医療と社会
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14 巻 , 1 号
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特集論文
  • 山口 ひろみ
    2004 年 14 巻 1 号 p. 1_1-1_15
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     1990年代の半ばにすでに高齢化社会から高齢社会に到達した先進各国では,高齢者介護は,単に福祉の領域だけに限られた問題ではなく,国民的な課題として社会的,経済的に深刻な問題になった。わが国でも,この問題を解決するべく,2000年4月1日から「介護保険制度」が施行されたが,その設立にいたる過程(1990年代)から,「介護」をめぐって,さまざまな研究がなされるようになってきた。本論文では,わが国における「介護」を「高齢者ケア」と定義し,これに関して,経済学の手法を用いて分析を行った論文を調査した。その結果,「介護」については,大きく分けて3つの問題意識があることがわかった。その問題意識を基に,「高齢者ケア」に関する論文を「財の性質」,「需要側」,「供給側」の研究に分類した。しかしながら,現在においては,「高齢者ケア」分野の研究は,まだ経済学的に分析したものは少なく,多くの研究が実態調査の形式を用いている。今後は,介護保険発足後,蓄積されている多くのデータを用いた経済学的分析が期待される。
  • 真野 俊樹
    2004 年 14 巻 1 号 p. 1_17-1_24
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     情報の非対称性が存在する市場では,サービスやモノなど財の提供者と需要者の立場が対等でないために,エージェンシー問題が発生する可能性がある。
     2000年4月に,介護保険が施行され,準市場の中でのサービス提供が始まった。介護サービス市場では医療サービス市場に比べれば情報の非対称性は少ないので,医療サービスに比すれば介護サービスの場合には,エージェントの必要性が低く,エージェンシー問題がおきにくい。また,現実的に考えても単独のエージェント候補は医療サービス市場と比べた場合,ケアマネジャー,保険者,医師どれも,どれかひとつを選ぶほどの卓越した適切性に乏しい。一方,財の性質上の複雑さが少ないために,情報の非対称性は一般的には少ないといえるのであるが,介護サービス受給者には高齢者が多く,痴呆等の存在のために自らの判断を下しにくいサービス需要者も多い。
     したがって,介護サービス市場においては,あるときには,ケアマネジャーもエージェント,あるときには訪問介護ステーションといった介護サービス提供機関がエージェントとなる,いわばマルチエージェントといった関係も候補として考えられる。
  • 河口 洋行
    2004 年 14 巻 1 号 p. 1_25-1_36
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     公的介護保険の導入後,医療機関経営において介護サービスをどのような形で供給するかは大きな経営課題となっている。多くの場合には,地域の医療介護ニーズに応じて徐々に拡充を行うという形をとっている。しかし,医療機関としてどのような形態が望ましく,その形態が医療機関経営にどのような影響を及ぼすのかについては,実証的な研究があまり行われていない。
     本稿は,医療機関が行っている介護サービスの提供形態を統計学的に明らかにすることを目的とし,平成14年11月実施のアンケート調査によって得られた約1,000民間病院のデータを分析したものである。併せて,医療機関による介護サービス提供形態の違いと医療機関の財務状況に何らかの関係が存在しているかを検証した。
     当該分析によって得られた結果は以下の2点である。第一に医療機関は介護サービス提供のために様々な形態を採り得るが,この形態をクラスター分析によって5つにグループ化するとその特徴が明らかになった。
     第二に,介護サービスの供給形態と,医療機関の財務状況の間に一部関係が見られることが確認された。これにより,病床規模にもよるが,介護サービスの供給形態が収益性に影響を及ぼしていることが示唆された。
  • 松原 由美
    2004 年 14 巻 1 号 p. 1_37-1_49
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     介護分野において従来の施設か在宅かの二者択一に代わる,第三の介護サービス提供拠点が注目を集めている。本研究では,第三のサービス拠点の一つであるケア付住宅を事例として取り上げ,アンケート調査などを通じて介護問題について考察した。
     ケア付住宅入居者の家族に対するアンケートから,(1)24時間365日安心して暮らせること,(2)生活の継続性が確保され,在宅の雰囲気が味わえること,(3)家族が介護から解放されることが,家族の要望であると解された。これら(1),(2)については家族,入居者本人ともに要望に乖離はないと思われるが,(3)の家族介護の解放については,両者の願いは一致していなかった。
     どのような産業においても,消費者の視点は重視されているが,これは介護分野においても同様と言える。ただし介護分野の特徴は,消費者が要介護者とその家族の2人いることである。この2人の消費者の要望は,在宅介護に関して相容れにくいものであり,その調整は困難と考えられる。
    上記の課題を残しながらも,当該ケア付住宅は,24時間365日,最後まで面倒を看てもらえるという施設のメリットと,小規模(9人以下)で原則在宅に近い状態で個人の自由なペースで生活が出来るという在宅のメリットを併せ持ち,新しい介護のサービス・場所を提供している。更に,社会資源的にみても従来型の施設よりは資金効率や資源の有効活用の点でメリットがあり,当該サービスに対する何らかの公的支援や利用者負担の格差是正が求められる。
     豊かな高齢社会を築くためにも,今後は詳細な消費者ニーズの実証的分析が必要であり,それに合わせた介護サービスの開発が求められる。
  • 田城 孝雄, 片山 壽, 丸井 英二, 田中 滋
    2004 年 14 巻 1 号 p. 1_51-1_62
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本稿では,介護分野でもっとも先進的な実践を行ってきた広島県尾道市の取り組み(いわゆる「尾道方式」)についての客観的記述を試みた。
     「尾道方式」の特徴の一つは,関係者が「できる限りすべての要介護高齢者ケースに対しケアカンファレンスを開催する」という共通認識を持っている点であった。共通認識をもつ理由は,「ケアカンファレンスは高齢者ケア(医療を含む)に必要」との理解が行き渡っていたからである。尾道方式のもう一つの特徴として,在宅主治医が(必要なら入院中の病院主治医も)ケアカンファレンスに参加する率の高さを指摘できる。本来,主治医はケアマネジャーに患者に関する情報提供などで協力するだけではなく,ケアカンファレンスに参加することが求められるはずであるが,全国的にはそうなってはいない。尾道では主治医の出席を促すため,主治医が参加しやすいケアカンファレンスの開催形態が工夫されていた。
     ケアカンファレンスに対する共通認識を作り上げる過程では,そのための研修会が繰り返し実施され,医師をはじめ多職種の参加が図られた。研修会に多職種が参加するための仕掛けは以下の通りであった。もともと尾道では1992年設置の救急蘇生委員会の頃から,地域の高齢化率が近い将来に25%に達することに対する問題意識・危機感が存在していた。そうした問題意識を関係者間で共有するために,およそ10年間で60回に及ぶ高齢者医療福祉問題講演会など勉強会・講演会・セミナーが開催されてきた。こうした努力の積み重ねを経て,上記のケアカンファレンス研修会にも多くの参加者を得ることができたと考えられる。
     ケアマネジャーの育成とケアマネジメントの研修会は,尾道市医師会ケアマネジメント・センターが中心となり,尾道市医師会本体,同医師会立高齢者介護4施設,行政,他職種との委員会や協議会がシステムとして支えていた。その結果,ケアカンファレンス実施率が90%を超えるという,他の地域には見られない高率を実現するに至った。
     さらに尾道方式は,日本の介護の新しい展開の方向として期待されている地域包括ケア(「新・地域ケア」)へと進化しつつあった。
  • 野口 一重, 葛谷 潔昭
    2004 年 14 巻 1 号 p. 1_63-1_95
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     介護老人福祉施設の中間管理職・者の業務と役割について検討するために,(1)中規模で標準的とされる施設において参与観察調査をケーススタディとして行い,(2)その結果を参考に作成した調査票を用いて,愛知県内の施設に対してアンケート調査を行った。その結果,132箇所中43箇所から回答があり,概ね以下の結果を得た。
     ・中間管理者に対する評価や指標の必要性を感じていた(約9割)。
     ・申し送りと個別の状況の記録化については実施率が高かった。
     ・記録の蓄積(記録化)と分析については相対的に低かった。
     ・中長期的なケア計画の策定や,組織レベルでの目標の設定,共有は相対的に低かった。
    この結果などから,中間管理職の役割の明確化を進めるとともに,活動の記録・蓄積方法や評価方法,それを基にしたモチベーション管理の手法に関わる検討が早急に行われることが新たな次元の経営のためには重要であると考えられた。
  • 斎藤 実
    2004 年 14 巻 1 号 p. 1_97-1_108
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     介護サービスは一般の物財とは異なるサービス財としての特性を持つ。したがってサービスマネジメント論,サービスマーケティング論の研究領域として扱うことができるのは至極当然である。一方で介護サービス提供体制は,介護保険制度の成立から間もないことからも医療サービスに比べてサービスマネジメントによる分析や考察事例が少ない。本論文においてはサービスマネジメント理論を用いた介護サービスの分析を試みるとともに,実際に介護サービス提供施設を経営する現場責任者からのアンケート調査をもとに,介護サービスにおいてサービスマネジメント理論,サービスマーケティング理論がどのように機能する可能性があるか,その有効性について模索したものである。
研究論文
  • 両角 良子, 井伊 雅子
    2004 年 14 巻 1 号 p. 1_109-1_124
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本稿は,職場の喫煙規制の導入が,個人の喫煙・非喫煙の選択と喫煙本数に与える影響を推定することを目的とする。データは,2001年5月に京浜地区(埼玉・千葉・東京・神奈川)と京阪神地区(滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山)を対象に実施した郵送形式の独自の世帯調査である。
     分析では,喫煙規制の導入状況別の喫煙行動の比較と,導入前後の喫煙行動の比較を行っている。導入状況別の比較では,就業者すべてを対象とする2パート・モデルより,職場が完全禁煙である場合に,喫煙者となる確率が10.0%ポイント減少し,喫煙者の一日あたりの喫煙本数が約4本減少する結果を得ている。
     また,導入前後の比較では,対象を入職時点に喫煙者でありかつ職場に喫煙規制のない標本に限定し,現在時点までに喫煙規制が導入される際の影響を推定している。プロビット・モデルより,喫煙者から非喫煙者になる確率は,完全禁煙が導入される場合に約15%ポイントから約25%ポイント,空間分煙が導入される場合に10%ポイント弱,それぞれ上昇する。喫煙本数については,「差の差分」(difference-in-differences: DID)より,完全禁煙又は空間分煙が導入される場合に,喫煙を続ける者とやめる者で合わせて,約2本から約4本減少することが観察されている。
  • 鈴木 勉
    2004 年 14 巻 1 号 p. 1_125-1_142
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     わが国は高齢化の急速な進展に直面しており,安心して健康に暮らせる社会づくりが求められているが,救急医療体制の整備については,残念ながら現在の整備水準は先進国の中で決して高いとは言えない。高齢化に伴い,在宅高齢者の急病のための救急車出場件数はさらに増えることが予想されるため,都市生活のリスク管理上,救急医療水準の高度化は重要な課題である。
     本研究は,救急患者の救命率の向上を目指して,救急車両と医療施設の配置及び救急車の運用方法をモデル化し,救急関連施設の適正配置方策と搬送時間の短縮効果を明らかにすることを目的とする。研究の結果として,以下の結論を得た。
    (1)わが国における救急出場件数および搬送人員ともに増加してきており,毎年の伸びはますます顕著になっている。今後の急速な高齢化の進展に伴い,救急業務に対する需要は今後ますます増加するものと推測される。搬送時間の短い救急医療を実現することは,プレホスピタル・ケアの充実とともに,安心できる社会づくりにとって重要な事項であり,ドクターカーシステム等の採用と連動した救急車両と救急病院の配置計画の合理化が有効な方策となり得る。
    (2)救急車両や病院の適正配置は,救急搬送システムにおけるドクターカー導入の効果を高めることができることが明らかとなった。理論的検討から,病院数の多い地域ではランデブー方式が有利になることが多く,病院数の少ない地域ではドッキング方式が有利になることが想定された。また,救急車両と病院の最適配置問題を数理計画問題として定式化し,それを解くことにより,特にランデブー方式は通常方式に比べて,救急車両と病院を組合せて配置することによって搬送距離の大幅な短縮を図ることが可能となることがわかった。また,救急病院の数が限られる地域では,病院数の多い地域に比べて,ドッキング方式も同程度に優位になることが明らかとなった。ドクターカーシステムの採用によって搬送距離のおよそ2~3割の短縮が可能である。
研究ノート
  • 山田 聖子
    2004 年 14 巻 1 号 p. 1_143-1_157
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     HIV,性感染症,SARS,マラリア等に代表される感染症は,感染症状の特性のみならず,公開される情報や,人々の思惑・行動に依存して拡大の様相が異なる。医療情報の場合,専門性が高く抽象的な言葉で病気の特性が説明されることも多いため,人々の理解の仕方に差がある場合が多い。加えて感染症の場合,差別やスティグマの問題が深刻なため,単に感染力が強いという理由でその感染症が拡大するとは限らない。感染力が強力であることが広く宣伝される結果,人々の予防行動を促し,疑わしい場合には積極的に検査に行く可能性があるからである。本稿では,人々の持つ情報の構造と,感染症の特性,差別,人々の検査の受診行動がどのように関係があるかを分析する。特に,陽性患者がminorityとなることを嫌う場合,政策が人々の検査受診行動に与える影響を分析する。また,人々が感染症の知識を十分もっているのかそうでないかの違いに注目し,人々の持つ知識と政策の効果の違いを分析する。
     結論として主に次の3点が得られる。第1に,検査を受けない陽性患者を減らすことが目的の場合,人々が疾病について十分共通の知識を持つならば,有病率がそれほど高くない感染症に対する政策は,大きな変革でないかぎり効果が全く得られない可能性がある。逆に,人々が共通の知識を持たないならば,小さな投入であっても常に何らかの効果が得られる可能性がある。第2に,検査を受けない陽性患者の数は,有病率が極端に高くなく,かつ,極端に弱くない疾病で大きくなる可能性がある。第3に,人々の持つ情報の精度は,全人口に占める,検査を受けない陽性患者の割合に影響を与える可能性がある。
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