全人的医療
Online ISSN : 2434-687X
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15 巻, 1 号
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原著
  • 永田 勝太郎, 村尾 佳美, 志和 悟子, 大槻 千佳
    2016 年 15 巻 1 号 p. 4-16
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2019/04/19
    ジャーナル フリー

    【目的】睡眠用具であるアルファースリーム®が睡眠障害者の睡眠に及ぼす影響,また人体に及ぼす生理的効果,安全性,QOL効果について検討した.

    【方法】封筒法により,Active群とdummy群に分類し,両群間の効果を比較検討する.睡眠用具の使用期間は2ヶ月間であった.対象に対し,主観的,客観的各種検査を行なった.

    【結果】試験終了時の被験者は,20例であった(A群9例,D群11例).睡眠健康調査票(AIS):治験後,A群では,有意に睡眠障害が改善した.CHCW(働く人のこころとからだの早期健康チェック):治療後,A群では,有意に改善したが,D群では不変であった.A群のQOLが改善されたと言えよう.SOC健康調査票:治療後,A群では,有為に改善したが,D群では不変であった.一般血液・尿・心電図・胸部X-P検査(安全性の評価):両群ともに治験前後で異常者は認められなかった.ヘッドアップティルト試験に伴うHRVのスペクトル解析:治験後,A群では,HF amp.は有意に改善した.酸化バランス防御系の測定:d-Rom値は,治験後A群で有意に低下し,改善した.A群の修正比は,治療後に有意に改善した.血行動態の測定(ヘッドアップティルト試験):治験後,臥位でA群のSBPは,有意に低下し,HR(A群)は,有意に低下した.SV・CIで上昇傾向,TPR(A群)で下降傾向が観られた.コルチゾール,DHEA-S,カテコールアミン3分画,ADH, ACTH:ノルアドレナリンは,治験後,A群で下降傾向が認められた.DHEA-Sは,治験前の両群間に有意差はなかったが,治験後,A群で有意に上昇した.

    【考察】睡眠用具アルファースリーム®は,睡眠障害者の睡眠を安全に改善させ,QOLを高め,被験者の人生を前向きな積極的なものに変える効果までもたらした.客観的には,心拍変動(HRV)のスペクトル解析で,副交感神経系機能を高め,酸化バランス防御系における酸化ストレスを低下させ,潜在的抗酸化能を向上させ得た.ノルアドレナリン,DHEA-Sには,向ホメオスタシス的な影響を与えた.以上から,適切な睡眠用具の使用は,単に睡眠を改善させるだけではなく,昼間のストレス社会に適応して行くなかで歪んだホメオスタシスのバランスを正常化させる作用,すなわち,向ホメオスタシス作用があると考えられた.

総説
  • 笹嶋 唯博, 小久保 拓, 大久保 直子, 榊 久美子, 笹嶋 由美
    2016 年 15 巻 1 号 p. 17-24
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2019/04/19
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    足趾壊疽は,95%が粥状硬化性動脈閉塞症(ASO)で,その80%以上は糖尿病(DM),60%以上が維持透析(HD)である.残り10%は関節リウマチや強皮症などの膠原病随伴血管炎,バージャー病,shaggy aorta syndromeなどが占める.これらは安静時疼痛を伴い壊疽の中枢進展では,大切断が行われ,近年はDM/HDがその主役である.DM足壊疽には神経性,虚血性(ASO),混合性がある.虚血性の単独は少なく,神経性は種々の知覚障害が重畳し,足変形と感染を生じ易い.混合型が最も多く,虚血(ASO)と感染の相乗効果により感染・壊疽が急速に進行し,感染抑制困難から大切断に至る.大切断は望まれる治療ではなく,患者QOLは著しく障害される.虚血に対する血行再建,感染創管理,組織移植術など専門的な救肢治療により5年で90%以上の救肢が可能であることからより救肢治療専門医の育成が急務である.

  • ~東洋医学における精神と身体,そして気質・気象との関係性~
    田中 耕一郎, 奈良 和彦, 千葉 浩輝
    2016 年 15 巻 1 号 p. 25-31
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2019/04/19
    ジャーナル フリー

    東洋医学もまた,全人的医療の側面を有しており,以下のような点を踏まえ疼痛疾患へ貢献出来ると考えられる.

    1)慢性疼痛疾患では外的環境からの刺激への脆弱性を伴い,気圧,気温などによる気象による増悪因子を軽減することで症状の安定化が得られる.この点に関して,東洋医学から外界からの刺激への過敏性を身体という内界から軽減していく方法がある.

    2)精神症状に介入せずとも,東洋医学には身体症状にアプローチすることで自然に精神症状を治癒へ導く過程が存在する.東洋医学では,精神と身体は相似形であるという病態観から,精神疾患を身体から,身体疾患を精神からアプローチする手法がある.患者本人の精神的な苦痛に対しての直面化が難しいような場合に有効と考えられる.

    3)東洋医学は,精神と身体が一体であるという観点をもともと有しており,診断,治療のアプローチは同じ体系に立脚している.そのため,東洋医学の技法を用いて人体観を再構成し,臨床医の“眼を養い”,時代の物質的側面からより健康な考え方へ向かう助けになると考えられる.

    4)東洋医学の最も理想の治療として,対峙する人の存在そのものが人の病を治癒機転へと導くというものがある.この点は深い領域で実存と密接な関係があるのではないかと思われる.

  • ―特に心身医学の側面から―
    和気 裕之, 澁谷 智明
    2016 年 15 巻 1 号 p. 32-41
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2019/04/19
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    顎関節症は基本的には身体疾患であるが,その病態は生物心理社会的モデル(bio-psychosocial model)に該当し,各患者において程度の差はあるが,心理社会的問題の影響をうける心身症と捉えることが可能である.そのため,顎関節症の患者を診断する場合,AxisⅠ(Ⅰ軸:身体的評価)とAxisⅡ(Ⅱ軸:心理社会的評価)の2軸で評価する必要がある.特に周辺群のようにⅡ軸の要因が大きい顎関節症患者を診療する時には,「心身医学的な対応」に重点を置くことが大切である.それには心身医学的な医療面接と適宜心理テストを行い,またMW分類を用いて患者を判別することで,適切な対応が可能となる.その時一部の患者はリエゾン診療をはじめとする精神科医等との医療連携が必要となる.

  • 加藤 直哉
    2016 年 15 巻 1 号 p. 42-50
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2019/04/19
    ジャーナル フリー

    現在,著者の治療においてメインにしているのが,山元式新頭鍼療法(Yamamoto New Sculp Acupuncture=YNSA)と呼ばれる治療法である.YNSAは1967年ごろより,宮崎の山元敏勝医師が考案した治療法で,頭部に針を刺すことで,痛みをはじめ,中枢神経疾患や精神疾患など様々な疾患に高い効果を示す治療法である.現在では,ドイツ(一部病名で保険診療),ハンガリ―(ブタペスト大学にYNSA研究所設置),ブラジル(保険診療可能),アメリカ(ハーバード大学より招待講演),オーストラリア(シドニー大学でYNSAが授業に取り入れられている)をはじめとして世界各国に広がっている.

    今回,2013年5月から2015年5月まで2年間,当院にYNSAを希望して来られた39人のリウマチ患者における治療効果について検討した.結果は,治療継続不可(5回未満):12例,悪化または改善なし:5例,効果あり:22例であった.今回,これらについて詳しく報告するとともに,YNSAの可能性と課題について検討したい.

  • 橋本 裕子
    2016 年 15 巻 1 号 p. 51-57
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2019/04/19
    ジャーナル フリー

    痛みに捉われずに生活することは可能だろうか.他人には理解されず,死ぬしかないと思うほど苦しんでいるのに,捉われない方法などあるのだろうか.

    こじれた痛みには原因がそれなりにある.しかし患者の訴えは医療者にも周囲の人にも理解しがたいと受け止められがちだ.理解されるために「過剰な説明」に追われ,空廻りしながら説明に疲れ果てる患者.一方で静かな患者がいる.社会生活の中で「常態化」「pacing」,「持ちこたえ」,「身体の作り変え」を行って,痛みとの折り合いを付け,更には「知覚・認識の作り変え」まで行われているのではないかと筆者は考える.黙々と耐える患者はどのように痛みと折り合っているのだろうか.

    どの患者も痛みのバックグラウンドを理解され,快方に向かう希望を持てる,そんな試みが始まっていることは患者にとって心強い.

    こじれた痛みと悩みを患者の相談事例の中から紹介し,痛みに捉われない方法を発見するにはどうしたらよいのか,一緒に考えていただければと思う.

症例報告
  • 別部 智司, 今泉 うの, 佐藤 智一, 三浦 一恵, 吉田 和市
    2016 年 15 巻 1 号 p. 58-65
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2019/04/19
    ジャーナル フリー

    近年心身共に病んでいる患者が増加して,この潮流は歯科医療機関の受診患者でも同様である.本症例は不定愁訴が多く,様々な医療機関で治療が続けられた口腔慢性痛症例で,考察を加えて報告する.

    症例は62歳の女性で,身長152cm,体重42kgであった.主訴は下顎右側臼歯部の耐え難い痛み.現病歴は,数年前に他歯科医院で同部位の感染根管治療が施行された.既往歴は全身疾患や精神疾患などで,多くの医療施設に通院していた.現在も施設で多数の治療と,最大20種類の投薬がなされていた.

    歯科診断では,下顎右側第2大臼歯の感染根管による,慢性根尖性歯周炎であった.治療は再歯内療法と歯冠修復治療を行い,症状は寛解した.一方で,多くの不定愁訴を有することでサルトジェネシスを応用したPEGを活用した.人生の指向性(SOC)を重視した全人的評価と資源の抽出を行い,身体的,心理的,社会的および実存的問題が浮き彫りになった.また,働くひとのこころとからだの健康調査票(CHCW)を用いた健康度の標準化得点が41点で,各ディメンションともに平均して低い結果となった.

    これらの問題を包括的に治療するために,資源の中から理解能力,管理能力および意義深さなどの問題点に焦点を絞り,全人的医療を行った.その結果,症状は軽快した.

    その後は心理的荷重が加わることで,口腔症状を訴えるため,サルトジェネシスに基づいた治療で対応することにより健康生活へ復帰した.

  • 今泉 うの, 別部 智司, 吉田 和市
    2016 年 15 巻 1 号 p. 66-71
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2019/04/19
    ジャーナル フリー

    上下顎の痛みと痺れを主訴として来院した41歳の女性に対し,全人的医療を行った.既往歴は41歳より不安障害と過敏性腸症候群で投薬治療.現病歴として下顎左側智歯の抜歯を行った後,上下顎の複数箇所の痛みと左右頬部および両側の肘から指先にかけての痺れ感が認められた.鍼治療や漢方治療を行ったが効果はなく,抜歯から1ヶ月後に当科を受診し,プレガバリン25mg/日とメコバラミン1500μg/日の処方に加え,キセノン光照射治療が行われた.また,ロゴセラピーを応用した精神療法を用いて患者の訴えを共感的に傾聴することに努めたところ,心配事があると痛みが増してくる気がすると自身で分析するようになった.症状は一進一退であったが,初診から7ヶ月後にはNumerical Rating Scale(以下NRS)で2/10となった.心理的要因が強いと考えられる痛みを訴える患者に対し,薬物療法やキセノン光照射治療に加え,受容的な態度で話を傾聴したことで症状に改善がみられたと考えられる.

W.H.O.レクチャーシリーズ
  • 外 須美夫
    2016 年 15 巻 1 号 p. 72-77
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2019/04/19
    ジャーナル フリー

    科学技術の進歩により,西洋医学的な痛み治療法が発展し,多くの痛みが和らぐようになったものの,依然として痛みを持つ患者さんは後を絶たない.今でも手術後の痛みやがんの痛みで苦しんでいる患者さんは数多い.慢性痛はさらに巷に溢れている.

    痛みは人間を破滅に導くこともあれば,人間から大切な価値を引き出すこともできる.科学,哲学,心理学,宗教,文学など,人間に関する全ての領域が痛みにどのように向き合えばいいかについてのヒントを与えてくれる.医学が痛みに対する科学的な解決法を提供してくれるように,長い人間の歴史が,先達の数々の業績が,人間的な痛みへの向き合い方を教えてくれる.

    痛みは身体の歪みで生じるが,身体の歪みが脳の歪みを生じさせ,さらには心のゆがみも生じさせる.体と脳が痛みの過敏状態を作り出すと,痛みがいつまでも消えないばかりか,痛みが強化され,痛みの悪循環が作られる.脳の可塑性は,本来は病的な状態から正常な状態へ回復するための能力として発揮されるべきものであるが,痛みが悪循環に陥ると,いつまでも痛みの過敏状態が続くことになる.

    そこで,脳神経系の過敏状態が続いている慢性痛に対して,脳の可塑性を高めることにより,脳内部から痛みを静穏化することが可能になる.とくに,痛みの認知に関わっている前頭前野や,身体の内部状態をモニターし情動を観察する機能を持っている島皮質を調整することで痛みの認知や情動を鎮静化することができる.また脳の感覚野に隣接する運動野を調整することも鎮痛に効果がある.

    やっかいな痛みに対処するためには,最新の医学の進歩を最大限に活用するとともに,痛みで過敏になった脳を鎮めるためのマインドフルネスや瞑想といった心の治癒力も応用することが大切である.また痛みを脳に限局せず心身全体でとらえホリスティックに対処することにより,痛みに捕われた脳を解放することができ,さらにそこから,痛みへの温かい手がかりが生まれ,自己だけでなく他者の痛みに対する共感も生まれてくると思われる.

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