未来のモビリティ社会の実現にあたっては、技術革新だけでなく、技術に対する人々の行動変容と社会的な受容が不可欠である。本稿は、「共に移動する」時代に求められる新しいリテラシーとして社会情動的スキルに着目し、教育学の視点から技術と人、そして社会の関係について学術的な議論を踏まえて考察する。複雑化する社会システムにおいて、協調的かつ倫理的な行動の基盤となる能力である社会情動的スキルの意義を示した上で、未来のモビリティ社会を能動的に担う若者の能力と意識の育成の可能性について検討する。
本稿では、高齢者ドライバーを「リスク要因」として一律に見なすのではなく、加齢に伴う変化に適応し学習を続ける主体として捉え直す視点の重要性を論じた。まず若者との比較から高齢者特有の経験資源を整理し、視覚・聴覚・運動・認知機能や薬剤など、医学的要因の影響を概観した。さらに、自動車運転が高齢者のウェルビーイングを支える役割と、日本の現行制度の限界を示し、PDO(Property Damage Only:物損事故)歴を早期介入の契機とする可能性を提示した。最後に、運転継続支援と移動支援を統合した社会実装の方向性を展望した。
モビリティ社会における「人を測る技術」は、従来のリスク低減にとどまらず、多様な人の特性や状態に応じた支援と協調を実現する基盤として重要である。本稿では、人を「特性・状態・反応」の図式で捉え、主観・生体反応・行動の三側面から測定する方法を整理し、指標間の乖離と解釈上の注意点を示した。さらに、人を複雑なシステムとして捉え、多次元評価の必要性を述べ、実験室から実場面までの段階に応じた手法選択、低負担計測技術、倫理的配慮と受容性向上の課題を論じた。AIやXRの進展によりモビリティの概念が拡張される将来においても、人を測る技術は多様な人の可能性を引き出し、well-beingの向上に寄与する重要な手段の一つとして期待される。
全世界で年間約119万人が交通事故で命を落としている現状に対し、本田技研工業株式会社は「モビリティの性能」「交通エコシステム」「人の能力」という3つの安全要素を軸に、包括的な対策を進めている。なかでも、交通安全の根幹は“人”にあると考えており、運転技術や認知・判断能力の向上はもちろん、周囲への思いやりといった「心」の部分も重要な要素である。本稿では、こうした考えの下、“交通事故死者ゼロ”とその先にある“安全・安心が担保され、誰もが意のままに出かけられる社会”の実現を目指して取り組んでいるCI運転支援、状態健全化、安全・安心ネットワーク技術、安全運転コーチングといった技術を中心に紹介する。
本論文は責任帰属に関する社会心理学研究の知見を踏まえ、自動運転車による事故が起きた際の原因、責任についての人々の判断を検討した。行為者の意図などの心の状態が責任の判断と関連しており、機械や動物を擬人化することが道徳的責任の帰属につながったり、反対に被害の存在からそれを生み出した意図的な行為者を見いだしたりする認知の仕組みがある。このような認知の仕組みが自動運転車による事故の際のユーザーや自動車メーカーへの責任帰属に影響を与える可能性を議論した。
本稿は、自動運転の社会的受容性を行動経済学の視点から検討する。技術や法制度の整備が進む一方、損失回避、現状維持バイアス、アルゴリズム忌避などの心理的要因が受容を阻害している点を指摘する。また、従来のアンケート調査にはバイアスの影響が混入している可能性がある点や、比較や繰り返しを取り入れた調査では、実際にはより受容的であることも紹介する。さらにナッジを活用した制度設計により、人々の不安や抵抗を緩和し、社会的信頼を高める方策の有効性と課題を論じる。
人間拡張をウェアラブルやAI、VR等で心身機能を高める技術と捉え、モビリティとの関係を考察する。人間拡張とモビリティによる移動や体験の価値を「行為主体感」と「自己効力感」から整理し、物理的移動と仮想移動双方の可能性を示す。さらに柏の葉での実証研究を例に、地域社会におけるサービスデザインや持続可能なモビリティ社会の未来像を提示し、そこでの人間社会拡張の役割について述べる。
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