医療と社会
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11 巻, 2 号
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  • 卸再編成の意味と顧客起点への基軸移動の可能性
    三村 優美子
    2001 年 11 巻 2 号 p. 1-27
    発行日: 2001/10/10
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    1980年代から90年代にかけて、医薬品卸売業は激しい再編成の渦中にある。特に,90年代後半にはその再編成の速度が加速するとともに,業界の勢力関係を根底から揺るがす大型合併も発生している。その結果,アメリカの卸売業に比べると緩やかではあるが,上位企業へのシェア集中が進んでおり,ある局面ではいわゆる「卸寡占」の兆候もみえる。
    卸段階の提携・合併を促進させる一般的な要因は,市場の伸び悩み(縮小)と競争激化,生産段階と小売段階の集中化の動きである。ただし,医薬品流通においては,これらに加えて,公的制度変更(薬価引き下げ,R幅の縮小)による流通段階の収益力低下の影響が大きい。特に,90年代後半の卸売業の急速な業績悪化に伴い,経営不安への対応と流通マージンをめぐる交渉力ポジション強化の意向が強く示されている。ただし,現在の流れは,メーカー,卸売業,医療機関を繋いでいた価値連鎖の鎖(関係性)をむしろ弱める方向に作用していることは留意すべきである。
    90年代以降の激しい流通変化には,従来とは異なる新しい要因が作用している。それは,情報システムを駆使し販売動向と在庫・物流活動を“同期化”することで全体在庫の最適化を目指す動きであり,製販統合あるいはサプライチェーン・マネジメントなどと呼ばれる活動である。医薬品流通では, 病院や診療所などの購入が“価格条件” に主として左右され, 大包装単位かつ低頻度発注を特徴としてきたことから,在庫や物流コストあるいは物流サービスのあり方への関心は低かったといえる。しかし,医薬分業の進展と調剤薬局の比重の上昇はいわゆる“多頻度小口化”の傾向を強めさせ,それが医薬品卸の物流システムを撹乱させるようになっている。物流システムの適否が医薬品卸の競争の鍵となりつつある。但し,患者の症状に合わせた多様な医師の処方と調剤を支えさらに服薬指導や経過管理なども含む価値実現を保証する必要のある医薬品流通には,既存のサプライチェーン・モデルでは十分でない。顧客との関係性維持と顧客理解を柱とした新しい流通マネジメント手法が必要である。
  • William R. Boulton
    2001 年 11 巻 2 号 p. 29-49
    発行日: 2001/10/10
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
  • 「椎間板障害」に対する一適用例
    菅原 琢磨
    2001 年 11 巻 2 号 p. 51-70
    発行日: 2001/10/10
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    効果的な医療費適正化策の立案,実行のためには医療資源消費の構造あるいは医療需要の決定要因について詳細かつ厳密な情報の蓄積が不可欠である。しかしわが国ではこのような目的に十分応えうるデータセットは未だ不備な状況にあるといえ,問題の社会的重要性に比して十分な研究が制約される大きな要因となっている。社会医療診療行為別調査をはじめ,医療資源消費の情報の蓄積を図ってきた既存の大規模ミクロデータは,全国を網羅し,経年的,系統的に情報が蓄積されている点できわめて魅力的であるが,調査期間が短期間(通常1か月)に限定されるため,患者の受療開始から終了までのエピソードの構成が難しく,患者情報のフォローアップが不完全な「打ち切りデータ(censored data) 」が多量に発生するという分析上の問題を有している。これらの打ち切りデータを除外すると相対的に治療期間の短いサンプルに偏るため,分析結果にバイアスが生じる可能性がある。
    本稿では以上の問題に対する一試みとして,平成7年-平成9年の「医療給付受給者状況調査」のミクロデータから政府管掌健康保険の加入者で「椎間板障害」による入院サンプルを抽出し, 特に臨床医学統計等において打切りデータを扱う際に頻用される生存時間分析(survival analysis)を適用し,入院期間として顕在化される入院医療需要の影響要因について分析をおこなった。分析の結果,入院自己負担率が1割の被保険者本人の平均入院期間が14.2日であったのに対し,負担率2割の被扶養者は8.6日となり,両群の入院継続関数の分布には統計的に有意な差が確認された。さらに被保険者本人・被扶養者の別,診療所・病院の入院先の別,レセプト傷病数等が患者の退院行動に有意な影響を与えていることが示された。また打ち切りを多数含むこのようなミクロ・レベルデータを用いた医療資源消費の分析について,本稿で適用した生存時間分析の解析手法が有効であることが示唆された。
  • 画像診断技術の場合
    岸田 研作
    2001 年 11 巻 2 号 p. 71-84
    発行日: 2001/10/10
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    本稿では,医療技術の価格指数に関する先行研究の問題点を明らかにし,画像診断技術について,診療報酬改定の影響や技術構成の変化を反映する価格指数を新たに作成した。次に,作成された価格指数を利用して,画像診断点数の増加率を要因別に分解した。その結果,画像診断技術の点数増加の原因として高齢化が果たす役割は限定的であり,増加の約半分は高度(高価な)技術の浸透によるものであることが分かった。
  • 遺伝子診断と私的保険市場
    中島 孝子
    2001 年 11 巻 2 号 p. 85-97
    発行日: 2001/10/10
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    生命科学の進展に伴って,遺伝子診断が臨床で使用されるようになってきている。Strohmengerand Wambach(2000)は保険の観点からみて,遺伝子診断を「被保険者のリスク分類をより正確にする新たな可能性」であり,「新たな非対称情報の源泉」と位置づけている。
    本論文では,医療保険における遺伝子診断の効果を,Rothchild-Stiglitzモデルを用いて分析する。分析では診断「後」の問題を考えた。「遺伝子診断結果」という情報は第三者である保険者にとって情報の入手が容易である,という特徴をもち,従来の「病気のリスク」という情報とは異なる。このため,「遺伝子診断に伴う心配」を解決するため遺伝情報の取り扱いに関して保険者に対するさまざまな規制が考えられている。
    Doherty and Thistle(1996)に従い,5つの規制を考察する。規制1は保険者に全く何の制約も与えない。規制2では,保険者は個人に検査結果を聞くことができ,規制3では本人の同意があるときのみ結果が公表される(a consent law)。規制4は保険者に対し,保険の取引の際に遺伝情報の使用を禁じる。規制5 は規制4 に加え, 「保険者は全ての加入者を同様に扱わなければならない」ことを義務づける。
    保険者が「個人が診断を受けている」ことを知っているとき,何も規制がない場合と規制2,3のもとでは同じ結果が生じる。ローリスクタイプ個人の「権利」が尊重され, 市場は事後的に完全情報であり,RSの意味で効率的になる。規制4,5の場合,個人は結果の公表に関する選択を制限されたのと同じになる。ハイリスクタイプ個人の「権利」が尊重され, 市場は基本的に不完全情報のままで,RSの意味での効率性は達成されない。さらに規制5の場合,「逆選択」が生じる可能性がある。どの規制を選ぶかについては,社会的な合意が必要である。
  • 流通理輪導入の-試論
    中村 真規子
    2001 年 11 巻 2 号 p. 99-120
    発行日: 2001/10/10
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    本論文では医療流通システムのグランドデザイン構築のために医療サービスの再検討を行う。医療サービスという用語は,医療経済学はいうまでもなく医療社会学,医療政策などにおいて,よく研究されてはいるが,基本概念である医療サービスとは何を意味しているのか,その点についても,曖昧なままに使用されている。医療サービスを一つの研究対象として,それを捉えて分析,比較検討するためには,その概念は客観的に概念化し,全体性のなかの位置づけを確立しなければならない。
    ここでは,まず一般のサービス財の特性,その後に医療サービスの特性を列記する。医療サービスは,サービス財の特徴に加えて医療という領域固有の特徴をもっているからである。次に,研究領域による医療サービスの範囲の異同を比較する。最後に,消費者の認識と現状に適応した医療サービス研究における流通理論とポーターの価値連鎖概念の導入有効性を検討する。この成果は,医療サービス流通を消費者の視点から整理するための予備的考察である。
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