園芸学研究
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6 巻, 1 号
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総説
原著論文
育種・遺伝資源
  • 西村 秀洋, 渥美 茂明
    2007 年 6 巻 1 号 p. 7-13
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    38箇所の自生地から収集したササユリとその栄養繁殖個体を自然集団を反映する系統(自生系統)と見なし交雑親和性を調べた.その結果,いずれの自生系統も自家親和性は低いが,同じ自生地から得た母球を異にする系統間の交配では交雑親和性が高かった.自生地を異にする自生系統間の交配では,九州地方および四国地方東部に由来の自生系統と,四国地方東部に自生する変種ジンリョウユリはその他の地域の自生系統と交雑親和性が著しく低いことが明らかになった.
    交雑試験で得られた種子を無菌培養して得た小球を3年間栽培したところ,近畿地方南部の系統内交配に由来する実生1個体が栽培1年目で開花した.また,胚珠親に近畿地方南部,花粉親に四国地方東部の系統を用いた交配で得られた後代実生に多花性を示す傾向が認められた.開花の早晩性については,交配親の早晩性を量的に受け継いだ.
  • 中住 晴彦, 平井 剛, 中野 雅章
    2007 年 6 巻 1 号 p. 15-19
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    ‘どうだい1号’は,‘メロン中間母本農1号’とシロウリの‘東京早生(丸葉)’の交配後代から育成された純系品種で,レース1,2yに強い量的抵抗性,レース2にやや強い量的抵抗性,レース0およびレース1に真性抵抗性をそれぞれ有し,レース1,2yに強度に汚染された圃場における台木品種として,また,レース1,2y抵抗性育種素材としての利用が期待される.‘どうだい2号’は‘バーネットヒルフェボリット’を種子親に‘どうだい1号’を花粉親にして育成されたF1品種で,レース1,2yにやや強い量的抵抗性を有する他,レース0,レース1およびレース2に真性抵抗性を有し,種子が大きく,台木品種として十分な接ぎ木作業性を有し,草勢が強い穂木品種に対しても台木品種として十分な果実生産力を有するため,実用性のあるメロンつる割病抵抗性台木として利用が期待される.
  • 中住 晴彦, 平井 剛
    2007 年 6 巻 1 号 p. 21-25
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    メロンつる割病菌レース1,2y抵抗性台木品種‘どうだい1号’の育成過程において親品種とF6世代までの分離系統についてレース1,2y抵抗性の世代間比較を行った.この結果,F2世代の選抜による抵抗性の顕著な増加と,F3からF5世代に至る間での抵抗性の漸増が認められた.これらの選抜効果は,‘どうだい1号’の両親である‘メロン中間母本農1号’と,シロウリの‘東京早生(丸葉)’の持つ相加的抵抗性遺伝子の集積によると考えられ,その発現機作は,根端部分におけるレース1,2y菌糸の感染率の低下と,根端部分に侵入した菌糸の伸長の抑制によることが明らかとなった.また,このことは異なる遺伝的背景を有するメロン品種においても同様であった.
  • 斎藤 彰, 深沢(赤田) 朝子, 五十嵐  恵, 佐藤 耕, 鈴木 正彦
    2007 年 6 巻 1 号 p. 27-32
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    本試験では1998年~2001年にわたり,自家結実率の高さに違いのある3品種を用いて自家受粉試験を行った.‘ふじ’では花粉にX線を急照射した花粉を自家受粉する試験区も設けた.自家受粉による結実数の調査をした結果,‘ふじ’の自家受粉試験区では,全般的に結実数は少ない傾向であり,4年間の結実率は0~4.5%であった.‘王林’および‘恵’の自家受粉試験区ではそれぞれ,16~35果と20~24果と結実果が多く得られ,それぞれ結実率も16.3~38%,40~48%と高かった.また,X線照射花粉の自家受粉でも結実率の向上は認められなかった.
    結実果の種子数を調査した結果,それぞれ差が認められ‘ふじ’は‘恵’よりも少なく,‘王林’の結実果のほとんどは種子の無いものが多かった.‘王林’の受粉,無受粉試験を行った結果,いずれの試験区でも高い結実率を示したが,内蔵する種子はすべて退化していた.この様に‘王林’の自家結実率の高さは自動的単為結果性の高さに加えて,受粉の刺激によりさらに単為結実率が高くなったことが明らかになった.
    なお,受粉試験で得られた結実果から種子を取り出して,胚培養を行い多数の後代実生を得,これらのS遺伝子に特異的DNAマーカーによりS遺伝子型の判定を行い,自家受粉由来個体と他家受粉由来個体を識別した.これらの後代実生は温室で育成しているが,なかには生育異常を示す個体も認められた.
繁殖・育苗
  • 高橋 和彦, 石川 林, 荻野 崇義, 秦名 俊光, 荻原 勲
    2007 年 6 巻 1 号 p. 33-36
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    自生地で菌根菌接種ゲル被覆サギソウプロトコーム由来の実生個体に形成された球根から翌年も肥大した新球根が形成され,やがて発蕾・開花に至る可能性があるかどうか,また,自生地に生息する菌根菌にはサギソウ球根形成促進効果があるかどうかを検討した.
    自生地に植え付けた球根から新たに形成された球根は約2倍に肥大した.サギソウの球根重が150 mg以上に肥大すると,半数が発蕾・開花することから,自生地で菌根菌接種ゲル被覆サギソウプロトコーム由来の実生苗から形成された球根は,5年後に発蕾・開花する可能性があると考えられた.自生地に生息する菌根菌にはサギソウの球根形成を促進する菌株も認められたので,その菌株をゲル被覆サギソウプロトコームに接種して自生地に設置することが望ましいと考えられた.自生地で形成される新球根をさらに肥大させるには,自生地の環境条件も検討する必要がある.
  • 鷹見 敏彦, 田村 文男, 大橋 章子, 中田 昇
    2007 年 6 巻 1 号 p. 37-41
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    シンテッポウユリの種子発芽における温度および光条件について検討した.発芽の最適温度は品種によって異なり,早生品種の‘F1オーガスタ’および‘雷山1号’は20℃,中生品種の‘雷山2号’は18℃,晩生品種の‘雷山3号’は15℃が発芽の最適温と考えられた.また,‘F1オーガスタ’および‘雷山1号’は,‘雷山3号’に比べて5℃における発芽率が高かった.24℃以上の高温では,いずれの品種も発芽が阻害された.3℃, 5℃および10℃で一定期間処理した後,20℃で発芽させると速やかに発芽した.同様に30℃で発芽させた場合,10℃で10日間以上処理すると発芽が促進されたが,3℃および5℃処理の効果は低かった.したがって,10℃で10日間以上低温処理することにより,高温期においても一斉発芽に有効であることが示された.光の有無および光質は発芽には全く影響を及ぼさなかった.
土壌管理・施肥・灌水
  • 藤本 順子
    2007 年 6 巻 1 号 p. 43-46
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    葉柄抽出液を利用した加温栽培‘デラウェア’におけるカリウム欠乏症の診断法を検討した.
    小型反射式光度計で測定した葉柄抽出液中カリウム濃度と葉中カリウム含有率との間には正の高い相関があり,カリウム欠乏症診断に活用できると考えられた.また,開花期に小型反射式光度計で測定した葉柄抽出液中カリウム濃度が2,400 ppm以下では,この時に肉眼的な症状が認められなくても,カリウム欠乏症が発生する可能性が高いと考えられた.しかし,この時カリウムを供給することにより欠乏症の発生を回避できることが示唆された.
  • 松本 和浩, 田村 文男, 千 種弼, 池田 隆政, 今西 久美子, 田辺 賢二
    2007 年 6 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    0,25または100 mMのNaCl処理が3種の台木種マンシュウマメナシ(P. betulaefolia),ニホンヤマナシ(P. pyrifolia)およびマメナシ(P. calleryana)に接ぎ木したニホンナシ‘秋栄’の無機成分含量および光合成に与える影響を調査し,耐塩性を比較した.マンシュウマメナシ台‘秋栄’は葉に含まれるNaおよびCl含量が他台木種を用いた場合に比べ少なく,光合成速度の低下も少なかった.これらの結果より,マンシュウマメナシは根にNaおよびClの移動を抑制する何らかの機構を持っており,穂木を接いでもこの特性は維持されることが示唆された.そのためマンシュウマメナシ台‘秋栄’は他台木種を用いた場合に比べ強い耐塩性を示したと考えられた.マンシュウマメナシは塩ストレス下でニホンナシ栽培を行う場合,台木として有望であると考えられた.
栽培管理・作型
  • 白岩 裕隆, 鹿島 美彦, 板井 章浩, 田辺 賢二
    2007 年 6 巻 1 号 p. 53-57
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    初夏どりネギ栽培において,トンネル被覆資材と施肥方法が生育,抽苔および収量に及ぼす影響について調査した.昼間の平均気温および平均地温は,ポリオレフィンフィルム(PO)で最も高く,有滴ポリエチレンフィルム(農ポリ)で低かった.また,POおよび無滴農ポリでは,土壌の乾湿の差が大きい傾向が見られた.抽苔率は,有滴農ポリでは全層区に比べ植え溝区で低かったが,POおよび無滴農ポリでは全層区に比べて植え溝区で高く,抽苔率および収量に被覆資材と施肥方法の交互作用が認められた.
    初夏どりネギ栽培においては,保温性の高い被覆資材ほど花芽分化の抑制に有効であることが明らかとなった.また,保温性の高い被覆資材を用いる場合には,窒素施肥を調整することにより抽苔抑制効果を高める肥培管理が必要であることが明らかとなった.
  • 山﨑 安津, 北島 宣, 服部 直美, 長谷川 耕二郎
    2007 年 6 巻 1 号 p. 59-64
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    ‘土佐文旦’の無核果実の生産について検討するため,単植園栽培においてストレプトマイシン(SM)処理を行い,果実発育に有効な摘果時期を明らかにした.SM 500 ppm溶液を開花率1~5%,50%および100%のときに動力噴霧器で樹全体に3回散布することにより,種子形成が抑制され,完全な無核果実が生産された.また,不受精胚珠長が2 mm未満で食べやすく,じょうのうの分離が容易で剥ぎやすくなることが認められた.満開4週間後(6月6日)に葉果比120程度でSM処理樹の摘果を行った結果,最も商品性の高い3L級の果実が30%以上に達した.亜主枝当たりの着果数,果肉割合やクエン酸含量は慣行栽培の人工受粉果実とほぼ同様であった.これらのことから,単植園栽培においてストレプトマイシン3回処理と満開4週間後の早期摘果により,商品価値の高い‘土佐文旦’の無核果実を生産できることが明らかとなった.
  • 平間 信夫, 水澤 秀雅, 小豆畑 二美夫, 松浦 誠司
    2007 年 6 巻 1 号 p. 65-70
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    ハウス内の作業環境の改善を図ることを目的として,午前中の気温と湿度を25℃・40%前後で栽培すると,生育後半の低温期に尻太り果が発生する.その尻太り果の発生を低減する栽培管理について検討した.その結果,果実収穫後に下位節の側枝を基部より除去して畦面への受光条件を改善することで地温が上昇し,尻太り果の発生率が減少した.しかし,下位節から発生する側枝の減少によって1株当たりの収穫本数は減少したが,中位節の第2次側枝を第2節で摘心して着果節数を確保することで収穫本数の減少を防ぐことができた.また,0.1%硫酸カリウム水溶液を株元に灌注処理することで尻太り果の発生が減少し,上物率が向上することが分かった.
  • 伊藤 寿, 西川 豊, 前川 哲男, 輪田 健二
    2007 年 6 巻 1 号 p. 71-76
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    加温ビニルハウスまたは露地で生育したカキ‘前川次郎’について,満開後50日から収穫期までの果実肥大と気温との関係を解析した.平均気温は果実成長第I期にはハウス区が露地区より低かったが,第II期以降はハウス区の方が高く推移した.果実成長第I期の長さは,満開後の日数で表すとハウス区が露地区より長かったが,満開後の積算温度で表すと両処理区とも約2,300℃・日であり,積算温度と果径日増加量との間の関係は両処理区で近似する一次回帰式で表された.一方,果実成長第II~III期においては,ハウス区,露地区ともに,果径日増加量と平均気温との間に負の相関が認められ,関係が認められた時期の長さはハウス区の方が長かった.このことから,ハウス区では露地区に比べて,高温によって果実の肥大が抑制される期間が長いことが示された.
  • 大江 孝明, 桑原 あき, 根来 圭一, 山田 知史, 菅井 晴雄
    2007 年 6 巻 1 号 p. 77-83
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    異なる園地で収穫した果実およびその果実を加工した梅酒の品質成分を発育ステージ別に調査するとともに,これら品質成分を反映する熟度指標を調査した.それをもとに,品質成分が多く含まれる時期を収穫適期とし,熟度進行の異なる地域間に共通して利用できる収穫適期判定指標について検討した.
    果実硬度が急激に低下する時点は園地や年に関わらず果実のクエン酸含量が高い時点を示した.また,すべての園地で梅酒抽出量(歩留まり)やクエン酸含量は採取の遅い果実ほど高く,硬度が急激に低下した時点の果実を用いた梅酒は褐色度,クエン酸,ポリフェノール含量,抗酸化能が高く,原料として適すると判断された.
    以上のことから,梅酒加工を前提とする場合の梅酒品質に基づく収穫時期の特定には,果実硬度が利用できると考えられた.
  • 杉村 輝彦, 今川 順一, 脇坂 勝
    2007 年 6 巻 1 号 p. 85-89
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    カキ‘刀根早生’の自発休眠覚醒モデル(DVRモデル)を用いた加温栽培における発芽期の簡易推定法について検討した.加温開始時の自発休眠覚醒程度を示す発育指数(DVI)と発芽が認められるまでの日数との関係は,8~24℃の加温温度では各温度とも指数関数式でよく近似できた.この結果をもとに,加温開始時のDVI,ハウス内における設定最低気温時の平均気温および加温日数から,奈良県における12月下旬~1月下旬加温開始の作型の発芽期を3日以内の誤差で推定できた.以上のことから,DVRモデルによる加温開始時の自発休眠覚醒程度に基づき,奈良県におけるカキ‘刀根早生’の加温栽培で設定最低気温から簡易に発芽期を推定できることが明らかとなった.
  • 東出 忠桐, 伊吹 俊彦, 笠原 賢明, 角川 修, 迫田 登稔, 木下 貴文
    2007 年 6 巻 1 号 p. 91-95
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    中山間傾斜地における夏秋トマトの安定生産のために開発した傾斜ハウスおよび傾斜地用養液供給システムを,徳島県三加茂町K地区(標高300~600 m,傾斜度4~25°),山腹型傾斜畑地域の3戸のトマト生産者に導入し,その効果を検討した.傾斜ハウスの資材費は10 a当たり300万円程度,傾斜地対応型養液供給システムの資材費は10 a当たり50万円であり,養液栽培を行う場合はさらに66万円程度必要であった.
    2002~2005年に傾斜ハウスおよび養液供給システムを利用した栽培(ハウス養液栽培)と慣行の簡易雨よけ栽培とを比較した.ハウス養液栽培では,慣行雨よけ栽培では設置が困難な防虫ネットおよび非散布型製剤の利用により,殺虫剤の使用回数を減らすことができた.殺菌剤の使用回数は,ハウス養液栽培と慣行雨よけ栽培との間で明確な差はみられなかった.トマト果実の収量は,すべての生産者および栽培年において,ハウス養液栽培の方が慣行雨よけ栽培に比べて著しく多かった.雨よけ栽培では,収量が少ないだけでなく,台風や病虫害の影響を大きく受けて収量が変動しやすいことが推察された.以上より,傾斜ハウスおよび養液供給システムは,安価な簡易雨よけ施設に比べるとコストはかかるものの,収量の増加と安定生産によって農家収入も増加することから,導入効果は大きいと判断される.
  • 持田 圭介, 板村 裕之
    2007 年 6 巻 1 号 p. 97-103
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    カキ‘西条’の早生6系統における樹上軟化発生の系統間差とその原因および防止方法について検討した.
    7~9月の降雨が多い年においても,“遠藤”,“山坂”および“安部”の各系統は細根活性の低下がみられず,果実のエチレン発生量が低く推移し,樹上軟化の発生が少なかった.
    湛水処理後10日頃に,果実のエチレン発生量が極めて多くなり,その後著しい落葉と落果がみられた.これに対して,遮光処理では,果実のエチレン発生量が少なく,落葉および落果は対照区と同程度に少なかった.したがって,樹上軟化発生は土壌の過湿により促進されるものの,日射不足はほとんど影響を及ぼさないと考えられた.
    7月下旬以降の多孔質マルチの土壌全面被覆によって,土壌の水分変動が少なくなり,pF値2.3程度で推移した.それにより,果実のエチレン発生が抑えられ,樹上軟化発生が抑制される傾向がみられた.
    以上より,樹上軟化は次の2過程が続いて生じた場合に起こりやすいと考えられた.①果実発育後期の長雨により地下部の通気不足が生じる②その後の高温や強風による蒸散,水ストレスによる果実のエチレン生成が高まる.
  • 持田 圭介, 倉橋 孝夫, 河野 良洋
    2007 年 6 巻 1 号 p. 105-111
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    島根県では,‘西条’の系統の中から遺伝的に早熟な系統を“B型”として選抜したが,“B型”には樹体生育や果実の特性が遺伝的に異なる複数の系統が存在する.そこで,“B型”系統中,起源が異なると考えられる6系統(“安部”,“遠藤”,“Bわい性”,“山坂”,“古藤”,“和田”)を供試し,樹体生育や果実品質および収量を調査して果実生産性の優れる系統を選抜した.“古藤”系はわい性傾向が認められ,“安部”系は休眠芽の発芽不良の発生により生育が劣った.“和田”系は新梢が徒長し,主幹の材積成長が旺盛であり,生産効率が劣り熟期も遅れた.“山坂”系は,全供試系統の中で平均的な樹の生育を示した.樹冠占有面積率やLAIfが他系統と比較して高かった“遠藤”および“Bわい性”両系統は,同化産物の蓄積量が多く,果実および細根への分配率が高いことにより,高品質果実が連年10 a当たり3 t程度生産できるものと推定された.‘西条’“B型”系統では,“遠藤”系が最も優れると考えられた.
  • 石原 良行, 中山 千知, 八巻 良和
    2007 年 6 巻 1 号 p. 113-118
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    毛管給液を併用した閉鎖型養液栽培システムにおいて,トマトを促成栽培した年数の異なるスギ樹皮培地の理化学性,培地内溶液の成分濃度,トマトの生育および収量について検討した.スギ樹皮培地の三相分布では,液相率および気相率は連用しても変化しなかったが,固相率は連用年数の増加にしたがい低下した.十分に湛水した培地を本システム上に設置した後の培地重量の変化は,連用年数が多いほど小さかった.連用年数の増加によりCECは高くなり,窒素の取り込みは少なくなった.また,培地内溶液のNO3-N濃度は連用年数が多くなるにつれ高く推移する傾向で,K, Ca, Mg濃度は3年区までに比べ5年区で高く推移した.茎径は1年区の第1,3花房で小さかった以外は連用による差はなかった.収量は2年区で高い傾向にあり,その後は連用により低下し,5年区では2年区と比べて有意に少なかった.本実験により,連用年数の違いによるスギ樹皮培地の理化学性の変化,収量などが明らかとなり,本システムにおけるスギ樹皮培地は5年連用後に交換するとよいことが示唆された.
  • 松本 敏一, 板村 裕之, 倉橋 孝夫, 牧 慎也, 松本 真悟
    2007 年 6 巻 1 号 p. 119-123
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    カキ‘西条’果実の樹上軟化について,自然災害を想定した処理や環状剥皮処理での再現を試みた.その結果,環状剥皮処理区での軟化発生率が約20%と最も高く,処理により誘導されたエチレンが樹上軟化発生の原因である可能性が示された.また,収穫後果実の軟化発生について調査したところ,湛水処理区および環状剥皮処理区において非常に高い軟化発生率が認められた.従って,湛水状態になったり環状剥皮によって,収穫後軟化を起こす生理状態になった可能性がある.また,ヘタ直下の果実内部黒変と樹上または収穫後軟化に密接な関連性があることが明らかとなった.
  • 村上 賢治, 隈部 浩樹, 木村 学
    2007 年 6 巻 1 号 p. 125-129
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    本実験は,サトイモ(Colocasia esculenta Schott)の球茎の休眠の品種間差異および低温処理による休眠打破の効果を調べる目的で行った.
    ‘えぐいも’,‘早生蓮葉’,‘赤芽’,‘筍芋’およびマレーシア産の系統(マレーシア1)を供試し,9月21日と11月23日に掘り上げた球茎について,掘り上げ直後に25℃で発芽試験を行った.その結果,‘早生蓮葉’‘えぐいも’では,9月21日掘り上げ球茎では発芽が非常に遅く,11月23日掘り上げ球茎はすぐに発芽した.‘筍芋’およびマレーシア1は,掘り上げ時期に関係なくすぐに発芽した.‘赤芽’は,9月21日掘り上げ球茎ではやや発芽が遅かった.
    ‘えぐいも’を供試し,10月3日に掘り上げた球茎を,3℃または10℃で0~60日間および25℃で60日間処理後,発芽試験を行った.その結果,3℃で15日間または10℃で30日間以上処理すると発芽が著しく促進された.低温処理の効果は,‘八頭’,‘石川早生丸’,‘大野芋’でも同様にみられた.
    本実験の結果,サトイモにおいては,9~10月初めに掘り上げた球茎で休眠がみられる品種とみられない品種があり,低温処理により休眠が打破されることが示された.
発育制御
  • 木村 正典, 佐藤 元子
    2007 年 6 巻 1 号 p. 131-135
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    ハマボウフウの生育,品質および組織形態に及ぼす栽培方法の影響を明らかにするため,完全遮光した軟白区と自然光の対照区の2区を設け,生育,収量,色素含量,粗繊維含量,物性,精油濃度,官能特性を調査するとともに,厚角組織,維管束および油管の形態と分布について解剖学的観察を行った.
    1. 軟白区では葉柄が徒長して葉身が展開せず,葉数の減少と乾物率の低下がみられた.
    2. クロロフィル含量,アントシアニン含量ともに,軟白区で顕著に低かった.葉柄の粗繊維含量は軟白区で低い値を示した.また,葉柄の硬さは対照区に比べて軟白区でかなり軟らかいことがわかった.
    3. 組織観察の結果,厚角組織と維管束の数および面積について両区に差は認められなかった.また,油管の数,精油分泌細胞数および油管の面積,面積占有率においては両区で有意差がみられなかった.
    4. 地上部の精油含量は,対照区と軟白区で大きな違いは見られなかった.
    5. 軟白区で対照区よりも色が薄く,官能検査の結果,食べたときの香りおよび青臭さが弱く,軟らかいと評価されるとともに,色の薄さを除いて好まれる傾向が見られた.
収穫後の貯蔵・流通
  • 高野 和夫, 妹尾 知憲, 海野 孝章, 笹邊 幸男, 多田 幹郎
    2007 年 6 巻 1 号 p. 137-143
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    モモ果実の渋味の近赤外分光法による非破壊測定の方法について検討した.モモの渋味は果肉中の全ポリフェノール濃度と相関が高く,全ポリフェノール濃度が100 g当たり約110 mg以上で強い渋味を感じた.そこで,モモ果実中の全ポリフェノール濃度の推定を400~1100 nmの反射スペクトルから試みたが,誤差が大きく測定不可能と考えられた.しかし,モモのポリフェノールの主要な構成成分であるカテキンとクロロゲン酸水溶液の1100~2500 nmの透過スペクトルを解析すると,1664 nmと1730 nm付近に相関の高い波長域が存在した.そこで,モモ果実の1100~2500 nmの反射スペクトルによる解析を行ったところ,1720 nm付近に全ポリフェノール濃度と相関の高い波長域が存在し,重回帰分析による全ポリフェノール濃度の推定精度はSEP = 14.7 mg・100 g−1FWと比較的高かった.これらの結果から,1100~2500 nmの反射スペクトルを測定することによって,モモ果実の渋味を非破壊的に判別できる可能性が高いと考えられた.
作物保護
  • 白岩 裕隆, 鹿島 美彦, 井上 浩, 山下 聡
    2007 年 6 巻 1 号 p. 145-150
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    サツマイモネコブセンチュウによるネギ連作障害における土壌消毒剤と対抗植物を組み合わせた4年サイクルの防除法を確立した.1作目は,薬剤処理(クロルピクリン + 1,3-ジクロロプロペン剤,ダゾメット剤およびオキサミル剤)でサツマイモネコブセンチュウの密度が減少し,ネギの増収が認められた.防除効果は,土壌消毒剤(クロルピクリン + 1,3-ジクロロプロペン剤およびダゾメット剤)で高かった.土壌消毒剤の防除効果は,処理後2作目まで認められた.3作目にマメ科の対抗植物Crotalaria spectabilisの栽培でサツマイモネコブセンチュウの密度が抑制され,次作のネギは多収となった.本試験で実施した4年サイクルの体系は,土壌消毒剤と対抗植物を組み合わせることで,対抗植物の作付けによる収益面での問題を最小限に抑え,土壌消毒剤を多投しないサツマイモネコブセンチュウの防除法であり,ネギでの安定多収に有効な技術であると考えられる.
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