本論では,〈無量寿経〉の最古訳である『大阿弥陀経』と,現存の梵本における法蔵説話段との対応関係を中心に探求した.以下は主なポイントである.
1.法蔵説話段は誓願文の一部として包括的に検討する必要があり,Gómezの梵本における偈文の分類を基に,〈無量寿経〉諸本に異なる誓願文が存在することを指摘した.特に,『大阿弥陀経』においては,誓願文と成就文の間に独自の二重対応関係が存在することが指摘した.
2.『大阿弥陀経』において,具体的な用例を挙げつつ,法蔵の前世の身分が,国王であるか,比丘であるかを究明した.その結果として,『大阿弥陀経』においては,国王や家族を捨てて沙門となり菩薩行を修行することが,最高の修行者として意図的に強調されていることが明らかになった.
3.核となる129文字の誓願が,梵本の三つの偈文に見られる誓願文と密接に対応していることを明らかにした.
4.『大阿弥陀経』を含む漢訳三本にのみ見られる法蔵菩薩の修行を激励する説話が,梵本の歎仏偈の第3句に対応することを明らかにした.
5.梵本における『大阿弥陀経』の誓願文直前の段落(一部)によく一致する文がみられるが,漢訳者が一部しか翻訳していなかったこと,その後半の部分が代わりに129文字の成就文として意図的に組み込まれたことを指摘した.
以上の物理的な事実があって,次の結論を結ぶ.
『大阿弥陀経』の法蔵段が,現存の梵本における歎仏偈,重誓偈,東方偈に含まれる重要な詩句とよく対応していることが確認された.このような独自な形式は,原典からの翻訳ではなく,漢訳によって意図的に修訂されたものであると考えられる.『大阿弥陀経』の漢訳者は,「自省利他・往生阿弥陀仏国土」のために菩薩道の修行と阿弥陀仏の国土への往生を巧に統合した.すなわち,まだ「浄土」という用語が確立していなかった3世紀に,漢訳者は外来宗教としての阿弥陀信仰を「自省利他・往生阿弥陀仏国土」という主旨で構築した.この独自の実践と修行体系は,後の中国及び日本の浄土教に直接または間接的に大きな影響を与えた.そのため,『大阿弥陀経』は,自然災害,疫病,戦争,食料危機,アンチエイジングなどの現代社会の課題においても重要な意味を持ち続けている.文献学にとどまらず,現代社会においてどのように応用できるのかを考察する研究に今後取り組みたい.
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