医療と社会
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14 巻, 4 号
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研究論文
  • 武村 雪絵
    2005 年 14 巻 4 号 p. 4_83-4_98
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     キャリアアイデンティティ(career identity)は,職業上の役割と自己とを結びつける意味構造の状態を指し,職業上の役割の把握感,一体感,心理的エンパワメントから構成される概念である。本研究は,療養病床の看護職員・介護職員のキャリアアイデンティティの状態を測定し,キャリアアイデンティティが管理上有用な指標となりうるか検討すること,また療養病床職員のキャリア発達支援への示唆を得ることを目的とした。2003年10月から2004年2月に,療養病床3施設の看護職員・介護職員196名を対象に質問紙調査を実施した。その結果,キャリアアイデンティティは仕事への努力の程度と相関するなど業績管理上有用な指標となりうること,職業経験とともに高まり,過去にキャリアアイデンティティの危機を体験し克服したものの方が現在のキャリアアイデンティティが高いなど,職員の成長・発達に関わる指標であることが示された。職種別にみると,看護師のキャリアアイデンティティは介護職など他職種より全般的に低かった。介護職はキャリアアイデンティティは高かったが,看護職と比較してパワーレス感を感じていた。看護師長はキャリアアイデンティティは高かったが,看護という職業への一体感・有意味感と現在の仕事へのそれらに相関がなく,職業への一体感と仕事への一体感の差が大きかった。職種・立場によって,必要なキャリア発達支援が異なることが示された。
  • 縄田 和満, 渡邊 園子, 新田 章子, 川渕 孝一
    2005 年 14 巻 4 号 p. 4_99-4_115
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     我が国においては医療費の増加が大きな問題となっている。このため,長期入院の解消による平均在院日数の短縮化が国の政策的課題になっている。平成14年4月の診療報酬改定でも,一般病院の平均在院日数要件が短縮されるなどの改定が行われている。診療報酬の改定が在院日数や治療成果にどのような影響を与えたかの評価は今後の診療報酬改定などの医療政策を考える上で重要である。本論文では,大腿骨頚部骨折で入院し,人工骨頭置換術・骨接合術を行った患者のデータを用いて,在院日数と治療成果(退院時歩行能力)に対して平成14年4月の診療報酬改定の影響の評価を行うとともに,これらに影響する因子について分析を行った。在院日数に関しては離散型の比例ハザード・モデルを,歩行能力に関しては順序プロビット・モデルを用いて実証的に検討した。この結果,平成14年4月の診療報酬改定は在院日数を有意に短縮させているとは認められなかった。一方,退院時歩行能力は診療報酬改定後,有意に低下したことが認められた。この他,在院日数に影響すると認められたのは,セメントの使用,術後感染症,術後合併症に関する因子であった。また,退院時歩行能力の改善に関連があると認められたのは,入院時歩行能力の他,痴呆症状,術後感染症,術後合併症,退院先,住居状況に関する因子であった。術後感染症,術後合併症の発症は治療成果に悪影響を及ぼすばかりでなく在院日数も増加させるため,治療成果・医療費抑制の両面からそれらの予防の重要性が示唆された。
  • 岡本 悦司, 畑 栄一
    2005 年 14 巻 4 号 p. 4_117-4_126
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     複数傷病の記載されることの多いレセプトの日数と医療費の合計に占める傷病別日数と傷病別医療費を推計する Proportional Distribution Method (比例配分法。岡本が1996年に発表した時は Proportional Disease Magnitude,傷病マグニチュード按分法と呼んだがこの名称の方がわかりやすいため改称した)法について妥当性と精度の改善を試み,モンテカルロ法によって検証した。
     PDM 法とは,傷病分類ごとに共通の重み(マグニチュード)を想定し,各レセプトの日数と点数を重みに比例して配分し,最終的に傷病ごとの日数と点数を合計し傷病別医療費を推計する。そのため重み推計法が重要となるが,今回は従来からある平均値補正法に加えて新しい Excel® ソルバーを用いた最適化法の2つの重み推計法を試みた。平均値補正法では,傷病数による補正法をより一般化する補正式を考案し導入した。なお日数の分析は点数とは異なった原理が必要なので別稿にゆずる。
     コンピューターで生成したシミュレーションデータによる検証結果は,傷病別医療費の推計値と正解との回帰直線の傾きで妥当性を,決定係数で精度をそれぞれ評価した。その結果,最適化法による重みを用いた場合はほぼ完全な推計となり,平均値補正法もそれに近い良好な推計値が得られた。また重み推計値の妥当性と精度は低くてもその重みをPDM法にかけると最終的な傷病別医療費の推計値の妥当性と精度は向上し,PDM法原理の有する頑健な傾向を示唆した。
     最適化法は優れているが制約も多く,レセプトが電子化され迅速かつ大量の傷病分析が要求されると対応できない。平均値補正法は最適化法よりやや劣るとはいえ十分かつ許容できる妥当性と精度を有している。
  • 菅原 民枝, 大日 康史, 本田 靖, 大久保 一郎
    2005 年 14 巻 4 号 p. 4_127-4_144
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
    (研究目的)
     本研究は禁煙支援プログラムについて,禁煙希望者がどのようなプログラムを選択するのかについての需要分析をする。
    (研究方法)
     2004年2月にWEBを利用し,4つの禁煙プログラムのコンジョイント分析と,回答者の属性,喫煙歴,禁煙歴について調査した。調査対象は8,000名に調査票を送付した。禁煙プログラムは,(1) 保健所(禁煙教室による集団指導)(2) 医療機関(禁煙外来での医師による禁煙指導およびニコチンパッチの処方)(3) 薬局(大衆薬として購入できるニコチンガム)(4) 薬局(大衆薬として購入できる場合としたニコチンパッチ)とした。軸は場所(プログラム),時間帯,片道時間,費用とした。コンジョイント分析は軸が直交するように配置し,また5パターン用意し無作為に割り付けた。推定はプログラム毎に行いコンジョイント分析では標準的な手法である回答者の固有効果を考慮したrandom effect probitを用いた。
    (結果・考察)
     回収は3,166名,そのうち喫煙者は907人(28.6%)であった。推定結果から,すべてのプログラムで費用が下がるほど禁煙プログラムの選択確率は有意に増加した。また,保健所,医療機関ともに片道時間が短くなるほど,選択確率は有意に増加する。保健所において,時間帯は休日のみが正で有意な結果となり,休日に開催すると,選択確率は有意に増加する。医療機関での時間帯は有意でない。
研究ノート
  • 薬価算定時の利用における現状と課題
    池田 俊也, 小野塚 修二
    2005 年 14 巻 4 号 p. 4_145-4_158
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     平成4年より,製薬企業は厚生労働省に対し新薬の薬価申請時に参考として「医療経済学的評価資料」(以下,資料と略)を提出することが認められている。本研究では,薬価算定時における資料の提出状況,そして資料の内容や分析実施上の課題について明らかにすべく,平成12年12月15日~平成14年12月6日に薬価収載された新医薬品の承認申請を行った企業を対象にアンケート調査を実施した。調査票を発送した全ての企業から回答を得た。資料が提出されたものは全成分である82成分のうち,19成分(23%)であった。算定方式別にみると,類似薬効比較方式で算定された成分では18%,原価計算方式で算定された成分では40%であり,原価計算方式で算定された成分の方が資料の提出率が有意に高かった。類似薬効比較方式で算定された成分について資料提出の有無と加算の状況をみると,資料を提出した成分で加算を受けたものは27%,資料を提出しなかった成分で加算を受けたものは33%と,加算を受けた率に有意差は認められなかった。薬価交渉への影響として「プラスに作用した」との回答は1成分に留まった。質が高く信憑性のある薬剤経済学研究が実施され,薬価算定等の政策立案に有効に活用するためには,研究ガイドラインの作成や薬価算定の際の利用ルールの確立などの基盤整備が必要と考えられた。
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