医療と社会
Online ISSN : 1883-4477
Print ISSN : 0916-9202
ISSN-L : 0916-9202
17 巻, 1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
特集論文
  • -全国イノベーション調査結果による研究-
    小田切 宏之
    2007 年 17 巻 1 号 p. 3-18
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/06/27
    ジャーナル フリー
     医薬品産業は,共同研究,研究委託,技術導入,アウトソーシングなどを含めた広義のアライアンスが活発におこなわれている産業である。本稿では,研究開発を社内でおこなうか外部能力を活用しておこなうか,どのような形態で外部能力を活用するかという「企業の境界」の問題を概説する。そのうえで,科学技術政策研究所が実施した「全国イノベーション調査」の調査結果を引用して,イノベーションのための協力や情報収集がどのようにおこなわれているかを中心に,医薬品産業の特徴を明らかにする。
  • -特許出願行動でみるプロパテント政策の効果と産学間の研究契約に関する考察-
    中村 健太
    2007 年 17 巻 1 号 p. 19-37
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/06/27
    ジャーナル フリー
     医薬・バイオ分野では,大学や公的研究機関の役割が重要である。本稿前半では,TLO法や日本版バイ・ドール法など公的部門に対して導入されたプロパテント政策が,バイオ特許の価値に如何なる影響を与えたかを検討し,特許を介した産学間技術移転の可能性を探った。分析によれば,これらの政策は,大学研究者が自らを出願人として「重要な」研究成果を特許化するように促してはいない。一方,公的研究機関が出願人である特許については,政策導入以降,その価値を高めつつあることが確認できた。すなわち,公的部門を対象としたプロパテント政策は,公的研究機関の研究者と大学に属する研究者の出願性向に対して,異なる影響を与えていると示唆される。後半では,産学連携が活発に行われている米国の事例を対象として,研究提携契約の特徴を検討した。大学から企業へは排他的ライセンス,或いは,排他的ライセンスを前提としたオプションが企業へ与えられることが多い。研究契約には,権利の帰属や特許化の決定主体,特許の維持管理費用の負担など様々な契約項目が存在する。通常,企業・大学共に個々の事項について,最大限の権利獲得を目指すため,両者の利害は一致せず,機会主義的行動も起こりかねない。しかし,成果の排他的ライセンスを所与とすることで,両者は利害の一致を見るため,個別の契約事項に関する交渉は容易であり,研究提携全体としての取引費用は節約される可能性がある。ただし,リサーチツール問題などで象徴的に語られるように,こうした契約形態による技術移転が常に社会的に望ましい効果を持つとは限らない点は十分に留意する必要がある。
  • ―構造変化と既存ビジネスモデルの整合性の観点から―
    中村 洋
    2007 年 17 巻 1 号 p. 39-53
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/06/27
    ジャーナル フリー
     医療用医薬品産業において,1980年代後半から顕著になった大手製薬企業同士の水平的M&Aは,ジェネリック医薬品の浸透と研究開発およびマーケティングにおけるコスト増という産業構造変化が主因である。そのM&Aは開発パイプラインの拡充,コスト削減には貢献したものの,有効性には限界があり,根底にあるビジネスモデルの課題のいくつかも依然として残っている。また,2000年代に入り,さらなる産業構造変化の兆候が現れるようになった。産業構造の変化により最適なビジネスモデルが変化すれば,必要とされる経営資源も異なり,M&A,アライアンスのあり方も変化する。本研究では,産業構造変化と製薬企業の既存ビジネスモデルの整合性の観点から,欧米企業ならびに日本企業にとって新たな形のM&A,アライアンスの可能性ならびに,それらの成功のための条件,マネジメントのあり方を考察する。
  • 元橋 一之
    2007 年 17 巻 1 号 p. 55-70
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/06/27
    ジャーナル フリー
     米国と比較して日本のバイオベンチャーの活動は遅れているといわれている。本稿ではこの点について日米のバイオベンチャーに関する企業レベルデータ(日本については443社(うち上場企業12社),米国については1,446社(うち上場企業431社)の2004年時点データ)を用いて定量的な分析を行った。分析結果によると,まず日本におけるバイオベンチャーは設立からの年月や技術分野をコントロールしても米国企業より相当程度規模が小さいことがわかった。また,日本のバイオベンチャーは時間とともに企業が大きくなっているのに対して,米国企業は設立年によって規模は大きく変わらない。これは日本のバイオベンチャーは米国と比べて比較的新しい企業が多いことから規模が小さいのではなく,そもそも事業モデルが違うことを示唆している。更に,米国のベンチャー企業はリスクが比較的高いといわれている「医療・健康」分野において飛びぬけて多額の研究資金を投じているのに対して,日本においては総じて研究開発費の額が小さく,技術分野による違いがみられなかった。つまり,日本のベンチャー企業はリスクの高い研究プロジェクトに多額の研究資金を投じるのではなく,低リスク分野で研究サービスなどの「日銭」を稼ぎながら事業を行っているということである。このような日米のバイオベンチャーの違いの背景にはベンチャーキャピタルなど資金環境が異なることの影響が大きいのではないかと考えられる。
  • ―企業合併とアライアンス―
    野原 博淳
    2007 年 17 巻 1 号 p. 71-89
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/06/27
    ジャーナル フリー
     フランスの医薬品産業は,サノフィとアベンティスが合併して世界3位のフランス系多国籍医薬品グループを生み出すなど,近年ダイナミックな展開を見せている。その反面,フランス医薬品産業の将来を危惧する声も大きく聞かれる。フランスの医薬品企業グループについては,その国際的事業基盤整備の遅れが指摘されており,またゲノム応用創薬研究分野への進出でも遅れ気味である。多くの家族経営的企業は,いまだに古くからの製品分野に固執して,多角化戦略に消極的である。また,色々な企業再編にも拘らず,国内中堅医薬品企業層は相対的に脆弱であり,医薬品国内生産の半分以上が外資系多国籍グループの手によって行われている。本稿では,新旧色々な潮流が交錯する現代フランス医薬品産業界を対象として,M&Aや企業提携が産業再編において果たす役割を具体的な事例を使って浮き彫りにすることを試みる。
  • 青井 倫一
    2007 年 17 巻 1 号 p. 91-100
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/06/27
    ジャーナル フリー
     日本の製薬市場において日本企業の合併(M&A)の動きが活発になってきた。“ニッチ市場に特化するには,企業サイズが大きすぎ,グローバル市場でのR&D戦略の遂行を単独で行うには企業サイズが小さすぎる”企業同士の合併という批判が一面で存在する。
     このような海外製薬メーカーのダイナミックな動きに対して“遅れてきた感”はあるにしても日本製薬業界の再編の要因を,それに先立つ医薬品卸業界の再編の分析の示唆を踏まえて分析する。ことに経済要因というマクロの分野より,マネジメントの意思決定,ことに不確実性の下の戦略的意思決定というミクロな分野に焦点を当てて分析している。日本製薬業界の再編の動きは,現在では評価するには早く,この次の戦略展開如何が今回の企業行動の評価を左右するであろう。そしてその評価基準は,異なる地域市場での競争優位性を確保できるか,パイプラインに十分の製品を確保できるか,そして新製品開発・市場導入において規模・範囲の経済を発揮できる体制を構築できるかが今回のM&Aの動きが貢献したかに依る。
  • ―戦略効果の実証分析―
    井田 聡子, 隅藏 康一, 永田 晃也
    2007 年 17 巻 1 号 p. 101-111
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/06/27
    ジャーナル フリー
     本稿では,近年日本の製薬企業において活発化している知的財産のライフサイクル・マネジメント(LCM),企業間の合併及び外部組織との連携という戦略が,イノベーションの決定要因である専有可能性と技術機会に及ぼす影響について分析する。製薬企業を対象に実施した質問票調査のデータを用いた分析により,(1)LCMは後発品の参入を排除することにより利益の専有可能性を高める効果を持つこと,(2)合併は市場占有率の増大により潜在的な模倣者を排除することにより専有可能性を高める効果を持つこと,(3)合併は科学的知識に関する情報源を重視している企業に対して技術機会の多様化をもたらしていること,(4)大学との連携においては,共同研究や知的財産権の譲受が技術機会を得るための手段として活用されていること,などが明らかになった。また,合併を経験した企業に対するインタビュー調査により,(5)事業ドメインが類似する企業間の合併においては,専有可能性の高度化に対する期待が研究開発投資のインセンティブを提供していること,(6)異なる事業ドメインを有する企業間の合併では,技術機会の拡大に対する期待が合併の要因になっていること,などの知見が得られた
  • -探索段階のチーム間提携に着目して-
    冨田 健司
    2007 年 17 巻 1 号 p. 113-124
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/06/27
    ジャーナル フリー
     近年,製薬企業間の戦略的提携は積極的に行われているが,戦略的提携では企業が別々の組織形態を保ったまま協働するため,そのマネジメントは困難を極める。そこで本研究では,新薬開発の戦略的提携において提携チーム・メンバーの異質性と同質性が研究開発にどのような影響を及ぼすのかについて調査した。
     製薬企業に対する質問票調査の結果,異質性は協調性,能力的信頼,知識創造,そして知識共有に正の影響を及ぼすことが示された。また,特に異質的な知識が重要であることが明らかとされた。戦略的提携の目的は新しい候補化合物を見つけ出したり,新しく知識創造することなので,自らの知識とは異なる知識が戦略的提携により求められることとなる。
     探索チーム間の提携の場合,協調性を高めるには能力的信頼の果たす役割が大きいため,異質的な知識は戦略的提携の鍵となる。しかし,ここでの異質性とは相手の能力に関するものであり,性格に関するものではない。異質的な知識が求められる一方で,提携相手のメンバーには同質的な価値観や性格が求められている。
研究ノート
  • 熊谷 成将, 泉田 信行
    2007 年 17 巻 1 号 p. 125-140
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/07/03
    ジャーナル フリー
     日本のレセプトデータを用いた研究では,患者自己負担の引き上げ政策に対して「政策実施後どのくらいの期間でその評価を定めるべきか」という疑問が残っている。これは,自己負担率の引き上げが受診率にどの程度の影響を与えたかを明らかにできていないことを意味する。本研究では1997年9月の被用者保険における被保険者一部負担率の変更を分析対象とし,その時系列的評価を試みる。
     1993年1月から2003年3月までの政府管掌健康保険及び組合健康保険の入院外月次データを用い,医療経済変数のデータ生成過程を考慮したRecursive VARを推定し,以下の三点を見出した。(1)VARの推定結果から,実効自己負担率の上昇は被保険者の受診率を統計的に有意に引き下げる効果がある。(2)分散分解の結果,1件あたり医療費の変動を利用者価格の変動で説明できる割合が3-5ヶ月で約50%に達し,ショックから3ヶ月後の分散変動は短期的な影響を予測する上で有用である。(3)インパルス応答関数の分析から,ショックに対する反応のほとんどが出尽くすまでの期間は,利用者価格の変化に対する受診率の反応が約1年であるが,受診率の変化に対する1件あたり医療費の反応は8-10ヶ月であった。
     以上より,政策実施から1年後までのデータを用いることにより患者自己負担率の引き上げに対する評価を与えることが可能であると考えられる。個票データを用いた分析ではこの点を踏まえて,標本期間の設定を慎重に行う必要があると思われる。
feedback
Top