日本のレセプトデータを用いた研究では,患者自己負担の引き上げ政策に対して「政策実施後どのくらいの期間でその評価を定めるべきか」という疑問が残っている。これは,自己負担率の引き上げが受診率にどの程度の影響を与えたかを明らかにできていないことを意味する。本研究では1997年9月の被用者保険における被保険者一部負担率の変更を分析対象とし,その時系列的評価を試みる。
1993年1月から2003年3月までの政府管掌健康保険及び組合健康保険の入院外月次データを用い,医療経済変数のデータ生成過程を考慮したRecursive VARを推定し,以下の三点を見出した。(1)VARの推定結果から,実効自己負担率の上昇は被保険者の受診率を統計的に有意に引き下げる効果がある。(2)分散分解の結果,1件あたり医療費の変動を利用者価格の変動で説明できる割合が3-5ヶ月で約50%に達し,ショックから3ヶ月後の分散変動は短期的な影響を予測する上で有用である。(3)インパルス応答関数の分析から,ショックに対する反応のほとんどが出尽くすまでの期間は,利用者価格の変化に対する受診率の反応が約1年であるが,受診率の変化に対する1件あたり医療費の反応は8-10ヶ月であった。
以上より,政策実施から1年後までのデータを用いることにより患者自己負担率の引き上げに対する評価を与えることが可能であると考えられる。個票データを用いた分析ではこの点を踏まえて,標本期間の設定を慎重に行う必要があると思われる。
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