園芸学研究
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9 巻, 1 号
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原著論文
育種・遺伝資源
  • 小林 伸雄, 森田 智広, 宮崎 まどか, 足立 文彦, 伴 琢也
    2010 年 9 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    常緑性ツツジ遺伝資源の根系からみた評価を目的に,異なる土壌水分条件の圃場における各系統の根系分布と根長を定量的に測定した.強健な造園用品種の‘大紫’および‘白琉球’の根長密度は特に高く,深層部まで根系が発達していた.大半の系統で標準区に比べ湿潤区で根長密度が低かったが,川岸に自生するサツキ‘大盃’では湿潤区で根長密度が高く,特に0~5 cm層に根系が集中していた.以上のように系統間でみられた根系分布や土壌水分環境への適応の違いは各ツツジの多様な自生地土壌環境への適応性に由来するものと考えられる.
  • 山本 雅史, 福田 麻由子, 古賀 孝徳, 久保 達也, 冨永 茂人
    2010 年 9 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    奄美大島の東側に位置する喜界島特産の在来カンキツであるケラジミカン(C. keraji hort. ex Tanaka)の来歴について検討した.Inter Simple Sequence Repeat(ISSR)分析において,多型が認められたバンドを用いて共有バンド率を算出した.ケラジミカンはクネンボ(C. nobilis Lour.)と最も共有バンド率が高く(0.823),次いでキカイミカン(C. keraji hort. ex Tanaka)との共有バンド率が高かった(0.688).ケラジミカンに認められた16本のバンドはすべてキカイミカンまたはクネンボにも出現した.この3者間でケラジミカンのみに出現する独自のバンドは無かった.この結果から,ケラジミカンがクネンボとキカイミカンとの交雑種である可能性は否定できなかった.葉緑体DNA分析においてはケラジミカン,クネンボおよびキカイミカンは常に同一のバンドパターンを示し,識別できなかった.いずれも自家不和合性であるケラジミカン,キカイミカンおよびクネンボ間の交雑では,ケラジミカンとキカイミカンの正逆交雑において不和合関係が認められ,両者の不和合性に関する遺伝子型が一致することが確認できた.この両者はクネンボとは交雑和合性であった.クネンボとキカイミカンがケラジミカンの親であると仮定した場合,キカイミカンが花粉親の場合に,ケラジミカンはキカイミカンと不和合性になる.以上から,ケラジミカンはクネンボを種子親,キカイミカンを花粉親として発生した可能性があることがわかった.
  • 下村 克己, 古賀 武, 末吉 孝行, 浜地 勇次
    2010 年 9 巻 1 号 p. 13-17
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    近年,農作物の育種において,DNAマーカーの重要性は益々高まっている.本研究では,単為結果性ナスの育種の効率化を図るため,AFLP法によるマーカーの探索を実施し,単為結果性に係るDNAマーカーとしてsmpc77(プライマー組合せ[EcoRI-AGG, MseI-CTG],断片サイズ168 bp)を選定した.試験に供した半数体倍加系統のうち,本マーカーを持つ系統の正常肥大果数の平均値は,持たない系統の値よりも明らかに多かった.また,本マーカーを持たない系統の95%は,正常肥大果数が0ないし少なく,実用性が低いと考えられた.以上のことから,本マーカーは,単為結果性ナスの育種に有効であると考えられた.
  • 伊藤 弘顕, 西川 久仁子, 粟野 達也, 細川 宗孝, 矢澤 進
    2010 年 9 巻 1 号 p. 19-23
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    乾膜質な花葉をもつ7種の植物種を用いて,細胞壁の形態を電子顕微鏡および偏光顕微鏡を用いて観察した.通常,花葉は一次細胞壁だけの柔細胞で構成される.しかし,少なくとも7種の植物種における乾膜質な花葉では,共通して組織すべての細胞がセルロース配向のある二次細胞壁を発達させていることが明らかとなった.また,二次細胞壁の肥厚形態は植物種によって様々であった.すなわちヘリクリサムなどキク科の植物は管状要素あるいは転送細胞のように網目状あるいは縞状に,センニチコウなどヒユ科の植物は繊維のように層状に,イソマツ科の植物であるスターチスは種皮の厚壁異型細胞のようにひだ状に,細胞壁を発達させていた.
  • 小林 伸雄, 宮崎 まどか, 伴 琢也, 中務 明, 足立 文彦
    2010 年 9 巻 1 号 p. 25-29
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    3原種および4品種の常緑性ツツジについて挿し木苗の根系発達特性を調査した.雨よけ遮光区,密閉挿し区およびミスト挿し区で管理したすべての系統で80%以上の発根率が得られた.挿し木苗の総根長は,キシツツジや‘大紫’で長く,サツキ‘大盃’やクルメツツジ‘麒麟’で短い傾向がみられた.また,葉数および葉面積はモチツツジの葉面積を除いて,密閉挿し区,雨よけ遮光区の順で大きい値が得られ,ミスト挿し区で最も小さくなる傾向がみられた.挿し穂の発根範囲が切り口から表土付近までと広い,モチツツジ,サツキ‘大盃’および‘白琉球’では,網円筒枠外に伸長した根数の分布範囲も広かった.一方,ヤマツツジおよびクルメツツジ‘麒麟’では発根部位は狭く,網円筒枠外に伸長した根数も少なかった.挿し木苗の根系発達特性は,圃場定植苗の根系発達特性と共通する点が多く,各野生種やそれらをもとに派生した園芸品種における多様な環境への遺伝的な適応性に由来するものと考えられる.また,これらの特性は栽培,増殖および育種に関する研究や利用の現場においては重要な情報となり得る.
繁殖・育苗
  • 谷川 孝弘, 國武 利浩, 中村 知佐子, 山田 明日香, 巣山 拓郎, 佐伯 一直
    2010 年 9 巻 1 号 p. 31-38
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    夏秋ギク‘精雲’を供試し,土耕栽培および養液栽培による親株養成を行い,挿し穂収量と苗質について検討したところ,養液栽培した親株では,土耕栽培した親株と比較して挿し穂収量が約2倍に増加し,発根苗の茎長や葉数が増加し,早期発蕾が抑制されることを確認した.一方,養液栽培における採穂時期,培養液濃度,栽植密度および親株の遮光程度が挿し穂収量と苗質に及ぼす影響について検討したところ,中濃度(窒素濃度で142 ppm)の培養液を用い,25.6株・m−2の栽植密度で親株を養液栽培した場合に挿し穂収量が最も多くなることを確認した.また,発根苗の茎長は採穂時期が遅く,培養液の濃度が低いほど短くなる傾向を示すことを明らかにした.さらに,6~8月にかけての親株養成では,遮光は行わず,強い光条件下で栽培することが挿し穂収量の向上や苗質を維持するために好ましいことを示唆する結果を得た.これらの知見は,わが国における夏秋ギクの親株養成に対し有効に活用できるものと考える.
土壌管理・施肥・灌水
  • 木下 貴文, 桝田 正治, 渡辺 修一, 中野 善公
    2010 年 9 巻 1 号 p. 39-46
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    防根給水ひもによる栽培は,排液を削減できるため環境保全的である.本栽培法において,肥効調節型肥料を培地に混和し,ひもでは水のみを供給する方法について,大玉トマト促成15段栽培における適正施肥量を知るために,窒素成分で11.3 gN/株(少肥料区),16.2 gN/株(中肥料区)および21.0 gN/株(多肥料区)の三段階で施肥量を検討した.多肥料区では塩類濃度障害の萎れ症状がひどく,12月末で栽培を打ち切った.可販果収量には中肥料区と少肥料区で有意差はなかったが,糖度は中肥料区の方が高かった.栽培終了時の茎径は,中肥料区の方が少肥料区より大きかった.培地中の養分残存量をみると,N,P2O5,K2Oについては両区とも与えた養分の全量近くを吸収したが,CaOとMgOについては培地への蓄積が認められた.少肥料区と中肥料区において,培地溶液の無機成分濃度は,生育中期以降各成分とも低濃度で推移したことから,培地溶液の養分濃縮はないと考えられた.以上のことから,窒素施用量で見た場合,大玉トマト促成15段栽培では株当たり16.2 gNの施肥が適量の範囲内であり,この量を基準とした窒素溶出量の平準化が必要であると考えられた.
栽培管理・作型
  • 松本 敏一, 倉橋 孝夫, 松本 真悟, 赤浦 和之, 牧 慎也, 鶴永 陽子, 板村 裕之
    2010 年 9 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    カキ‘西条’の樹上軟化抑制法を検討するため,エチレン生合成に関わるACC酸化酵素の阻害剤である鉄以外の2価カチオンの樹上処理を行った.エセフォン処理によって誘発される樹上軟化に対する,塩化ニッケル,塩化コバルトおよび硫酸銅水溶液のへた部噴霧処理(エセフォン処理2日後)の影響を調査した.その結果,1,000 ppmの塩化ニッケル水溶液の処理効果が最も顕著に軟化を抑制した.塩化ニッケル水溶液処理の樹上軟化多発樹における軟化抑制効果を調査したところ,9月上中旬の1回処理や10月初旬の1回処理では明確な軟化抑制は観察されず,軟化発生が確認された後の処理では効果は全くなかった.一方,9月上旬と10月上旬の2回処理により,果実内のエチレン濃度が低下し,3樹の内1樹において軟化抑制の傾向が認められた.2回処理した果実では,収穫後の果肉硬度も無処理果実と比べ高く維持されていた.本研究において,ニッケル処理による樹上軟化抑制に効果がある可能性が示されたが,今後さらに年次,樹の反復などで効果の確認を行う必要がある.
  • 木下 貴文, 東出 忠桐, 藤野 雅丈, 伊吹 俊彦, 笠原 賢明
    2010 年 9 巻 1 号 p. 53-58
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    冬春期の傾斜地におけるセルリーの栽培において,傾斜地養液栽培システムの性能を調査するとともに,温床線を利用して効率的な根域加温を行うため,設定温度を15℃として朝方(3:00~9:00),昼間(9:00~15:00),および終日の加温を検討した.傾斜地では,圧力補正機構付きの点滴チューブを用いても給液停止後の吐出に起因する給液量のばらつきがあった.それに伴い,生育のばらつきがみられた.一方,傾斜地養液栽培システムでは,圃場の高低差に関係なくほぼ均一な給液が可能であった.その結果,セルリーの生育は圃場の高低差に関係なくほぼ斉一であったため,セルリー栽培に有効に利用できる.一方,朝方加温区では,終日加温区よりも平均根域温度が低いが調製重はほぼ同等であった.また,朝方加温区では,平均根域温度は昼間加温区とほぼ同じであるが,調製重は有意に大きかった.根域温度の日変化を比較すると,朝方加温区では,終日加温区と比べると夜間に低く,昼間加温区と比べると午前中に高かった.これらのことから,根域温度を朝から高めることがセルリーの生育促進にとって効果的であると考えられた.また,朝方加温区では,料金の安い深夜電力を利用して加温コストを低減できた.従って,朝方加温は,投入エネルギーおよび投入コストあたりの調製重増加が大きいため効率的な加温法といえる.
  • 渡辺 功
    2010 年 9 巻 1 号 p. 59-65
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    トルコギキョウ覆輪品種の花弁の着色割合に及ぼす20/15℃(昼/夜温)の遭遇期間と時期の影響について検討した.温度処理は第1花の雌ずい形成期から開始した.その結果以下のことを見いだした.20/15℃の遭遇期間の影響についてみると,20/15℃の遭遇期間が6週までは,遭遇期間が長いほど花弁の着色割合は有意に高くなった.20/15℃の遭遇時期の影響についてみると,20/15℃に同じ期間遭遇しても,第1花の雌ずい形成期から遭遇した方が,第1花の雌ずい形成期の2週もしくは4週後から遭遇した場合と比べて花弁の着色割合が有意に高くなった.また,第1花の雌ずい形成期から4週間を30/15℃で経過すると,以後20/15℃に遭遇しても,40%以上着色した花弁は少なく,覆輪の発現は安定していた.また,この場合,すべての期間を30/15℃で経過した時と比べて,花弁が大きくなるとともに,切り花長と切り花重も大きくなり切り花品質も優れた.従って,第1花の雌ずい形成期まで,30/15℃程度で管理した場合,覆輪発現が乱れないようにするには,そのまま4週間程度30/15℃で継続して管理すれば,以後は低温で管理しても覆輪の発現は乱れず,良品生産に役立つと考えられた.
  • 川城 英夫, 崎山 一, 草川 知行, 宇田川 雄二
    2010 年 9 巻 1 号 p. 67-72
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    高温・高湿度管理を行うキュウリの促成栽培における作業の快適化を目的として,温度管理が室内の温熱環境,作業者の労働負担およびキュウリの生育,果実収量,果実品質,病害の発生に及ぼす影響を明らかにした.収穫作業を行う9時30分~11時30分までの換気温度を25℃にすると,慣行栽培である29℃に対してWBGTが低下し,作業者の心拍数の上昇は抑制され,施設内での労働負担が軽減された.また,11時30分~13時30分までを38℃にするとキュウリの上物収量が低下し,曲がり果の発生が増加し,果皮色は淡くなったが,33℃では慣行の温度管理と同等の収量・品質を維持することができた.さらに,33℃変温区は慣行区の29℃に比べてうどんこ病やべと病の発生が少なく,薬剤散布の労力やコストの削減につながるものと考えられた.
  • 西川 豊, 近藤 宏哉, 伊藤 寿, 北村 八祥, 輪田 健二
    2010 年 9 巻 1 号 p. 73-79
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    長梢剪定し,有核で栽培したブドウ樹‘巨峰’を対象に小型反射式光度計を用いた葉柄汁液の硝酸イオン濃度の測定条件の設定を行い,長さ45~60 cmの新梢を5~7本選び,10~13時に採取,第1果房とその前後の3葉柄をあわせて搾汁する方法を決定した.本法により測定した硝酸イオン濃度と糖度との間には,有意な負の相関が認められた.この指標に先端新梢長,新梢着生率を加えた3指標と果実品質などとの関係を調査した結果,硝酸イオン濃度が低く,先端新梢長が長く,新梢着生率が高い樹において,果粒重が大きく,糖度が高く,酸含量が低い高品質果実が多く出現することが明らかになった.これらは,生産者が高品質果実を生産するための樹体管理上の有益な指標と期待された.
  • 大川 浩司, 菅原 眞治, 高市 益行, 矢部 和則
    2010 年 9 巻 1 号 p. 81-86
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    高温期および低温期における施設内の遮光による弱光条件が,単為結果性トマト‘ルネッサンス’の着蕾および着果に及ぼす影響について検討した.その結果,高温期における遮光率70%の弱光条件は‘ルネッサンス’の花芽の発育を大きく阻害したが,正常に発育した花芽では単為結果性の発現が認められた.また,‘ルネッサンス’の有種子果率および1果当たりの種子数を大幅に高めた.一方,低温期における遮光率45%の弱光条件は,‘ルネッサンス’の花芽の発育に影響を及ぼさず,単為結果性の発現は安定していた.従って,単為結果性トマト‘ルネッサンス’の生産性向上には,高温期における正常な花芽形成のために遮光処理を最小限に抑えることが重要と考えられる.
  • 池田 隆政, 伊藤 大雄, 吉田 亮
    2010 年 9 巻 1 号 p. 87-92
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    ニホンナシ短果枝葉の飽和光下光合成速度(光合成能力)の季節変化を携帯型光合成測定装置を用いて調査した.予備試験の結果,光合成能力の測定のためのチャンバー内条件として通気速度500 μmol・s1,光合成有効放射束密度1,500 μmol・m2・s1が適当であった.また,光合成速度は午前9時以降減少することから,測定は9時までに終了することとした.ニホンナシ‘幸水’(露地栽培)および‘ゴールド二十世紀’(露地およびハウス栽培)短果枝葉の光合成能力は,満開後30~60日に最高値(15~20 μmol・m2・s1)に達し,その後収穫期あるいはその直前までほぼ同じ値が維持された.着果負担のなくなった収穫期後は次第に低くなり,10月以降は急激に低下した.葉肉コンダクタンスの変化は,光合成能力とほぼ同様であり,光合成能力は,主に葉肉活性に影響されていることが示された.以上の結果より,ニホンナシ短果枝葉の光合成能力は着果期間中高いレベルが維持されていることが明らかになった.
発育制御
  • 小田 篤, 住友 克彦, 常見 高士, 道園 美弦, 本図 竹司, 久松 完
    2010 年 9 巻 1 号 p. 93-98
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    7月・8月咲きコギク品種の開花における日長反応性を調査した.その結果,供試した8月咲き品種は,すべて花芽分化開始について16時間以上24時間未満の限界日長をもつ夏秋ギク型品種に分類された.7月咲き品種は花芽分化開始についての限界日長をもたない夏ギク型品種と限界日長をもつ夏秋ギク型品種が混在していることが明らかになった.また,自然開花期の遅いものほど短日条件下での分化節位が高かった.供試したコギク品種のうち7月咲きコギク品種として栽培されている‘ほたる’は,‘岩の白扇’と同様の日長反応性をもち,短日条件で速やかに花成が進行する品種であった.以上の結果,‘ほたる’のようなコギク品種を選抜あるいは育成することで,夏期の需要期において気象の年次変動の影響を受けにくい電照抑制による同一品種での安定継続出荷作型の開発に繋がることが期待される.
収穫後の貯蔵・流通
  • 知野 秀次, 太田 祐樹, 二木 明日香, 齋藤 洋太郎, 黒坂 俊, 大塚 伸吾, 坂井 優, 松本 辰也, 児島 清秀
    2010 年 9 巻 1 号 p. 99-105
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    ‘越さやか’の果色値および可溶性固形物濃度は追熟中に上昇し,果肉硬度,弾性率,粘性率および弾性指標は低下した.果実が収穫後12日に適食状態に達した時の果実特性の値は,9.3(果色値),12.7 Brix%(可溶性固形物濃度),1.4 N(果肉硬度),1.8 × 106(弾性率)および1.1 × 107(粘性率)であった.さらに,f2およびf3から算出した弾性指標は9.5 × 106Emf2)および17.4 × 106Emf3)であった.一方,収穫後の果実へのフィルム包装は水分消失,果皮の黄化,果肉の軟化,ならびにデンプンの糖化を抑制した.収穫後12日におけるフィルム包装した果実の果実特性は,3.7(果色値),20%(ヨードカリデンプン反応),12.5 N(果肉硬度),15.0 × 106(弾性率),15.0 × 107(粘性率),29.5 × 106Emf2)および66.2 × 106Emf3)であった.以上の結果から,‘越さやか’果実の追熟特性ならびにフィルム包装による果実の追熟抑制効果が明らかになった.この追熟抑制効果はフィルム内の酸素濃度の低下によることが示唆された.また,‘越さやか’の弾性指標が果肉の軟化とともに低下したことから,非破壊計測技術による熟度推定の可能性が示唆された.
  • 池田 裕朗, 石川 豊, 北澤 裕明, 路 飛, 赤阪 信二, 塩田 俊
    2010 年 9 巻 1 号 p. 107-112
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    レモン果実を収穫してから運搬,選果ラインを通って箱詰めされるまでの間に受ける衝撃の大きさおよび回数を計測し,その発生原因についても同時に検証した.レモン果実が受ける衝撃測定は,発泡スチロール内に衝撃センサーを組み込んだ擬似レモンを作成して調査に用いた.収穫から運搬,選果場でのライン搬送を通じて最も衝撃が大きく,回数も多かったのは選果ラインであった.次が収穫時であり,トラック輸送では衝撃は少なかった.収穫時における5 G以上の衝撃は,作業者により異なり,収穫カゴへの取り入れ時の高さ,収穫カゴからコンテナへの移し替えの方法が影響していた.従って,収穫時には果実の取り入れ方法の改善や衝撃軽減対策が必要であると考えられた.選果時における衝撃は,コンテナ反転から選果台まで移動する間の段差,乾燥工程での段差,サイズ選別のための回転ドラム,光センサーに入る手前の段差,選果レーンから箱詰めラインへの落下・壁への衝突が主な衝撃発生原因であった.また,レモン果実を洗浄ブラシ上の時間が長い重量選果機で選果した場合,光センサー選果機と比較して衝撃回数が多い傾向にあった.擬似レモンを用いた落下高と衝撃の大きさは,G = 6.97H0.5416(G:衝撃加速度,H:落下高)の関係が認められた.レモン果実は果頂部が尖っており,その部分から落下した場合に特に衝撃が大きく,ウンシュウミカン用の選果ラインでレモン果実を選果する場合には何らかの衝撃軽減対策を講じる必要があると考えられた.
普及・教育・利用
  • 水野 由加里, 辻谷 知子, 濵渦 康範
    2010 年 9 巻 1 号 p. 113-120
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/26
    ジャーナル フリー
    数種の長野県特産果実(リンゴ,マルメロ,カリン,サンザシ,セイヨウナシおよびブルーベリー)に含まれる細胞壁成分の組成・含量の調査と各品目のアルコール不溶性固形物(AIS)を用いた胆汁酸吸着活性および抗酸化活性の調査を行った.細胞壁成分の組成・含量は,品目により顕著な差異が認められ,サンザシは水可溶画分のウロン酸が顕著に多く,カリンおよびマルメロ果実は,不溶性ペクチンや結合力の強いヘミセルロースが多いなどの特徴が認められた.このような組成の違いは果実の肉質の特徴を反映していると考えられた.また,AIS中のリグニンおよびプロシアニジン含量は胆汁酸吸着活性およびラジカル消去活性と相関が認められた.以上のように,細胞壁成分の組成の違いは果実の硬度や機能性に影響を及ぼし,特に結合型プロシアニジンやリグニンなどのフェノール性成分は胆汁酸吸着活性およびラジカル消去活性との関連性が深く,これらの細胞壁ポリフェノールは食物繊維の一部としてその機能性を増強する役割を有すると考えられた.
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