園芸学研究
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7 巻, 4 号
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原著論文
  • 石原 美香, 小林 伸雄, 坂本 咲子, 石橋 正美
    2008 年 7 巻 4 号 p. 469-473
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/25
    ジャーナル フリー
    ハマボウフウの山陰地域における自生地の保護を推進し,地域特産資源として活用するための基礎研究として,自生状況の調査とフェノロジー観察ならびに冷湿処理下の種子における胚の発達について調査した.島根半島を中心とした自生分布の調査において,鳥取県米子市弓ヶ浜海岸や島根県浜田市石見海浜公園をはじめとする砂浜海岸で群落が確認された.また,弓ヶ浜海岸や出雲市外園海岸では自生地保護活動の効果が顕著にみられた.自生地におけるフェノロジー観察の結果では,2月下旬以降の新葉の展開,4月中旬の花蕾の出現,5月上旬から8月中旬の開花,7月上旬からの果実の発達,成熟,花柄からの脱落,9月以降の葉の黄変や落葉,12月上旬からの休眠が観察された.また,休眠種子について冷湿処理50日以降に胚の発達がみられ,GA処理や果皮除去による胚の発達および発芽の促進効果が認められた.
  • 井上 栄一, 寧 林, 山本 俊哉, 阮 樹安, 松木 裕美, 安西 弘行, 原 弘道
    2008 年 7 巻 4 号 p. 475-480
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/25
    ジャーナル フリー
    ニホングリで開発された7対のSSRプライマーを用いて,朝鮮半島由来のクリ品種のSSR遺伝子型を解析し,チュウゴクグリ17品種,ニホングリ32品種,およびニホングリとチュウゴクグリの種間雑種1品種の遺伝子型と比較した.用いたニホングリのプライマーのうち,KT006a座のみチュウゴクグリ3品種において検出されなかったが,それ以外の遺伝子座では,用いた全品種のSSR対立遺伝子型を決定できた.その結果,チュウゴクグリにおいて合計26種類,ニホングリにおいて合計37種類の種特異的な対立遺伝子が得られた.一方,朝鮮半島由来のクリ7品種においても全7遺伝子座の遺伝子型を明らかにすることに成功し,座あたり2~9種類の対立遺伝子(平均5.14種類)が検出された.種特異的な対立遺伝子に着目して両者を比較した結果,‘兎山9’,‘兎山13’,‘兎山60’,‘仁興王栗’および‘韓6’はニホングリ,‘咸従3号’はチュウゴクグリ,そして‘大城’はチュウゴクグリとニホングリの種間雑種品種であると推察された.一方,‘韓6’と‘丹沢’および‘大城’と‘利平ぐり’の間で,それぞれ7遺伝子座のSSR対立遺伝子型がすべて一致したことから,これらはそれぞれ異名同一品種の関係にあるか,枝変わり品種とその原品種の関係にある可能性が示唆された.
  • 松本 亮司, 池松 大亮, 吉岡 照高, 山本 雅史
    2008 年 7 巻 4 号 p. 481-489
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/25
    ジャーナル フリー
    カンキツ果汁に含まれる機能性成分のリモニン配糖体を迅速かつ簡便に定量できる酵素免疫測定法(EIA)を開発した.前処理は果汁を塩化メチレンで分配・抽出するだけで良く,塩化メチレン層にはリモニンが,水層にはリモニン配糖体が分配される.リモニン配糖体・オバルブミン結合体を固相化抗原とし,山本・松本(1999)が作成した抗リモニン抗血清を用い,ビオチン・アビジンシステムによるEIAを実施した.測定範囲は10 pg~100 ngまでと広範囲であった.この方法によってカンキツ類128品種のリモニン配糖体およびリモニン量を定量したところ,ブンタン類を除くとほとんどの品種でリモニン配糖体含量が総リモニン量の90%以上を占めていた.ネーブルオレンジや一部のマンダリンではリモニン配糖体が100 ppm以上と高含有され,機能性成分の供給源として重要であると考えられた.ブンタン類,ユズ類,レモンおよびキンカンはリモニン配糖体含量が少なくこの成分の供給源としての価値は低かった.苦みの強いリモニンはブンタン類,ネーブルオレンジ等で含有量が多かったが,これらを除くほとんどの品種では苦みを感じない閾値である6 ppm以下の含量であった.
  • 田中 義行, 大津 圭吾, 中村 年一, 細川 宗孝, 山口 加乃子, 金沢 和樹, 矢澤 進
    2008 年 7 巻 4 号 p. 491-497
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/25
    ジャーナル フリー
    本実験では,トウガラシ‘CH-19甘’および‘京唐菜’茎葉中のNO産生阻害成分について調査した.‘CH-19甘’の葉および果実を用いて,NO産生抑制活性の細胞検定を行った.葉のアセトン抽出物の複数の画分で強いNO産生抑制活性が認められた.カラムクロマトグラフィーにより葉のアセトン抽出物から,NO産生抑制成分の一つとしてアピゲニンを分離同定した.アピゲニンがポリフェノールの一種であることから,軟弱野菜用品種‘京唐菜’の茎葉中のポリフェノール組成を調査した.‘京唐菜’に含まれる主なポリフェノール類は,アピゲニン配糖体およびルテオリン配糖体であることが明らかになった.また,アピゲニン配糖体,ルテオリン配糖体の含量はそれぞれ平均227.0,29.3 μmol・100 g−1FWであった.
  • 荒川 浩二郎, 南 峰夫, 中村 浩蔵, 松島 憲一, 根本 和洋
    2008 年 7 巻 4 号 p. 499-504
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/25
    ジャーナル フリー
    Lactuca属とCichorium属植物に含まれているセスキテルペンラクトン類(sesquiterpene lactones, SLs)には多くの薬理効果が報告されている.そこでSLs高含量品種開発の基礎資料とするために,HPLCを用いてSLs含量の属間,種間,種内系統間変異を調査した.野生種を含む2属6種11系統のSLs含量を比較すると,Lactuca属栽培種(L. sativa L.)はLactuca属野生種およびCichorium属栽培種より明らかに含量が低く,属間差,種間差が認められた.栽培レタス(L. sativa)において形態の異なる3タイプ57系統のSLs含量を調査した結果,種内でタイプ間差が認められ,最も一般的に食されているクリスプヘッドタイプ(玉レタス)がリーフタイプ,コスタイプより低含量で,変異幅も狭かった.苦味の主成分はSLsであることから,これらの結果は,苦味を低減して食味を改良してきたレタスの育種経過を反映していると考えられた.本研究で見いだした高含量系統はレタス栽培種におけるSLs高含量品種の開発に有用であると結論した.
  • 浅尾 浩史, 奥山 恵里, 矢野 健太郎, 西本 登志, 北條 雅也, 越智 康治, 梶田 季生, 高山 誠司
    2008 年 7 巻 4 号 p. 505-510
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/25
    ジャーナル フリー
    奈良県は,大和マナを大和の伝統野菜と認定し,生産・販売支援に力を注いでいるが揃いが悪い点や収穫後の外葉が黄化しやすいなどの欠点があり,広く流通・販売されるには至っていない.そこで,大和マナの欠点を克服するために自家不和合性を利用したF1品種の育成に取り組んでいる.奈良県内6か所の異なる地域で集団採種されてきた大和マナ系統が保有するSハプロタイプを推定するため,各系統からクラスISLGとクラスIISP11対立遺伝子をPCRクローニングした.得られた増幅断片の配列から,27種類のクラスIと4種類のクラスII Sハプロタイプの計31種類が同定された.また,各系統に蓄積されているSハプロタイプをもとにクラスター分析を行ったところ農総セ系・ナント系,高田系・五條系・フカセ系および大和農園系の3グループに分類された.
  • 小山 真一
    2008 年 7 巻 4 号 p. 511-516
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/25
    ジャーナル フリー
    雌性型キュウリに硝酸銀濃度0,100,200,300,400,500 ppmの葉面散布処理を行い,雄花の誘起効果を確認するとともに,誘起雄花が種子の生産性および発芽率に与える影響を検討した.硝酸銀処理による‘ちび太郎’の雄花誘起効果は100 ppm濃度以下では観察できなかったが,200~500 ppmの範囲では高濃度ほど高節位にまで雄花が着生し,1株当たりの雄花数が増加した.‘ちび太郎’の誘起花粉を用いて‘れんせい’と交配した結果,1果あたりの種子数は500 ppm処理区で200および400 ppm処理区より20~40粒ほど多くなったが,処理濃度との間に直線的な関係は見られなかった.種子100粒重は500および200 ppm処理区が他の処理区より低くなったが,その差は0.18 g以下であり,収穫直後と保存8年後における発芽率に処理濃度による差は見られなかった.また,酢酸カーミン染色による‘れんせい’と‘夏笛2号’の誘起花粉の顕微鏡観察から硝酸銀処理濃度,特に1,700 ppmの高濃度においても花粉稔性の低下は起こらないことを確認した.硝酸銀は雄花誘起効果が高くかつ花粉稔性,種子生産性および発芽率を低下させないことから,雌性型キュウリの種子生産に有効な成長調整物質であることが示された.
  • 貝原 洋平, 宮本 輝仁, 原口 暢朗, 池田 繁成, 新堂 高広
    2008 年 7 巻 4 号 p. 517-523
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/25
    ジャーナル フリー
    ウンシュウミカン栽培における水管理の指標としての枝体積含水率の可能性を評価するため,TDR法により誘電率を測定して枝体積含水率を推定し,枝体積含水率と土壌水分,気象環境,葉の水ポテンシャル,果実品質との関連性を調査した.主枝基部の枝体積含水率は,4月から上昇して7月に最大値となった.その後は,緩やかに減少して10月中旬の収穫期に最小値を示した後,やや増加して冬季はその水分量を保持した.枝体積含水率の夏季から収穫期にかけての低下と収穫後の増加は,土壌水分の変化との対応関係がみられ,葉の水ポテンシャルを−1 MPa程に維持する水管理を行った場合の枝体積含水率の年間変動パターンは,蒸発散位の変化と対応する傾向にあった.夏秋季に異なる水管理を行い,葉の水ポテンシャルの低下程度が異なった乾燥区と湿潤区では,乾燥区で果実糖度が高く,主枝基部の枝体積含水率は低い値を示した.よって,夏秋季の枝体積含水率と葉の水ポテンシャルとの間に明確な関係はみられなかったものの,枝体積含水率により夏秋季の水分ストレス程度の違いを判別できる可能性が示唆された.
  • 阪本 大輔, 羽山 裕子, 伊東 明子, 樫村 芳記, 森口 卓哉, 中村 ゆり
    2008 年 7 巻 4 号 p. 525-530
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/25
    ジャーナル フリー
    モモの溶液受粉における花粉懸濁液の開発を目指して,花粉懸濁液へのペクチンメチルエステラーゼ(PME)またはポリガラクツロナーゼ(PG)の添加について好適な濃度の探索ならびに増粘剤を組み合わせた花粉懸濁液が結実および果実品質に及ぼす影響の調査を行った.その結果,0.1 mg・L−1のPMEまたはPGを添加した花粉懸濁液で花粉管伸長量が最も増大することが認められた.これらの結果を踏まえて,‘川中島白桃’を用いて溶液受粉を実施した結果,溶液受粉区は慣行受粉区に比べて結実率は低いものの,花粉懸濁液にPMEまたはPGを添加することで懸濁された花粉の花粉管伸長能が高く維持され,結実率が向上した.さらに,増粘剤としてキサンタンガム(XG)の添加効果も確かめられた.また,溶液受粉や溶液の組成は果実品質に影響を及ぼさなかった.以上のように,XGを増粘剤とし,PMEまたはPGを添加した花粉懸濁液を用いることで,モモにおける溶液受粉の結実率を改善することが可能であった.
  • 福田 直子, 中山 真義
    2008 年 7 巻 4 号 p. 531-536
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/25
    ジャーナル フリー
    トルコギキョウの覆輪花弁の着色面積率は冬季の栽培においてしばしば増加し,商品価値を低下させる.開花前の低温への遭遇が着色面積率の増加の原因と考えられている.我々は人工気象器を用いた12時間日長条件下で,極早生品種‘キャンディマリン’の覆輪模様に与える温度の影響を調査した.一定温度条件下では着色面積率は20℃で最大値を示し,生育温度と着色面積率の間に負の相関が見出された.昼温よりも夜温が高い条件で着色面積率が低下した他,35℃の昼温を与えれば夜間に5℃に遭遇しても着色面積率は小さかった.これらから,冬季における着色面積率の増加は昼温を高めることで回避できる可能性が示された.処理開始から開花までの温度条件が一定である本実験条件においては,着色面積率を減少させる温度条件は,生育量も低下させる傾向も認められた.我々はさらに,覆輪着色面積率と花弁着色部のアントシアニン―フラボノイド色素の濃度との間には直接的な関係が無いことを明らかにした.
  • 前田 隆昭, 米本 仁巳, 樋口 浩和, 萩原 進, 谷口 正幸, 文室 政彦, 志水 恒介
    2008 年 7 巻 4 号 p. 537-541
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/25
    ジャーナル フリー
    早期出荷を可能とする施設栽培において,サンショウの人工受粉に用いる花粉を安定的に供給する目的で,生産者が実用可能な簡便な花粉の保蔵法を,家庭用冷凍冷蔵庫で再現可能な温度条件で検討した.開花初期および盛期の新鮮花粉を,5℃と−20℃で保蔵した後,寒天培地上で花粉発芽率を調べた.その結果,5℃で20~30日間,−20℃では10か月間新鮮花粉と遜色ない発芽率を保つことがわかった.新鮮花粉または新鮮花粉を有機溶媒で洗浄処理後に−20℃で10か月間保蔵し,人工受粉しても結果した.これらの方法により,サンショウでは前年の花粉を人工受粉に用いることができることがわかった.
  • 中野 有加, 桜井 直樹, 藤路 陽, 堀江 秀樹, 中野 明正, 鈴木 克己
    2008 年 7 巻 4 号 p. 543-547
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/25
    ジャーナル フリー
    異なる施肥法および施肥量で栽培されたトマトのスライスとしての果肉硬度を,音響振動法を用いて評価した.振動装置でトマト果実をはさみ,検出した第2共鳴周波数と果実直径から弾性指標を算出した.弾性指標は,施肥の異なるトマトの収穫直後や貯蔵後の硬度の差を示すことができた.弾性指標は,赤道部の果実硬度よりもスライスの果肉硬度と相関が高かった.弾性指標とスライスの果肉硬度との間の相関係数は,破壊法によるインタクトなトマトの果実硬度とスライスの果肉硬度との間の相関係数と同程度であった.これらの結果から,音響振動法は,トマトのスライスの果肉硬度の推定に利用できる可能性があると考えられた.
  • 山本 隆儀, 谷澤 佳美
    2008 年 7 巻 4 号 p. 549-558
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/25
    ジャーナル フリー
    着生した回転体状果実のデジタル写真画像を用いた果実体積のリモート計測法を考案し,その計測精度を検討するとともに,野外で用いる撮影装置の製作と着生果実を対象にしたリモート計測を行なった.果実の真横からの写真画像から,果実外形線の位置を果実軸に沿って画素単位に読み取り,それぞれの平均半径と1画素厚から作られる極めて薄い回転体スライスの体積をプログラム計算し,合計した.また,斜め45度の写真画像における陥没部(リンゴではこうあ部とていあ部)外形線から同様に陥没部空間体積を計算し,前者から後者を差し引き,果実体積とした.室内で,多くの回転体状果実を対象に体積のリモート計測を行ったところ,リモート計測値と実測値の間にほぼ良好な関係が認められた.ポールを地面に立て,その上に,高さや傾きが調節でき,かつ,同時2方向からの真横撮影および45度撮影を可能にする装置を取り付けることで,野外における着生果実体積のリモート計測作業が容易になった.
  • 黒田 治之, 千葉 和彦
    2008 年 7 巻 4 号 p. 559-570
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/25
    ジャーナル フリー
    無剪定の矮性および半矮性台木を利用したリンゴ‘スターキング・デリシャス’樹(樹齢7~11年生)における果実品質と栽植密度の関係について検討した.各台木樹とも,1果重は栽植密度(ρ)の増加に伴って減少した.このような1果重(ω)に関する密度効果は,ω = K1ρk1で表された.蜜入り指数と糖度は栽植密度(ρ)の増加に伴って減少したが,果肉硬度は増加した.蜜入り指数(μ),糖度(δ)および果肉硬度(ζ)に関する密度効果は,それぞれμ = K2exp(−k2ρ),δ = K3ρk3およびζ = K4ρk4で表された.酸度(η)に関する密度効果は,成熟果の場合はη = K5ρk5,未熟果の場合はη = K5ρk5で表された.このうち,高品質果実生産のための栽植密度設定に際して適用できる式はη = K5ρk5であった.以上の結果から,高品質果実生産のための栽植密度は上記の密度効果式の活用により設定できること,また設定された栽植密度の高品質果実生産能力は適熟期の果実収穫によって発揮されることが示された.
  • 二宮 千登志, 西内 隆志, 平石 真紀, 深井 誠一
    2008 年 7 巻 4 号 p. 571-577
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/25
    ジャーナル フリー
    周年生産されているグロリオサの花芽分化と温度との関係を把握するため,‘ミサトレッド’と‘トロピカルレッド’および‘ローズクイーン’を用いて,地温や催芽の温度・期間が花芽の分化に及ぼす影響について検討した.‘ミサトレッド’と‘トロピカルレッド’では19.1℃,31.6℃のいずれの地温でも同様の節位で花芽分化したが,‘ローズクイーン’の花芽分化節位は19.1℃に比べて31.6℃の地温条件下で著しく高かった.15~40℃で56日間催芽すると,‘ミサトレッド’では30℃以下,‘トロピカルレッド’では35℃以下で催芽中に花芽分化した.‘ローズクイーン’ではいずれの温度でも催芽中には花芽分化せず,基本栄養成長量の大きな品種と考えられた.いずれの品種においても葉分化には30℃かやや低い温度が適したが,花芽分化節位は催芽温度が低いほど低く,花芽分化のための好適温度は葉分化の好適温度より低いと考えられた.さらに,‘ミサトレッド’では30℃で25日間,‘トロピカルレッド’と‘ローズクイーン’では30℃で15日間催芽した後に15℃で15日間処理することにより,30℃で30日間催芽した場合よりも花芽分化節位が低下した.すなわち,30℃条件下に一定以上の期間を置かれると基本栄養成長を脱するが,30℃そのものは花芽分化を抑制する温度であることから,15℃に移すことで速やかに花芽分化したものと考えられた.このように,茎葉の成長を促進させる温度域より,栄養相から生殖相への相転換を促進する温度域が低いことや,相転換に要する期間や基本栄養成長量,高い温度域での相転換の抑制温度が品種によって異なることが,催芽や定植後の温度に対する反応性の品種間差を生じ,花芽分化節位の品種間差異として現れたものと考えられた.
  • 村上 覚, 加藤 智恵美, 稲葉 善太郎, 中村 新市
    2008 年 7 巻 4 号 p. 579-584
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/25
    ジャーナル フリー
    他発休眠期にある‘カワヅザクラ’(Prunus lannesiana Wils. ‘Kawazu-zakura’)の切り枝を用いて気温が花の発育と品質に及ぼす影響を調査した.0,5,10,15,20および25℃の恒温暗黒条件下で処理した結果,開花率は10℃で最も高くなった.この処理の結果から,気温(T)と花芽の鱗片葉が開き始めた日から開花日までの発育速度(DVR)に関し,DVR = 0.0042T(0 < T ≦ 25),DVR = 0(T ≦ 0)とする発育速度モデルが得られ,露地条件下においても適合性が確認された.日最低気温を5,10,15および20℃に制御した自然日長下での温室において切り枝を開花させた結果,日最低気温が高くなるほど開花開始日は早くなったが開花率は低下し,花径は小さくなり,花色は薄くなった.以上の結果から,‘カワヅザクラ’の切り枝で開花を促成させるのに最適な日最低気温は10℃前後と考えられた.
  • 小泉 明嗣, 馬場 正, 真子 正史
    2008 年 7 巻 4 号 p. 585-590
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/25
    ジャーナル フリー
    バナナはエチレン処理により追熟を開始し可食状態となるが,可食期間は通常たかだか6日である.流通業者や消費者からこの追熟過程を少しでもゆっくり進行させることが求められている.本研究では,バナナ果実の可食期間の延長を目的に,強力なエチレン作用阻害剤である1-メチルシクロプロペン(1-MCP)処理を試みた.1-MCPの処理時期(エチレン処理前,エチレン処理時,エチレン処理後),処理ステージ(着色度1,3,5),処理濃度(0.1,0.3,0.5,1.0,10 ppm)を変えてその効果を検討した.追熟開始前のバナナに0.3 ppmの1-MCP処理を行ったところ,追熟開始は遅れたが,追熟後の可食期間の延長には効果がなかった.1-MCPとエチレン同時処理では,0.3 ppmの1-MCPに対して100, 250, 500 ppmのエチレンで果皮に緑色のまだら模様が残った.同時処理の場合,エチレン濃度が高くなるとともに,速やかに黄化した.エチレン処理後の1-MCP処理では,着色度3到達時に0.3 ppmの処理で,可食期間の延長効果が認められた.以上の結果から,着色度3到達時に0.3 ppmの1-MCP処理により25℃下においても可食期間が12日まで延長することが明らかになり,バナナ果実への1-MCP処理の有効性が示された.
  • 本間 貴司, 井上 栄一, 松田 智明, 原 弘道
    2008 年 7 巻 4 号 p. 591-598
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/25
    ジャーナル フリー
    ニホングリ(Castanea crenata Siebold & Zucc.)果実の長期貯蔵試験を2004年10月から2005年9月までポリエチレンフィルムを包装材として行った.処理区として包装材1枚区,2枚重ね区,5枚重ね区を設け,品質要因として可食部の可溶性糖含量,デンプン含量および微細構造を調査した.健全果率は貯蔵2か月後から大きく減少し,5枚区では貯蔵10か月の時点ですべての果実が商品価値を失った.袋内のガス組成は包装材の枚数が多い区ほど酸素濃度が低く,二酸化炭素濃度が高い値を示した.果実の微細構造は貯蔵3か月で処理区間に大きな差異が観察された.すなわち,すべての処理区でデンプンの分解像が観察されたが,その進行程度は1枚区,2枚区に比較し,5枚区で抑制されていた.5枚区では,袋内の低酸素・高二酸化炭素により果実の呼吸が抑えられ,結果としてデンプン分解が抑制されたと考えられた.最終調査日の1枚区および2枚区において,健全果ではデンプンの分解像が少なく,デンプン含量も高い値であった.この時点での健全果率は50%程度であったが,健全果ではデンプンの蓄積量が高いことから,収穫時におけるデンプン蓄積量,すなわち成熟度の高い果実ほど貯蔵性が高いことが示唆された.
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