日本におけるウミガメの生物学の研究の歴史を明らかにするために,256の論文を分類,分布,発生,遺伝,生態・行動,各地での調査活動に分けて概観した.わが国で最も古いウミガメに関する研究は,小笠原諸島父島で食料としてのアオウミガメの保護を目的に,1880年に開始された.この研究は現在でも継続されており,捕獲されたウミガメの個体数の変動を知ることができる.一方,日本のウミガメの分類学については1907年のStejnegerの業績に端を発するが,その後,西村が1960-70年代に日本に生息するウミガメの正しい種名と分布を明らかにするまで,ほとんど研究が行われることはなかった.1980年代になると日本各地のアカウミガメの産卵地で,地元のボランティアによる調査が始められた.これらの調査活動の高まりとともに,生態学的情報も蓄積されるようになり,主としてそれらは地方誌に発表された.これらの報告は主として日本語で書かれているうえ,広く流布しておらず,特に海外の研究者にとっては入手しにくく,無視されることもしぼしぼであった.しかしながら,これらの研究には,50年近く蓄積された大浜海岸や蒲生田海岸の産卵回数の記録に代表されるように,重要な情報も含まれている.したがって,これらの資料はウミガメの生物学や保護を議論する上で重要な価値を持っていると考えられる.
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