本論文では筆者が曾て提案せる複合ダイナトロン發振器の周波數變動を測定し,單一周波數發振器の場合と複合ダイナトロンの場合とを比較研究した。
先づ最初に變動測定方法に就いて述べた。内部グリッド振動の基本周波數が4,200サイクルの時に0.1サイクルの確度を以て測定しアノード振動の基本周波數が600キロサイクルの時に1サイクルの確度を以て測定したのである。アノード振動が内部グリッド振動に依つて變調せられて居る時には側帶の存在に依つて測定が困難であると想はれそれに對する二つの方法を考察したが實際上側帶を除く事は殆ど不可能であるので,それを斷念し精密周波數計を用ひて實際に測定してみると大した困難もなく測定する事が出來た。併し内部グリッド振動の周波數が低くなつて來ると搬送波とのビートと側帶とのビートが重疊し測定に愼重なる注意が必要であつた。
アノード電壓の變化に對する變動率はアノード振動側には單一振動ダイナトロンの方が複合ダイナトロンよりも僅に少いが,内部グリッド振動の方は複合振動の方が非常に少い。外部グリッド電壓の變化に對しても同樣な事が云へる。然るに内部グリッド電壓の變化に對しては,アノード振動も内部グリッド振動も複合ダイナトロンの方が變動が少い。而も複合振動が單一振動により惡い場合の程度は極く僅かであるが,複合振動が單一振動に比して變動が少い場合の程度は非常に大である。故に一般的に見て複合ダイナトロン振動の方が周波數安定度がよいと云ふ事が出來る。
纎條電流の變化した時はアノード振動に對しては,單一振動の時の方が變動が少く内部グリッド振動に對しては複合振動の時の方がよい。これ等の理由に對する考察がなされてある。
一方の周波數を變化せしめた時に他の振動の周波數が變化するのを"相亙周波數變動"と名づけ,それに就いての實驗をなした。一般にアノード振動周波數の増加は内部グリッド振動の周波數を高める。それに反して内部グリッド振動の周波數の増加はアノード振動の周波數を減少せしめる。その變動は併し非常に僅である。この相互周波數變動は單に振幅の變化を以て説明する事が出來ない。
アノード振動を急に停止せしめると内部グリッドの振動周波數は0.75%減少した。然るに内部グリッド振動を急激に停止せしめてもアノード振動周波數は殆ど變化しない。
最後に複合ダイナトロンをビート發振器として用ひた時に時間と共に如何に周波數が變化するかを測定した結果,6時間の中に1サイクル以内の變化であり,實用上充分の確度がある事を明かにした。
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