本論の目的は,「いばらきコホート調査」の概要を紹介し,今後の調査遂行に関する課題を析出することである。立命館グローバル・イノベーション研究機構研究プログラム「シームレスな対人支援に基づく人間科学の創成」(代表:矢藤優子)は,2017年から大阪府茨木市の女性を対象とし,産前・産後の女性を継続的に追跡する調査「いばらきコホート調査」を実施している。その目的は,女性の心身の負担とその変化を把握すること,女性の置かれた社会的状況とその変化を把握すること,こうした女性の状況が子どもの発達にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることである。本論では,いばらきコホート調査における全体設計,実行可能性,対象者維持の方法,データの収集と管理,2017年から2018年に収集したデータについて論じた。いばらきコホート調査は質問紙調査を主軸とし,面接調査,唾液調査,行動観察が紐づくように設計されている。事務局を立ち上げ,協力者管理を行い,各調査を適切なタイミングで案内している。ならびに,協力者維持のための工夫を行っている。こうした技術を整理した結果,成果のアウトプットや事務局運営上の問題が今後の課題として挙げられた。
人を対象とする研究において,倫理的な配慮は不可欠である。インフォームド・コンセント,個人情報の取り扱い,調査協力者の体調が崩れた場合の対応等,配慮事項は多岐にわたる。しかし,継続して行われる研究プロジェクトになると,個別に対応すべき案件が後から出てくることも多い。また,研究遂行を目的としている場合,調査協力者への支援や情報提供等にも限界がある。本報告は,「いばらきコホート調査」における倫理的配慮について,研究グループで議論してきた内容と工夫を記述するものである。継続して行われるコホート調査における倫理的配慮の特徴について4点(①インフォームド・コンセント,②個人情報保護,③面接調査・行動観察・唾液調査における配慮,④調査結果のフィードバック),抑うつの可能性がある協力者への対応について4点(①概要,②抑うつ状態に関する結果のフィードバック,③茨木市との連携,④マニュアルの作成)に分けて記述した。最後に,研究を遂行する上で発生した倫理的課題について言及した。
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