近年タイ国に研究旅行を続けている間にアユタヤ期(1351-1767)の寺院壁画の主なものを撮影してきているのでそれを紹介しながら,その壁画に見られる共存の世界を探ってみようと思う.これまでに研究者の間で問題となっているアユタヤ期の寺院壁画は,決して数多いものではない.何故かと言えば,アユタヤは,ミャンマーの進攻によって二回の首都陥落(1569年,1767年)を経験し,1767年には,首都アユタヤは,ミャンマーによる放火で壊滅状態になって,アユタヤ市の寺院も宮殿も消失してしまったからである.そのような中からもアユタヤ市には奇跡的に残った寺院壁画も存在している.さらにアユタヤ期の他の地方都市には,戦争には関係がなくそのまま保存された寺院壁画もある.ここでは筆者が現にみることができた壁画をたよりに共存の世界を探ってみる.ここで問題とする,共存の世界とは,異国との共存関係が壁画にどのように反映されているかをみようとするものである.
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