医療と社会
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10 巻 , 2 号
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  • 石倉 洋子
    2000 年 10 巻 2 号 p. 1-74
    発行日: 2000/07/31
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    2000年初頭,アメリカのヘルスケア業界には,遺伝子研究の急速な進展,インターネットによる医療情報の提供,オンラインによる医薬品の販売など,数々の新しい動きが見られる。製薬業界においても,情報通信技術の急速な発展に伴い,研究開発から販売までのバリューチェーン全体を持つ研究開発指向の大企業だけでなく,バリューチェーンの一部に特化した専門企業も多数出現している。大企業の中にも,HTSなど高度化した情報技術を研究開発に駆使したり,最近解禁された消費者への宣伝広告・ウェブサイトを活用して新薬を上市するなどの方法を積極的に取り入れる企業も出始あている。これに加え,90年代半ばに見られた,川下の流通機能を取り込む垂直統合やジェネリックへ進出するなどの水平統合の動き,特化型企業との提携やアウトソースを積極的に活用する動きも現れている。さらに,1990年代はじめに比べると,その重要性を一段と増した「規模」の実現をめざして,大企業間でも国境を超えた買収・合併が繰り返され,業界再編が進みつつある。本研究では,医療用医薬品を中心に,研究開発から販売まで全体を統合する大企業を中心プレイヤーとしてアメリカの製薬業界を概観し,企業の戦略や実績を説明する。また,製薬企業を巡る医療サービス提供者,患者,支払い側,政府,流通チャネルなどの主な動きを示す。その上で,製薬企業のバリューチェーンの変化と最近力を持ってきている専業企業の動きを,製薬企業への影響という観点から説明する。
    次に, 世界の製薬業界においてアメリカ製薬業界が果たす役割を, 「リードカントリー」, 「クラスター理論」,「ダイヤモンドモデル」の観点から分析する。
    まず,製薬業界のグローバル度をマーケット,コスト,規制,競合の観点から分析し,アメリカの製薬業界をグローバル化の先導となるリードカントリーとして位置付けている。それから,情報技術が革新し,時間や距離の意義が薄れたといわれるグローバル化の時代にあって,優れた企業はある地域に集積するという「クラスター」理論の観点から,アメリカの製薬業界を捉え,収益性,イノベーション,新規事業の誕生というクラスターの指標に沿って分析を進あている。さらにクラスター形成のメカニズムを解き明かす「ダイヤモンドモデル」を用いて,アメリカの製薬業界が今日の隆盛を遂げた背景を,需要条件,要素条件,関連・支援業界,企業の戦略・ライバル関係と政府の役割から解明している。
    最後に,ヨーロッパ企業の最近の動きなども押さえながら,クラスターとしてこれだけの力を持ってきたアメリカの製薬業界が,日本の製薬企業の戦略へもたらす意味合いを考察する。
  • 縄田 成毅, 山田 ゆかり, 池田 俊也, 池上 直己
    2000 年 10 巻 2 号 p. 75-86
    発行日: 2000/07/31
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    国内2市町村の一般人口から無作為抽出した65歳以上高齢者4,492名を対象として,日本語版EuroQol(5DおよびVAS)とIADLに関する調査を実施し,5Dの各項目から算出されるHRQOLスコアおよびVAS値に対する年齢および性別の因子効果,ならびにIADL項目との関連性を検討した。その結果,5Dの各項目において「問題あり」と回答する割合は,高齢期においても年齢とともに増加し,先行研究において十分でなかった高齢者における5Dの各項目における回答傾向を確認することができた。また,樹形モデルの解析により,HRQOLスコアおよびVAS値は,回答者の居住地域,性別,年齢等の属性による影響はみられず,IADLの項目で比較的よく推定できることが明らかになった。HRQOLスコア,VAS値および5Dのうち4項目に対して最も影響したIADL項目は「買い物」であったが,残り1項目の「身の回りの管理」に限ってはIADLの「食事の支度」であった。HRQOLスコアとVAS値は中等度に相関するが,5Dのいずれの項目についても「問題がない」とした回答者であっても,VAS値が100であった者は14%のみであり,VAS値の平均値は85.4であった。したがって,健康状態の軽微な障害は,5Dの各項目では弁別が困難であるため,5DとVAS値を併用して使用することの必要性が示唆された。
  • 冨田 健司
    2000 年 10 巻 2 号 p. 87-99
    発行日: 2000/07/31
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    製薬企業のマーケティング活動は,販売製品が医療用医薬品か一般用医薬品かで大きく異なる。一般用医薬品のマーケティング活動において大きな役割を果たすのは,マスメディアを使った広告活動である。
    製薬企業の広告費の大半が一般用医薬品向けのテレビ広告であること,一般用医薬品市場は必然的な拡大傾向にあること,供給者側で一般用医薬品広告に関する意識が高まっていること,それにもかかわらずこれまでその役割や効果が明確にされてこなかったこと,という4つの理由により,本稿では消費者の視点から医薬品広告の役割について考察した。消費者がある医薬品に対してブランドを形成する際の広告の役割に着目し,この明確化を試みた。広告効果測定を含めたこれまでの消費者情報処理研究を基に,感情的反応と認知的反応の概念を用い仮説を立てた後,質問票による量的調査とグループ・インタビューによる質的調査を実施し,仮説を検証した。
    その結果,次の5点が明らかになった。それは,消費者が医薬品を購買する際には広告から得たプラスの感情的反応の影響を受けること,購買経験を有する消費者の方が広告から良い感情を抱くこと,感情的反応は認知的反応の影響を受けること,医薬品広告で重視されるのは服用後の病状改善のイメージであること,消費者の関与度の相違により医薬品広告に対する意識も相違すること,である。
  • 中西 悟志, 吉瀬 浩司
    2000 年 10 巻 2 号 p. 101-113
    発行日: 2000/07/31
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,医薬品市場に及ぼす人口要因の大きさを測定するとともに,診療報酬等の医療政策の影響を考慮し,将来の医薬品市場規模を予測することを目的としている。1982年から96年の14年間においては,人口要因とその他の要因に大別すると,人口要因の影響が極めて大きく,医薬品支出の増加に対し,その9割弱を説明し得る要因であることが判明した。また,人口要因以外の要因をすべて一定と仮定した時の将来の市場規模を算出すると,2000年には,1996年に比し1割弱,2005年には2割,2010年には3割弱の増加が予測された。つぎに単純な経済モデルを用いて,基準薬価の変更が薬剤支出に与える影響を分析し,モデルに基づいた実証分析を試みた。その結果,基準薬価を10%引き下げたとき, 薬剤の使用密度が6.6 % 上昇するため, 医療保険からの薬剤償還額は3.4%しか減少しないことが明らかとなった。この推定結果を用いて,現行基準薬価を前提としたシミュレーション予測を行うと,薬剤支出は人口動態のみを考慮した予測増加率よりも0.7%程度大きくなる。また,薬剤に対する支出の成長を,1%程度と考えられる経済の潜在成長率の範囲内に抑制するためには,毎年2%から3%の引き下げといった厳しい薬価基準の継続が必要となる。
  • 澤野 孝一朗
    2000 年 10 巻 2 号 p. 115-138
    発行日: 2000/07/31
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    この論文の目的は,自己負担制度が外来医療サービス需要に与える抑制効果を高齢者医療の側面から検討することである。現在の老人保健制度において,高齢者はある定額を支払うと自由な診療を保障される定額自己負担制を採用している。この定額自己負担の改定による受診抑制効果は高齢者医療サービス需要の所得弾力性に依存しており,医療サービス・エンゲル曲線推定によってその性質を検定した。エンゲル曲線の推定結果から高齢者医療サービス財は明らかに必需財,すなわち非常に小さい所得弾力性しか持ち得ず,新たに定額自己負担を設定することによる外来医療サービス需要の抑制効果は小さいと言える。今後導入が検討されている定率自己負担制とは,高齢者が外来医療サービス価格の一定割合を窓口で支払う制度である。この定率自己負担の改定による受診抑制効果は高齢者医療サービス需要の価格弾力性に依存しており,65-69・70-74歳年齢別外来医療費と65-69・70-74歳年齢別外来受療率を利用した高齢者外来医療サービス需要関数を推定した。需要関数の推定結果から高齢者医療サービス需要の価格弾力性は-0.105~-0.085(一件あたり外来日数),-0.125~-0.076(外来受療率)であり価格弾力性もまた小さく,定率自己負担制に移行したとしてもその抑制効果も小さいと言える。よって高齢者医療において,自己負担制度が受診行動に与える効果は限定的なものと考えられる。
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