全人的医療
Online ISSN : 2434-687X
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13 巻, 1 号
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原著
  • 店村 眞知子, 江川 直人, 永田 勝太郎, 大城 昌平, 一之瀬 大資, 犬塚 博
    2014 年 13 巻 1 号 p. 5-14
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2019/04/09
    ジャーナル フリー

    [目的]測定者側が音楽の理論(リズム,音組織,調性,旋律の意味するもの等)を予め把握しておいて,対象者に音楽を聴取させたとき,精神生理学的にどう反応するのか,(自律神経系と脳血流)の測定を行い,結果を検討した.[対象]聖隷クリストファー大学学生10名(女性,平均年齢20歳)である.[方法]楽曲には,ベートーベンの“エリーゼのために”(4分)を用いた.楽曲の構成は3部形式(ロンド形式:A-B-A-C-A)である.この曲は,Aという主題がB(展開部)とC(展開部)を取り込みつつ循環する形式である.1回目の主題を提示部とし,2回目の主題を再現部,3回目の主題を終結部とした.楽曲聴取の前後に1分の安静期を設定した.演奏には,デジタルピアノを用いた.測定方法:演奏聴取時の脳活動の計測を行うため,近赤外分光法(near-infrared spectroscopy:NIRS)を用いた.心電図(Mem-Calc/Tarawa)を被験者に装着し,心拍変動を記録し,そのスペクトル解析をおこないHFamp,LF/HFratioを検討し,これらの生理学的反応と音楽構成要素の相関を調べた.[結果]結果には個人差があった.しかし,概して以下の傾向が認められた.主題においては最後の終結部において交感神経系が治まり,副交感神経系が優位になった.リラックスが起きていると言えた.BとCの展開部においては副交感神経系が亢進し交感神経系の活動が治まった.展開部は心地よい状態と言えよう.主題が有する音楽的成分は安堵感や調和の世界を感じさせるものと分析でき,展開部の転調が情動に与える音楽的効果は爽快感や期待感と分析できた.脳血流においてはその反応は自律神経系の変動を観た後に起こり,終結部の主題のところで脳血流の活発な活動が観られた.それは安静期に入っても活発に活動した.これは脳活動がいろいろな情報を認識し整理しながら活動するためと考えられた.[考察]音楽を聴取したときの生理的反応と楽曲を構成する要素の有する意味との相関を検討出来た.今回の測定により,楽曲の諸要素の生理的変化に与える影響は,その個人差が強かったことから被験者の楽曲に対する嗜好度や音楽の経験度が大きく影響することが窺えた.特に音楽の嗜好度の高い被験者の場合は,楽曲の構成要素と生理的な反応との間に緻密な相関が見られたが,そうでない場合は反応が曖昧であり,一定の傾向を認めることはできなかった.しかし,嗜好度の高い聴取者では,自律神経系の反応は明確であり脳梗塞血流も増加した.これは,音楽をrelaxation with alertnessを目的とした治療法として考えるとき,合目的的であると考えられた.

  • 解明のプロセスとその結論
    渡辺 久雄
    2014 年 13 巻 1 号 p. 15-24
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2019/04/09
    ジャーナル フリー

    精神療法はなぜ効果があるのか.その解明のプロセスと結論を示す.精神療法過程で生起した顕著な治療的変化に注目し,そこに劇的な治癒機転が内在しているとして,顕著な治療的変化が生起する前提条件的要因とそれが生起する4つの治療状況を分明にした.しかし,治癒機転の究明は進捗せず,着実な治療的変化に注目して,多角的課題解決療法(DTOP)を開発した.その後,劇的な治癒機転を構成する次の5つの治療的変化を明示した.①情動覚醒,②治療者への共感,③共感に基づく自己省察,④治療者との問題意識の一致,⑤治療者についての意識変革.さらに,ここで⑥意欲の発動を加える.刑務所を出所後,殺人事件の危険性が高かった症例が3回のDTOPで,また退職寸前の症例が6回のDTOPで新生したのは精神療法の効果を明示している.それは前述の②③である「自他理解機能(reflective function, Fonagy)」と,④⑤⑥である「対処機能(coping function)」が生起し病者は新生できたと考えられる.

  • 古代人はツボに触れ神経や内臓に想いを巡らしていた一本の帯から全てが見えてくる
    伊藤 樹史
    2014 年 13 巻 1 号 p. 25-38
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2019/04/09
    ジャーナル フリー

    今回,臨床に応用できる,新しいデルマトーム(dermatome:皮節)を作成し,痛みの診断と治療への応用について述べる.従来のデルマトームは神経の分布を示したに過ぎない.臨床での応用は困難で間違いさえ生じた.ここでは新しいデルマトームを説明する.また新デルマトームとツボ(経穴)の当てはまりの良さも解説する.ペインクリニック(疼痛緩和部門)で痛みの診断と治療部位を決定するにはデルマトームは必要不可欠である.臨床においては,痛む障害部位がデルマトーム上に反映できれば,痛みを支配している責任椎体(脊髄神経)を簡単に逆探知することができる.2011年に国際疼痛学会が示した神経障害性疼痛の診断アルゴリズムは,”障害部位の解剖学的支配に一致した領域に感覚障害や他覚的所見が当てはまる”こととした.まさしく痛みはデルマトームで確認せよ,となったのである.今後はデルマトームを根拠にした針治療はプライマリ・ケアとして発展を遂げるものと確信すると共に,東西対症療法評価学会という考えも必要である.

  • 堀田 晴美
    2014 年 13 巻 1 号 p. 39-45
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2019/04/09
    ジャーナル フリー

    侵害刺激で誘発される自律神経反応は,慢性痛を増悪させる要因の一つである.従って,その制御は臨床的に重要である.我々は,軽い皮膚タッチが熱侵害刺激による心血管反射を抑制し得ることをヒトと動物で見出した.その効果は,規則正しく配列した微小突起を持つマイクロコーンによるタッチで生じる.同一素材の平坦な円盤では効果がない.微小突起の有無は,触覚や体性感覚皮質の代謝,触知覚に重要な皮膚Aβ求心性線維の活動には影響しない.しかし,前帯状皮質の代謝や,皮膚低閾値Aδ及びC求心性線維の活動は,微小突起有の方でより高い.熱刺激による心血管反射を抑制するマイクロコーンの作用は,脊髄へのオピオイド受容体遮断薬の局所投与で消失する.以上より,マイクロコーンによる皮膚の低閾値Aδ及びC線維の興奮が脊髄のオピオイド系を賦活して脊髄での侵害受容伝達を抑制し,心臓交感神経反射を抑えると考えられる.

  • ハラルド モリイ
    2014 年 13 巻 1 号 p. 46-66
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2019/04/09
    ジャーナル フリー

    痛みは生命にとって必要かつ重要なサインであり,人間の命を守るために欠かせないものである.私たちの体のシステムが正しく機能していれば,通常,日常生活で痛みを感じることはない.痛みのもつ「意味」はその機能の中に見られる.すなわち,体に,その人に,体のシステムのうちの何かがうまく機能していないことを知らせることである.また,強迫性障害や抑うつといった精神障害によって引き起こされる痛みは,治療を受け,生き方を変えることの必要性を示している.痛みの知覚は,免疫学的レベル,そして患者がさらされているストレスのレベルによる.

    ヴィクトール・E・フランクルの研究によって,また,現代精神神経免疫学の観点から,私たちは,痛みの知覚は運命に対する内的態度を変え,催眠術,瞑想,芸術療法のみならず音楽療法を(もちろん,医学的,薬学的治療に加えて,必要であれば)用いることにより,心理的な側面からコントロールすることができるという確信を深めている.

    ロゴセラピーは,痛みに苦しむ患者たちが痛みの強さと量をコントロールする方法を学ぶことを手助けするために介入するときの武器である.音楽療法は精神の抵抗力(VEフランクル)を引き出し,患者の内的潜在能力を活性化させ,その人の健康状態に影響を与えるための,とても有用な増幅器となりうると考える.

総説
症例報告
  • 全人的医療の視点から
    高橋 和矢, 永田 勝太郎, 稲見 卓也, 島田 雅司
    2014 年 13 巻 1 号 p. 72-80
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2019/04/09
    ジャーナル フリー

    [目的]身体因性偽神経症(pseudoneurosis, Frankl, VE)1)とは,身体的病態(機能的病態または器質的病態)が見落とされ,短絡的に心因性(うつ病または神経症)を疑ってしまうことを言う.今回,橋本病の不十分な治療に下肢動脈硬化の加わった症例をうつ病と誤診され,前医の投薬によりADL,QOLが著しく低下した症例を経験したので報告したい.[症例]75歳女性,主訴は下肢全体の痛み.前医によりうつ病と診断され抗うつ薬,抗てんかん薬を処方される.だるさ,物が二重に見えるなどの症状により日常生活が困難になり当院受診.橋本病に対しての治療と併せて,理学療法(鍼灸),心理療法(実存分析)を統合的に用いた.[経過]甲状腺機能の正常化を図り,ホメオスタシスを是正し,血行動態を改善させた結果,10年間続いた下肢痛の改善が観られた.また,運動療法を通じた自助努力が疼痛緩和に有用であることを患者自身が実感でき,症状のセルフコントロールへと向かった.血行動態の変遷と症状の変動は相関を示した(特に総末梢血管抵抗値).[考察]身体因性偽神経症では,向精神薬での症状改善は望めず副作用ばかりが現れてしまう.その結果,患者の訴えはさらに多岐に亘るようになり,病態理解が一層困難になる.医学的な正しい診断と,身体・心理・社会・実存的,すなわち全人的な患者理解を治療に反映させることが重要であると考えられた.

  • 青山 幸生, 広門 靖正, 包 隆穂, 永田 勝太郎
    2014 年 13 巻 1 号 p. 81-87
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2019/04/09
    ジャーナル フリー

    [症例]67歳,女性.主訴:右大腿内側後部から下肢へ広がる痛み.既往歴:高脂血症.現病歴:X-9年よりうつ病,X-6年より,双極性感情障害にて治療中.X-5年,右大腿内側後部から下肢へ広がる痛みが出現.痛みは,睡眠中以外一日中続いた.X年2月,通院中の精神科から身体表現性疼痛障害の診断のもと,紹介受診となった.[初診時現象]身長154㎝,体重67㎏(BMI 30:肥満).血圧:106/70mmHg,心拍数:78/分,整.シェロングの起立試験で血行動態不良症候群(高反応型)を認めた.神経学的異常所見なし.臨床検査所見異常なし.画像所見:MRIで,胸腰部脊柱管狭窄症を認めた.東洋医学的所見:胸脇苦満,瘀血.心理社会実存的背景:夫と二人暮らし.夫からのストレスが大きく,QOLの低下,生き甲斐の喪失などが認められた.処方:精神科より,ゾルピデム酒石酸塩10mg/日,トラゾドン塩酸塩50mg/日,クアゼパム30mg/日,ミルタザピン30mg/日,レボメプロマジン25mg/日,ラモトリギン200mg/日など睡眠薬,抗うつ薬,抗精神病薬,抗てんかん薬が処方されていた.[治療経過]まず,痛いところを触診し,直接手で触って(手当て)痛みの評価をした.5年間で,初めて痛いところを直接診察してもらったとのことであった.その部位に,局所麻酔薬を用いたトリガーポイント注射,仙骨部硬膜外ブロック,キセノン光による光線療法等を施行し,鍼治療も併用した.身体的アプローチにて良好な医師―患者関係を築くことができ,向精神薬の減量も行うことができた.さらに,実存的アプローチ(反省除去)を施行することにより,人生の意味について気づきを得ることができ,血行動態の改善と共に痛みはコントロール可能となった.[考察]痛みは,長年の精神疾患に起因する心因性と血行動態不良症候群に由来するものと考えられた.リラクセーションの導入,向精神薬の減量による血行動態の改善と,実存的アプローチによる実存的虚無感からの脱却が良好な痛みのコントロールへ繋がったものと考えられた.さらに,疼痛の治療に言えることは,信頼に裏打ちされた医師―患者関係の構築がまずは優先され,それがないところに医療は成り立たない.このことは,慢性疼痛治療の特異性でもある.今回の身体的アプローチは,まさにそのステップに有効に働いたものと思われた.

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