本論では企業統治を,企業の中心的利害関係者を規定する企業概念,経営者をだれが,いかに監視すべきかに関する経営監視, そして経営者の企業家精神の向上を目的とする報酬方式の決定, の三要素より構成されると定義する。したがって,企業統治の根底は企業概念である。90年代中頃からアメリカ,イギリスの株主利益中心主義は日本,ドイツ,フランスにおいては中心的利害関係者に関する大きな論争を巻き起こした。論争は株主利益中心主義に対する反対派,賛成派,折衷派が入り乱れ,決着はまだついていない。
しかしアメリカにおいてさえ株主利益中心主義を信奉する経営者は少数であることは日本においてほとんど知られていない事実である。すなわち大多数の経営者は株主以外の他の利害関係者に対しても責任を負うと考える。またアメリカの経営者の行動は株主利益を尊重しているとはいえない。すなわち標的企業の株主にとっては大きな値上がり益をもたらす敵対的企業買収を阻止する多様な防衛策を講じている。さらに経営者は設立登記されている州において政治家に働きかけ,州会社法の株主利益中心主義を修正させ,敵対的企業買収を困難にしている。また株主利益中心主義はアメリカの国民による合意を得ていない。
しかしアメリカの企業統治の優れた点はその経営監視の有効性にある。社外取締役の独立性,これを強化するSEC,IRS,公的年金基金などの独立性に関する詳細な定義,証券取引の公平性,効率性,流動性,透明性を保証するSECなどの規制機関,公的年金基金による株主活動,企業内では監査委員会,指名委員会,報酬委員会の設置などがある。
日本の取締役会改革はむしろこのようなアメリカの経営監視の有効性に学ぶべきであり,企業統治原則の成文化,内部監査機能の強化,独立社外取締役の導入,委員会の設置,定年制,持ち合いに代る長期株主の優遇策により企業統治を向上に努めるべきである。
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