医療と社会
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10 巻 , 3 号
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  • 上山 隆大
    2000 年 10 巻 3 号 p. 1-26
    発行日: 2000/12/15
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    高度に発達する科学技術に対して人々が抱きがちな,期待と不安のアンビバレントな思いはとりわけ現代医療の分野で明瞭である。患者はX線断層装置のような最先端技術の恩恵を歓迎しながらも,それがパーソナルな治療のあり方を阻害するのではと恐れている。また医師の側も,これまで臨床経験によって積み上げてきた診断と治療が,機械と器具に安易に取って代わられることに複雑な思いを抱いている。一方で,ますます高度化する医療の機械・技術は,単なる科学の理論を離れ,大学や病院の外の機械メーカーなどの産業界との結びつきなしには実現し得ないものとなってきている。このような高度技術は,現代医療の現場にどのようにして持ち込まれるようになったのであろうか。また,それは医療の現場をどのように変えていったのであろうか。
    この小論は,スタンフォード大学病院が1960年代にホジキン病などのガン治療のために導入した新技術, Micrwave Linear Accelerator(Clinac)をケーススタディーとして, アメリカの先端医療技術が社会化されてきた実態を検証している。Clinacは,スタンフォードの放射線医学の主任教授であったDr.Henry Kaplanが, 物理学の教授Edward Ginztonと現在シリコン・バレーをリードする巨大電機企業となったVarian Associatesと共同で開発し導入した,放射線ガン治療機械であった。Varian AssociatesはGinzton教授とSig. Varianが創設したベンチャー企業であり, この産学協同の形式が医療の現場を新しい技術によって変革していった。スタンフォード大学とサンフランシスコ大バークレー校に残る,Clinacをめくる資料を分析することで,戦後のアメリカ医療のあり方が, ベッドサイド中心の臨床医学から, 巨大な病院施設のなかで, 工学・生物学・物理学たどの隣接領域との密接な連携をともなる研究中心の医療へと変質していった様子を歴史的に検証している。
  • 池田 俊也, 山田 ゆかり, 池上 直己
    2000 年 10 巻 3 号 p. 27-38
    発行日: 2000/12/15
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    抗痴呆薬ドネペジルの経済的価値を評緬するため,マルコフモデルを用いて,軽度・中等度アルツハイマー型痴呆患者に対するドネペジル治療の費用-効果分析を実施した。分析の立場は支払い者の立場とし,費用は診療報酬点数および介護保険における在宅の給付限度額を参考に推計した。薬剤の有効性データは国内臨床第III相試験の成績を基にしたが,わが国における自然予後のデータは入手できなかったため米国の疫学データを用いた。薬剤の有効性,自然予後ならびに各病態における平均QOLスコアを組み合わせて質調整生存年(QALY)を算出し, 効果指標とした。
    2年間を時間地平とした分析では,軽度・中等度アルッハイマー型痴呆患者に対するドネペジルの投与により,既存治療に比べて患者の健康結果が向上するとともに,医療・介護費用が節減されることが明らかとなった。但し,ドネペジルの長期的効果やわが国におけるアルッハイマー型痴呆患者の予後に関するデータが不充分であることから,今後,これらのデータが蓄積された際には本分析結果の再評価を行うことが望ましいと考えられる。
  • 橋本 栄里子, 東山 朋子, 高橋 裕子
    2000 年 10 巻 3 号 p. 39-59
    発行日: 2000/12/15
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    インターネットの普及に伴い,コンピュータを介したコミュニケーション・コミュニティ(CMCC)が急速に人々の生活に浸透している。本研究は,コミュニケーション論の立場からインターネット上で実施された禁煙プログラムの事例を取り上げる。期間中にメーリングリストを介してやり取りされた電子メールのログを定量的に分析した結果,禁煙指導における電子メディアコミュニティの活用は,禁煙開始後の継続的・個別対応的なフォローアップの実施に有効であることが明らかになった。また,先輩禁煙成功者ボランティアが大きな役割を担っており,医師等の負担を軽減するばかりでなく,後輩を継続的に支援することで自らの禁煙を維持するうえでも貢献していることが示唆された。
  • 加藤 英一
    2000 年 10 巻 3 号 p. 61-73
    発行日: 2000/12/15
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    1997年に「臓器の移植に関する法律」が国会において可決されたにもかかわらず,脳死からの臓器移植が日本においていまだ普及しているとは言えない。その理由としてはさまざまな要因を挙げることができるが,その中の一つとして日本において脳死の問題が社会のレベルにおいて決着がつけられていない点を挙げることができよう。それに対して米国ではこの問題に関して連邦レベルにおいて,明確な判断がなされた上で,脳死からの臓器移植が進められてきた。
    それでは何故にこのような差が生じてきたのであろうか?よくいわれるような国民性の差だけなのであろうか?この点だけにそれを求めることには疑問がもたれる。むしろ本稿ではそれを両国間の“議論のされ方”に求ある。米国がこの問題を,公共政策として取り上げたのに対し,日本は死生観の問題として議論されることになったのである。
    しかしこの公共性としての議論と死生観としての議論との差は,(1)医学・医療の領域,(2)法の領域,(3)文化の領域といった3つの領域における両国間の差から生じることになったものである。このように両国間における議論の経緯を比較することによって,日本における脳死・臓器移植問題を単なる感情論ではなく,そこに存在するより広範な社会的問題として浮き彫りにすることができるのである。
  • 河口 洋行
    2000 年 10 巻 3 号 p. 75-95
    発行日: 2000/12/15
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    日本の私的病院における設備投資資金の調達は業種的な特性からみても,現在検討されている医療保険制度改革への対応への必要性からみても,病院経営というよりは医療政策上の重要な問題である。
    しかし,現状では私的病院における長期資金の調達は,専ら銀行借入という単一チャンネルに頼っており,他業種に比して資金調達手段の多様化が行われていない。また,使用年数30年以上の病院を全て建て替えるという仮定をおいて,公私病院の病院建替の資金需要を粗く推計したところ,99年までに最大で約2兆6千億円(年間設備投資の約2倍程度)の資金需要ギャップが存在しているという結果となった。このような資金需給ギャップの原因は,私的病院と金融機関の間の情報伝達が円滑に行われず,情報ギャップが大きいたあと考える。
    この情報ギャップを解消し,わが国医療インフラに必要不可欠な私的病院への資金供給を円滑化するためには,私的病院側も情報開示を積極的に行うことを前提として,病院のたあの「格付機関」および「格付を取得した病院への保証を行う機関」を創設することが必要と考える。また,これらの信用補完制度(格付機関・保証機関)は民間が主体となって整備することを提案する。
    私的病院の資金調達手段の多様化については, 行政側として他業種とのイコールフィッティングに注意を払うとともに,民間が主体となってさまざまな資金調達手段の開発を行うことが期待される。
  • 井上 淳子, 冨田 健司
    2000 年 10 巻 3 号 p. 97-108
    発行日: 2000/12/15
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    近年,マーケティング概念は医療機関においても注目されており,実際にマーケティングを実行する組織は増えている。1960年代後半にソーシャル・マーケティングの概念が出現して以降,それまで営利企業のものと考えられていたマーケティング諸概念・諸技法を病院などの非営利組織にも適用していこうという動きが起こった。
    マーケティング分野においては,時代や環境の変化とともに取引パラダイムのシフトが認識されており,その流れは刺激-反応から交換,近年では関係性パラダイムへと向かっている。関係性パラダイムでは企業と顧客との間に信頼を基軸とした長期継続的な関係性を構築することで,互恵的な価値の創造をあざす。
    本稿では関係性パラダイムをベースとするリレーションシップ・マーケティングのフレームワークを用いて,医療機関が患者と良好な関係性を構築する要件について考察した。今日,医療機関を取り巻く環境は供給過剰の状態にあり,熾烈な競争を強いられている。この激しい競争時代に生き残れるのは確実に患者から選ばれる医療機関だけである。
    事例として練馬総合病院を取り上げ,リレーションシップ・マーケティングの観点から考察した結果,5つの特徴が浮かび上がった。同病院では院長によるビジョンの明確化,病院理念の確立,職員の意識改革,コミュニケーション・インフラとしての情報化の推進,医療機関と患者との信頼の創造が実践されている。
    医療機関には最終目的である患者満足をめざして, 患者との良好かつ継続的な関係性を構築することが求められる。そのために患者との信頼を形成すること,その前提として組織内部の職員との間に強い信頼を形成することが重要となる。
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