医療と社会
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14 巻 , 3 号
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  • 泉田 信行
    2004 年 14 巻 3 号 p. 3_1-3_20
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本稿はこれまで行われてきた医療需要関数の推定について医療機関受診選択と受診形態の選択を分離して検討することにより,医療費自己負担引き上げの効果が与える効果をより広範に捕捉しようとするものである。
     健康保険組合のレセプトデータをエピソード単位に集計し,継続的に受診している患者ではなく,1997年9月の自己負担引き上げにより新規に医療機関を受診する患者の受診確率,ならびに患者の受診選択(外来・外来経由の入院・直接入院)がどのように変化したかを実証的に検討した。
     分析の結果,自己負担引き上げは医療機関受診の意思決定に対しては新規の受診確率を引き下げる影響を与えていたが,受診形態の選択については有意な効果を与えていないことが明らかになった。これは制度改定によって医療機関自体には受診する確率は小さくなるが,一旦受診した患者が外来よりも「外来経由の入院」や「直接入院」を統計的に有意に選択する可能性がないことを示した。この結果は制度改定により,「医療機関受診を諦めた結果,入院が必要となるほど重症になってから医療機関受診する」という可能性が統計的には存在するとは言えないことを意味している。 被扶養者をベースラインにしたdifference in difference法による分析と被保険者だけをサンプルにして改定ダミー変数によって制度改正の効果を測定する分析を比較したところ,分析対象期間が短期の場合には異なる結果を与えるが,分析対象期間が長くなるにつれて似た結果が与えられる傾向が見られた。
  • 山田 武
    2004 年 14 巻 3 号 p. 3_21-3_34
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本論文の目的は健康の不確実性が消費者の受診行動に与える影響について分析することにある。消費者は自分自身が病気なのかどうかを正確に判断することはできない。この意味で,消費者は健康の不確実性に直面することになる。Dardanoni and Wagstaff (1990) の仮定を若干修正した理論モデルの示すとおり,期待健康資本が上昇すると医療需要は減少し,健康の不確実性の度合いが増加すると医療需要は増加する。実証分析で使用したデータは1997年9月から1999年8月までの2年間分の約54万人の健康保険組合の加入者(被保険者男女と配偶者女性)の支払い情報データである。健康資本そのものを観察することはできないが,健康資本のフローである健康日数(1年で評価すると365日-外来日数-入院日数)は観察可能である。そこで,不確実性の指標として健康の期待値の代理変数として前年の月当たりの平均健康日数,健康の不確実性の度合いを示す代理変数として月当たりの健康日数の標準偏差を採用した。被説明変数はエピソード件数,説明変数は平均健康日数,健康日数の標準偏差などで,推定方法はNegative Binomialモデルを採用した。平均健康日数の推定値は負,健康日数の標準偏差の推定値は正でどちらも統計的に有意であった。このことは,消費者が治療を開始するかどうかの選択にあたっては,健康の不確実性が影響することを示しており,理論モデルと一致する。
  • 増原 宏明
    2004 年 14 巻 3 号 p. 3_35-3_50
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本稿は,医療需要分析で用いられるcount dataモデルにおける,単一の主体が受診を決定するという1段階の意思決定仮説と,受診するか否かという決定と,その後の受診の決定が独立した2段階の意思決定仮説に焦点をあて,従来の分析ではfinite mixtureモデルで前者しか議論されてこなかったものを,後者の仮説に基づくものや,2つの仮説が混在するモデルを提示する。そして確定的アニーリングEMアルゴリズムを用いてこれを推定し,比較を行った。主要な結論は以下のとおりである。(1)適合度検定の結果からは,2つの仮説が混在するfinite mixtureモデルと,1段階の意思決定仮説のものが同等なパフォーマンスを示した。(2)2つの仮説が混在するfinite mixtureモデルと,1段階の意思決定仮説に基づくモデルの,1つの要素密度の推定結果は同じ傾向を示した。(3)要素密度の分布をみる限り,FM-NB1とFM-HNB1-NB1モデルは似た構造をもっている。これらの結果から,1段階の意思決定仮説のfinite mixtureモデルは必ずしも最善の選択でなく,本稿で提示した2段階の意思決定も考慮して推定を行い,受診行動の特定化を行う必要がある。
  • 知野 哲朗
    2004 年 14 巻 3 号 p. 3_51-3_68
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は,わが国の非営利性制約と診療報酬規制の制度的仕組みの検討を通じて,公私医療機関の併存システムに伴う資源配分上の問題を考察することである。まず,現行の非営利性制約は私的医療機関の剰余金獲得に関する動機に対して中立的ではないことから,公私医療機関間における経済的誘因の相違を生み出す。また診療報酬規制では,現行の出来高払い方式が診療報酬体系に一定の歪みをもたらすと同時に,医療サービスの投入物選択行動を通じて剰余金獲得の機会を提供する。この結果,公私医療機関の併存システムのもとでは「公私」というproperty rightsの特性を反映した開設者別特徴が見いだされる。これはまた,開設者間における競争が抑制されていることを示唆する。
  • 中山 徳良
    2004 年 14 巻 3 号 p. 3_69-3_79
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     わが国の自治体病院の経営状況を見ると,非効率性の発生が予測される。そのため本稿では,まず自治体病院の技術効率性を包絡分析法(DEA)によって計測した。計測には,規模に関して収穫一定(CRS)モデル,投入指向型規模に関して収穫可変(VRS)モデル,産出指向型規模に関して収穫可変モデルの3つのDEAのモデルを用いた。技術効率性の平均値はCRSモデルの場合には86%,VRSモデルの場合には投入指向モデルでは90%,産出指向モデルでは88%であった。
     次に技術効率性についてトービット・モデルにより分析した。この際には,技術効率性と補助金との間の関係に特に注目した。分析結果によれば,補助金の割合が多くなればなるほど非効率であることが示された。その他の要因としては,患者100人当たり検査件数の対数値,病院の立地条件,救急病院の告示の有無,看護の基準,平均在院日数の対数値を考えた。病院の立地,看護の基準の係数は有意であり,病院の立地が不採算地区にある場合,看護の基準が手厚くなればなるほど非効率的であることが示された。
  • 山本 克也
    2004 年 14 巻 3 号 p. 3_81-3_96
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本稿では「医療施設調査」の個票データを利用し,病院の倒産確率の測定を行なった。「医療施設調査」は非財務データであるが収支の代理変数を抽出しプロビット分析を施して,病院の倒産事由の代表である放漫経営と販売不振を検討した。収入項目である病床に関しては,現在のところ,慢性期患者向けの病床を保有することは固定収入の確保につながり,倒産確率は下がる。一方,外来患者については倒産確率を引き下げる効果を持たない。入院の赤字を外来で埋める式の経営は成立しないので病床管理は重要である。一方,診療機器については,その需要予測はもちろん,普及期をすぎれば診療報酬は下がるということも勘案して導入しなくてはならない。販売不振については,医療需要の飽和ということも考えられるが,患者のニーズと病院の設備事態,有り様がミスマッチになっている可能性もある。すべての病院(医師)が最新の医療,高度医療を行なう必要がないことを病院経営者は銘記すべきであろう。
  • 尾形 裕也
    2004 年 14 巻 3 号 p. 3_97-3_110
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     「医療経営学」は,医療サービスの需要・供給をめぐる基本的なステーク・ホルダーのマネジメントの問題を取り扱う学問分野である。医療費がGDPの8%近くに達し,その効率的・効果的な使用が強く求められている中で,こうした分野に対する社会的なニーズはきわめて大きい。しかしながら,これまでのところ,この分野における体系的かつ標準的なテキストはあまり見当たらないのが現状である。本稿においては,こうした状況を踏まえ,「医療経営学」の分析対象と方法,標準的なテキストが盛り込むべき基本的な内容等について検討している。まず,「医療経営学」の分析対象としては,医療機関及び保険者がプライオリティの高い対象であることが示される。また,分析方法としては,オーソドックスな経営学(経済学)を基本とした分析が中心となるが,あくまでも現実の日本の医療の実態や制度的前提等を十分踏まえた立論となるよう留意する必要がある。さらに,標準的なテキスト構成案が検討されている。そこでは,「組織論」と「戦略論」という経営学の基本的な構成要素を踏まえた全体の構成案が提案されている。また,これに加えて,練習問題,事例研究等を中心とした「演習」の基本的構想が検討されている。全体として,本稿は,あくまで1つの「試論」にすぎず,種々の偏向を含んでいることは避けがたい。今後,さまざまなテキスト編纂の動きが現実のものとなり,この問題に関する活発な議論が起こることが期待される。
  • 中泉 真樹
    2004 年 14 巻 3 号 p. 3_111-3_125
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本稿では,医師と患者のあいだに情報の非対称性が存在するとき,医師をより効率的な医療技術の選択へと動機付ける問題を包摂した,最適保険の制度設計について考察を試みる。複数の医療技術が選択可能であると想定し,医師は効用を最大にするように患者に対して治療の推奨を行うとする。また医師の効用は治療による利潤マージンと患者の治療後の健康水準に依存するとしよう。さらに被保険者の重篤度は観察できないとし,したがって保険契約は重篤度に応じた保険給付を指定できないとする。
     分析結果は以下のようになる。第一に,患者の最適自己負担率は,危険回避度が高ければ,医療技術の高度化あるいは高額化とともに逓減する傾向を示す。第二に,最適な診療報酬価格は,医療技術ごとにきめ細かく指定され,より高額な医療技術を選択しようとする医師固有の誘因を抑制するように工夫される。その価格体系は非線形であり,現行の出来高払い制度とは異なる。分析結果の政策的含意のひとつは,たとえ情報の非対称性や医師独自の行動誘因があるにせよ,適切な診療報酬価格体系の実施をともなうかぎり,保険によるリスク分散を十全に機能させうることが明らかにされたことである。この点に照らせば,現行でのいわゆる「混合診療」の禁止は非効率的であると考えられる。医療制度改革にとって喫緊の課題のひとつは適正な報酬価格体系をいかに設定するかである。
  • 林 行成
    2004 年 14 巻 3 号 p. 3_127-3_138
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本稿では,個人間での疾病リスクの多様性を考慮したモデルを構築し,効率性および公平性の観点から混合診療の禁止と特定療養費制度で適用される差額徴収ルールとの制度比較分析を行う。本稿で得られる主要な結論は以下の通りである。第1に,混合診療の禁止は,相対的に高リスクの個人の受診量を抑制させる効果を持ち,国民皆保険の制度的理念である個人間での平等性とは相反する効果を有する可能性がある。第2に,平均的所得水準が高まるほど,相対的に高リスクの個人が多くなるほど,さらには,相対的に高リスクの個人の疾病確率が高くなるほど,差額徴収ルール(特定療養費制度)の適用は社会厚生を改善させる傾向を持つ。第3に,診療報酬が十分に医療費用を補填していないとき,保険外診療における医療機関の価格決定力を考慮するならば,特定療養費制度における社会厚生の改善効果は小さくなる可能性がある。このことから,適切な診療報酬体系の設計は,特定療養費制度の弾力的運用にとって極めて重要であることが示唆される。
  • 細谷 圭
    2004 年 14 巻 3 号 p. 3_139-3_146
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本稿では,健康資本の蓄積を考慮した内生的成長モデルに依拠して,マクロ経済の収束問題を理論的に分析する。モデルから導出された収束係数について数値シミュレーションを行うことにより,その収束特性に関して2つの理論的可能性が示唆される。はじめに,標準的なパラメータセットの下で,ここで提示する2部門成長モデルは一般的な内生的成長モデルの収束特性を再現することになる。すなわち,相対的にハイテンポな収束過程が実現する。一方で,第2部門としての健康資本生産部門において,追加的な健康資本生産に対して資本深化外部性の影響が相対的に軽少で,かつ公的医療支出をファイナンスする所得税率が現実的に妥当な水準にあるケースで,ゆっくりとした収束過程が現れる。そうした相対的に緩慢な収束過程は,経済成長とβ-収束性に関する標準的な実証分析の結果と整合的である。
  • 小椋 正立
    2004 年 14 巻 3 号 p. 3_147-3_173
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     将来の医療費は,全般的な健康状態と現在の医療費によって予測できると仮定したモデルを用いて,健康診断の各検査の数値が予測にどれくらい有効かを検定した。健康状態の指標として,健診の各検査値のほか,今期の傷病名から外生性が認められたものを用いた。分析に使用したのは,1996年度から始まる数年間にわたる2つの健康保険組合の約2万人のデータセットである。1年先の医療費については,BMI,総コレステロール,最高血圧は,平均からの乖離は,プラス,マイナスどちらの方向でも,医療費の増加要因となる。これに対して,平均以上の血糖,クレアチニン,尿酸,ALP,赤血球は医療費を引き上げるが,ZTT,γGTP,GOTが平均以下であれば医療費は下がる。1年先の医療費については,クレアチニンの上方への乖離が最大の増加要因であるが,この結果は5年先までの医療費について持続する。このほかにも血糖と尿酸は同じような性向を示す。これに対して,血圧については,最高血圧は,上方,下方への乖離どちらも医療費の増加要因になる関係が,最低血圧については,下方への乖離が医療費の減少要因となる関係が,それぞれ安定的に観察される。
  • 鈴木 亘
    2004 年 14 巻 3 号 p. 3_175-3_189
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     わが国の終末期医療費は,老人医療費の20%にも上ると推計されているが,本稿は,終末期医療のあり方を考える上で極めて重要な患者の自己選択について考察した。具体的には,筆者等が持病を持つ高齢者に対して独自に行ったアンケート調査を元に,リビングウィル(生前遺言状,終末期の宣言書)の作成意思に影響する要因を探った。その結果,医療費の自己負担額については,影響しないか,影響したとしてもその弾力性は極めて低いことがわかった。一方,Conjoint Analysisを用いた分析の結果,(1)リビングウィルの実行性が確保される場合には6.0%ポイント,(2)緩和ケア病棟やホスピスが確保される環境では11.2%ポイント,(3)終末期認定の厳密化が行われる環境では3.2%ポイント,(4)告知と病状説明が十分行われる環境では9.1%ポイント,それぞれリビングウィルの作成確率が高まることがわかった。したがって,終末期医療の自己負担率を高めるといった経済インセンティブよりも,その他の法律・環境面の整備の方が,遙かに患者の自己選択を進める上で重要であることがわかった。
  • 南部 鶴彦, 菅原 琢磨
    2004 年 14 巻 3 号 p. 3_191-3_211
    発行日: 2004年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本稿では,介護保険制度下においてサービス利用者に課される自己負担率が,介護サービス需要に与える影響を検討した。また介護サービス需要に影響を及ぼすその他の要因について同時に検討した。サービス価格たる自己負担率の変化により,サービス需要がどの程度変化するかを示す「価格弾力性」の計測は,介護報酬や自己負担率改定の政策効果を図る上で重要な情報である。本稿での分析の対象は介護保険サービス中,最も基本的かつ重要なものと考えられる訪問介護サービスとした。また介護サービス需要関数の推定にあたっては,予算制約下における要介護高齢者の効用最大化の理論モデルを基本に自己負担の効果を検討した。実証分析では,東京都稲城市の全面協力のもと2000年4月-2002年5月までの介護給付管理レセプトデータを用いて実際の利用状況を反映したデータセットを構築した。これらのデータセットには,低所得者に対する減免措置として自己負担を軽減されているサンプルが含まれており,この差を利用して価格弾力性を推定した。
     介護サービス利用回数を被説明変数とする推定モデルでは,訪問介護サービスの自己負担率に関する需要の価格弾力性は約0.3であった。しかしこの値は推定上,所得水準の効果を含むため,過少推定となっている可能性があることに留意する必要がある。また所得段階の差が利用回数に影響を及ぼしているとの現象は統計的に確認できなかったが,事業者の差によっては利用回数に有意差が生じていることが示された。
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