医療と社会
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15 巻, 1 号
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特集論文
  • 浅川 和宏, 中村 洋
    2005 年 15 巻 1 号 p. 1_3-1_15
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本論文では日本の医薬品・バイオ産業分野におけるイノベーション・システムの共進的変革プロセスをマクロ・ミクロ両レベルで検討している。これまでは国家のイノベーション政策などに焦点を当てたマクロレベルの分析,あるいは個別企業のR&D戦略を中心としたミクロレベルの分析が主流であったが,本論文では,両レベルにおける変革の相互作用こそがシステム変革の鍵であると論じている。日本の医薬品・バイオ産業分野におけるイノベーション・システム変革の動向をマクロ・ミクロ各レベルで概観し,それらがマクロ・ミクロ相互にどう影響を及ぼすか,いかなるプロセスを踏んでそうした変革が行なわれるのか,という点を,トランスレーショナル・リサーチ,治験,薬価制度,リサーチツールを例に検討している。また,政策立案に関するインプリケーションも導出している。
  • 医薬品開発の現状と課題
    竹内 正弘
    2005 年 15 巻 1 号 p. 1_17-1_24
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     1990年代初頭より開始された,日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)の主な目的は,日米EUの三極間で新医薬品に対する承認審査資料関連規制の整合性を図り,不必要な臨床試験の反復を回避し,優れた医薬品をより早く患者の元に供給することである。1998年には,E5ガイドライン,所謂,「外国臨床データ受け入れの際に考慮すべき人種・民族的要因について」の指針が発令された。このE5ガイドラインにより,すでに海外で有効性,安全性が示唆されている臨床試験データは,新地域で同様な臨床試験を繰り返す必要がなく,海外臨床試験データを外挿することにより,新薬承認申請が可能となった。同時期に,新GCPガイドラインも発令され,新地域に外挿しようとする海外臨床試験データの質の保証が義務づけられた。海外臨床試験データの質を保証し,有効性・安全性を示すことによって,新地域に外挿できる可能性の法則を応用することによって,現在では,「よりよい薬をより早く患者の元へ」をモットーに新薬の国際同時開発が始まってきている。この新薬開発の国際的動向は,日本の臨床試験実施の現状(海外データの外挿可能性,実施費用の高騰,実施スピードの延滞)を考慮すると,今後益々拍車がかかると考えられる。日本国内での新薬開発の現状を考察し,ブリッジング試験・国際共同臨床試験への参加の課題を考察する。
  • 山田 武
    2005 年 15 巻 1 号 p. 1_25-1_41
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     この論文の目的は,研究開発費の観点から効率的な研究開発について検討することにある。個別のプロジェクトレベルでみると新薬の研究開発には大きなリスクと長い時間,そして巨額の支出が必要になることが知られている。本論文では,中止した研究開発プロジェクトや資本コストを含む1製品を上市するために必要な研究開発の機会費用に関する日本と欧米の比較などを手がかりにして,効率的な研究開発について検討した。臨床試験の機会費用のうちおよそ4分の3は利子や途中で中止したプロジェクトの費用が占める。したがって,期間の削減,リスクの削減,金銭的な費用の削減が機会費用の抑制につながる。一方,日本の製薬企業は社内での基礎研究を重視し,研究開発の早い段階でのバイオベンチャーや大学からの導入は一般的ではなかった。また,日本国内のバイオベンチャー企業が多くないため,社内の研究開発部門が外部との競争にさらされていない可能性がある。今後は,社内の研究開発部門の活性化のためにも国内のバイオベンチャー企業の育成が重要である。
  • 島谷 克義, 須藤 隆夫
    2005 年 15 巻 1 号 p. 1_43-1_51
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     日本の医薬品承認品目数は欧米と比較した場合その数は非常に少ない。国内での開発が急がれる状況である。しかしながら日本の臨床開発は様々な要因で「治験の空洞化」と呼ばれる現象が生じ,治験実施件数は減少してきた。一方でアジアの国々の中には積極的に国際共同開発へ参加することで力をつけ医薬品開発において急速な発展を遂げている国が現われてきている。医薬品開発のグローバル化も進むなかで日本だけが取り残されかねない状況である。
    開発環境を改善するため行政が打ち出した「全国治験活性化3ヵ年計画」のもと「大規模治験ネットワーク化の推進」などに取り組み,「抗がん剤併用療法に関する検討会」,「未承認薬使用問題検討会」,「治験のあり方に関する検討会」等の検討会が設立され議論がなされている。日本の医薬品産業が国際競争のなかで生き残っていくにはまずは欧米並みにインフラストラクチャーを整備し医薬品開発のグローバル化に対応していかなければならない。今こそ積極的に改善に向けて取り組んでいくべきである。ひいてはそれが日本国民に対して欧米に遅れることなく最新の医療を提供することにつながる。
    このような規制側,企業側,医療関係者,国民が一体となった取り組みにより近い将来日本の医薬品産業が国際競争力を備えるため明確な開発戦略を持ち,さらには日本国民に最新の医療を提供するために製薬企業として尽力していきたい。
  • 「神事」ではない承認審査は可能か?
    小野 俊介
    2005 年 15 巻 1 号 p. 1_53-1_66
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     新薬の承認審査は,申請された新薬の薬効評価を行い,承認又は非承認という意思決定を行うプロセスである。承認審査により,本邦での医薬品選択及び使用様態は直接・間接にコントロールされ,医療の各種アウトカムは大きな影響を受ける。これまで,承認審査制度についてはその外形的・手続き的な充実にのみ議論が集中し,組織や所属する職員が行う意思決定のあり方そのものについてはほとんど議論されていない。特に,新薬等を承認するか否かの判断を日常的に行うにもかかわらず,承認審査を通じて達成すべき社会の観点からの目的が明確に宣言されていない点は,多大な社会的費用に基づいて運営される承認審査(機関)の存在意義が問われかねない重大な点である。意思決定がad hocに行われることによる効率(例えば健康の最大化の達成)の観点からの悪影響も懸念される。さらに,薬効評価及び承認をめぐる意思決定は,不確実性下で,また,意思決定者の価値判断に基づき行われているにも関わらず,そうした構造を想定した仕組みが構築されていない。かかる状況は,目的の不在と相俟って,規制当局担当者が行った意思決定の根拠や正当性を第三者が論じることを妨げてきた。
     日本の医薬品承認審査の真の意味での透明性の確保を図るためには(そして,もし社会の大勢がそれを望んでいるのであれば),こうした構造を念頭に置きつつ,意思決定に係る情報及び価値判断を個人及び組織のレベルで公にしていく努力が必要である。
  • 共有化と私有化の最適バランスに向けて
    隅藏 康一
    2005 年 15 巻 1 号 p. 1_67-1_82
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本稿では,遺伝子関連発明の知的財産政策を考える上での典型的な問題を示す事例として,遺伝子特許を用いた遺伝子診断,ならびに研究ツール特許を用いた研究開発をとりあげる。これらを念頭に置きながら,フロントランナーに対して独占権を与えつつ成果の共有化を促進するための施策として,独占禁止法の適用,強制実施,新規立法による権利効力からの除外,ならびに新規立法による権利効力の限定について整理を行う。これらの施策は,技術の共有化と私有化のバランスを保つために活用しうるものであるが,権利の安定性の欠如,国際条約との整合性などの点で問題がある。したがって,特許権の存在や権利効力には変更を加えずに,なおかつ特許発明へのアクセスを促進することができる施策が望まれている。
     そのような施策の一つとして,ある技術分野の特許発明を一つの機関に集めて簡易に個々についてのライセンス契約を締結できるようにするための,特許流通機構の構築を検討する。一例として,研究ツールの特許を集めて学術研究に対して提供する「研究ツール・コンソーシアム」を構築すれば,学術研究における特許発明の使用が円滑に進むことが期待される。
     筆者が生命科学研究者を対象として実施したアンケート調査により,研究者の中にこのような機構へのニーズが高いことが示された。また,同アンケートより,個人が保有する特許発明については,自らの特許発明を無償で提供したら他の発明も無償で使用できるという相互主義に基づく仕組みを希望する研究者が多いことも明らかになった。本稿では,こうした結果を参照しながら,「研究ツール・コンソーシアム」の具体的態様を検討したい。
  • 日本の医薬品研究開発環境の整備のために何をなすべきか
    新保 斉
    2005 年 15 巻 1 号 p. 1_83-1_95
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本稿では,特許制度や知的財産政策の観点から,日本の医薬品研究開発環境の整備のために何をなすべきかを検討する。特許制度の概要を整理した後に,医薬開発で問題となる知的財産問題を取り上げながら,知的財産政策について提言した。知財に関する課題として,特許権の存続期間延長,リサーチツール特許と医薬発明を挙げた。リサーチツール特許の問題は,研究開発に不可欠な特許は裁定制度を設けるべく提言をした。また,医薬発明については,投与量や投与間隔といった医薬の高度な使用方法についての審査基準の改訂を踏まえて,審査基準に関する問題点を指摘した。
  • 医療保険財政の健全化と革新的医薬品促進の両立に向けて
    中村 洋
    2005 年 15 巻 1 号 p. 1_97-1_109
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     薬価制度の目的は,患者が高い経済的な負担を負うことなく良質の医薬品の提供を受けることを実現することである。その制度の改革に求められる原則として,以下の5点が挙げられる。(1) 革新的な医薬品の研究開発を促し,患者のQOL向上に寄与するとともに,新産業育成,雇用創出を促進する。(2) 革新的医薬品の薬価面での評価向上とともに,不必要な患者負担を抑制し,医療保険財政健全化を図る。(3) 公的保険制度を維持しつつ,市場メカニズムが機能する仕組みを構築し,適正な価格形成を促す。(4) EBMに基づき,医薬品の特性にあった薬価算定方式を適用する。(5) 市場実勢価格を反映し,特例・裁量を最小限にすることで,わかりやすい制度を構築する。
     これらの原則を踏まえ,重点的な具体案として,(1) 革新的医薬品に限定した上限付自由薬価制度導入,(2) 良質で安価なジェネリック医薬品が存在する先発品に対する保険支払い額の当該ジェネリック医薬品レベルまでの引き下げ,を提案する。
     また,関連する問題を薬価制度のみで解決しようとすると,特例・裁量の余地拡大で,薬価制度そのものがわかりにくくなるため,補完する他の制度改革も進めていかなければならない。また,急激な変化により医療機関,製薬企業ならびに医療保険財政に短期的な混乱を与えないため,長期的な視野で計画的・段階的に改革を進めていくことが必要である。また,よりテクニカルな問題として,医療保険財政のバランス,外国価格調整,新規ジェネリック医薬品の薬価差益,フラット・プライス制,医師主導治験と薬価,再算定のあり方についても言及する。
研究ノート
  • 経皮的冠動脈インターベンションのケース
    川渕 孝一, 杉原 茂
    2005 年 15 巻 1 号 p. 1_111-1_127
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     医療技術の進歩には目覚しいものがある。しかし,治療方法が進歩し診断精度が向上したとしても,それを現実の治療行為の場で適切に活かすことができなければ現実の医療成果の改善につながらない。こうした新技術は,臨床試験により医学的な有効性が検討されているものの,それらが実際の診療現場においてどのように医療成果の改善につながっているかについては,必ずしも明らかにされていない。そこで,本論文では,経皮的冠動脈インターベンションについて,高度医療技術が実際の治療に適応されるに当たって,病院ごとの固有の要因により現実の医療成果がどの程度左右されているかについてランダム係数モデルを使って検証した。
     ステントについては,短期的な医療成果はステントを使わない経皮的冠動脈形成術と変わらないが,長期的には再灌流療法の再施行などの重大な心血管事故の確率を低下させることが医学文献により示されている。しかし本論文の結果によれば,その効果は病院によって大きなばらつきがあり,効果的にステントを活用している病院もあれば,ステント本来の有効性を無にしてしまっている病院もあることが分かった。ロータブレーター及び血管内超音波法についても,病院固有の要因によりその有効性が左右されることが見出された。
     喫緊の課題は,最新の医療技術を導入すること自体にあるのではなく,個々の病院において,全体の治療プロセスの中で高度医療技術を医療成果の改善に結び付けるようなシステムをいかに構築するかという点であると考えられる。
  • 菅 万理, 鈴木 亘
    2005 年 15 巻 1 号 p. 1_129-1_146
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本稿では,わが国の若年世代において医療資源がどう分配されているかを,集中と持続性の視点から推定し,併せて高額医療消費の持続の要因を分析した。医療消費は特定の個人に集中するという性質を持ち,年齢階級や所得階層内でも非常に偏った分布を持つものである。残念ながらその分布に注目した研究は日本においては決して多くなく,政策代替案の議論に基礎的資料を与えるに至っていない。府川(1998),小椋・鈴木(1998)は,特に老人医療費の集中や分布を分析したものであるが,そこでは一部の患者が医療資源の大半を使っている姿が明らかにされた。我々は,老人保健制度の適用を受けない健康保険組合被保険者とその扶養家族のレセプトデータを用い,記述的分析やラグ構造の計量分析により,医療費の集中と持続の実態を検証し,さらに詳しいプロファイリングによって,その現象の要因を分析した。その結果,老人医療費を扱った先行研究と同様,高分位の極めてわずかな患者が大半の医療資源を消費していること,さらに米国の同種のサンプルと比較して集中の持続性が高いこと,その持続性は中年以降に高まるということが明らかになった。医療消費の最高分位所属者は,下分位所属者と比べて医療消費の長いラグ構造を持っており,一度生じた高額医療ショックは長期にわたり持続する。また,若年世代においては,入院のみならず,慢性疾患の長期的な外来診療も高額医療消費の持続に寄与している。
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