国土交通省では、バリアフリー法に基づき整備目標を定め、バリアフリー化を推進してきた。現在の第3次整備目標における目標期間は2025(令和7)年度までの期限となっていたことから、検討会において目標の見直しに向けた検討を重ね、最終とりまとめを公表した。新たな第4次整備目標では、数値目標の引き上げや新規項目の追加等の見直しを行っている。また、それ以外にも、道路の移動等円滑化のガイドラインの改正や、「鉄軌道のバリアフリー化の整備推進に関する検討会」におけるとりまとめ、建築設計標準等の改正等の取り組みを行っている。
インクルーシブ社会の実現には、誰もが安心して移動できる交通手段とインフラの整備が不可欠である。そのためには、まずバリアフリーの推進と地域特性に応じた移動手段の重要性を確認し、現状の歩道における課題を明らかにした上で、インフラ整備と移動手段の両面から対応する必要がある。さらに、電動アシスト自転車や3輪・4輪車、特定小型原動機付自転車などの新しいモビリティが、高齢者や脚による移動が困難な者の移動支援に有効であることも示した。
鉄道のサービスには、さまざまな利用者からの要求がある。現在は、特に高齢者や障がい者へも配慮し、これらの利用者も安心して使える安全な鉄道環境が求められている。利用者が駅で発券機を使い切符を購入して改札口からプラットホームに上がり、列車に乗車するまでの一連の動線のうち、前半ではチケット発券機において高齢者・障がい者も含めたユーザーインターフェースに関わる研究について述べた。例え加齢や障がいで認知機能が低下しても、目的とする切符を購入がしやすい方法を実験協力者の結果からまとめた。後半では、視覚障がい者が駅のホーム上で移動する時の課題について、転落事故例を参考にして、その対策も含めて論じた。
本稿では、視覚障害者等の移動支援を目的としたナビゲーションタグ(ナビタグ)について、神戸空港での実証実験および大阪・関西万博での導入事例を通じて、その有効性と課題を検討した。ナビタグは災害時の避難誘導にも活用可能であり、点字ブロックとの整合性や設置位置の工夫が求められる。ナビタグを施設整備と同時に導入することで、情報アクセシビリティが確保され、インクルーシブな交通社会の実現に寄与することが期待される。
スマートシティの進展や大規模施設の拡張に伴い、都市設計や施設利用において歩行が前提となる場面が増加している。同時に、日本の超高齢社会の進行により、移動に制約のある人々の社会参加が深刻な課題となっている。本報告では、3歳から90歳までの利用者が歩行感覚で直感的に操作できるよう設計されたモビリティロボット「UNI-ONE」の社会実装事例を紹介する。UNI-ONEは、移動機会の拡大に寄与し、「空間回遊性の向上」と「UNI-ONE × ARによる集客」という2つの観点から、社会インフラとしての可能性を示している。本稿では、インクルーシブな交通社会の実現に向けたその役割を検討する。
本研究は、下肢障害者が自立して運転可能な手動運転補助装置の開発に関するものである。従来の機械リンク式に加え、アクセル操作のバイワイヤ化や操作性向上、部品点数削減によるコスト低減を実現した。さらに、車両ECUとの連携により、ウィンカーのオートリターンやACC操作などの新機能を搭載し、商品性と信頼性を向上させた。3Dプリンターによるグリップの製造や非破壊的な車体取り付け構造により、多様な車種への展開も可能とした。今後の実用化に向けては、ユーザー評価と事業性の両立が鍵となる。
聴覚は、人間の情報受容において、視覚に次いで重要な役割を果たす。しかし、そのことについて、一般に十分な理解が得られていない場合も多い。本稿では、交通社会におけるインクルーシブデザインの一つの側面として、視覚情報を補助する聴覚情報や言語に頼らない聴覚情報表示という観点を紹介したい。前半で高次のデザインの定義、サイン音の役割や課題を示した上で、後半では自動車内におけるサイン音デザインの空間的・意味的整合性の役割について、また、自動車外に向けたサイン音の事例や課題について紹介する。
本稿は筆者自身の高位頸髄損傷による旅行経験をもとに、日本のインクルーシブツーリズムの現状と課題を多角的に分析し、具体的な提言を行う。物理的バリア解消が進む一方、心理的・社会的障壁が残り、障害者の「旅する権利」は十分保障されていない。米国の「結果の公平性」概念や海外の先進事例を紹介し、日本が「例外対応」から「多様性を前提とする社会」へ転換する必要性を論じる。観光事業者・自治体・教育機関が連携し、ハード・ソフト・ハートの統合的アプローチによる実現を提案する。
地域交通の維持が困難となる過疎地域では、ステークホルダー同士の横断的視点で幅広い議論に基づく、まちづくりと連携した協創的な移動手段の確保が重要視されつつある。特に、運転免許を持たない当事者として若者/高校生が主体的に課題解決に取り組むことは意義深いが、現実的にはさまざまな困難がある。本研究では、この状況を改善すべく、新たな通学手段(e-bike)の提供を含む協創型教育の実施による、交通安全、地域交通、地域課題への自己効力感および行動意欲の向上効果を分析した。
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