子宮頸がんはHPV(ヒトパピローマウィルス)の持続感染が主要な原因とされる。そこから、HPVに対する感染予防ワクチンが作られた。2013年4月、予防接種法の改正にともない、HPVは定期予防接種のA類疾病(1類疾病)に指定された。これにより、被接種者においてはHPVワクチン接種を受けることが努力義務となり、ワクチン接種事業者側(=市町村長ないし知事)には予防接種の勧奨が課せられた。この予防接種法2013年改正に寄与したのが、厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会(審議会)である。本稿は、審議会において、HPVワクチン(ないし当該ワクチン接種)がどのように語られて、HPVが定期予防接種のA類疾病に指定されたのかを、「境界作業(boundary work)」の視点から明らかにする。境界作業とは、科学と行政といった制度とのあいだなどで、ある知識の正しさや妥当性にかんして線引き(評価)をおこなうことである。厚生労働省は、審議会にHPVのB類疾病(2類疾病)への分類を諮った。しかし、審議会において、ワクチン接種による健康被害に対する補償という点から、異論が出た。そこで、厚生労働省は1類疾病概念自体の変更をおこなって、HPVを1類疾病に該当させた。これは、審議会において望ましいHPVワクチン接種のあり方をめぐって境界作業が発生し、調整された結果である。
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