日本ヘルスサポート学会年報
Online ISSN : 2188-2924
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  • 松田 晋哉, 村上 玄樹, 林田 賢史
    2023 年 8 巻 p. 1-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー

    福岡県のDPCデータを用いて、急性期病院に入院した高齢患者について、急性期病院における高齢患者の入退院経路とB項目のスコアの関連に関する検討した。その結果、B得点の状況が退院先の決定に関係している可能性が示唆された。仮に入院時のB項目の状態像から、在宅復帰が難しいと判断された場合は、入院時から在宅以外の退院先の調整を開始することが必要となる。また、B項目の得点および各チェック項目の状況を入退院時の連係情報として用いることで、適切の看護ケア・ADLケア・リハケアの継続的な提供が可能となる。現在、厚生労働省は医療情報基盤の整備を検討しているが、その第一義的な目的が関係者間の情報共有の促進によるケアの質の向上であることを考えれば、この情報基盤に登録が予定されている退院サマリーにB項目のスコアが含まれることが望ましい。また、こうしたB項目情報を含めたサマリー作成に対して、診療報酬及び介護報酬で評価することが適切ではないかと考えられる。

  • 松田 晋哉, 村松 圭司, 得津 慶
    2023 年 8 巻 p. 11-24
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー

    東日本の1自治体のレセプト(国民健康保険、後期高齢者医療保険)を用いて国が示した「医療資源を重点的に活用する外来」の実施状況を検討した。診療情報提供料Ⅰが算定されているレセプトとそれ以外のレセプトにおける傷病名の出現率の違いを検討した結果では、悪性腫瘍や慢性腎不全、心内膜症のような重篤な傷病で、診療情報提供料Ⅰが算定されている割合が高いことが確認された。このことは日常診療において、当該医療機関の対応範囲を超える傷病については、適切に紹介が行われていることを示唆するものである。また、診療情報提供料Ⅰが算定された患者の医療サービス利用状況の経時的推移をみても、そうした患者は入院や病理学的検査、画像診断管理加算など医療資源を重点的に利用していると考えられる診療行為を受けている割合が高くなっていた。以上の分析結果より、医療資源を重点的に利用する外来の評価にあたっては中央診療部門に着目した評価体系を構築することが望ましいと考えられた。

  • 松田 晋哉, 村松 圭司, 得津 慶
    2023 年 8 巻 p. 25-38
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー

     医師を対象にかかりつけ医機能に関する意見調査をWEBによって行った。調査期間は令和4年4月1日から5月31日である。27,707件の施設に調査への参加依頼状を送付し、1,286件(4.6%)から有効回答を得た。年齢階級別では60-69歳が33%ともっとも多く、次いで50-59歳(32%)、40-49歳(17%)となっていた。かかりつけ医機能として、最も重視されていたのは「他の医療機関への患者の紹介」(89%)で、次いで「主治医意見書の作成」(85%)、「他の医療機関からの患者の逆紹介」(84%)、「予防接種」(82%)、「特定健診」(71%)、「往診」(70%)なっていた。この結果を「現在行っている、または過去に「行ったことがあるもの」に対する回答と比較すると、ほとんどの項目で、ほぼ同じ割合となっていた。「ご自身はかかりつけ医機能を果たしていると思われますか」という質問に対しては全体では「十分果たしている」、「どちらかと言えばはたしている」が79%であった。かかりつけ医機能の診療報酬における評価については、全体では「かかりつけ医であることを総合的に評価(施設基準のように個別の診療行為ではなく体制につくもの)」が36%、「かかりつけ医機能と考えられる行為を個別に診療報酬で評価」が57%となっていた。本分析の結果から、医師の多くは自身がかかりつけ医機能を果たしていると考えており、また行われている医療サービスの内容からもその機能を十分果たしていると結論できる。これは、財政当局や国民の認識と異なっており、この認識のギャップの原因について検討することが今後の課題であると考えられる。

  • 松田 晋哉, 村上 玄樹, 林田 賢史
    2023 年 8 巻 p. 39-49
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー

     高齢化に伴い急性期から慢性期、入院・入所と在宅、医療と介護のニーズの複合化が進んでいる。この状況に対応する評価手法の開発が急務となっているが、複合化されたニーズの多くは現行の重症度、医療看護必要度(以下、看護必要度)で把握している情報である。そこで、本研究では福岡県を中心とした九州地方の急性期以後の医療介護サービス事業者の利用者を対象として、看護必要度の各項目の値及び主な傷病の有病率を用いて、施設の類型化をその利用者の状態像比較を行った。

     上記の情報を説明変数としてクラスター分析を行った(平方ユークリッド距離を用いたグループ間平均連結法)結果、対象施設は1群(地域包括ケア病棟)、2群(回復期リハビリテーション病棟)、3群(医療療養病棟)、4群(介護医療院、老人保健施設、特別養護老人ホーム)、5群(訪問看護)の5つに分類された。A項目及びB項目の得点、対象とする傷病の状況は5つの群で異なっており、各機能の特徴が明らかとなった。

     この結果は看護必要度を用いて施設類型を行うこと、そして異なる施設類型における看護の手間を統一して評価できる可能性を示唆するものである。

  • 松田 晋哉, 村松 圭司, 松本 晴樹
    2023 年 8 巻 p. 51-60
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー

    国立社会保障・人口問題研究所が公開している日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)と厚生労働省の患者調査及び介護保険事業報告の公開データ基づいて、我々は傷病別の入院および外来患者数、要介護度別利用者数(サービス種別も含む)を推計するツールを開発している。本研究では、これらのツールと内閣府が公開している標準化レセプト比(SCR)を組み合わせて分析することで、各地域の特性にあった慢性期の医療介護施策を立案することが可能であることを示した。

  • 松田 晋哉
    2023 年 8 巻 p. 61-72
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー

    【目的】わが国では高齢者の多施設受診が議論の対象となる。この問題はかかりつけ医機能を考えるためにも重要な論点である。本論文では、西日本の一自治体の医療介護データを用いて、その現状と関連要因について分析した結果をもとにかかりつけ医機能について論考を行う。

    【資料及び方法】資料は西日本の1自治体(県レベル)の医科レセプト(国民健康保険と後期高齢者医療制度)及び介護レセプトを用いて、2018年度の外来受診状況を二次医療圏別に分析した。医科および介護レセプトは、自治体側で匿名加工した個人IDを用いて連結し、個人単位で追跡できる仕様としてデータベース化した。このデータベースを用いて、65歳以上の対象者が外来受診した医療機関数、調剤薬局数、外来受診日数を求め、さらに診断された傷病の種類と傷病数、介護保険サービスを利用した月数の合計を求めた。

    【結果】受診機関数に関する多変量解析の主な結果は以下のとおりである(数字は重回帰係数)。

    ・外来受診機関及び外来受診日数には統計学的に有意な差が存在し、ともに都市部であるA医療圏、B医療圏で多く、中山間地域であるG医療圏で少ない。

    ・傷病が受診機関数に及ぼす影響を見ると、眼疾患(1.06)、耳疾患(0.68)、皮膚疾患(0.57)、脊椎障害(0.42)、悪性腫瘍(0.64)、脳血管障害CVD(0.44)のある者で受診機関数が多い。

    ・傷病が外来受診日数に及ぼす影響を見ると、統合失調症(9.6)、気分障害(4.1)、眼疾患(6.7)、耳疾患(5.4)、皮膚疾患(6.4)、下肢関節障害(9.6)、脊椎障害(9.5)、骨粗しょう症(5.0)、腎不全(4.0)、認知症(4.9)のある者で外来受診日数が多い。

    ・介護保険を利用している者では医療機関数の利用が少ない(-0.48)。

    【考察】医療資源の豊富な都市部において内科系の慢性疾患を持って内科系のかかりつけ医を持っている高齢患者が、皮膚科や眼科、耳鼻科、整形外科などの傷病については、そうした標榜科の診療所にかかることは、患者の行動として当然のことである。したがって、そうした受診行動を制限しようとすれば、患者側から不満が出ることは明らかである。このような状況を踏まえて、都市部においてはネットワークで機能するかかりつけ医の仕組みを作ることが、当面の課題になる。他方、医療資源の乏しい中山間地域では「内科診療所などが総合医的な役割でかかりつけ医として機能している」実態がすでにある。したがって、こうした地域では医師の生涯研修の枠組みの中に総合医機能の強化を組み込むべきだろう。

  • 松田 晋哉, 村松 圭司, 劉 寧, 松垣 竜太郎, 得津 慶, 藤本 賢治, 野元 由美
    2023 年 8 巻 p. 73-80
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー

    目的:「時々入院・入所」の状況になっている不安定な状態の要介護高齢者の医療ニーズについて検討するために、老人保健施設の短期入所療養介護(ショートステイ)利用者の医療介護サービスの利用状況および主な傷病の有病率を分析した。

    資料及び方法:国内の34の二次医療圏の医療介護レセプトを個人単位で連結して、短期入所療養介護利用者を抽出し、その利用1か月前から利用後11か月までの医療介護サービス利用状況及び主たる傷病の有病率について検証した。

    結果:ショートステイの利用率は11か月後には20%前後となるが、他方で施設介護の利用者が増加していた。利用者は高血圧性疾患、糖尿病、脳血管障害、心不全、認知症など多様な慢性疾患に複数罹患しており、1年間の累積死亡率が約20%であった。また、80%前後は外来医療を利用していた。

    考察:ショートステイの利用者を経時的にみると1年間の累積死亡率が20%前後、施設介護への移行率が20%であることから医療および介護の両方で重症な者が多いことが推察された。また、利用者の多くは複数の慢性疾患に罹患しており、その在宅生活を維持するためには、かかりつけ医による積極的な医学管理が必要であると考えられた。

  • 松田 晋哉, 村松 圭司, 劉 寧, 藤本 賢治, 野元 由美
    2023 年 8 巻 p. 81-92
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー

    目的:2018年に出された地域医療構想では、在宅医療の提供量を増加させることが目的として掲げられている。しかしながら、在宅医療の提供量は、各地域の医療介護サービスの状況や人的資源、住環境など種々の要因によって影響を受ける。この地域性を踏まえて在宅医療のあり方を考えることが実際的である。そこで本分析では二次医療圏別の医療介護関連データを用いて、訪問診療の提供量に関連する要因についての生態学的研究を行った。

    方法:内閣府「経済・財政と暮らしの指標「見える化」ポータルサイト」・「医療提供状況の地域差」で公開されているSCR(standardized claim-data ratio) 、厚生労働省・介護保険事業状況報告、日本医師会・地域医療情報システムにおける特定施設定員数のデータを用いて、二次医療圏別のデータセットを作成し、変数間の相関分析および共分散構造分析を行った。

    結果:訪問診療の提供量が多い二次医療圏は、診療所の外来医療、往診、訪問看護、在宅介護サービスの提供量が多く、また緊急往診や緊急時の他職種によるカンファレンスが多く行われていた。さらに、サービス付高齢者施設などの特定施設の定員数が多い地域では訪問診療の提供量が多くなっていた。なお、訪問診療の提供量は介護施設入所とは有意の負相関が観察されたが、療養病床については有意の関係を認めなかった。上記結果をもとに変数間のモデル構築し、共分散構造分析を行った結果では、介護施設および入院医療の提供量は訪問診療の提供量に対して負の関連、そして人的資源、訪問診療の支援体制、緊急時の対応体制、サービス付き高齢者住宅の提供量は有意の正相関を示していた。

    考察:訪問診療を促進するためには、まず、それを提供する診療所などの医療機関があることが前提となる。また、本分析の結果は、在宅医療は施設介護サービスと代替性があり、特定施設のような介護を受けやすい住まいがあることが、その提供量を増やすためには重要であることを示している。

    結論:在宅医療を促進するためには、医療サービス、介護サービスの整備だけでなく、それを促進するための住環境の整備も重要である。

  • 松田 晋哉, 村松 圭司, 劉 寧, 松垣 竜太郎, 得津 慶, 藤本 賢治, 野元 由美
    2023 年 8 巻 p. 93-102
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー

    目的:介護現場における慢性期の医療ニーズの状況を把握する目的で、東日本の一自治体の医療・介護レセプトを用いて、老人保健施設入所前後の診療区分別医療費の変化について分析を行った。

    資料及び方法:分析に用いたデータは東日本の一自治体の医科レセプト、調剤レセプト及び介護レセプトである。2017年4月から2019年3月までの間に老人保健施設に入所した者について、入所前の傷病の状況及び診療区分別医療費(診察料等、医薬品費、処置、手術、検査、画像診断、その他、入院)を求め、1か月後、2か月後、3か月後、4か月後のそれぞれで退所した者について、診療区分別医療費を計算し入所前の医療費との差について検討した。検定は対応のあるt検定を行った。

    結果:対象者数は7,565名であった。ベースライン時(入所1か月前)の傷病の状況をみると、最も有病率の高いのは高血圧性疾患(55.5%)で、要介護度は、介護認定無が51.2%と最も多く、次いで要介護2(13.7%)、要介護3(12.8%)となっていた。性別では女性が62.9%で、そして年齢は平均が85.3歳であった。診療区分別医療費は、手術、画像診断、入院で有意の減少を認めたが、その他の区分については医薬品費を含めて有意の変化を認めなかった。

    考察:以上の結果は、老人保健施設においては、多様な慢性疾患を持つ高齢者の医学的管理を、所定の介護給付費の枠内で行っていることを示唆するものである。老人保健施設から入院退所となる原因として最も多い傷病は肺炎であることが多くの研究で明らかとなっているが、その原因となる慢性疾患の管理や口腔ケアを老人保健施設で適切に行うことは、対象者の療養生活の質の維持・向上につながるだけでなく、医療介護給付費の増加防止にもつながる。慢性期におけるこの医学的管理の効果について、診療報酬制度及び介護報酬において、適切に評価する必要がある。

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