓄積が確認された.果房に対する側枝葉の寄与率を,主茎第7, 8(果房直下主茎葉),10, 11および12葉と,側枝第1~4葉に11CO2を投与して果実への11C蓄積量を測定することで算出した.その結果,側枝葉4枚の第1果房への光合成産物の蓄積の寄与率は44.6~80.1%であった.側枝第4葉および果房直下主茎葉の光合成速度を計測したところ,単位面積当たりの光合成速度は,側枝第4葉が果房直下葉に比べて有意に高かった.以上のことから,側枝葉が寄与率44.6~80.1%で直上の果房への光合成産物の蓄積に大きな役割を果たしており,このことがトマトの側枝葉を残すことによる果実糖度の向上に影響を及ぼした可能性があると考えられた.

  • 門田 太志, 片岡 明彦, 渋谷 淳平, 福田 直子, 牛尾 亜由子
    2020 年 19 巻 3 号 p. 277-284
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    トルコギキョウ冬季出荷栽培において,ブラスチング発生による切り花品質の低下が問題になっている.二酸化炭素施用はその問題の解決策として期待される技術である.我々は,高知県におけるトルコギキョウの冬季出荷栽培において昼温25°C管理下の温室での二酸化炭素施用の切り花品質に対する効果を検証した.3棟の温室を用いて3品種を供試し,(i)昼温25°C無施用区,(ii)昼温25°C施用区,(iii)昼温30°C施用区を設置し,収穫日および切り花品質の比較を行った.収穫日は,昼温25°C無施用区に比べ,昼温30°C施用区では3品種とも早くなったのに対し,昼温25°C施用区は1品種のみ早くなった.切り花品質は,無施用区に対して施用両区で供試した3品種とも切り花は長く,商品花蕾数は多くなったことで,外観上の切り花品質が向上した.昼温25°C施用区は昼温30°C施用区に比べ,換気窓開放時間が長いために1,000 ppmの高CO2濃度を維持できる時間は短かったが,昼温30°C施用区とほぼ同等の切り花品質の向上効果が得られることが明らかとなった.

  • 馬場 隆士, 守谷 友紀, 阪本 大輔, 花田 俊男, 岩波 宏
    2020 年 19 巻 3 号 p. 285-292
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    系統5-12786を材料として,カラムナータイプの隔年結果を回避するための着果基準に関する知見を獲得することを目的とした.まず,結実開始から5年間のデータを用いて,収穫量が維持可能な果数TCA比を求めた.定植後,予備摘果にNAC剤を用い,仕上げ摘果をせずに生育を調査した結果,結実3年目から着果負担の増大に伴って収穫量が激しく増減する隔年結果のパターンを示した.その中で,果数TCA比が3果・cm–2であれば90%以上の個体で花芽数や収穫量が維持できていた.次に,8年生樹を用いて,その果数TCA比および果実を樹体の一部分に局在させる着果法が花芽形成に及ぼす影響を検討した.その中で花芽形成に大きな影響を及ぼした要因を考察した.満開30日後に摘果を行い,果数TCA比で2~3果・cm–2を残したところ,花芽形成は認められたものの,花芽率は10%以下と低かった.果実を全体に分散させた場合と比べて,果実を局在させると花芽は無着果部位に集中して形成されるようになり,さらに全体の花芽形成量が低下した.本研究で用いた説明変数の中では,長枝の発生率が最もよく花芽数を予測していた.着果負担の指標の中では,果そう数果数比が最も花芽数の予測性が高く,着果部長果数比がそれに続いた.一方,葉果比はこれらと比べて予測性が低く,葉果比30程度では花芽率が10%に満たなかったことなどから,カラムナータイプでは葉果比は非カラムナー性の品種ほど着果負担の指標として有効ではない可能性が考えられた.長枝には花芽が高頻度で形成されていたが,カラムナータイプの樹形特性上,着果部位としては利用しづらいため,短い枝で花成を促進する方法を考案する必要がある.以上から,今後,果実配置や長枝の管理が花芽形成に及ぼす影響に注目して,より多くの品種・系統で着果負担と花芽形成との関係を精査することが,カラムナータイプにおいて隔年結果を回避する方法の開発に重要であると考察した.

  • 濵﨑 櫻, 山家 一哲, 古屋 拓真, 久高 凜, 瀬岡 真緒, 馬 剛, 張 嵐翠, 加藤 雅也
    2020 年 19 巻 3 号 p. 293-298
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    マルチ栽培でウンシュウミカン果肉のβ-クリプトキサンチン含量が増大するメカニズムを明らかにするため,カロテノイド代謝経路に関連する酵素遺伝子の発現を調査した.調査に用いた ‘青島温州’ の果実は,静岡県静岡市清水区の2か所の園地(A園地,B園地)で2017年8月から収穫までマルチ処理し,β-クリプトキサンチン含量は,11月下旬から12月上旬の収穫期において無処理より果肉で30%,フラベドで50%増大していた.これらの果実の果肉のカロテノイド代謝経路に関連する酵素遺伝子の発現量を調査した結果,発現量にみられたマルチ処理による変化はそれぞれの園地で異なっていた.A園地ではカロテノイド生合成経路のカロテン生成に関わるCitZDSが高まり,キサントフィル生成に関わるCitHYbCitZEPの発現が低かった.B園地ではカロテン生成とキサントフィル生成に関わる酵素遺伝子(CitPSYCitZDSCitLCYb1CitLCYb2CitHYbCitZEP)およびアブシジン酸への代謝に関わる酵素遺伝子(CitNCED2CitNCED3)の明らかな上昇がみられ,中でもカロテン生成に関わる遺伝子の発現量の上昇が大きかった.以上のことから,ウンシュウミカンの果実は,マルチ栽培によってカロテノイド代謝経路の酵素遺伝子の発現量が変動することが示され,特に,カロテン生成の高まりによって果肉のβ-クリプトキサンチン含量が増大している可能性が示唆された.

収穫後の貯蔵流通
  • 古田 貴裕, 和中 学, 熊本 昌平, 池永 裕一, 西銘 玲子, 河井 崇, 深松 陽介, 福田 文夫, 久保 康隆, 中野 龍平
    2020 年 19 巻 3 号 p. 299-307
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    極早生の渋ガキ ‘中谷早生’ の東南アジア海上輸出に向けた軟化抑制技術として脱渋と1-MCP (1-methylcyclopropene) の同時処理と輸送中の包装方法の組み合わせを検討した.海上輸送シミュレーションでは,防湿段ボール箱単独区では果実軟化が進行したが,いずれの包装条件でも1-MCP処理果実は軟化しなかった.現地到着後の流通想定期間には,1-MCP処理と組み合わせたMA (Modified Atmosphere) 個包装や箱単位のMA大袋包装により,低温下では10日間以上,室温下でも7日間ほとんど軟化果実は発生しなかった.一方,一般および防湿段ボール箱では,低温下では5日目以降に,常温下では急速に果実軟化が進行した.シンガポールへの海上輸送による実証試験では,1-MCP処理と輸送期間中の箱単位でのMA大袋包装の併用により,港到着時に軟化果実の発生はなく,その後,室温下に保持しても到着6日後の軟化率は13.3%に抑制された.以上のことから,‘中谷早生’ のリーファーコンテナを用いた海上輸送による東南アジア輸出には1-MCP処理と箱単位でのMA包装の併用が実用的な品質保持技術となることが示された.

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