本稿では、環境と人間の関係について、アーティストが媒体となってその再構築をめざす活動について考察する。環境という人類全体に突きつけられた課題について、多様な自然と文化が調和的な相互関係を築くという新たな共通認識を提示することが可能だろうか。はじめに、この問題の状況とその阻害された関係性の再構築に取り組むアーティストたちの活動について触れる。続いて、1960年代の終わりから一貫して、環境の持続・再生とそれに不可欠なモラルを主題として、夫婦でのコラボレーションを続けているエコロジカル・アートの先駆的作家、ヘレン・マイヤー・ハリソンとニュートン・ハリソンの作品と諸活動を具体的に分析する。なかでも、ヨーロッパ全体を敷地に未来の自然と文化の生態系についての新たなヴィジョンを提案するという大規模な作品《ヨーロッパ半島》や《グリーン・ハート・ヴィジョン》、《未来の庭》など、地球規模でのプロジェクトを紹介する。その芸術的な介在によって、自然や環境に対する姿勢の変化をもたらし、情報の共有、話し合い、参加、協働、交流という過程を通じて、分野や地域を超えた人と人とのネットワークを創り出し、共通の倫理観を認識する契機となることをめざすというその過程を検証する。さらに、アートが公共の課題にむけ、新たなヴィジョンを提案するひとつの可能性について考察する。
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