新型コロナウイルスは、国内外における流行も収束の兆しは見えておらず、社会経済活動に対しても大きな影響を与えている。新型コロナウイルス感染症は、発熱、呼吸器症状、嘔吐、下痢といった多様な症状を呈するものであり、事業所や学校においても、日常生活における感染対策を講じたり、患者が発生した場合に保健所等の調査に協力したりする必要がある。その際、感染症法をはじめとした関係法令への知識も必要となる。本稿では、衛生行政の視点から「法の枠組み」に着目しつつ、筆者の実践例として、高知県での対策の実際を紹介する。
2018年1月から2020年11月の全国の交通事故の推移を既存の統計資料を用いて解析したところ、発生件数、負傷者数、死者数のいずれも経年的に減少しており、新型コロナウイルス感染症の出現後は、緊急事態宣言の期間中に交通事故の発生件数と負傷者数が一時的に著明に減少していた。しかし、交通事故の死者数は緊急事態宣言期間中に著明な減少は認められなかった。感染症の拡大防止のための人々の移動の制限は、交通事故の発生件数と負傷者数の減少をもたらすが、交通死亡事故の抑制までには至らないと考えられた。
新型コロナウイルス感染症の日本における全国的な感染拡大は、医療提供体制の確保をはじめ、社会、経済、教育など、さまざまな領域で数多くの問題を生じさせた。本稿は、感染症と法の関わりについて論じる。法に基づく行動制限措置について、憲法、行政法等に基づく対応の現状や周辺問題に言及する他、患者や家族等に対する偏見差別について、過去のハンセン病政策への反省を踏まえた上で、法的な観点から考察する。
新型コロナウイルス感染症で死亡した人々を解析し、後世の人々の健康の保持と疾病の改善と予防に役立てることは、医学の重要な役割である。正確な死因診断に基づく死因統計の迅速な公表は、感染症の保健政策や医学研究の基礎資料となる。感染症の拡大は、人々の行動変容を来し、人の行動に関係した交通事故等の外的要因による死亡者数は変化している。自宅待機やテレワークでは、家庭内での事故や暴力、飲酒や薬物摂取に伴う事故の増加が危惧され、情報通信技術を用いた遠隔からの対応の整備が望まれる。感染症拡大下で得られた知見を集積することで、日常の事故や将来起こりうる新たな災害に備えることができる。
新型コロナウイルス感染症による公共交通への影響が、未曾有の危機的な状況となっている。感染が急拡大した2020年春以降、都市内の公共交通はピーク期で半減、新幹線や航空、高速バス等の都市間の公共交通は、ピーク期で9割近く減少した。減少した需要は元に戻らず、さらに感染第2波、第3波の影響もあり、公共交通事業者の経営状況は危機的な状況に陥っている。本稿では、こうした公共交通事業への影響や人々の移動状況への影響をさまざまな視点から整理し、ポストコロナ時代の公共交通復活に向けた方向性を述べる。
新型コロナウイルス疾患の流行と同時に感染が懸念される場所の一つとして、満員電車が挙げられている。著者は、目に見えないウイルスの振る舞いを流体シミュレーションにより可視化し、これまでに満員電車における感染シミュレーションを実施していた。新型コロナ感染が広がり始めた2020年2月以降、本シミュレーション結果はテレビ、新聞、雑誌等数多くのメディアで取り上げられたものの、放送時間や記事面の制約による説明不足のため誤解を与えるものも少なくなかった。本論説では、これまでにメディアで紹介されたシミュレーションの正確な情報を記載するとともに、著者の考える満員電車における感染リスクについて記述している。ただし結論からいうと、ほとんどの乗客がマスクを着用している日本国内における電車内では、これまで同様、今後もクラスターは発生しにくい環境であると考える。
100年に一度といわれるモビリティ革命により、モビリティは人や物の単なる物理的な移動だけでなく、情報やエネルギーといった目に見えない移動も含んだ巨大なネットワークシステムへと変化している。そして、移動を取り巻く人口動態や環境が変化をする中、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)により、モビリティ革命が加速している。本稿では、モビリティ革命の概要と日本を取り巻く社会的状況を踏まえた上で、COVID-19がモビリティに与えた影響を概観し、モビリティ革命が向かう方向性について考察する。
最初に、COVID-19の感染状況と移動との関係に関する分析事例からの示唆を踏まえて、世界交通学会WCTRS COVID-19 Task Forceが設立した当初の政策提言を紹介する。次に、「モスキート仮説」に基づき、感染メカニズムを移動、活動場と自衛という3段階に分解して、各段階に応じた対策・政策の必要性を論じる。そして、パンデミック対策・政策の立案方法である「PASSアプローチ」を紹介し、各ステークホルダーがやるべき対策・政策を体系的に整理・提案する。最後に、科学的なエビデンスに基づき、交通部門を含めた部門横断型パンデミック対策・政策を早急に講じる必要性を訴える。
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