医療と社会
Online ISSN : 1883-4477
Print ISSN : 0916-9202
ISSN-L : 0916-9202
11 巻, 3 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 循環器官用薬の実証研究
    姉川 知史
    2002 年 11 巻 3 号 p. 1-18
    発行日: 2002/02/22
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    医療保険における診療報酬制度の一環として薬価基準制度がある。日本の薬価基準制度では1980年以来,銘柄別薬価と,納入価格の実勢価格を薬価として反映させる薬価低下政策によって運営されてきた。本稿では医薬品需要の決定要因を姉川(1999a) を拡張した手法により, 1980年代以降の代表的な循環器官用薬をサンプルとして分析した。需要量決定に関して薬価,納入価格,その他の要因を推計した。このときデータのパネル構造を利用して,医薬品の個別属性が需要に与える影響を個別効果(individual effect)として間接的に推定した。この結果,次のことが判明した。第1に,需要量の納入価格に対する弾力性は負の値であり,-0.98から-1.20と予想されたよりも弾力的なことである。とりわけ発売後経過年数が12年を過ぎた「ジェネリック製品の導入された医薬品」,「ジェネリック製品との競争の大きな医薬品」ではこれが絶対値で1.0を上回り弾力的であった。第2に,医薬品の需要量の変動は価格変数以外の変数である個別効果によって説明される部分が大きいことである。とりわけ「ジェネリック競争の無い医薬品」では個別効果の影響が大きい。また,「ジェネリック競争の有る医薬品」の個別効果は小さいと考えられたが,発売後経過年数が10から18年くらいまでの間はそれが逆に上昇する傾向が示された。薬価制度改革ではジェネリック競争の有無を区別した政策を用いることが望ましい。「ジェネリック競争の無い医薬品」については依然として薬価の高低が需要量の重要な決定要因である。「ジェネリック競争の有る医薬品」については先発品の個別効果を抑制することが,後発品の需要量増大につながる。研究開発の促進という観点からは一定の需要と売上額を確保することが必要である。画期的な医薬品については納入価格が低下しない方法,あるいは上昇することをも許容する政策が必要である。
  • 国民生活基礎調査を用いた分析
    本多 智佳, 大日 康史
    2002 年 11 巻 3 号 p. 19-32
    発行日: 2002/02/22
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    本稿ではCutler and Richardson(1997)やGroot(2000)と同じ分析枠組みを日本でも適用し,そのうえで独自の考察を深めた。まず第一に個人の効用の割り当てについてである。先行研究では,健康状態の自己評価を最高の「よい」と評価している個人の効用は理想的な健康状態を意味する1が,「よくない」と最低の評価をしている個人の効用をもっとも好ましくない状態の効用である0が割り当てられている。しかし,「よい」という評価をした個人の集団にも分布が考えられ,効用が必ずしも1であるとは考えられないし,最悪の評価をした個人すべてが0であるとするのは,各評価の集団の分布を無視するものである。なぜなら,効用は理論上0から1の間で示されるべきであり,最高および最低の評価をした人間を排除することは明らかに恣意的な割り当てである。本稿ではそれをより自然な尺度, すなわちすべての回答者中最高であるものの効用が1 , 最低の評価者の効用がOとなるように改める方法を提示した。第二に,主観的評価には不可避である個人間の分散の不均一性に対して頑健な推定法を用いた。第三に,平成4,7,10年の3度のデータを解析することによってQOLの経年的な変化を捉えている。推定結果から,いくつかの自覚症状,疾患によって主観的な健康評価が上がる現象が見いだされた。これは先行研究ではみいだされていない。また,6年間の変化では,係数はほぼ安定的であるが,QOLへの影響が低くなっている自覚症状・疾病がやや多い反面,高くなっている自覚症状・疾病はほとんどない。日本全体のマクロのQOLもほぼ安定しており,顕著な傾向はみられない。
  • 吉岡 俊正, 廣原 正宜, 上塚 芳郎
    2002 年 11 巻 3 号 p. 33-41
    発行日: 2002/02/22
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    優良な医薬品を早く市場に提供するために医薬品製造・輸入承認申請のための臨床試験(治験)は米・欧・日共通の基準で行われ,本邦では通称新GCP法に基づき実施される。治験の実施機関では通常の医療とは異なり,管理費・経費を治験依頼者(製薬企業)から得るが,これらの費用は公的ガイドラインの「ポイント表」から算出される。本研究では,医療機関におけるポイント表に基づく管理経費算出が適正であるかを検討するため平成11年度に実施したひとつの治験をモデルとして原価計算を行った。モデルとした治験は,多症例(45例)を対象とし,治験の円滑な進行のための支援者として治験コーディネーター(Clinical research coordinator,CRC)が参画した治験であった。解析の結果,私立医科大学協会による「ポイント表」に医療機関で設定したCRC加算を加えて治験依頼者から医療機関に支払われた管理経費は,医療機関が治験に要した経費(労務費,光熱費,消耗品費,資本費)を上回った。しかし,症例数を一般の治験の規模である5例として解析すると,経費が収入を上回る結果を得た。以上より新GCP法に基づく治験モデル解析において,多症例を実施する場合原価が下がり公的ガイドラインにより治験依頼者へ請求する治験管理経費が支出を上回り医療機関の治験管理経費負担は少ないが,少数例の契約では治験実施施設の負担となることが示唆された。
  • 医療機関のホ一ムページに関する意識調査とその現状
    福田 吉治
    2002 年 11 巻 3 号 p. 43-54
    発行日: 2002/02/22
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    情報通信技術(IT)の進歩と普及により,医療保健福祉領域においてさまざまなITの応用が試みられている。ITを利用した患者。一般大衆・医療提供者間のコミュニケーションはインタラクティブ・ヘルスコミュニケーション(IHC)と呼ばれているが,本研究は,わが国のIHCの現状を把握し,その適切な普及に寄与することを目的として,(1)東京都内の診療所開業医500名を対象にしたIHCに関する意識調査, (2) 126件の医療機関のホームページ(HP) における情報提供の実態調査を行った。
    開業医のIHCに関する意識調査では,有効回答の126名の中で,大半がインターネットや電子メールを利用しており,26名がHP開設の経験があった。医療機関のHPに記載すべき内容として,診療科目などの一般的情報に加えて,検査案内や医師の情報などについての必要性を高く感じていた。医療機関のHP開設に伴う利点として,「患者の施設や医師選択の助け」や「施設間の連携」を挙げるものが多かった。一方,医療機関のHP開設に伴う不利益として,「誤った情報や偏った情報の流布」,「商品等の販売に利用される」,「ネット上の嫌がらせ」,「ネット上の健康相談等にかかる時間や人手」などが挙げられた。
    医療機関のHPにおける情報提供の実態調査では,HPを開設している診療科としては,美容外科が最も多く,内科,皮膚科,産婦人科と続いていた。所在地や診療科などの基本的情報はほとんどのHPが掲載していた。その他,さまざまな健康情報も発信しており,メールでの健康相談やメールを使った診療予約などを行っているHPもみられた。
    インターネットなどの新しいITを用いた情報提供や双方向性のコミュニケーションは,医療保健福祉領域で多くの可能性を持っている。今後,より適切なIHCの促進のため,IHCに関する学術的な取り組み,とくにその有効性に対する評価を行うことが望ましいと考える。
  • 亀田総合病院の事例から
    井上 淳子, 冨田 健司
    2002 年 11 巻 3 号 p. 55-67
    発行日: 2002/02/22
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    近年,医療機関を取り巻く環境は確実に厳しさを増している。各医療機関とも生き残りを賭けた熾烈な競争を強いられ,大きな変革を迫られている。ビジネスの世界において他社と協調的な関係を結ぶ傾向は,病診連携,病病連携,医療と福祉の連携など医療業界においてもみられるようになった。機能分化や医療資源の効率的活用が叫ばれる今日,医療機関どうしの連携はますます重要性を増している。
    本稿では,亀田総合病院の地域医療ネットワーク事業を事例にとり,成功要因の分析を行った。同院の成功は,情報共有を通じた地域医療機関との戦略的提携,顧客である地域医療機関との良好な関係性構築,徹底した患者(顧客)志向によって説明できる。同院は「企業」戦略ではなく,ネットワーク組織全体がもっ人的資源や,物的資源,情報の利用により,組織全体の利益・便益が向上することを目的とした「組織」戦略をとっている点が特徴的である。
  • 病院のホームページは患者に何を伝えているのか
    橋本 栄里子, 和田 ちひろ, 碇 朋子
    2002 年 11 巻 3 号 p. 69-87
    発行日: 2002/02/22
    公開日: 2012/11/27
    ジャーナル フリー
    医療機関がホームページ上で提供している情報に関する基礎的資料づくりを目的に,東京都・神奈川県・千葉県の病院のホームページに記載された内容に着目しその把握を試みた。結果としては,現在インターネット上で提供されている情報は,患者の病院へのアクセシビリティを高めるための情報や,病院のブランドづくりに関する情報の提供を中心に進んでおり,ついで医療情報の公開や患者教育情報は1割から2割程度での記載であることがわかった。また双方向的なコミュニケーションを提供するサイトは稀であった。
    医療情報の公開を求ある医療消費者が増大する中で,医療機関のインターネットのホームページは,今後,患者との関係性構築のための重要なプロモーション手段となってくるものと思われる。近年の病院ホームページ開設ラッシュの中で,量的な拡大のみならず,医療消費者志向の質的な充実が求められている。
feedback
Top