日本感染管理ネットワーク会誌
Online ISSN : 2759-7822
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実践活動報告: 第12回学術集会
  • 森田 真介, 三浦 美穂, 片山 英希, 堀田 吏乃, 酒井 義朗, 渡邊 浩
    2025 年21 巻 p. 1-5
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/09/05
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    2022年度の診療報酬改定により,感染対策向上加算1の施設においては,保健所,医師会と連携し,加算2・3の医療機関と合同で新興感染症発生を想定した訓練を実施するという算定要件が加わった.当院は感染対策向上加算1を取得しており,新興感染症発生時の受入れ体制強化のため,保健所・医師会・感染対策向上加算連携施設と合同で受入れシミュレーションを実施している.2022年度の軽症患者受入れシミュレーション実施に引き続き,今回は重症患者を想定し,当院の高度救命救急センターと連携して実施を行った.参加者は当院から感染対策チームメンバー・看護部・事務部の計20名,保健所から2名,医師会から1名,感染対策向上加算2・3医療機関の5施設より10名の計33名であった.実施後の意見交換では,患者の不安や倫理的配慮,受入れ調整等の必要性を議論した.今回,電動ファン付き呼吸用保護具の着用により,周辺の音が聞き取りにくくなり,それによって生じるコミュニケーションの難しさ,患者の不安対応・倫理的配慮など,机上シミュレーションでは把握できなかった問題が明確になった.受入れ時の問題点を把握し,行政や病院内の部署と平時から連携をしておくことで,有事の際の対応がスムーズになると考えられる.今後も新興感染症発生時のシミュレーションを継続し,行政と医療機関が協働しながら迅速な対応ができるようなシステムの構築が必要である.

  • 横山 周, 大石 みどり
    2025 年21 巻 p. 6-10
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/09/05
    研究報告書・技術報告書 フリー

    当院手術室では,手洗い用水に逆浸透膜(Reverse Osmosis Membrane 以下RO)水を用いているが,細菌検出を複数回認めた.本研究では,手洗い用水の細菌検出状況を調査し,RO水水質管理の具体的な感染対策を考察した.2022年8月から2023年12月の期間に,手洗い場8か所から採取し,塗抹培養検査を実施した.対象のRO水スクリーニング検体75件を,細菌検出の有無で検出群と非検出群の2群に分類し,採取月,採取者,手術件数,1週間以内の手洗い装置内部の熱水消毒実施率について比較検討した.また検出群においては,検出を認めた手洗い場の使用頻度と菌種について追加検討した.75件中10件(13.3%)で細菌検出が認められた.1週間以内の手洗い装置内部の熱水消毒は,非検出群において60件(92.3%)で実施されていたのに対し,検出群では6件(60.0%)と有意差を認めた(p=0.0152).追加検討では,細菌検出を多く認めた手洗い場は,手術件数が多い手術室と,毎朝器械展開に用いる手術室に隣接しており,使用頻度が高かった.同定された菌種はBrevundimonas vesicularisPseudomonas alcaligenes等の従属栄養細菌が主であったが,口腔内常在菌であるAggregatibacter actinomycetemcomitansも1件検出された.これらの結果よりRO水における細菌検出は,製造機器周辺や手洗い場周辺の環境からの汚染によるものと推察された.そのため1週間以内の確実な熱水消毒の継続とともに,使用頻度の高い手洗い場を中心とした蛇口部分や周囲環境の衛生管理,RO水採取者への教育が必要であると考えられた.

  • 中上 理紗子, 太田 悦子
    2025 年21 巻 p. 11-16
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/09/05
    研究報告書・技術報告書 フリー

    尿路感染は医療関連感染のなかでも上位となっているが,膀胱留置カテーテルは手技の容易さから十分なアセスメントがされずに安易に挿入されやすい.A病棟ではADL介助が必要な患者が多く,明確な使用理由がなく膀胱留置カテーテルが安易に使用されている現状があった.そこでサーベイランスによる現状把握とともに勉強会の実施やカテーテル関連尿路感染(Catheter-Associated Urinary Tract Infection: CAUTI)カンファレンス,膀胱用超音波画像診断装置の導入などの膀胱留置カテーテル留置(以下カテーテル留置)の適正化に向けた多角的な取り組みを行った.

    勉強会のみではCAUTI感染率,カテーテル使用比ともに改善しなかった.CAUTIカンファレンス導入後は,統計的有意性は示せなかったものの,カテーテル使用比が減少し平均使用日数が短縮した.また,適応のない患者の膀胱留置カテーテルの早期抜去が推進し,カンファレンス時には患者の膀胱留置カテーテルの挿入理由を説明できるなど適応基準の適正化を認めた.加えて,カンファレンスの実施により,患者状況の評価や抜去検討の機会が増加し,意思決定プロセスが改善された.今後の課題として看護師主導のカテーテル管理体制の構築の必要性が示唆された.今後はこの取り組みを病院全体に拡大し,院内全体でカテーテル留置の適正化を目指すことが重要である.

  • 藤井 智恵
    2025 年21 巻 p. 17-23
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/09/05
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    慢性期病院は,高齢者が多く加齢による機能低下や認知症を含む様々な疾患が複合的に現れるため長期入院となり,患者間の交流など一定の生活時間を共有する特徴から,1例の感染から集団感染を起こしやすい.当院では新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)による対策として面会制限をしていたが,入院患者に陽性者が発生し職員からの感染と思われる事例を複数認めた.また,陽性者の多くが家庭内感染との報告があり,2023年8月以降は家庭内での陽性者発生時の就業制限については個々の病院で判断し対応することが求められた.当院における職員同居家族陽性者から職員が感染することがある現状から,就業停止について検討した.はじめに,職員同居家族陽性者と陽性職員について4か月間調査を実施し,その結果職員の就業停止期間を職員同居家族陽性後3日目までとし,4日目と5日目にSARS-CoV-2検査で陰性を確認し,出勤可能とする基準を設けた.基準設定後4か月間の職員の陽性率は50.0%,陽性までの期間は1–5(中央値2)日目であった.3日目までに72.7%,5日目までに全員が陽性となった.2023年5月~12月の8か月間の調査では,当院の家庭内感染による職員の陽性率は42.3%で,陽性となるまでの期間は平均3.3(中央値2.5)日目,5日目までに90.9%が陽性となった.新たな基準設定後,家庭内感染した職員は就業停止期間中に陽性となり,院内での全事例に就業停止した職員との関係性は認められず,院内への持ち込み防止効果が示唆された.

  • 兒玉 知久, 眞名井 理恵
    2025 年21 巻 p. 24-27
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/09/05
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    クリティカルケア病棟(以下A病棟)は,1日1患者当たりの手指消毒薬使用回数が低下傾向にあり,多剤耐性菌の検出も増加していたことから,交差感染の可能性が懸念された.そこで,A病棟に対してジョン・P・コッターの組織変革の8段階プロセスを用いて感染制御部が行った支援について,手指衛生回数の推移やA病棟職員の言動から分析を行った.

    まず,推進チームをつくり,その推進チームがビジョンを掲げられるように,A病棟の手指衛生や耐性菌の現状について情報提供を行った.また,感染制御部はカンファレンスや勉強会の機会だけでなく,スタッフ個人に対しても直接指導した.推進チームはA病棟スタッフに対し,カンファレンスの機会でビジョンの周知徹底を行った.

    危機的な状況であり,早急な改善が必要であったため,感染制御部が主体的に計画立案を行った.具体的には,推進チームとともに,手指衛生の知識習得を促す取り組み,手指衛生遵守率の調査,手指消毒薬使用量のモニタリング,行動の振り返りの実施を立案した.その結果,6段階までの実施であったが,手指衛生回数は増加した.

    外部である感染制御部,内部である推進チームからビジョンを周知したことは,A病棟スタッフ全員の危機意識の共有につながった.感染制御部の支援は,手指衛生回数の改善に効果はあったが,定着させるには推進チームとスタッフの自発的行動を推進する支援が課題となる.

実践報告
  • 秋山 純子, 妹尾 和之, 高柳 晋
    2025 年21 巻 p. 28-33
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/09/05
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    2019年から全世界に感染拡大した新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)は,2020年には日本国内で拡大した.AセンターでのCOVID-19対策を振り返るため,定性調査を実施し記述的分析を行った.2020年1月から五類に位置付けられる2023年5月までを次の3期に分け自由記載のアンケートを実施した.I期:2020年1月~2月(初症例受入前後),II期:2020年3月~2021年3月(初症例受入から1年),III期:2021年4月以降.全部署の所属長を対象に院内メールにてアンケートを送信し回答を得た.COVID-19対策本部(以下対策本部)に向けた要望が3期通して最多となった.I期,II期では組織体制作りに関わることに意見が集中した.対策本部は幹部職員で構成され,病院の方針策定や決定の役割を担う.COVID-19の対応初期に組織体制構築に難渋し,十分に改善できないまま1年間が経過した状況が明らかとなった.III期の始まりに幹部職員や感染対策室職員に入れ替わりがあり,対策本部が改めて立ち上がった.その結果事業継続計画が策定される等,対応初期の課題は解決に向かった.感染対策室に対してはリソースの役割を果たしていたとの評価があった.一方で,職員の不安が強い時期のラウンドや情報共有システムの構築が課題に挙がった.病院としての方針決定および情報周知が,病院一丸となって取り組む際には必要不可欠と再認識できた.今後の新興感染症発生時に向け,机上訓練や実地訓練を実施していく.

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