医療と社会
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15 巻, 3 号
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研究論文
  • 大日 康史, 菅原 民枝, 池田 俊也, 庭田 聖子, 望月 眞弓
    2005 年 15 巻 3 号 p. 3_1-3_11
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本稿では1997年9月から1999年6月の薬剤費患者一部自己負担の導入あるいは廃止によって,医師の薬剤供給行動が影響を受けたか否かを検証する。この分析は,医師がその医療行為において患者の効用,特に費用面での負担を考慮に入れているか否かの分析の一つに位置づけられる。使用するデータは,1997年1月から1999年12月までの2地域の老人保健受給者国保全数のレセプトである。これには薬剤一部自己負担が実施された1997年9月から1999年6月までを含んでいる。このデータのユニークな点は,ある個人を識別した上で,同一の個人を36ヶ月間に関して追跡することができるという点である。分析対象はある患者にこの期間で少なくとも1回以上処方された薬剤に限定する。被説明変数は患者毎に月単位での薬剤の投薬の開始あるいは中止の有無,あるいは薬剤数とする。推定結果は医師は自己の所得のみを最大化するとする仮説,あるいは,純粋に医学的に正しい医療行為を行うとする双方の仮説には否定的であるが,医師は患者の自己負担を含めた患者の効用を自分の効用の源泉としているとする仮説は必ずしも否定的ではなかった。
研究ノート
  • 菅原 民枝, 大日 康史
    2005 年 15 巻 3 号 p. 3_13-3_21
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本稿では,仮想的質問によって,禁煙教室などの集団指導,禁煙外来での医師による個別の禁煙指導およびニコチンパッチの処方,大衆薬として購入できるニコチンガム,大衆薬として購入できる場合としたニコチンパッチの需要分析をもとに,費用対便益分析を行う。それに先立ち,喫煙の疾病負担を計算し,死亡が7.7万人,社会的損失が8.7兆円であることを見いだした。費用対便益分析は便益費用比で評価し,評価者は社会全体とし,期間は生涯とする。便益費用比は,政府による介入(医療保険の適用や補助)の有無や,外部性の有無によって,先行研究で推定された需要曲線を元に求める。求められた便益費用比は,保健所が0.027(95%信頼区間[0.027-0.028]),医療機関は1.44[1.31-1.66],大衆薬局(ガム)1.40[1.29-1.55],大衆薬局(パッチ)1.58[1.49-1.69]であった。二コチンパッチがOTCにスイッチされた場合がもっとも便益費用比が高い。
  • 緒方 泰子, 橋本 廸生, 福田 敬
    2005 年 15 巻 3 号 p. 3_23-3_36
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     人口の高齢化や入院期間短縮等による在宅療養者の重症化が予想される中,在宅ケアの安全性は重要かつ緊急の課題である。そこで本研究では,訪問看護ステーション(以下ステーション)のリスク管理体制,インシデント(ヒヤリ・ハット)とアクシデント(事故)の発生実態を明らかにすることを目的とした。
     全国から無作為抽出されたステーション2,000箇所を対象に,リスク管理の実態に関する自記式調査票による郵送調査を行った。アクシデントを「看護行為およびそれに付随する行為全般に起因して,人に傷害が起きた事例。」,ヒヤリ・ハットを「事故に至らなかったヒヤリとしたり,ハッとした経験を有する事例であり,人に傷害が起きなかった事例。」と定義し,両者の対象者として患者,家族,看護師を含むものとした。
     回答率は15.5%であった。71%が安全管理体制を有すると報告し,約80%でリスク管理担当者が決められていた(殆どが管理者・訪問看護師)。80%がヒヤリ・ハットやアクシデントを記録しており,2004年12月1ヶ月間に,ヒヤリ・ハットは平均0.50件,アクシデントは0.15件発生していた。
     回答率の低さは,現時点の多くのステーションにおけるリスク管理に関する見解を反映しているともとらえられる。調査結果より,人的資源や研修機会の不足,リスク管理のあり方を評価する際の基準の欠如といった課題に関する更なる研究の必要性が示された。
  • 竹原 万雄
    2005 年 15 巻 3 号 p. 3_37-3_51
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本論の課題は,近代日本の新医療導入をめぐる相克と克服の過程を明らかにし,現代の異なる国家間における新医療導入を効率的に行うための参考とすることにある。
     近代日本において新医療を導入する際に生じた問題として3点提示した。第1は,新医療への誤解や旧慣への依拠等を理由とする新医療の否定である。第2は,伝染病患者あるいは患者の近親者が,患者であることを隠すという問題である。このような行動にでてしまう理由には,病を忌避する観念により患者となることで地域社会から疎外されてしまうこと・劣悪な隔離施設に送られること・患者になると生業に影響がでること等があげられる。第3は,前近代において主流であった漢方医と新医療を用いる西洋医の対立である。
     こうした3つの問題への対策を考察した上で,現代の異なる国家間における新医療導入の際に留意すべきこととして4点提示した。第1は,地域住民との軋轢を軽減し効率的に新医療導入を実施するための現地の実態調査である。第2は,現地人が主体となって新医療導入活動に取り組むこと,第3は,現地の医師が新医療導入に果たすべき役割を全うするようになるための「教育」についてである。第4は,とくに伝染病流行時における強制的対策についての配慮である。
  • 鈴木 亘
    2005 年 15 巻 3 号 p. 3_53-3_74
    発行日: 2005年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
     本稿は,大阪城仮設一時避難所が入所時に実施しているホームレスの健康診断の検査値データ及び問診,入所時の面接表のデータを利用して,ホームレスの健康状況の実態把握を行った。検診で行われた検査値について,要精検・指導以上と判定された人数の割合は,(1) 最高血圧で26.2%(要医療判定:8.2%),(2) γ-GTPで13.3%(同3.5%),(3) 血糖値で29.5%(同17.3%),(4) トリグリセリドで28.9%(同4.6%),(5) クレアチニンで49.1%となっており,検査値が一つでも要精検・指導以上となっている者の割合は84.7%(要医療:34.5%)に及ぶが,検診時に何らかの治療を行っていた者の割合は8%にすぎなかった。
     次に,入所者の検査値を3健保組合の検診データと比較したところ,要精検・指導以上に入る確率のオッズ比が高かったのは,(1) 最高血圧6.4倍,(2) GOT12.6倍,(3) 血糖3.9倍,(4) 総たんぱく8.4倍,(5) クレアチニン9.8倍,(6) 赤血球数7.7倍,(7) ヘマトクリット5.2倍,(8) トリグリセリド2.4倍,(9) γ-GTP1.8倍などとなった。
     最後に,ホームレス検査値と生活暦の関係を調べたところ,(1) 血圧,(2) 血糖,(3) 総コレステロール,(4) BMI,(5) 総たんぱくにおいて,ホームレス期間が長ければ長いほど検査値が要精検・指導や要医療対象者となるリスクが高まることが統計的に確認された。
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