世界的な気温の上昇は著しく、それに伴う気候変動によって生命や財産の危機となるレベルで降雨が増えたり、逆に乾燥したりするケースが多く報告され、深刻な社会問題となっている。また、気候変動によるさまざまな影響は、その進行に伴いさらに悪化することが懸念されている。深刻化する気候変動の対策には大きく「緩和」と「適応」の2つがあるが、緩和策と適応策を併せて考えることは重要である。交通分野は温室効果ガスの排出源として語られることが多く、緩和策への取り組みも重要だが、緩和と適応、それぞれの視点を取り入れて対策を検討していくことが今求められている。
2018(平成30)年7月の西日本豪雨では、同時多発的な土砂崩れと洪水により、広島都市圏の高速道路、国道、鉄道に深刻な被害が生じ、交通機能が長期間にわたり麻痺した。本稿では、レジリエンスの枠組みに基づき、災害時の交通マネジメントについて考察する。まず、正常性バイアスによる避難遅れ、道路復旧に伴うBraessのパラドックス、適応型公共交通システムの有効性を確認する。次に、通勤交通の強靭化プログラムによって、災害時の渋滞緩和が可能であることを示す。これらの結果を踏まえ、地域レジリエンスの向上と戦略的な復旧計画の重要性を指摘し、将来の災害対策に向けた示唆を与える。
近年、記録的な大雪により大規模な車両滞留が発生し、通行止め解除や滞留車両の救出が長期化するケースが多発した。近畿地方整備局では、人命最優先の方針の下、2021(令和3)年度より幹線道路上の大規模な車両滞留を徹底的に回避することを基本的な考え方として、高速道路と並行国道の同時通行止め、事前広報などの取り組みを行っている。本報告では、過去発生した大雪による通行止め実施時において、交通動向を車種や車籍地別に分析し、通行止め区間の考え方、広報の内容やターゲットなど、大雪時の交通マネジメントの在り方についてとりまとめ、報告する。
悪天候により交通事故の発生確率が高まる現象は、よく知られている。交通事故統計には天候や路面状態が記録されているが、天候と交通事故の関係を分析するのには不十分である。現在、交通事故に関わるさまざまなビックデータが整備されつつあり、気象を含む各種データと交通事故データを連携させた分析が実施され、悪天候時の交通安全対策に活用されている。交通安全のさらなる推進のためには、さらなるビックデータの整備、連携、統合が必要であり、これらを有効活用することにより悪天候対策が進展すると思われる。
認知機能は自動車の運転に不可欠である。真夏の車内温度は50℃近くに到達し、認知機能は暑熱環境への暴露によって影響を受けることから、交通安全にリスクをもたらす可能性がある。我々の先行研究では、脳波を用いた事象関連電位(P3成分)を利用し、暑熱環境下における認知機能特性について検討した。また、顔や頭部の冷却、全身冷却が温熱的不快感を軽減し、高次認知機能の回復にどのような寄与するか、そのメカニズムの検討も行った。これらの研究成果は、暑熱環境下における安全な運転環境の構築に向けた基礎的データとして活用が期待される。
気候変動の影響は今後、数世紀にわたって顕在化すると予測されているが、自治体等の都市計画やまちづくりでは10~20年先を目標年次とするのが一般的である。今後はシナリオごとの長期的な将来を見据えた上で、バックキャスティングによって施策を展開していくことが求められる可能性がある。そこで、筆者らの研究メンバーは都市計画分野の適応研究として、いかに対象地の将来像を想定し、気候変動影響を評価し、適応策を検討するかという問いに対して検討を続けてきた。本報では、その成果について紹介する。
本研究は、来たる気候変動に向けた交通施策を講じるため、公共交通利用者に焦点を当てた気象条件と人々の交通行動の変化の関係を明らかにするものである。具体的には、SP調査を用いて異なる天候状況を提示した際に、人々は出発 ・交通手段・出発時間の選択行動の変更を行うかどうかの実態を把握した。加えて、個人属性や気象条件、個人が持つ交通行動に対する意識という各種要因が人々の行動変容に与える影響についてロジットモデルにより分析した。その結果、天候が出発ならびに交通手段の変更へ影響していることを明らかにした。
本稿は、地方部でのカーシェア利用拡大という課題を検討するものである。人口密度の低い地方部では、都市部とは異なるモデルが求められる。鳥取市での実証実験において、オンデマンド交通でカーシェアステーションまで移動し、カーシェアを利用するというユースケースを確認できた。この手法では、ステーションへのアクセスをオンデマンド交通との組み合わせで改善することにより、人口密度の低い地方部でも、利用者の利便性が上がり、事業者の商圏が広がり、採算性も向上することが期待される。行政もオンデマンド交通の導入とセットで後押しが可能なモデルであり、地方部でのカーシェア利用拡大の有効な方法になりうると考える。
人口減少による交通の変化を見据えた交通安全施設の維持管理・更新についての対応が求められる中で、今後は低コストで持続可能な交通安全施設が必要とされる可能性がある。横断歩道に注目すると、北米では交通信号機以外にも閃光により車両運転者へ注意喚起を促すRectangular Rapid Flashing Beacons(RRFBs)の整備が進められており、横断歩道における車両の一時停止を促すデバイスとして高い効果が得られている。本稿では、北米の閃光式横断支援用装置であるRRFBsに関するレビューを行った上で、カナダでのインタビュー調査および観測調査の結果を示すとともに、日本での導入可能性について課題を整理する。
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